第6話:世界に走るエラーメッセージ。ゲームの外からアクセスされていますか?
夜。学院の寮で静寂が支配するはずの時間――
私は、目の前に浮かぶ**“ウィンドウ画面”**に息を飲んでいた。
《未実装エリア「深層記録庫」へアクセス要求がありました》
《確認:外部シグネチャ検出》
《警告:管理者権限が衝突しています》
(は、はぁぁあ!?)
画面には、見慣れた開発ツールのUIが出ている。
だけど――私はこの世界に端末もデバッガーも持ち込んでいない。
(待って。これ、私の入力じゃない)
《アクセス元:unknown》
《識別名:“旧メインキャラ/プロトタイプ・クラウディア”》
「……嘘でしょ」
この名前、見覚えがある。
私がこのゲームの初期開発段階で作った、“最初のクラウディア”だ。
正式採用された今のクラウディア=ローゼンベルクとは違い、より冷徹で、容赦ない“没データ”の主人公。
そのキャラが――アクセスしてきている。
「クラウディア様……? 大丈夫ですか?」
声をかけてきたのは、部屋を訪れていたリオだった。
覚醒しつつある彼の瞳には、魔力の“揺らぎ”が映っている。
「大丈夫よ。ただ――世界が崩れかけてるだけ」
「……はい?」
無理もない反応。だけどもう、世界の“書き換え”は始まっている。
この世界は、ゲームでありながら、ゲームではない。
**記憶と意思と矛盾が混在する“構築型並行世界”**へと変質しつつある。
(そして、旧データのキャラまで侵入してくるってことは……)
この世界に“開発途中で捨てた物語”が、復元され始めている。
突然、画面がまた切り替わった。
《第二エンディング:選定開始》
《選択肢:①世界修復/②崩壊促進/③再起動》
《選択者:管理者クラウディア/非管理者セリア/バグ個体リオ/プロトタイプクラウディア》
……選択者に、“私以外”の名前が並んでるって何なのよ!?
(しかもセリアとリオはともかく、“プロトタイプの私”って何!?)
私は思い出す。
没データの彼女は、“完全勝利”しか認めない仕様だった。
世界が壊れるなら、自分が支配者になるルートを選ぶはず。
(つまり、“ヒロイン魔王化ルート”なんて甘いものじゃない)
彼女が選べば、この世界そのものが“上書き”される。
ふと、頭の中に声が響いた。
『さあ、始めましょう。
私たちの物語を――“開発者抜き”で』
誰の声かは、もう分かっていた。
これは、旧データの私――“もう一人のクラウディア”だ。
(くるわね、本格的に……)
私は画面に指を伸ばす。
「アクセス元不明? いいわ、受けて立つ。
こっちは“最新版”なんだから――後方互換なんてしてあげない」
選ばせない。
私が選ぶ。
この世界を、私の物語に戻すために。