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25.終

次の戦地は出発地点からさほど遠くなかった。

だが、別世界としか思えない広大な砂漠のど真ん中だった。

「それでは、はじめます。」

ウンネはそう呟いたかと思うといきなり聞き覚えのない音で話始めた。

その意志を共有したかのようにクヘルトが嘶き、戦闘態勢と思われる威嚇の体制に入った。

「kin askuz husvin aikh.

akhva bes aks^win bessin galavin.

askuz g zilakh vi auknin kin.

aikh zey' gessa asnav.

……kivna us^vin!」

最後のウシュヴィンの一声で大気が震え、クヘルトが嘶き、全員に鳥肌が立った。

全員がそれを合言葉かのように戦闘態勢に入った。

全員がただならぬ殺気・狂気を感じ取ったからだった。

「ioi,iioooioooiiii,eeee khowin//pianka us^vin=husvin.

vavandalo e taud vadin.

eeeee,io vananu_ya.」

ウンネは訳の分からない言葉を言い続けている。

「おい、さっきかっら『い』とか『え』とかなんなんだ……」その後にうるさいぞ!と用意に予想が付く言葉が出かけたところでチャルコハネが狂気に笑だし、それとほぼ同時に地鳴りが聞こえ始めた。

クヘルトは激しく嘶き、悲鳴のような声で地形を変える。

「s^lha_vin s^lha_vna...kundin.」

その瞬間、チャルコハネが笑い出すのをやめたかと思うと刃先をいきなりウンネにつきつけた。

ウンネの頬は切り裂かれ、血が滴り落ちたが、それでもウンネは身じろぎ一つせず、瞳を閉じて何かを唱え続けていた。

ウミューは「何してやがる」とチャルコハネを睨んだが、チャルコハネはチッと舌打ちをすると一人で飛び出していった。

どうやらこれを唱えている間はウンネは一切身動きができないようなのである。

はるか向こうに敵の大群が押し寄せてくるのがわかる。

ドーシェは慌て「ここでは周囲を敵に囲まれたら我々は為す術を失う!」と良い動かないウンネを抱え走りだした。

ひとまずは身を隠せそうな場所まで撤退すると、皆それぞれに戦いに走った。

「ioi,iiooioi kundin.

yaguninme uye yakh zey' yalin.

eoi,ioio,oooi kuvin.

azau=us^lav aznin.」

クヘルトはひたすらに嘶き続け、ついにその大地は遠くにいる変種をも足止めした。

どうやら突き出た鋭い大地が変種を貫いているようだった。

だが、クヘルトが嘶くたび、自分たちの周りにもたくさんの刺が生まれる。

そこまで力を操れるほど完成された力ではないようだ。

仲間さえ貫こうとするたびに逃げ惑いながらメンバー達は戦い続けた。

やがてピタリとウンネの声が止まり、一言「まだだ」と呟いたと思うと「まだ足りない」と付け加えてすごい速さで生きている変種にかじりついた。

およそ新種と思われる変種だったが、戦い続けるしか選択肢のないメンバーには新種だろうが以前の変種だろうがもはや関係がなくなっていた。

疲労困憊し、敵に跳ね飛ばされたメンバーもいる。それでもまだ今のところ生きていた。

ウンネの人間のような小さな体のどこにこれだけ食べても平気なスペースがあるのかわからないほどウンネは変種を食らい続けた。

変種も今まで気にもとめなかったウンネを敵視し激しく暴れまわった。

そして再び謎な言葉を呟き出して動かなくなった。

「eku_win gargwin baudin.

s^u_na sugna askuz.」

やがて周囲を敵に囲まれメンバーは身動きがとれなくなる。

追い詰められ、唯一洞窟を見つけた時にはドーシェ含め大半はすでに深手を追っていた。

「くそ、どうすれば……」ウミューが吐き捨てた時、ドーシェは声を張り上げた。

「ここは私に任せろ!皆は先に進め!」

ほとんどが一斉に異議の声を上げた。

だがドーシェは振り向きざまに笑い、「なに、後から追いつくさ、無駄に長生きしてないからな。」と言った言葉でその場が沈黙した。

皆重い足を引きずりながら先へと進み始めた。

「俺も残る!」

ウミューがそう言い、ドーシェのそばにつくとドーシェは「みんな行けと言っただろう!」と怒鳴った。

「だが!!」今のリーダーでは、そう言いかけたところでドーシェは「私はもう先に進んでも戦えないのだよ……察してくれ。メンバーのことを頼んだ。」と告げてそのまま外へと飛び出していった。

