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第15話 魔法大戦争

初日のオリエンテーションから、二週間が過ぎていた。

学院では基礎的な雑学を中心とした講義が続いており、生活にも少しずつ慣れてきている。

講義を受けるたびに思う。

 ―自分は、これまで何も知らずに生きてきたのだと。


学院の一日は、午前に二時間ほど講義を受け、午後は自習にあてられる。

各自が書物を読み、興味のある分野を掘り下げる時間だ。

質問があれば、担任のラフィーナが応じてくれる。


今日の講義は、王国の歴史だった。

王国がどのようにして生まれたのか。そんな「当たり前」とされている史実ですら、平民である自分たちには知る機会がなかった。


定刻になると、ラフィーナが教室に入ってきた。

もう見慣れた光景だ。今日は手に、大きな紙を抱えている。

教壇に立つと、その紙を広げて掲示した。

どうやら地図らしい。


「歴史の講義を始めるぞ」

号令とともに、淡々と講義が始まった。


「王国は、約三百年前に建国された。

 リコーラ大陸に存在する国家は、アーステルド王国のみだ」


建国三百年。

王都で毎年行われる記念祭の存在から、それ自体は知っていた。

だが、地理を含めて見るのは初めてだった。

地図を見る限り、この星には大きな大陸が一つしかない。

離島を除けば、他に陸地は見当たらない。


「王国が建国される以前、この大陸は戦乱の世だった。

 大小二十の国が乱立していた」


ラフィーナは続ける。

「それらを統一したのが、アーステルド一世。

 そして、現在プリビレッジと呼ばれる者たちの祖先だ」


ここまでは、想像の範囲内だった。

前世で言うなら、始皇帝のような存在だろう。

だが、その予想は裏切られる。


「百年以上続いた戦乱に、人々は疲弊していた。

 そんな折、神ソディーネがアーステルド一世と

 その仲間に、膨大な魔力を授けた」


ラフィーナは一度、言葉を切り、静かに息を整えた。


「アーステルド一世は、その力をもって、

 すべての国を滅ぼすことを決断した。

   ―これが、大魔法戦争の始まりだ」


ラフィーナは重い言葉を続ける。


(いかずち)を落とし、抵抗する者を徹底的に排除した。

 三年に及ぶ戦争の末、人口二千万人の大陸は、五十万人にまで減少した」


その瞬間、言葉が頭に入ってこなかった。

三年で、二千万人から五十万人。

それは戦争という言葉で片づけられる規模ではない。

 ―大虐殺だ。


そう理解した途端、体の奥から寒気がこみ上げてきた。

息が浅くなり、指先がわずかに震える。

前世の感覚で言えば、世界中に核兵器を撃ち込み、人類を数億人にまで減らすようなものだ。

そんな行為を、平和のためだと言い切れるのか。


周囲を見回すと、他の学生たちも同じように硬直していた。

誰一人、平然とはしていない。


「こうして、アーステルド王国は誕生した。

 以後、三百年にわたり大きな戦争は起きていない。

 これも、神ソディーネのご加護だ」


生き残った五十万人は、そのまま王国民となり、

現在では人口五百万人にまで回復しているという。

 ―そんなはずがない。

俺は、どうしても黙っていられなかった。


「先生。それなら、反乱が起きてもおかしくないはずです。

 自分たちの祖先が、そんな目に遭わされたのなら……」


ラフィーナは即答しなかった。


「感情としては、そう思う者もいただろう」

静かに、しかしはっきりと続ける。


「だが、アーステルド三世の代には、そうした遺恨は消えていた。

 王国は完全な平和を迎えている」

「……どうして、ですか?」


家族を失い、国を失い、

それでも王国の下で生きることを受け入れたというのか。

そのとき、ひとつの可能性が浮かんだ。


「……魔法、ですか」

「そうだ」

ラフィーナは肯定した。


「魔法によって、大魔法戦争の記憶を次世代に伝承させないことは可能だった」


それ以上、追及する気力は残っていなかった。


「もういいか?」

「……はい」


ラフィーナの声は、いつもよりわずかに濁っていた。

その理由を、このときの俺は言葉にできなかった。


やがて講義は、歴代の王の功績へと移っていく。

「国家機関の一員として仕える以上、

 先王たちの功績は正しく学べ」


最後にそう締めくくられ、二時間の講義は終わった。

衝撃が大きすぎて、他の学生が何を感じたのか考える余裕はなかった。

ただ一つだけ、確かなことがあった。

 ―この国は、思っていたより、ずっと歪んでいる。


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