帰りの切符の失くしかた
両親との突然の別れ 両親やペットたちとの思い出が詰まった実家のその後
あまりにも悲しい現実に向き合えない日々は続いていた
それでもトモエは一生懸命ひたむきに生きてきた
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に救われた一人の女性の物語
仕事帰り
「ミルキーウェイステーション! ミルキーウェーイステーション! ジョバンニーワズ・・・・」
トモエは中学生のときに英語の授業で初めて宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を知った
英語なんてからきし解らなかったが、この物語は興味を持って何度も見返した
絵を書くことは好きで、銀河鉄道の夜をテーマにして絵を書いたら埼玉県東松山市の学生コンクールで銀賞を取ることができた
トモエは仕事の帰り、人の少ない深夜の中央線の電車に揺られていた
遠くの町が輝いていて、手前の世界が真っ暗な景色がしばらく続いていた
そんな景色を眺めながらトモエは子供の頃を思い出していた
トモエが石川県加賀市の山奥に引っ越してきたのは小学1年生の秋だった
毎朝、家から歩いて10分くらいのところにバス停があってスクールバスが定時に着くので、集まってきた小学生たちはみんなぞろぞろとスクールバスに乗り込んだ
毎朝母親と一緒に家からバス停まで歩いた 母親はとても楽しい人だった 楽しかったけど今は何を話したのかはもう何も覚えてもいなかった
母親が大きく手を振って見送ってくれている トモエはバスの車窓から小さくなってみえなくなるまで手を振り返した
学校が終わると学童まで歩いて行った 学童では宿題をしたり、友達と遊んだりしてお迎えを待っていた 学童はとても楽しかった 特に指導員のマリちゃんがトモエに良くしてくれて好きだった
「トモエ- お父さん迎えに来たよー」
マリちゃんの声が聞こえた トモエは漫画本を棚に戻して帰り支度を始めた
父親は一日中家にいる人だった たまに人が訪ねてきて色々と仕事の話をしていた あのときはよくわからなかったが職業は物書きだったらしい
「今日はどうだった?」
父親は運転しながら助手席のトモエに話しかけてきた
「今日もサイコーだったよ」
「そうか それはよかったな」
何気ない会話を続けながら、二人は母親が務めている山の中の小さなスーパーに向かった
トモエは父親を置いて駆け足でお店の中に入ると母親がレジで接客をしていた
トモエに気が付くと母親は接客中なのに大きく手を振ってくれた レジで会計をしている客もこちらを振り向いた
トモエは少し恥ずかしい気持ちになったがそれでも小さく一度だけ手を振り返した
後から父親がやってきてレジの方に向かって小さく会釈をした
「今日の夕飯は何がいいかね」
父親と二人でしばらく食品売り場を見て回った トモエはカートに乗って父親に押してもらっていた
父親はなんだか演技掛かったセリフような口調でトモエに話しかけた
「クリームシチューが食べたいな」トモエはそう答えた
「クリームシチューね ご飯にかけるタイプ? それともパンに付けるタイプにする?」
「ん~~~ 迷うねー」
昨日の夜、家族で観たアニメ映画で主人公がクリームシチューをパンをちぎっておいしそうに食べているシーンがあった トモエはそれがしたかったがいざ、ご飯かパンかを尋ねられるとどちらも捨てがたいと思った
「んじゃ、パンも買おう どっちも半分の量で食べればよいね パンは食パンじゃなくてあのパンだろ?」
父親はトモエに目配せした 昨日観たアニメのパンにそっくりの細長いパンがトモエの目に入った
「うん これ」トモエはフランスパンを指さした
そうこうしているうちに母親が後ろから声を掛けてきた
「お待たせー 何食べることになったの?」
「クリームシチューッ!」トモエが母親に元気よく答えた
「わー! やったー! 私もクリームシチューが食べたいなーって思ってたの よくお母さんが食べたいと思っていたものがわかったわね」
母親は嬉しそうに小さく拍手をして喜んでいた
トモエは母親にそう言われるとうれしくなって、誇らしく感じられた
母親は絵を描く仕事をしていた 広い家の一角は母親のスペースで画材道具がきれいに整頓されていて、描きかけの絵がイーゼルに立て掛けられている 母親の絵を描いている後ろ姿が美しくてトモエはほんの少し画家という職業に憧れていた
