第5話:死亡予定のモブキャラが覚醒!? これ、誰が許可したの!?
その少年は、教室の窓際で、まるで空気のように存在していた。
リオ・アルヴェス。
平民枠の特待生。
原作ゲームにおいては、第2章で“魔物の襲撃”に巻き込まれ死亡するモブキャラである。
だが今――彼は生きていた。
それだけじゃない。“覚醒”しかけている。
「……また、夢を見ました。黒い空と、崩れる王都。そして、誰かが泣いていた」
その言葉に、私は思わず顔を上げる。
(それ、“ヒロイン魔王ルート”の終末イベントのビジュアル演出……!)
いや、待って。
この子は本来、そこに関わらない“背景キャラ”のはず。
私はリオを注意深く観察する。
痩せ型。中性的な顔立ち。銀色の髪。淡い紫の瞳――
……紫?
(ダメ。完全にバグってる)
本来、彼の瞳は灰色のはず。
それが、ルート分岐済みキャラと同じ“覚醒色”に染まっている。
しかも彼は私に、そっと問いかけた。
「……クラウディア様は、夢を見ませんか?」
「夢、ね。どんな内容?」
「僕が誰かを殺す夢です。光を、焼き尽くす夢。魔力が暴れて、声が止まらなくて……“この世界が壊れていく”んです」
私は目を見開いた。
(そのセリフ――完全に、“ヒロイン魔王ルートのラスボス戦”の断末魔じゃない)
それも、攻略対象たちが順番に殺されていくラストシーンの台詞だ。
あれを、なぜこの少年が……?
私は心の中で検索する。
全ルート、隠しイベント、スタッフのテキストメモ。
でも、“リオ・アルヴェス”という名前は、どこにも記録されていない。
(つまり、このキャラ……“設計されていない”存在?)
彼は、世界が崩れるときに現れる“異常値”。
セリアとは別のベクトルで、世界のバグを体現している。
(まるで、“削除されそこなったキャラファイル”みたいな……)
「クラウディア様、僕は……“生きてていいんですか”?」
彼の声には、深い不安と、なぜか懐かしい響きがあった。
私は――言葉を選んだ。
「ええ。今ここにいるなら、それだけで“生きる資格”があるわ」
「……ありがとうございます」
その瞬間、リオの背後で、空気が軋んだ。
歪む魔力。振動。ノイズ音。
教室の窓に、エラーメッセージのような“ひび割れ”が走る。
――世界が、また書き換わろうとしている。
私は立ち上がった。
(このまま進めば、世界は自壊する。ヒロイン魔王ルートどころじゃない)
私がゲームの作者でも、全てを制御できるわけじゃない。
むしろ今は――“プレイヤー”として、進むしかない。
「リオ。あなた、戦える?」
「え?」
「いいえ。大丈夫よ。いざとなったら、私が守ってあげるから」
私はにっこりと笑った。
この世界を守るために。
そして、私が知らなかった“この子の物語”を、今ここから――書き始める。