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1.嫌われ者

今、ここに戦う者達がいる。

彼らの事を、この世界では“(つるぎ)”と呼ぶ。

一般的には、ハンターと呼ばれるそれとやることは何ら変わらない。

だが、ハンターでは全く歯が立たないのだ。

この世界は、突然変異で生れた異形な変種達によって蝕まれていた。

人間では対抗できない変種に、人類の未来は、閉ざされたかのように見えた。

そこへ生まれたのが、“劔”人類を暗闇のどん底から切り離し、光をもたらしてくれた刃、それが、変種と人間を掛け合わせた彼らであった。

当初の変種と人類の組み合わせは、あまりも異形すぎるために、失敗作として扱われたが、その失敗作を元にまた人間との組み合わせが行われ、それを何度も繰り返し、ようやく人の形をして、人の考えを持つ(かれら)が生まれた。

だが、やはり元は異形。

完璧な人型になることはできず、どす黒く、赤い羽が背中から生えていたり、濃い紫色の毒素を持つ爪があったり、耳や足、腕などの体の一部がやたらに発達して巨大化してしまったりしていた。

それを改善すべく、毒素をなくしたり、より人間に近付けると、今度は変種と戦う能力を失うのだ。

また、無理やりモルモットにされた人々も、そんな彼らを愛せるはずがなく、気持ち悪いと嘆いたり、暴力をふるったり、育児放棄をしたりしていた。

劔は、そんな変種の子供達を劔へスカウトし、人間を助けるという役目をしていた。

当然、人間を恨み、誰がこんな奴らを助けるか!と、両親を殺し、変種となんら変わらないことをした者もいる。

それでも、彼らは変種の子供をスカウトし、人々を助け続ける。


……それしか、彼らに許された道はなかったからだ。




「ハロハロー♪いかがお過ごしなのかな?ウミュー?」

背中に赤と黒のまがまがしい羽が四本生えた薄紫色の髪の毛をした少女が飛んできた。

羽は、ドラゴンのそれに近く、瞳は赤かった。

赤といっても赤茶のようなしぶい赤ではない。

燃えるような赤である。

外見からすると、大人の色気も全くなく、12歳くらいに見える。

胸は、まな板という表現がよく似合い、足は内細で、やたらに長く見えた。

髪の毛はショートカットであちこち跳ね上がり、時折寝癖のようなものが見られたりする。

目は普通の人間の1.5倍くらいで、耳は長く尖っていた。

戦闘向きではなく、情報収集に適するよく聞こえる耳と、よく見える目をもち、なおかつ羽があるとくれば間違いなく情報科の方にまわされるだろう。

彼女は、精神年齢が10歳くらいで、外見も12歳くらいだが、実際年齢は34歳である。

成長が極めて遅く、傷の治癒も極めて遅い。

その分、寿命が長く、傷つきにくいのは言うまでもないが、一度傷つけられると、長きに渡り戦闘不能状態に陥る。

そんな彼女のお気に入りが先ほど呼んだウミューという異性であるが、彼はほとんど無口であり、本を読んでいることが多い。

「……ネーネル。」

「ネーネルじゃないもんっ!ネーデルだもんっ!違うもん!ネーデルだもんっ!」

明るく、活発な彼女とは異なり、ウミューは、光すら存在しない闇を想わせるような漆黒の髪の毛と、服装を装い、大人びたたたずまいでそこにいた。

外見年齢は30代。

精神年齢も実年齢より上だが、実年齢は、16歳である。

肌が透き通るほど白く、目は黄色で細長い。

体もヒョロ長といったイメージを受ける。

身長は170センチぴったりで、髪の毛は長めで前髪は完璧に目にかぶっている。

ネーデルとは違い、ウミューの戦闘センスは抜群で、早く身軽に動け、治癒能力も高く、学習能力も高いため、だいたいの武器が使いこなせる。

ただ、ウミューのようなタイプは、成長が早く、平均寿命も短い。

ネーデルの平均寿命は、軽く100を超えるのに対して、ウミューの平均寿命は、50代前後程しかない。

とはいえ、ウミューはまだ大人には成り切れてはいない。

こうして訪れるネーデルを鬱陶しく思っているやらいないやら……。

ネーデルに編み込まれてしまった一本のみつあみを解かないところを見るかぎり、嫌ってはいないのだろう。

ネーデルは、ウミューの隣に腰掛けると、笑って「あー、落ちつくー。」と告げた。

ウミューは、何も答えなかった。

「ウミュー、ウミュー、ウミュー!!」

