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第9話 職業見習い

近頃、色々なことが起こったが、再び平穏を取り戻していた。

このスローライフも、悪い気はしない。

そんなある日の、食卓でのひとときだった。


「カナディ、決めたか?」

「まだ、迷ってる」


トシェルからの問いに、カナディは心ここにあらずといった様子で返事をした。


カナディは、もうすぐ十三歳になる。

ふんわりとした髪型に、ぱっちりとした目をした、いかにも可愛らしい女の子だったが、気づけば大人に近づいていた。


平民は十三歳になると、職業見習いに出ることになる。

二年間の職業見習いを経て、十五歳で成人し、本格的に労働を始める。


平民の職業には流動性がないため、十三歳で決めた見習い先が、事実上一生の仕事になる。

つまり、ここで人生の大きな決断をしなければならないのだ。


十年間、寝食を共にしてきたので、カナディが服飾かレストランの仕事、この二択で迷っていることは知っていた。

どちらを選ぶにせよ、後悔してほしくない。

その思いから、下手なことを言えず、意図的にその話題を避けている自分がいた。


そんなある日、寝室にいると、カナディがそっと部屋に入ってきた。


「どうしたの、カナディ?」

「うん」

その表情を見ていると、あの話を聞いてほしいのだな、と察した。


「アシェルって、昔からすごいよね」

「急にどうしたの?」

予想外の言葉に、少し拍子抜けしてしまった。


「代弁者を目指すなんて、私には考えられない。でも、アシェルはすごいんだから、きっとできる」

「あ、ありがとう」

「三年前のこと、覚えてる?」


三年前の出来事……?

おそらく、あの話だ。

俺とカナディが二人で森に山菜を取りに行ったとき、森の奥に入りすぎて、狼の群れに囲まれたことがある。

十匹ほどの狼に囲まれ、幼かった二人にとっては最大の危機だった。


「あのとき、アシェル、いきなり石を投げて、奥にいた狼に向かって走って、木の棒で叩いたよね。それで、他の狼も逃げていって」

「そんなこともあったね」

「帰り道、どうして他の狼も逃げていったのって聞いたら、『群れのリーダーさえ叩けば、なんとかなると思った』って言って」


群れは頭を叩けば勝てるというのが定石だが、冷静に考えると、七歳の子供にしては大胆だったかもしれない。


「勇気もあるし、頭も良くて……感動しちゃった。アシェルはすごいの」

カナディが、なぜこの話をしているのか、正直よくわからなかった。


「前に言ってたよね? 工夫をすれば、平民の食文化を変えることができるって」

「うん、言ったかも」

「だから、私、レストランで働こうと思う。アシェルが世の中を変えていくなら、私も役に立ちたいから!」


一瞬、頭が真っ白になった。

そんな抽象的な理由で、人生の選択をしてよいのだろうかと。


「カナディ、もっとよく考えたほうが……大事なことだから」

「もう決めたの!」

慌てて再考を促したが、カナディは俺に顔を近づけ、力強い眼光でそう言い切った。


結局、カナディの意思が固いこともあり、トシェルが職業見習いを募集しているレストランを探し始めた。

そして、話はトントン拍子に進み、カナディの就業場所が決まった。

「フリー」という名の小さなレストランで、平民のオーナーが切り盛りしているらしい。


「カナディ、おめでとう」

「プリビレッジのお店じゃなくて、本当によかった」

トシェルとナーディアは、自分のことのように喜んでいる。


俺はというと、少し複雑な気持ちもあったが、カナディが最終的に決めたことだ。応援したい。

カナディのためにも、そして王国を変えていくためにも、今まで以上に精一杯頑張っていかなければならない。そう決意した出来事であった。




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