3.理解者
「出たわね……ブリッ子。」
ベラトランシーが静かに呟くと、ピクリとミコトが方眉を吊り上げてベラトランシーを見た。
「なんだって?年増。」
「永遠に貧乳で色気のない体系だって言ったのよ。外見は若くても、もう耳の方は遠くなっちゃったのかしらね?」
ふっと笑うようにベラトランシーは斜め上を見ると、肩をすくめた。
「あんたに言われたくないんですけどー!?胸はでかけりゃ、いいってもんじゃないし、たれてくるってしってる!?永遠に年増さん!」
「ないよりはマシよ。だいたい、あたしは、たれないし。」
ベラトランシーがバカにしたようにミコトを笑うと、ミコトは、「これはステータスなのー!」と叫んだ。
「ハイハイ、ロリコン向けのね?あー気持ち悪い。子供好きの男なんて……。」
「ババア好きよりよっぽどまし!だいたい、ロリコンじゃなくて、ロリって言うんですけどぉ!これだから露出狂のババアは。」
やれやれといったふうに肩をすくめてミコトがため息をつくと、「露出狂じゃないわよ!ちゃんと着てるじゃない!あ、それとも、目もすっかりダメになっちゃったのかしら!?そっかぁ、それで見えないのね。可哀想に。フリフリ着た自意識過剰ブリッ子ちゃん?」と言って、哀れんでいるようにも見下げるようにも見える表情でベラトランシーはミコトを見下ろした。
ベラトランシーの身長は167センチあるため、ミコトとの身長差は17センチほどになる。
「ミコトはちゃんと着てるし、そんなに布少なくないもーん。それに、男性がミコトを見るのは本当のことだしぃ!ミコトは可愛いんだから、当たり前でしょ!?そんなこともわかんないなんて、あんたの目こそ大丈夫!?」
ミコトとベラトランシーがギャーギャーと言い争いをしているのを眺めながら、静かにウミューは「……始まったな。」とつぶやいた。
ネーデルは、ウミューの隣で呆気にとられていた。
ネーデルがミコトとベラトランシーの喧嘩しているところを見るのは、これが初めてではないが、いつみてもこの喧嘩には圧倒されるらしい。
「……ネーデル、行くぞ……」
余計な事に巻き込まれないうちに、そう続けようとした瞬間、ベラトランシーがネーデルを指差した。
「ほぇっ!?」
ネーデルは、わけがわからずに、よくわからない奇声を発して固まった。
「だいたい!ロリで可愛い系を目指してるなら、ネーデルを少しは見習いなさいよ!」
「目指してるんじゃなくて、本当に可愛いのー!だいたい、ネーデルとはキャラがかぶってんの!意味わかんない!可愛いのはミコトだけで十分なのにっ!」
「何が十分よ!どこもかぶってないわよ!あんたなんか、ネーデルに比べたら、これっぽっちも可愛くないわよ!これっぽっちも!」
ベラトランシーは、人差し指と親指の第一間接をくっつけると、それを覗き込むようにしてミコトに見せた。
「ミコトのどこが可愛くないって言うの!?ミコトは、全てが可愛いで形成されてるのに!だいたい何さ!あんたなんか、ウミューさんに振り向きもされないくせに!」
ついにはウミューにも話題がふられ、二人はただ茫然とそこに立ちすくむ事しかできなくなった。
「はぁ!?意味わかんない!あたしは、はなっからウミューなんか相手にしてないわよ!だいたい、あんた今、可愛さでできてるって言ったけど、血も!?廃棄物も!?へぇ、そりゃ凄い!どれだけ気持ち悪いのよ!」
ウミューは、少しだけムッとしたが、頭をふると、ため息をついた。
「あんたがウミューさんを選んでないみたいな言い方してるけどね、ウミューさんがあんたを相手にしてないんだよ!何故って?ウミューさんがかわいい子の方が好きだから!だいたい、可愛さ100%のどこが気持ち悪いって言うの!?」
「気持ち悪いじゃない!ばっかじゃないの!?ウミューが何が好きかなんてしったこっちゃないわよ!こっちは眼中にないんだからっ!」
「本当の美人なら、ウミューさんだって落とせるはずでしょ!?だけど、落とせてない!その理由は、ウミューさんがあんたを相手にしてないって事になるの!頭悪いのはそっちでしょ!?だいたい、馬鹿って言ったほうが馬鹿なんですぅー!」
「あんたも、二回馬鹿って言ってるんだから、あたしより大馬鹿者って事になるわね。もっと頭を使ったら!?ウミューなんか、あたしが仕掛ければ一発よ!」
「えぇ?どぉかなぁ。ウミューさんは、かわいい子が好き何ですよね!?」
いきなり話の矛先が、ウミューへと移り変わったので、ウミューは何も言わずにいると、ベラトランシーが、「セクシー系の方がいいに決まってるわよね?」とウミューに近づいてきた。
「……別に……。」
『別に!?』
ミコトとベラトランシーがウミューに顔を寄せてきた。
「……どうでもいい……。」
「なんですって!?男ならどっちが好きかくらいはっきりさせなさいよ!」
「ウミューさん、年増のことは置いておいて、本当の事を言って良いんですよ?」
そこへ、ネーデルがベラトランシーと、ミコトに抱きついた。
「キャ!?」
「ギャーッ!?」
ベラトランシーは、ほんの少し驚き、ミコトは、おもいっきりネーデルの腕を振りほどいた。
