第2話:ヒロイン登場。でもバグってるのはそっちじゃない?
「お初にお目にかかります、クラウディア様。庶民上がりの転入生、セリア・グレイスと申します!」
元気な挨拶、爽やかな笑顔。
教科書通りの“ヒロイン登場イベント”である。
(セリフ、完璧ね。書いた本人が言うんだから間違いない)
でも私は、クラウディア・ローゼンベルク――かつて“断罪された悪役令嬢”。
そして、開発者。
この場面の全スクリプトを覚えている。
「ふうん。庶民らしいわね。その声の大きさ、王族の前でも披露なさるの?」
定番の悪役ムーブ。
でも私は知ってる。この後――
ドンッ!!!
そう、この瞬間。
セリアの魔力が暴走する。
ゲーム中で極稀に発生する隠しパターン、「魔力暴走バグ」だ。
「セリア様!」「爆発……!?」
小さな魔力爆発が教室を揺らし、机が吹き飛び、風が巻き起こる。
本来は、セリアが“クラウディアにいじめられて涙する”流れになるはず。
でも、魔力暴走が起きた瞬間、シナリオは崩れる。
(……おかしい。暴走確率、2.8%。その上、発動条件は本来ルート分岐後のはず)
私はセリアを見る。
膝をついて、息を荒げ、肩が震えている。
(この子……初期から“魔王ルート”の片鱗を見せてる?)
しかも――。
「クラウディア様、今の対応、とても冷静でしたわね」
金髪の青年、攻略対象その2・ディラン・フォン=リューゲルト侯爵子息が、微笑む。
ちょっと待って。
この子、本来ならヒロイン一筋の誠実キャラよ?
なのに今、クラウディアにフラグが立ってる!?
(やば……完全にバグってる)
この世界、何かが崩れ始めてる。
魔力。セリフ。感情。
本来のルートが、崩壊していってる。
でも――
「上等じゃない。書き換えてやるわ、“全部”」
ヒロインが魔王化する前に、
このゲームを、“私の手”で再構築してみせる。