「リーダー!!」叫んだ声は虚しく空へとから回った。

戦い続けるリーダーを背に進むしか道は残されていなかった。

ウミューは頼まれたって俺じゃ無理だと思いながら進み続けた。

追いついた頃には皆戦える状態にはすでになかった。

ウンネは自身が発光しながらウミューに言った。

「此処から先は自分一人では無理です。新世界の構築には歪みを正すための柱が必要となり、その柱はこの世界の中心で自分と合体し、永遠の命を得ます。危険にさらされることはもう二度とありません。その代わり一生目覚めることもできません。衣食住も自分と合体することで必要がなくなります。誰か、犠牲になれる人はいませんか。ここで未完成で終った構築のせいで変種に殺されるのを待つか、選んでください。」

それにベラトランシーが息絶え絶えに返した。

「そんなの、永遠の命なんて、死んでるも……同然じゃ、ないのよ……。」

ウンネはそれをきっぱりと「歪みを正すための当然の犠牲です」と言ってはねのけた。

ウミューはふっと笑ってウンネの手を掴んだ。

それから「俺はどうせ、どこに行ったって……居場所なんてない……リーダーの代わりもできない……キョウノスケに助けられたって意味なんかねぇよ……俺でいい。やれ。」と告げた。

ウンネは「そうですか」とだけ告げてより強く発光し始めた。

「unne nas^lo umyu//s^lha_vin orruin azau e zey'」

そうしてウミューはウンネと融合し始めた。

感情が薄れていくのを感じ、俺もここまでか、と目をつぶった時、ウミューはネーデルの声を聞いた気がして目を見開いた。

「ウミュー、もう、一人じゃないの、の」

「勝手に一人で英雄面されるのもシャクですね」

「若造、これが本当に最後の力添えどがよ」

「死に際にご迷惑おかけしてごめんなさい、でも私も力添えできるのであればしますから」

「ウミューさんったら☆ミコトにそんなにかっこいい姿見せてくれなくてもいいんですよぉ?」

そこには、戦い、死んでいったメンバーたちがいた。

そしてウンネが現れ、「よかった、正直貴方一人の力だけではプログラムの構築に施せる範囲が全領域までいけるか不安だったのですが、これだけの力があるならば、もう何も心配いらない。」と告げて、懐かしいとでも言いたげにネーデルを見てから消えた。

ウンネと合体したウミューは全身の力を開放するように一声「うぉおおおおおおおおおお!!!」とさながら獣のように叫んだ。

それに同調するようにクヘルトが鳴き、ウミューが片手を振り上げてから振り下ろすと世界は真っ白な世界に包まれ、一瞬にして全てが変わっていた。

その新しき大地に、すでにウミューとウンネの姿はなく、劔のメンバーであった者達は人間の姿になり横たわり、その後どの村を見るも変種という言葉さえ消え失せていた。

変種がいたという認識をしているのはもはやこの世の中で元劔のメンバーだけとなった。

不老だったメンバーはその効果を失い、長寿も傷つきにくさもツノも翼も獣のそれもすべて失っていた。

クヘルトは馬面の話せない人間になり、人間に近かった元々の容姿を残したまま人間に変わったメンバーは一人、また一人と離れていった。




「ねーじぃじ!またじーじのお話きかせて~!!」

子供はじいじと呼んだ老人に手を名一杯に伸ばした。

「……構わないよ、これは数百年も前の話だ、誰も知らない覚えているのはごくわずかの劔というメンバーだけだ……」

老人は静かに話し始めた。

劔最後のメンバーによる最後の語り部だった。

今は星の中心で誰の目にも停められることなく眠り続けている。

劔の事実を知るものは、もはやこの世界には、いない。

最後の架空言語の単語はクシュカ語よりお借りしております。

文章はクシュカの文法になぞらえてはおりませんのでなんとなくでもいいから意味合いを見てみたいという方や架空言語、クシュカに興味が湧いた方はこちらを御覧ください。(http://sanpo.electric-cat.org/txt/ksyuka.htm#oknin)

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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