第7話:“開発者vs没キャラ”開戦。乙女ゲームが魔導戦記になったんだけど!?
――深夜の学院。誰もいないはずの中央広場。
私と“彼女”は、向かい合って立っていた。
銀の髪。冷たい蒼の瞳。
完璧すぎるプロポーションに、艶やかな赤のドレス。
クラウディア=ローゼンベルク。
だがそれは、私ではない。
「こんばんは、“最新版”の私。はじめまして……いえ、お久しぶり、というべきかしら」
「……“プロトタイプ・クラウディア”」
口に出すだけで、背筋がぞくりと震える。
この女は、開発初期に没になった“最初期案の主人公”。
他のキャラを蹴落とし、国を乗っ取り、攻略対象たちすら手駒にする悪役の権化。
あまりに容赦なく、プレイヤー層に受けないと判断されて削除された。
それが今、なぜかこの世界に存在している。
「……なぜ現れたの?」
「あなたが“この世界の運命”に手を入れたからよ。作者様。
物語を書き換えた瞬間、私の記憶も、ルートも、再起動したの」
「あり得ない。削除されたはずのデータにアクセス権は――」
「あるのよ。あなたが“セーブ”していたから」
その言葉に、私は一瞬、息を呑んだ。
――そういえば。
正式採用が決まった後、私はプロトタイプ案の全ルートを私用フォルダにバックアップ保存していた。
(……それが、読み込まれた?)
「この世界には、もうひとつの結末が必要だと思ったの」
プロト・クラウディアが手を掲げる。
次の瞬間、空間が歪み、学院の中心部に赤黒い魔導陣が浮かび上がる。
《イベント:未登録スキル「Code-Break/Rewrite」発動》
《権限:開発者 vs 試作キャラ 競合中》
画面のようなメッセージが視界に浮かぶ。
同時に、空気が爆ぜ、魔力が火花のように弾ける。
(これ……戦闘イベントじゃない)
乙女ゲームの世界に、あり得ない“戦記クラスの演出”。
この女、ルート構造そのものを“武器”にしてる――!
「あなたが守ろうとしているのは、“整った世界”でしょ?
でも私が望むのは、“完全勝利”よ。誰にも従わず、支配する私こそ、正しいクラウディア」
「違う。私がこの世界に来たのは、“物語を守る”ため」
「その物語が、私だったら?」
その瞬間、背後でノイズ音が走る。
複数の攻略対象キャラたち――アルベルト、ディラン、シオンが現れた。
けれど、彼らの様子が……おかしい。
「お前たち……!」
「クラウディア様、命令を」
「貴女の敵を排除します」
(嘘……“同キャラ別ルート版”!?)
プロトタイプ・クラウディアの手によって、攻略対象たちが**“別ルート人格”で再構成**されている。
これが、彼女の“Rewrite”能力。
キャラすら、書き換えて、従わせている。
(やばい……このままじゃ、“今の彼ら”が上書きされる……!)
そのとき――
「クラウディア様、下がって!」
リオが割って入る。
彼の手には、旧記録庫から持ち出した黒い魔導書が握られていた。
「……それ、解析中の没スキル資料じゃない!? なぜ使えるの!?」
「分かりません。でも、クラウディア様を守ると、身体が勝手に――!」
リオが魔導書を開いた瞬間、世界が、光に包まれた。
そして。
《アクセス権:干渉確定》
《没キャラvs開発者キャラ 構成再起動》
――次の瞬間、空間が崩壊し、私たちは全員、宙に投げ出されていた。
気づくと、私は見知らぬ大地に立っていた。
赤い空。黒い太陽。浮かぶ城。
「ここは……“未実装のエリア”、深層ルート……」
あの女が作った、もうひとつの“終末の舞台”。
世界そのものが、彼女の手で“戦場”に書き換えられたのだ。
(でも私は、“作者”よ)
この世界を守る。キャラを救う。ヒロインの闇堕ちも、プロト版の支配も、止めてみせる。
私は拳を握った。
「やってやろうじゃない――私が、本物だって証明してあげる!」