ネーデルは、振りほどかれたほうの手を痛そうにしながら、「落ち着いてほしい……かな?かな?だって……比べちゃいけないような気がするの……するの。ベラトランシーは、とっても綺麗だし……お花も勝てないよ?ミコトは、とっても可愛いし、良いところ、たくさんあると思うの。ウミューとネーデルが、どれだけ一緒に遊んでても一緒になれないみたいに、ベラトランシーも、ミコトも、別物だと思うのは……ネーデルだけなのかなぁ?違うよね?違うよね?二人には、二人の良いところがあると思うの~だから、仲直りしてほしい、かな?……あれ?あれれ?ネーデル、間違ってたのかな?かな?」と言った。
ベラトランシーがネーデルを抱きしめ返し、「ごめんなさいね、ネーデル。あなたにこんな醜い言い争いを見せてしまって……こんなやつ、相手にするんじゃかなったわ。いつもそう思うんだけど……どうしてもイライラしてくるのよね……。」と謝った。
「なっ!いいもーん!だいたい、ネーデルはミコトとキャラがかぶりすぎなのぉ!ね☆ウミューさん。そう思いません?」
ミコトは、綺麗な笑顔をウミューに向けた。
―――その笑顔は、どこの筋肉をどう動かしたら自分がよりよく可愛く見えるか、知っているような笑顔だった―――
「……似てない……。」
「ひどぉい!ウミューさんまで年増と同じ事言うんですかぁ?あ、それとも、ミコトの方が可愛いって意味で似てないってことかな?やーん、ミコト、困っちゃう☆」
ウミューは、ミコトを無視し、ネーデルとベラトランシーを見た。
二人は、親子のようにも、年の離れた姉妹のようにも見えた。
ベラトランシーは、「誰も信じないわ。信じられるのは自分だけ。」などと言っているが、ネーデルはかなりお気に入りなのだろうと思う。
少なくとも、この劔のメンバーをネーデルが裏切るような真似はしないだろうと思う時点でネーデルを信じていることになるのである。
「……俺は、俺だけしか信じないけどな。」
「へ?☆ウミューさん、今何か、言いましたぁ?」
計算しつくされた笑顔をこちらにむけたまま、ミコトは首を傾げた。
ウミューは、何も返事を返さなかった。
集合場所にむかうと、色とりどりのカラフルなメンバーを目にすることができた。
その色とりどりの仲間たちは鮮やかさを個性豊かに発揮しながら人里へと歩いていく。
現在、劔のメンバーは、50人から60人近くいるが、それでも人数としては少ない。
もちろん、変種混合人間が少ないだけが理由ではない。
劔へスカウトしたメンバーの中にはそれを断った者もいた。
劔がすべきことは、変種人間を劔へスカウトし、人々を助けるためであって、合意に劔メンバーにすることでない。
時には、人間を襲う変種として、自分たちと同じ変種人間を殺すこともあった。
彼らは、正義が何で、どこに存在するどんなものなのかを知らない。
劔達が人里についたとき、すでに日は暮れて、濃い紫が空を多い、肌寒い風が枝葉を揺らして通り過ぎていった。
「おい……あれ……。」
「ああ……。」
劔達を目にし、人々がひそひそと話を始める。
「中には、実の両親を殺した奴もいるんだろう?怖いねぇ……。」
「見ろよ、あのまがまがしい色……。」
「ママァ、あのお姉ちゃん、鱗みたいなのが生えてるよー?」
ウミューは、拳を握り、うつむくと、「くそったれ……俺らが何したってんだよ。」と早口で呟いた。
「奴らの考えてることはわからん。いかれてる。」
今度はそれにピクリと反応したのはベラトランシーだった。
ベラトランシーは、その男性に近づくと、後ろから抱き締めるような形で腕を喉に絡め、「あら、じゃあ、あたしもいかれてる変態だとあなたは、罵るのかしら?」と耳元で囁いた。
「うぁっ!?」
男性が驚いた様子で体を仰け反らせたが、ベラトランシーは特に気にした様子も見せずに、「あなた、なかなかいい男じゃない……いい男が、愚痴なんか言ってたらもったいないわよ?あたしと一緒にお茶でもいかが?あ、でも……あたし、お金がないわ。」と告げた。
「あ、あんたは“劔を理解する者”か!?」
「……まぁ、そうとも言えなくはないけれど?」
ベラトランシーは、それが何か?とでも言いたげに首を傾げた。
「こりゃあ、おでれーた。こんな美人がいるとあ……劔なんてやめちまえ!お茶なら、俺がおごってやらぁ。」
ピューと口笛を吹くと、ベラトランシーの腕を掴んだ。
「あら、でも、あたしもいかれてるんでしょう?」
「いや、あんたがいかれてるもんか!行こうぜ、良いところ教えてやるよ!」
そうしてそのままベラトランシーはその男性と消え、ミコトもまた、「お兄さん☆ミコト、道に迷っちゃってぇ……よかったら、この町案内して欲しいな、なんて……てへ☆」と言って声をかけていた。
「君、どこから来たの?」や、「どこに行きたいの?」といった質問はのらりくらりと交わし、ミコトは笑顔で「お兄さんこそ、どこに住んでるのぉ?彼女とか怒らないなら、ミコト、お兄さんの家に行ってみたいなぁ☆」と切り返して、こちらも男性と消えていった。
「あ、お姉さん、お姉さん、今、お時間あります?」なんてタラシも劔のメンバーには存在した。