その傍らでスーパーでもアルバイトをしていた
帰り道はもう真っ暗だった 電灯のない山道をしばらく自動車で登り続ける
たまに野生の動物が出て来て、その度に家族で盛り上がった
トモエは母親と父親が仲良く会話しているところに聞き耳を立てるのも好きだった
道は暗くて少し怖いけど、帰り道はいつも3人で楽しかった
トモエは家に帰ってくると、もう一匹の家族の所へ向かった
インドホシガメのチョウさんは丁度首を伸ばしてあくびをしていた
触ったらやけどするほど熱い電球に照らされている
トモエが甲羅をひとなでするとチョウさんは首を引っ込めた
スーパーでチョウさん用に買ってきたきゅうりをぽとりと落とし渡した
しばらく何のことやら分らないというようにチョウさんは反応しなかった
夕食のクリームシチューが食卓に並んだ
父親は料理が得意だった 母親と父親はだいたい半分ずつの割合で料理を担当していた
トモエのシチューはプチシチュー丼とシチューだけのものとに分かれてフランスパンが
切って並べられていた
ワイングラスは3つあって、ひとつはお水であとの二つは赤色をした液体が注がれていた
父親と母親は先にワインを吞んでいた
食事が終わってチョウさんの所に様子を見に行くときゅうりはかじられていた
ガタンゴトンッ ガタンゴトンッ
トモエは電車の車窓から家の灯りがみえるとその家の家族の架空を想像してみたりした
しかし帰る先が一人暮らしの家なので想像上の家族がハッピーの分ちょっとだけ虚しくなった
お仕事
「山田さん、年末年始はよろしくね 時給は弾むからね みんな自分の事ばかりで仕事に責任感を持ってくれないんだよ」
トモエは店長のおでこをぼおーっと眺めながら、店長の話を聞いていた
「僕も人手が足りなくて、ストレスで禿げちゃうよ」
店長はトモエのご機嫌をとるためなのか、おどけて自分のおでこをぴしゃりとやった
そして話を続けた 懇願に近い
「ねっボーナスも出しちゃうからね」
「はいはい 分かりました 別に帰るところもないですし」
トモエは面倒くさい様子で店長に答えた
「ありがとう よろしくね」
「はいっ。」
トモエはもう一度、店長の目をしっかりと見て返事をした
店長は安堵の表情を浮かべて店長室に消えて行った
今日は夜22時から朝5時までのシフトだ
東京都東中野の深夜のコンビニは色々な人で賑わっていた
学生は冬休み中だ 友だちの家にお泊まりなのだろうか若い男の子たちが夜食を買いにぞろぞろとコンビニに流れて来ていた テンションが高い 早く買い物を終えて出てってくれとトモエは思った
今流行りの音楽が店内の有線から流れる クリスマスのシーズンだ テンションの高い学生の一人がサビを歌い始めた それを誰も制止しようとしなかった
またコンビニの自動ドアが開いた
男性と女性のカップルがミネラルウォーターを一つとシュガーレスガムを持ってレジにやってきた
会計を終えた客の後ろ姿をなんとなく見ていたら、コンビニの入り口付近で深夜なのに散歩されている犬が目に入った
「あっ!マッシュだ・・・」
トモエは散歩されている犬をみて、自分でも驚くくらいの大きさで独り言を言ってしまった
さっきまでいい気分で店内に流れている有線でカラオケをしていた学生の男の子がトモエの顔をみて止まった トモエは恥ずかしくなって俯いてしまった
新しい家族
もう覚えていないが、何かの理由で親に黙って学童には行かずに学校が終わったら帰りのスクールバスで直接家に帰ってきてしまったことがあった
もちろんバス停に母親は迎えに来ておらず、一人で少し不安になりながらも自分の家に歩いて帰った
薄っすらと日が沈んだ山の道を進んでいく その先に自分の家がある
「ヘンゼルとグレーテル」の内容を少し思い出してしまった
(このままお家に帰れなくなってしまったらどうしよう)
そんなことを思いながら歩いていると、道の前にトモエの体ほどの大きな熊が通りかかった
熊は立ち止まり、トモエを凝視していた
トモエは声が出ないほど驚いて、全身の毛穴が開くような恐怖を感じた
チリーンッ チリーンッ
間もなく後方から鈴の音が聞こえた
鈴を鳴らしたおじいさんがトモエに走り寄ってきた
おじいさんは近所の人で良く挨拶をしている顔見知りだった
いつも穏やかなおじいさんは普段見たこともないような剣幕で熊に捲し立てた
何を言っているのかは聞き取れなかったがすごい迫力だった
おじいさんは持っていた棒を地面に叩き付けて熊を驚かせていた
