第1話:断罪された悪役令嬢、反省の余地なし。これは私が前世で作ったゲームですから
気づけば、私は自作ゲームの断罪イベントの最中にいた。
「クラウディア・エルヴィラ=ローゼンベルク。貴様との婚約は、ここに破棄とする!」
王太子の高らかな声。
涙ぐむ令嬢たち。
衝撃で静まり返る社交界の舞踏会会場。
……テンプレすぎて笑える。
なぜなら、これは乙女ゲーム『ロゼ・オブ・セレニティ』の有名シーン。
その世界に、私は“転生”してしまった。
いや、厳密に言えば、
私はこのゲームの開発者だ。
前世の名前は岸本美月。
シナリオもルート分岐もセリフも、全部私が書いた。
だからこそ、今自分がいるこのイベントも、嫌になるほどよく知っている。
「クラウディア、お前の高慢な態度、王太子妃としての品格に欠ける振る舞い……許されると思っていたのか?」
ヒロイン・セリアが悲しそうにこちらを見てくる。
攻略対象たちは一様に私から視線を逸らす。
――これが、“断罪イベント”。
通常ルートなら、ここでクラウディアは国外追放。
でも。
「そう。そうですわね。貴族の責務を理解しておりませんでした。婚約破棄、しかと受け入れますわ」
私は、にっこりと笑った。
「……えっ?」
会場が一瞬、凍りついたように静まる。
「貴族として未熟だった私が至らぬ者であったこと、認めます。ですが――殿下、その“断罪”、スクリプト通りすぎてつまらなくありません?」
私は、静かにステップを踏んで壇上を降り、誰にも告げずに会場を出ていく。
(さて。始めましょうか――ゲームの書き換えを)
だってこれは、私が作った世界。
ルートのひとつやふたつ、“上書き”できなきゃ、作者の名が廃るわ。