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第39話 余波

あの事件から1ヶ月が経過した。

事件の爪痕は今でも色濃く残っており、学院内の正常化までは程遠い状況だった。

この頃から出所不明のある噂が広がっていた。


それは、ウィル・ハーモス殺害事件に加えて、ニコル・アーステルドの暗殺未遂事件が発生し、その犯人として平民学生だったフリーラが拘束されていると。

これは非の打ち所がないほど正しい情報だった。

だが、あれだけの事実を隠蔽することは難しい。


フリーラの突然の失踪がこの噂をあまりにも強く補強する。

そのため、噂の信憑性を否定できる者は誰もいなかった。


学院内には不穏な空気をひしひしと感じさせる。

平民の学生は誰しも動揺を隠せていない。

それに、プリビレッジ学生からの目線が日に日にきつくなっている。


もちろん、真相をすべて知っている俺自身も同じだ。

この1ヶ月は仲間たちに嘘を貫いている罪悪感が拭えなかった。

そして、なによりもフリーラと特に友情を育んだマーガレットとリサリィのことを直視できない。


これ以上は隠し通すことはできないし、したくない。

この噂の登場で、俺はついにマーガレットとリサリィに自分の口から話す時がきたと感じた。


ある日の帰り際、タイミングを見計らって、二人を手頃な場所に呼び出した。

いつになく、重苦しい雰囲気が伝わっていたのだろう。

呼び出された彼女たちも何の用件かは心当たりがあるようだった。


俺の前に立つ二人はとても神妙な様子だ。


「あの、フリーラのことだけど…」


早速話を切り出したが、第一声で既に二人は涙目となっており、うつむきながら俺の話を聞いていた。

いたたまれない気持ちになり、何度も心が折れそうになったが、それでも振り絞るように自分の知る限りの真相を二人に話した。


フリーラがガイアレット王国の末裔であり、プリビレッジに復讐を果たすために犯行に及んだこと、そして、あのとき、俺の冤罪を晴らすために、ニコルを襲い、さらに罪を重ねてしまったこと。


二人は大粒の涙を流しながらただただ頷くだけ。


こんな残酷な真相の中にあっても、二人のために、少しでもフリーラのことを擁護してあげたい。


「あのとき、フリーラは僕のことを殺すことができた。

  でも、しなかった…しなかったんだ」


あの光景が鮮明に脳裏に染み付いている。

フリーラと対峙したあの一瞬。


「あのときのフリーラは切なく、つらそうな目をしてたんだ。

  まるで僕に救いを求めるように…」


自分の中にある、割り切ることのできないフリーラへの思いも赤裸々に話した。

フリーラも学院での仲間との生活を失いたくなかったはずだ。

それでもやらざるを得なかった。

そこには絶望的な葛藤があったはず。


自分なりに、誠意をもって二人に伝えた。

二人は自分を強く責める気持ちを抑えきれない様子だった。

傷ついた心は時間以外に解決してくれない。

ただただ、二人が立ち直るときを待つしかない。


そんな中でも日常は続いていく。

気づけば事件から2ヶ月弱が経った。


それでも変わらず、平民の学生はショックを克服できず、引きずっていた。

それはフリーラが思いやりのある人間であり、誰にでも優しく、愛されていた存在であったことも一因だった。

加えて、ここにいるみんなは史実を知り、少なからずフリーラのやったことに共感ができないわけでないという心理もあったと思う。


そんな平民の学生には、プリビレッジの学生からの容赦ない非難が起きていた。

ただでさえ、プリビレッジと平民の分断された階級社会だ。

そのプリビレッジに対する凶行は彼らにとってショックと同時に、許せるものではなかったのだろう。


平民の学生は、誰一人、反論することもなく、ただ大人しく罵声を浴びせられていた。

あのフューゲルでさえも何も言い返すことがなかった。


ある時、マーガレットと二人で歩いていると、タブーとも言える話題を切り出してきた。


「ねえ、私たちの祖先もアーステルド王国に無念な思いを抱いていたのかしら」


こう尋ねるマーガレットはどこか遠い目をしていた。


「きっとそういう気持ちはあったのだと思う」

「もし。もしも、アシェルがフリーラと同じ立場だったらどうしてた?」


マーガレットの本質的ともいえる問いに対し、どう言葉にするかしばし考えた。


「正直わからない。ただ、プリビレッジの中にも親しい人ができた。

  彼ら自身が魔法大戦争を起こしたわけでないって割り切るかも」

「そっか」


マーガレットは静かにこう言うと、これ以上は言葉を続けず、後ろからそっと俺のことを抱きしめてきた。


王国の凄惨な歴史は今後王国に波乱をもたらすかもしれない。

今回の事件は、そんな予感すら残すものであった。


事件から6ヶ月が経過した。

さすがにこの頃になると、学院内の雰囲気は元に戻りつつあった。


各々が焦燥を感じ、学院生活をこなしていたが、日常の中で仲間と時間を過ごすうちに心の傷を癒やし合えたのだろう。

それに、担任のラフィーナが行ったカウンセリングも一定の効果があったのだと思う。


「あのなーうちは昨日初めてトンカツってやつ食べてきたんや」

「リサリィ、レストランフリーに行ったの?」

「なんや、マーガレットも行ったことあるんかいな?」


以前のような女子トークもいつの間にか復活している。


「けっ、あのプリビレッジ今度叩きのめしてやる。」

「もうー、喧嘩はだめだって。」


フューゲルのことをなだめるパリシオン。

フューゲルの喧嘩っ早さもすっかり戻ってきた。


今回の事件を通じて一つだけ学んだことがある。

人は忘れる生き物である。

きっと、忘れられるから人は生きていける。


いよいよ学院生活もゴールが見えてきた。

この生活も残すところ、数ヶ月だ。


学院を卒業後、次のステージで活躍するためにも、ここから気持ちを高め、仲間との最後の時間を有意義に過ごしていきたい。


【魔法世界メモ39】

レストランフリーの現状は?

レストランフリーの快進撃は止まらず、気づけば王都でも有数のレストランとなっていた。

現在は80席規模まで拡大し、従者が15名いる。

プリビレッジの間でも名物トンカツが評判となっている。

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