ネーデルがまたウミューの髪の毛をいじりだしたのを払いながら、「……うるさい……。」と告げた。

「ウミュー、何してたの?答えてくれてないよね?そうだよね?」

「……見ればわかる……。」

ウミューの手には本が一冊握られていた。

「えっと……本を読んでいたのかな?かな?」

ウミューは、何も答えずに、視線を本へ落とした。

「ウミューゥウウウ!遊んで!構ってくれなきゃやぁだぁ!ほっといたらイヤイヤー!」

ネーデルがウミューに勢いよく抱きついた。

ハタから見れば、突っ込んでいったと言っても過言ではないが、ウミューは、そのタックルを受けとめると、ため息をついて、「……なんか用でも?」と聞いた。

「……ウミュー、ネーデルは耳がいいんだよ?だよ?忘れたの?ネーデルの前ではゆっくり喋らなくていいんだよ?それとも、ゆっくり話したいのかな?かな?」

様々な事が早くこなせるウミューにとって、しゃべる事は億劫だった。

ウミューが早口なため、みんなが聞き取れないのだ。

やがてウミューは、口を閉ざすようになり、しゃべるときは極力ゆっくり話すように心がけていた。

「わかった、じゃあ、言わせてもらうけど、おまえは何しにここに来たんだ?用でもあるのか?」

怒り気味に普段のペースで話すと、ネーデルはニッコリ笑った。

「用ならあるのー!ネーデルは、ウミューと遊びたいのー!だから、遊んでー!」

「……なんでおまえは俺に頼むんだ?俺である必要がねぇだろ。」

「いやならいいもん……みんなにウミューが虐めたって言い付けてやるもん!」

じわぁっと大きな瞳に涙を溜めたネーデルを見て、ウミューは少し焦った。

「やめろ!泣くな!厄介だ!」

ネーデルは、一度泣くと気が済むまで大声で泣き叫ぶので、ウミューには手に負えなくなるのだ。

その一言を聞いたネーデルは、真っ赤な瞳を輝かせると、「じゃあ、お花の冠作るのー!」と言って花を積みはじめた。

当然ウミューも無理やり連れ出され、花をつむことになった。

「……何で俺が……。」

「嫌なのかな?かな?」

またもや目に涙を溜めたネーデルを見て、ウミューはうつむくと、「いや、別に……。」と言った。

言わざるを得なかった。

こんなウミューだが、実際、(子守は嫌だが)ネーデルといる時間はそこまで嫌いではなかった。

その証拠に、普通の人間と混じっている時よりかは、いつもムスリとしている表現が遥かに柔らかくなっていた。

おそらくこの事を告げれば、ウミューは否定し、ネーデルは、さらに調子に乗ることになるだろうが。

「……一つ聞いても良いか?」

「なぁに?」

「……何で俺なんだ?俺は……子守は得意じゃないし、いつも不貞腐れてるように見えると言われるし、気の聞いたことは言えない。遊び相手がほしいなら、むしろ、俺じゃないほうがいいだろ。ベラトランシーや、チャルコハネ、ハルネ、ルリクレッサ、ホロホンス、ルドア……上げればキリがねぇな……とにかく、探そうと想えばいくらでも見つかるだろ。」

「……ベラトランシーは、お化粧で忙しいんだって。チャルコハネとハルネは、あんまりネーデルとは構ってくれないの。どうしてかなぁ。ルリクレッサは、遊んでくれるけど、あれはしちゃいけません、これはしちゃいけませんって言うの。ホロホンスとルドアは、女の子の遊びは、しないんだって。だけどね、ウミューは、ネーデルを縛り付けたりしないし、ネーデルをからかったりもしないから、ネーデルは、ウミューが一番好きなの~。」

エヘヘと笑うと、ネーデルは、ウミューに抱きついた。

ウミューは複雑な気持ちになった。

ベラトランシーは、男好きというところがあるにしろ、チャルコハネとコハネがネーデルに構わないのは、ネーデルが羨ましく、疎ましいからだ。

長寿で無邪気。

仲間内で、それなりの人気があり、情報収集には欠かせないとして、必要とされている存在。

顔も悪くないどころか、かなり可愛い方とくれば、嫉妬の一つもするだろう。

しかも、ネーデルは、自分中心なところがかなりある。

チャルコハネ達は、ネーデルを自分達に会わせようとしない、厄介者と思っているに違いない。

同じ変種の血を受け継ぎながら、なんともおかしなことではあるが、劔の中でも派閥のようなものは存在する。

これが事実だ。

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