第16話 学友たち
あの講義の後、一時間ほどの軽食休憩が設けられた。
顔なじみになってきた学生同士で、自然と会話が生まれる。
「なんか、重たい話だったよね!」
最初に声を上げたのはリサリィだった。
赤いショートヘアにそばかすが特徴の、活発な少女だ。
「そりゃそうだろ。
俺の祖先が難民だったなんて、初めて知ったし」
パンを頬張りながら答えたのは、ガリンソン。
商人の息子で、少しやんちゃな雰囲気の少年だ。
「三百年前のことなんて、私たちには関係ないわ」
きっぱりと言い切ったのはマーガレットだった。
青い長髪に、気の強そうな目元。普段から物言いがはっきりしている。
「大事なのは未来よ」
「私は、生まれ育った王国が好き」
穏やかに続けたのはフリーラだった。
凛とした大人の雰囲気が漂う金髪のストレートヘアでスレンダーな少女だ。
「史実がどうであれ、国王の下で働けたらいいなって思うの」
それぞれの言葉が、少しずつ違う方向を向いている。
この話題を深掘りすれば、決定的な溝が生まれそうだった。
だから俺は、慎重に言葉を選んだ。
「でも……
こういう史実を知ってしまった以上、
いつかは平民の間にも広がるんじゃないかな」
「忘れたの?」
マーガレットが鋭く返す。
「初日に魔術契約を結んだでしょ」
「あ……そうだった」
パリシオンが苦笑しながらフォローしてくれた。
「仮に知ったとしても、どうにもならないよ…」
マーガレットは肩をすくめる。
「プリビレッジに逆らえるわけないでしょ」
「……神ソディーネは、
そこまでして平和を望んだのかな」
つい、本音が漏れた。
「何言ってるの!」
マーガレットは俺に対し、語気を強めた。
王国は唯一神ソディーネを信仰している。
魔法至上主義の教義は、プリビレッジの権威を絶対のものとしている。
「まあまあ、ええやん」
リサリィが空気を和らげる。
「うちは国家機関に入って、
プリビレッジの人と仲良くしてもらうし」
「それ、商売のためだろ」
ガリンソンがすかさず突っ込む。
笑いが起こり、場はなんとか保たれた。
この日の午後の自習時間、俺は魔法大戦争のことが気になり、歴史書を手に取った。
古文で書かれており、読み解くのは容易ではない。
だが、そこには、魔法大戦争が食料問題の深刻化、
つまり、口減らしの側面も持っていたことが示されていた。
もし自分がその立場だったら―
答えは出なかった。
いずれにせよ、魔法という武力が一度暴れ出すと、この世界は脆いという事実を改めて実感した。
それゆえ、プリビレッジという魔力をもつ存在が絶対的な存在になる。
この世界の秩序の正体が分かった気がした。
この日の帰り道、偶然マーガレットと並ぶ。
「ねえ。本気で、この世界は間違ってると思ってるの?」
「思ってるよ」
迷いはなかった。
「虐殺は過ちだ。人は過ちを犯す。
だからこそ、それを正そうとする知恵が必要だと思う」
マーガレットは黙って聞いている。
「プリビレッジが特権階級であること自体は否定しない。
でも、法の下では平等であるべきだ」
「……珍しい考え方ね」
彼女は、ふっと笑った。
「そんなこと言う人、初めて見たわ」
その笑顔は、昼間の彼女とはまるで違っていた。
「今度、うちの店のパン、食べに来なさいよ」
そう言い残し、彼女は走り去っていった。
胸の奥に、小さな熱が残る。
学院生活は、まだ始まったばかりだ。
だが、確実に何かが動き始めている―そんな予感がしていた。
終
本話をお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
ブックマークと星、あるいは感想をいただけますと大変嬉しく思います。
長編作品ですので、モチベーションアップとなります。是非よろしくお願い致します。




