第3話 プリビレッジ
俺は周りの様子を確認し、肩を揺らしながらユリウスに呼びかけた。
「しっかりしろ!ユリウス!」
ユリウスは顔を左腕で覆いながら、沈黙している。
悔しかったのか、体は小刻みに震えていた。
呼びかけにもなかなか反応してくれない。
だが、5分くらい経ち、ようやく起き上がろうとした。
「痛っ・・・。立てない」
「足が痛いのか?」
「もしかしたら、足が折れているかもしれない」
ユリウスは左足を引きずりながら立ち上がる。
周りを見渡すと、見物人がさらに増えており、いい見せ物になっていた。
一刻も早くこの場をさりたい。
そう思い、歩きながら事の顛末を聞くことにした。
「何があった?あいつらは誰?」
こう質問すると、ユリウスは悔しそうな表情で話し始めた。
「あの三人が脇道に入ってきた…」
「…話に夢中で、俺とぶつかって、アシェルの干物を落としてしまったんだ」
「それで『何するんだよ!』と、文句をいったら」
もともと殴られて赤くなっていたのかもしれない。
怒りがこみ上げてきたのか、ユリウスの頬がうす赤くなったように感じた。
「いきなり胸ぐらを掴まれて、左頬にビンタしてきた」
「…今度は他の1人がグーで顔をめがけてパンチをしてきて…」
「咄嗟に反撃しようとしたら、めまいのような感覚に襲われて体が動かなくなって…」
ユリウスはそれから無抵抗に殴られ続けた。
事の顛末は概ね把握した。
だが、体が動かなくなるとは一体?
いや、以前聞いたことがある。
この国では、王令があり、暴力行為などは魔法で強制的に制御されていると。
それならあの少年たちはどうして?
この短い時間の中でも、たくさんの疑問が出てくる。
だが、今はそんなことはどうでもよい。
ユリウスのケアが先決だ。
ユリウスの体に配慮しながら、自宅に届けることに集中した。
ユリウスは道中、言葉少なくうつむき加減であった。
それでもなんとかユリウスの自宅にたどり着いた。
急いでドアを叩いた。
「シュフィーロさん!シュフィーロさん!」
大きな声で呼びかけた。
すると、ドアが開いた。
「どうした?ユリウス怪我しているじゃないか」
ユリウスの父、シュフィーロが俺たちの姿を見ると、驚いた様子だった。
俺は、シュフィーロに対し、その場で簡単に事情を説明した。
「ありがとう。ユリウスを家まで連れてきてくれて」
「ではさようなら。ユリウス、お大事に」
シュフィーロは事態を把握し、礼を言ってきたので、察してこのまま別れることにした。
そして、俺も家に帰り、今日の出来事を事細かに家族に話した。
耳に残った『プリビレッジ』という言葉を口に出すと、トシェルは急に険しい表情となった。
「その言葉を、外で軽々しく使うな」
声が低く、そして小さかった。
「どうして?」
「関わるな。あいつらは……別だ」
何を言われているのか分からなかった。
「あなた、アシェルにもきちんと説明したほうがよいのじゃない?」
そんな様子を見かねて、ナーディアが心配そうな表情で言う。
傍らにいたカナディは泣きそうな表情をしている。
続けて、トシェルから「プリビレッジ」について注意を受けた。
「王令は、全員にかかるわけじゃない」
それでもトシェルはこれ以上言わなかった。
だが、その答えで十分だった。
王令は平等ではなかったのか?
治安は守られているのではなかったのか?
王令があるから安全だと、ずっと思っていた。
なのに、今日の光景は何だったのか。
俺の中で、小さな違和感が芽を出す。
この十年は、静かに、しかし確実に崩れ始めていた。
終




