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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

修行の枝

掲載日:2026/06/29

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おおっとっと……大丈夫だったか、こー坊。けっこう高いところから落ちたが。

 うむ、まあ大事ないならいいが、どうして木の枝から枝へ飛び移るような真似を?


 ――忍者がやっているのを見て、自分も同じことをしたいと思った?


 ははあ、気持ちは分かるがな。

 話に出てくる忍者は枝から枝へ軽々と飛び移り、様々な術を使いこなす……といった印象じゃろ? まあ、憧れる気持ちも分かる。

 しかし、実現するためにはいろいろとクリアしなきゃいけないハードルがあるな。もちろん、こー坊自身の力も大事ではあるが、自然のほうも耐久力がなくてはな。

 人と同じで、自然も使わない部分は弱っていくもの。ああして激しい運動をする人間を支えるには、相応の枝が育たねばならない。

 あまりにも枝を酷使するものがいるから、枝自身もそれに応じてより太く、丈夫なものを作ろうと気合を入れる。ある意味、平和な時代の証左といえるかもしれんな。

 逆に、太く丈夫な枝が多いところは注意したほうがいい。そうやって枝を鍛えるだけの何者かがいる確率が高く、こちらへ害をなす恐れもあるかもしれん。

 じいちゃんが、以前に友達から聞いた話なんだが耳に入れてみんか?


 先ほど、こー坊がやったような枝から枝への飛び移り。じいちゃんの友達も小さいころにやったことがあるらしかった。

 友達は当時、かなり小柄な体格だったらしい。自然と体重も軽くなる。くわえて、地元の枝はこー坊が試していたものたちより丈夫で、外遊びが許される時間はよく木々をめぐっていたとのことだ。

 実際にじいちゃんは見ていないから、どこまで本当かは分からん。見栄がまじっていた可能性もあるが、ひとまずは言い分を信じることにした。

 その友達だが、あるとき。わずかずつではあるが、変わりつつ枝の様子に気づいたのだとか。


 何度も踏みしめたことで、おのおのの枝の太さも把握していた友達。その友達の感覚がじょじょにずれ始めていた。

 多くの枝たちが、その太さをわずかに増しつつあったからだ。友達の足裏へ、わずかに及ばないほどの太さだった枝が、わずか数日で足裏を優に上回るものになっていたりな。

 ごく一部で済んでいたなら、これも自然の成長の一環だと、重く見なかったかもしれない。

 しかし、友達が普段よく修行場としていた、半径500メートルの範囲にこいつが集中していた。試しに少し外れたところへ動くと、これらの枝の太りは途端に見られなくなったという。


 ――自分以外の誰かが、この近辺の枝を踏んでいる?


 そう考える友達は、どうにか相手の正体を突き止めたいと、周囲を見張ることにするらしい。


 これまで修行は昼間に行っていた。その間に、おかしなやつが現れる気配はない。せいぜいが野生のサル程度だが、彼らを受け止めるだけでは枝もあそこまで太らないのではと、友達も想像していたそうだ。

 ならば、時間をずらす。

 日中の修行時間を早朝や夕方へ移行する計画。ちょうど夏休みに入るころなのも手伝って、遂行への問題は少なかった。

 夏場の朝、かろうじて枝と枝の影と距離が判断できる薄明のときを背景に、友達の修行兼監視の時間は続いていく。


 そいつに出会ったのは、夏休みに入って2週間ほどしてからだったとか。

 いつものように枝から枝へ飛び移っていた友達は、ふと普段とは異なる幹の揺れを、今まさに飛びつかんとしている木を相手に見た。

 枝へ足をかけるや、すぐ隣で荒く大きな鼻息。感じ取った時には、脇からどんと押されて、枝から落とされかけていた。

 とっさに体が動く。落ち際に両手で枝をつかむと鉄棒の要領で体を振って、離したのちに宙返り。きっちりと着地を決めた。

 頭上を見やる。数メートル上、先ほど自分が足をかけた枝の上にうずくまっていたのは、自分よりもひとまわり大きい岩のようなやつ。かろうじて足は見えるが、手や首らしき箇所は見当たらず、ボールが弾むようにしてどんどんと枝を飛び移っていった。

 足場にされた枝はみしりときしみ、先端にしげった葉たちもたまらずその身をいくらか散らす。影はでかい図体でありながら、軽々と中空を渡り、一本として枝を踏み外さなかった。


 このとき、散ってきた葉の何枚かを友達は拾っている。

 夏の盛りで青々しさを放っているべきそれらは、いずれも秋や冬を通り越した、真っ白いものに変じていたのだそうだ。

 友達の手に触れ、いくらも経たないうちに自ら崩れて散っていく……さながら、灰になったかと思うほどだったとか。


 ――これは、なわばりをともにできるような相手じゃない。


 友達はいさぎよく、その場を明け渡すことを決めたという。

 しりぞいてから少しすると、あのぶつかられたところもじんじんと痛みを放つようになってくる。

 服をめくると、これもまた先ほどの葉と同じように、ぶつかられた箇所を中心にしてぽろぽろと生地が崩れて散っていく。その下の皮膚も、日焼けした後のごとくぼろぼろ剥けて、夏の間は満足に皮が張り直すことはなかったのだとか。

 別の修行場を探して定着した友達だったが、夏休みが終わると、いったん以前の修行場の様子をさぐったらしい。

 葉こそすべて散っていたが、逆に枝はすべてが無事だ。ただしその枝たちは自分が踏みしめていたときとは比べ物にならない。自分の胴体ほどの太さのものがちらほらとできていた。

 同じ木の他の枝と比べると、その差はより歴然。おそらくは、あの影の鍛錬の証なのであろう、と。

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