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第18話 マーガレットの秘密

学院生活にも一か月が過ぎ、

俺は確かに、社会に出るための知識を身につけている実感を得ていた。

仲間たちともすっかり打ち解け、

学院生活は順調そのものに見えた。

この日も講義を終え、パリシオンと並んで学院を後にしていた。


だが、そんな穏やかな下校も一転して不穏となる。

出入り口へ向かう途中、強い口調で言い争う男女の姿が目に入る。

最初は、よくある痴情のもつれかと思った。

だが、言葉の端々があまりに刺々しい。


耳を澄ませると、聞き覚えのある声だった。

 ―この声は…マーガレット?

目を凝らすと、相手はプリビレッジの学生らしい。

明らかに、立場の差を盾にした口調だった。


「お前はコマだ。家の言うことを聞け」

「お兄様……自分の人生は、自分で決めたい……」


これはただ事ではない。


「平民と仲良くするのもやめろ。お前は政略結婚の道具なんだ」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に強い不快感が込み上げた。

 ―聞き捨てならない。


マーガレットは顔を伏せ、小刻みに震えている。

我慢できず、俺は前に出た。


「プリビレッジが平民より偉いから、

 平民は言うことを聞かなければならない、という話ですか」

自分でも驚くほど、声が強くなっていた。


「誰だ、お前は」

相手の男は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに怒りを露わにする。


「平民が口を出すな。お前には関係ない話だ」

「関係がないとは思えません」

俺は一歩も引かなかった。


「なぜプリビレッジが偉く、なぜ平民が従わなければならないのか。

 その理由を、教えてほしいだけです」

男は舌打ちをする。


「平和でいられるのはプリビレッジのおかげだ。

 インフラも、魔法も、すべてそうだ」

聞き慣れた論理だった。


「ですが、プリビレッジも平民が生産した食料を食べていますよね。

 平民も税を納めています。それは、誰のために使われているんですか」

男の言葉が詰まる。


「平民だって、王国に貢献しています。

 一方的に下に置かれる理由にはならない」

「……神ソディーネは、プリビレッジに魔法と特権を与えた。

 教義でも、上の立場だ」

ついに教義を持ち出してきた。


「教義には、一平民が一プリビレッジに服従しろと書いてありますか」

「知るか!」


俺は、神ソディーネの教義を読んでいた。

魔法至上主義であることは確かだ。

だが、人を隷属させよとは書かれていない。


「特権の存在と、他者を支配する権利は、別の話です」

男は、俺とマーガレットを強く睨みつける。


「親父の言いつけは絶対だ。お前も覚悟しておけよ」

それだけ吐き捨て、憤然と去っていった。


その場に残されたマーガレットは、しばらく動けずにいた。

パリシオンと二人で、そっと声をかける。

「もう、大丈夫だよ」


いつも気丈な彼女とは違い、今はひどく小さく見えた。

少し時間を置き、三人で学院を出る。


帰り道、 マーガレットは俯いたまま、やがて口を開いた。

「……実は、私」

「プリビレッジのズレッタ家のお父様と、平民だったお母さんの子なの」


言葉を失った。

ズレッタ家。四大プリビレッジの一角だ。


「急に連絡が来て、学院に入れって命令されたの。

 それで、ここにいる」

「さっきの人は……?」

パリシオンが恐る恐る聞く。


「ジオリ・ズレッタ。ズレッタ家の三男で……私の兄」


マーガレットは涙を滲ませながら続けた。

「学院に入ったのは、政略結婚のため。

 ここで教養をつけて、嫁げって。

 お兄様は、私を監視するためにいるの」

胸が締めつけられた。


「お母さんと二人で、静かに暮らしていただけなのに……」


彼女はプリビレッジの恩恵など、何一つ受けていない。

それなのに、突然人生を奪われる。

理不尽という言葉では足りなかった。

俺は、下手な慰めを口にすることができなかった。


「……声をかけてくれて、ありがとう」

そう言って、マーガレットは足早に去っていった。

人の人生を、血筋と立場だけで踏みにじる。

プリビレッジという存在への嫌悪が、胸の奥で静かに燃え続けていた。


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