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第5話 血の宣誓

公証場は、平民の家とは明らかに違っていた。

白を基調とした堅牢な建物。天井は高く、近づくだけで背筋が伸びる。

「スレリル地区公証場」


ここなら、正しく裁かれる―

そう信じたかった。

中に入ると、空気が重い。

受付で事情を説明すると、魔法による召喚状が送られ、待合室へ通された。

白い壁に囲まれた殺風景な部屋。

ユリウスは、膝の上で拳を握りしめ、指先が白くなっていた。


二時間後、ようやく呼び出しがかかる。

3人とも、この重苦しい空気からようやく解放されることに安堵していた。


「仲裁を始めます。移動してください」


呼びかけがあったので、案内に従って移動することになった。

先導する女が建物の奥に進んでいき、だまってついていく。


そして、ひときわ大きな部屋のドアを開くと、なんとも不思議な空間であった。


部屋を見渡すと、白髪混じりの帽子を被った小太りの男の人が一段高い場所に座っている姿が一瞬で目に入った。

その佇まいからして、この人物が公証人ということが一目でわかる。


後方には、神を祀る独特な壁画となっている。

人を裁く場所としてふさわしいと感じられる場所であった。


早速、右側に俺とユリウスが着席し、反対側に先に部屋に通されていた少年が既に座っていた。


間違いない。昨日の、あいつだ。

身なりのよい少年。

だが、こちらへの敵対心を打ち消せていなかった。


公証人は人定を始める。


「名前を述べよ」

「ユリウス」「アシェル」

「ではそちらは」

「ウィル・ハーモスだ」


間髪を入れずに公証人から指示がでる。


「宣誓をしなさい」


これに合わせたように黒縁メガネの男がやってきた。


「神の庇護のもと、偽りを述べることなく、裁定に従うことを宣誓し、書類に血を少し垂らしてください」


難しい言葉とともに書類を差し出されたので、言われたとおりの言葉を口に出し、ピンセットで小指を軽く突き、少量の血痕をつけた。


ユリウスは不安なのか、ワンテンポ遅れ、手が震えながら、同じく行った。


「仲裁を開始する」


公証人が高らかに宣言し、審理が始まった。


「申し立てでは、ユリウスがウィル・ハーモスらから一方的に暴行を加えられたということのようだが」

「間違いないか」

「間違いありません」


公証人の早口の問いに、俺とユリウスが声を揃えて返事をする。


「では、ウィル・ハーモスにも聞く」


これに対して、ウィルはふてぶてしい態度で答える。


「間違いだ。そいつが先に食べ物をぶつけてきた。服が汚れたのに、謝罪もせずに突っかかってきた」


ふてぶてしい態度と一致する言い草だ。


「君は『侮辱に対する制裁』として手を出した、と。動機はそう整理してよいな」

「そうだ」


まるで公証人はウィルに最初から肩入れする印象を与える。


「ユリウスは何か言いたいことがあるか」

「いや、それはだって、ぶつかってきたのはそっちで。それにいっぱい殴られて、足の骨もおりました」


ユリウスは少し取り乱した様子で反論する。

だが、公証人は高い位置から見下ろし、責め立てるように続ける。


「持っていた食べ物が当たったのは間違いないのだろう。それに謝罪もなかった」

「それは…は、はい」


問い詰めてくるような態度に、ユリウスはあたふたしている。


その様子を傍聴席で見ているシュフィーロは貧乏ゆすりをしていた。

公証人から俺にも質問があった。


「アシェルは見ていたのか」

「いいえ、僕は見ておりません」


記憶のままの事実を述べた。


「ふむ」


少しの沈黙が続き、全体の雰囲気が一層重苦しくなっていく。

そして、ゆっくりとした言葉で、公証人が語りかけてくる。


「プリビレッジに正当な理由があれば、王令の問題はない。それでも何か言いたいことはあるのか」


既に決着がついたと言わんばかり。

王令のことは良くわからない。

だが、王令はプリビレッジの正当な暴行を認めるらしい。


ユリウスはなんとか反論したそうだったが、うまく言葉が出てこない様子。

このまま、あっけなく仲裁が終わってしまいそうな空気だった。

これでは昨日の悔しさを重ねて塗るだけになってしまう。

俺は焦りの中、必死で頭の中で思考を巡らせた。


一体どうすれば・・・?


昔の記憶がふと浮かんできた。

この手でいくしかない。


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