第10話(最終話):エンディングーこれは、私が“書かなかった物語”
空は、青く澄みわたり、魔力の嵐は消えていた。
崩壊寸前だった深層ルートは、ヒロイン・セリアの“選択”によって、
世界そのものの構造ごと正規ルートに再統合された。
プロト・クラウディアの姿は、風に溶けるように消えていった。
その表情は、悔しさでも怒りでもなく――どこか、安堵に近かった。
「やっと、“私”も……終わりにできたのね」
残されたのは、今の“私”と、“セリア”だけだった。
「……あなた、本当に消えるつもりだったの?」
私が尋ねると、セリアはかすかに微笑んだ。
「うん。あのとき……“全部、間違ってた”って、思ったから」
「でも、選んだわ。私を。“書き換えないで”って」
「うん。だって、クラウディア様は……誰かの手の中じゃなく、
ちゃんと“自分で”物語を歩いてたから」
セリアは、静かに両手を重ねる。
その手には、もう“魔王コード”も“融合データ”も宿っていなかった。
「ねえ、クラウディア様。もし……“また最初から”やり直せるなら、
私たち、最初から“ただの友達”として出会ってみたいな」
「……私も。攻略対象とか、フラグとか関係なく。
ゲームでも、物語でもなくて、“生活”の中で出会いたかった」
ふたりで、笑う。
この世界に降りた光は、もはやコードでもイベントでもない。
ただの朝日だった。
王都。学院に戻った私たちは、数日間の“記憶の整理”を命じられ、
“不可解な魔力変動は自然現象だった”という建前のもと、通常授業に復帰した。
だが私たちは知っている。
この世界は、もう完全に“元のゲーム”ではない。
攻略対象たちも、どこか少しずつ変わっていた。
私を名前で呼ぶとき、少し照れたり。
私に相談ごとを持ちかけたり。
でも、私はそれでいいと思った。
“シナリオ通りに愛される”より、
“シナリオ外で迷われながら選ばれる”ほうが、ずっとリアルだから。
私は、机の引き出しから旧ノート端末を取り出す。
かつてこの世界を設計したツール。
けれど、もうそこに更新ファイルは存在しない。
ログアウトボタンも、コンソールも、すべて……消えていた。
つまり――
「もう、戻れないってことね」
そう呟くと、ふっと胸が軽くなった。
“クラウディア=ローゼンベルク”として、生きていく。
この世界で、この名前で。
選ばれるでも、拒まれるでもなく、自分で“居場所”を作っていく。
それが、私の――
「新しい物語」
《ログ終了》
《本ルート:Override:True Code》
《選択エンド:「This is NOT scripted」》
ありがとう。
あなたが選んでくれたこの結末は、
私が“書かなかった物語”だった。
でも、これから先は――私たちが、書いていく。
本作『断罪された悪役令嬢、反省の余地なし。だってこれは私が作ったゲームですから』を
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語は「創作者が、自作世界に入り込み、そこに“生命と矛盾”を見つけてしまったら」というテーマを軸に、
よくある悪役令嬢ものとはひと味違う「メタ構造+意志の選択劇」として構成しました。
当初は“チート開発者”として痛快な物語になる予定でしたが、途中からキャラたちが勝手に動き始めました。
まるで、作中のクラウディアと同じように。
この物語の本当の主役は――
「予定調和から外れて、それでも生きようとしたキャラクター」たちだったと思います。
さて。
これは、あくまで一つのエンディングに過ぎません。
気になる伏線、存在しなかった“第3ルート”、あるいはプロト・クラウディアが残した記憶ログ。
それらを回収する番外編やIFルートがあるかどうかは、また皆さまの反応次第かもしれません。
もし、「続きを読んでみたい」と思っていただけたなら、
ぜひ“お気に入り”や“感想”で教えてください。
それこそが――
この物語の次のアップデートにつながります。
またどこかで、お会いできることを。
開発者にして、登場人物より。