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第1話 祝福されていたはずの世界

「アシェル、主役なんだから早く来なさい」

「今行くよ!」


俺の名前はアシェル。

誕生日ということもあり、家族がお祝いのため、ご馳走を準備してくれている。


誰にも言えない秘密がある。

これが二度目の人生ということだ。


前世では大学生だったが、雷に打たれて死んだ。

気づけばこの世界に赤子として生まれていた。


ここは魔法が存在する世界。

地球とは文明も価値観も違う、アーステルド王国。


母のナーディアが料理をテーブルに運び、父のトシェルはそれを待って椅子に腰かけている。

その隣で、三つ年上の姉のカナディが楽しそうにこちらを見ていた。


「せぇの、お誕生日おめでとうー」


十年も生きれば、もうこの世界が「現実」だ。

食卓には、アグールの肉と白いシチュー、焼き立てのパンが並んでいた。

平民の食卓にしては豪華すぎる。


「今日はアシェルのために奮発したんだからね」

「ありがとう、母さん」


父のトシェルが静かに頷き、姉のカナディは楽しそうに笑っている。

―この世界は、祝福されている。


家族団らんの食事。

前世ではあまりなかった経験。

もう10年も経つのに、この瞬間はすごく楽しい。


和やかな会話の中、気になっていたことを思い切って聞いてみた。


「外で勉強する機会ってないのかなぁ?学校とかで色々と勉強してみたい」

「平民の子はそんなのいかないよ?」


カナディは俺の言葉に不思議そうな顔をする。


平民には学校教育という制度が存在しないようだ。

子供はただ子供らしく過ごすことがこの世界の常識と考えられている。


前世では幼少の頃から受験戦争によって疲弊し、何事にも卑屈で他人に心を開けなかった。

前世の、歪んだまま生きていた自分は、もうここにはいない。


だが、学ぶ機会もないのも、退屈な面は否めない。

遊んでいるだけというのも少々辛いときがある。


「来週、アーステルド記念祭だね。楽しみだなー」


カナディが年に一度のお祭りを心待ちにしている様子で話題をふってきた。


アーステルド記念祭は、王国の建国を祝い、年に1度行われるお祭りである。


王都中が飾られて、色鮮やかな街並みに変貌し、この特別な日を街全体でお祝いする。


「アシェルはユリウスとお祭りにいくの?」

「うん、その予定」


ナーディアがニコニコしながら聞いてくる。


この国には王令という法律がある。

治安は良く、暴力も犯罪も厳しく禁じられている。

法が守ってくれる国。

だから子供だけでも自由に街中を歩ける。

そう、教えられてきた。


何の疑いもなく笑う家族の姿を見ながら、俺は思う。

この世界は、きっと前世よりもまともだ。

法があり、秩序があり、この家族がいる。


―だが、その祝福が一部の者にしか与えられていないと知る日は、

すぐそこまで来ていた。


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