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第10話 森の奥で拾った可能性

カナディがレストラン「フリー」で見習いとして働き始めてから、半年が過ぎていた。

幼い頃からずっと一緒に過ごしてきたカナディが家を空けることが増え、どこか退屈な日々を過ごしている。

それでも―。


「また来たのか?」

「はい! お邪魔します!」


呆れた表情で俺を見るのは、フリーのオーナーであるシューストだ。

たまに、こうしてカナディの様子を見に来ている。


カナディは明るい性格もあって、ウェイトレスとして客からの評判も上々らしい。

そのため、シューストもなんだかんだで俺のことを歓迎してくれている。

カナディが食べているまかない料理も、お裾分けしてくれる気前のいいオーナーだ。

本当に良い職場に巡り会えたのだと感じる。

ただ、カナディは忙しく働いているため、ここに長居はできない。


一人の時間を過ごしていると、行き詰まりを感じる。

 ―文字って、どうやったら習得できるのだろう?

あの日からずっと考えているが、答えにたどり着けない。


平民の識字率は、とにかく低い。

そもそも、文字を目にする機会がほとんどない。

伝達手段として手紙は必要なく、伝書鳥型の魔導具が話し言葉をそのまま伝えてくれる。

王国からの発表も、蓄音機に似た魔導具によって放送されるため、活字で表現する必要がない。

必然的に、文字は不要なものとなる。その意味では、魔法という技術が平民の学習を阻んでいるとも言える。


それでも先日、代弁者協会のネフィスに、文字の習得方法について相談に行ってみた。

ネフィスは商人の子息向けの私塾に通うことを勧めてきたが、なんといっても授業料が高額すぎる。

一般の平民がとても払える金額ではなかった。


 ーどうすればいいのだろう?

自問自答を繰り返す日々。だが、無情にも時は進んでいく。


そして、さらに一年の月日が流れていた。

この間も自力で学ぶ方法を考え続けたが、ほとんどの平民が文字について知識を持っていない以上、手のうちようはなかった。

もちろん、金策の手段も考えてみたが、十一歳の少年が稼げる方法など、容易に見つかるはずもない。


歯がゆい思いを抱えながら、日々を漫然と過ごす。

時間の猶予は、確実に失われているというのに、どうしても答えが浮かばなかった。


そんなある日、気分転換に、最近足を運んでいなかった森へ行ってみようと思い立った。

王都の南西には、大きな森が広がっている。自宅からも、そう遠くはない。

昔はカナディやユリウスと、よく散策に出かけたものだ。


いつもの慣れた道を通り、森へ向かう。

王都からの一本道を三十分ほど歩くと、一際大きな農家が見え、そこから先が森となる。

王都には外敵らしい外敵もいないため、外壁もなく、自由に出入りできる。


しばらく森を進んだが、慣れ親しんだ光景が続いていた。

だが、ある程度進んだところで、今日は森の奥まで進んでみようと決意する。

両親からは、子供のうちは森の奥へ入ることを禁じられていた。

それでも、このまま道なき道を進まなければ、何も変えられない。そんな思いが、俺の背中を押したのだろう。


奥へ進むにつれ、森の中は次第に気味が悪くなっていく。

視界は悪く、今にも何か得体の知れないものが現れそうだ。

風の音が森の奥からこだまし、不気味な音色を奏でている。


さらに歩くと、森の景色が変わってきたことに気づいた。

先ほどまでの薄暗さは消え、眩いほどの光が差し込んでくる。

周囲には、見たことのない植物が生えていた。

新しいものを見ると、不思議と新鮮な気持ちになる。


 ーだが、さすがにこのあたりで引き返そう。

そう考え、木の切り株に腰を下ろして、しばらくぼんやりと過ごしていた。


すると、急に風が強くなった。

木々が揺れ、森全体がざわめき始める。

まるで、前世で聞いた洋楽の伴奏が流れてくるようだった。

その時だった。


 ー痛っ!

風にあおられたのか、何か硬いものが頭に当たった。

俺は、飛んできた物体をすぐに目で追う。


 ーこれか……?

どうやら、変な形をした木の実のようだ。

拾い上げると、少し八つ当たり気味に、それを握り潰した。


 ―うわ。

木の実から、奇妙な液体が溢れ出した。

手触りは悪く、ぬるりとしている。

触れたことのない感触に、興味本位で手の匂いを嗅いでみる。


 ーん?

どこかで嗅いだことがある匂いだ。

それに、この手触り……油?


俺の五感は、この液体が前世で知っているものだということを、はっきりと覚えていた。

 ーこれは……植物性のオイル?


急いで周囲を見渡した。

同じ実をつけた木が、あちこちに生えている。

 ―ひょっとして、使えるかもしれない!?


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