第9話:セリフがバグってる!? 攻略対象たちが“私”を選び始めた!
――この世界は今、二人の「クラウディア」に分かれている。
ひとりは、開発者である私。
もうひとりは、ヒロインと没キャラが融合した、世界を上書きする存在。
赤い空の下、対峙する私たちの前に立ったのは、三人の攻略対象たち。
王太子・アルベルト=ディア=グランシェルト。
侯爵子息・ディラン=フォン=リューゲルト。
近衛騎士候補・シオン=カレヴィン。
だが彼らの目は――混乱していた。
「クラウディア……どちらが、本物の……?」
「私たちは、お前の“正しいルート”を知っているはずだった。だが、今……わからなくなった」
プロト・クラウディア=セリアがふっと笑う。
「さあ、選びなさい。
あなたたちが“忠誠を捧げるべきヒロイン”は、どちらか――」
その瞬間だった。
アルベルトが、私の前に立った。
「……私は、クラウディア=ローゼンベルクに従う」
「え?」
プロト側のクラウディアが目を細める。
「理由は?」
「“あなた”の言葉は、すべて台本に聞こえるんだ。
だが“こちらの彼女”は、悩み、怒り、時に黙って立っていた。
その姿は……誰かのシナリオじゃない、生きた意志だった」
続いて、ディランも静かに言った。
「あなたは完璧すぎて、不気味です。
でも……“不完全なクラウディア”の言葉には、人の温度がある。
僕は、温度のある側に立ちます」
最後に、シオンが剣を抜く。
「俺は、“命令される”より、“共に歩く”ことを望む。
だから――“書き換えられたお前”じゃなく、“意志を選ぶお前”を信じる」
彼らの言葉が終わると同時に、世界が一瞬揺らいだ。
《ルート分岐進行中》
《攻略対象たちの意志選択が確定しました》
《Error:セリフ一致率 42%》
《警告:プロトクラウディアの統一スクリプトに矛盾発生》
プロト・クラウディアの目が、微かに揺れる。
「……なるほど。攻略対象のフラグ、完全掌握には“強制”では足りないと」
「そうよ。選ばせるんじゃない。彼らが自分で選んだの」
私は、胸を張って言った。
「あなたの言う“完璧な支配”は、ただのご都合主義。
でも私たちの物語は、失敗も、躓きも、意志で塗り替えていくの。
それが、私が書きたかった――生きた世界!」
《再警告:世界整合性の破綻が進行中》
《プロト統合体との“選択権”競合状態に入りました》
プロト・クラウディアの顔から、笑みが消える。
「ならば、消してあげましょう。
あなたたちが“書いた物語”ごと――」
魔力が爆発する。
空が裂け、深層世界に消滅のカウントダウンが刻まれる。
だが、私は一歩前に出た。
「いいえ。まだ、フラグは全部立ってない」
「……なに?」
私は最後の“伏線”を、強く宣言した。
「この物語の最終選択肢は、彼らではなく、“ヒロイン”が持っている。
セリア。あなたよ――!」
――空間の奥。
セリアの意識が、融合したクラウディアの中で、微かに呼吸をしていた。
(私……クラウディアになろうとしているの?
それとも、“ヒロイン”でいたいの……?)
過去の自分。現在の自分。バグの記憶。
すべての情報が重なり合う中で、
セリアの心に浮かんだのは、かつてクラウディアに助けられた、あの日の教室。
『……大丈夫よ。いざとなったら、私が守ってあげるから』
その一言だけが、今も彼女の中に残っていた。
「……“あのクラウディア”を、私は選びたい」
その瞬間。
《最終フラグ確定:ヒロインによるルート判定が選択されました》
《ルート名:“Override:True Code”が確定》
《強制上書き開始》
《プロト統合体、崩壊開始――》
赤い空が、静かに――青へと戻っていく。