熊は山の奥に走り去って逃げてしまった
「オン(姉)ちゃん、大丈夫だったか?」
トモエはあまりもの事に腰が抜けてしまい座り込んだまま起き上がれなくなってしまった
トモエは自分の家までおじいさんにおぶってもらって帰った
「ありゃあ、若い男の熊だね、子熊だったら危なかったよー 近くには必ず母親の熊がいてとても凶暴だからね それだったらひとたまりもなかったよー」
おじいさんはトモエの気を落ち着かせようと話をしているようだったが、トモエはそれを聞いて一段と不安になった
自分の家がみえた 家の灯りがみえてほっとしたら大量の涙が流れてきた
怖かったのと安心したのがものすごい勢いで感情を押し上げたのだった
玄関が開いて、母親をみるなり抱き着いて声を上げて泣いてしまった
母親はトモエの頭を撫でながらおじいさんから事情を聴いていた
トモエの泣き声に何事かと父親までやってきた
おじいさんはトモエの父親にまた一からさきほど起こったことを話した
おじいさんの話はとても生々しくて、トモエは熊と遭遇したときの恐怖をまた思い出してしまった
「うわーん 怖かったよー うわーん」
トモエは恐怖と安心の波の中で大きな声で泣き続けた
おじいさんはトモエを落ち着かせるために慰めていたが、おじいさんの思いとは裏腹にトモエの恐怖はどんどんと増していってしまった
おじいさんには何一つ悪気はなかった
トモエの父親は困った顔をして自分の頭をくしゃくしゃと触っていた
このことがあって、トモエのうちではもう1匹家族が増えることになった
新しい家族の役割はトモエを熊から守ること
黒色のラブラドールレトリバーがそれから幾日も立たずにトモエの家にやってきた
この犬はトモエのために埼玉県からわざわざやって来てくれた 飼い主の都合で飼えなくなったところを母親が探して引き取ったのだった
「マッシュ」という名前がすでに名付けられていた 家族で話し合った結果そのまま「マッシュ」と呼ぶことにした
新しい家族が増えてトモエは嬉しかった マッシュといろんなところを探検した
マッシュと一緒に寝ることもあった
トモエはチョウさんとマッシュを可愛い弟として可愛がった
チョウさんとマッシュは同じ部屋で飼われていてお互いの存在はどうやら認識しているようだった
いつの時だったか、マッシュがチョウさんの住んでいる水槽を覗いてチョウさんがいないので心配そうに鼻を鳴らしていることがあった
チョウさんは三つ葉のクローバーが好物らしく、夏の暑い日にはたまにチョウさんを外に
出して甲羅干しをさせていた クローバーの生い茂る草原ではチョウさんはとても速く動き回る トモエはチョウさんから目を離したいときは大きめの籠をチョウさんにかぶせて、重しをのせて放置した
そのまま忘れて何日か過ぎていることもよくあった
そんなときマッシュは同居の生き物を心配していた
仕事明け
やがてコンビニの客足は途絶え、夜が明けて、配送業者がやって来た
早朝のパートさんと交代して、トモエはコンビニを後にした
外はとても寒かった トモエは眠くて少し横になってから帰りたかったが、今日は兄と約束があったので休まず急いで駅に向かった
自分の家に帰るとカーテンが閉め切られた部屋は暗くて、シンとした冷たさがあった
トモエは西荻窪駅から徒歩10分くらいのところにアパートを借りて一人暮らしをしていた
トモエの部屋はベッドと机と冷蔵庫があって、残りの空間は画材道具とキャンパスとイーゼルが置いてあった
トモエの本業は絵を描く仕事だった イラストレーターとしてたまにお仕事をもらっている 今は絵のコンクールに応募をしようと公園をテーマにした街の風景を描いていた
カーテンは開かないまま部屋の電気を付け、シャワーを出して温かい湯気に温まりながら服を脱いだ シャワーを浴びながらそのまま気絶してしまいそうになった
やっとの思いで布団に入ると気絶するようにすぐに眠ることができた
夢を見る余裕もない静かな薄暗い日曜の朝だった
トモエが目を覚まして、カーテンを開けるとオレンジ色の空が見えた もう夕方になっていた 携帯をみると着信履歴があった それはお昼過ぎに掛かってきていたものだった
トモエは急いで相手にかけ直した 相手先は兄だった
「ごめん! ケンちゃん うっかり寝過ごしてた・・・」
「いいよ いいよ、それよりどお? 心の準備はできたの?」
「・・・・・うん。できた。」
「じゃあとりあえず、もう夕方だし今からご飯にしようよ トモエは何食べたい?」
「あそこ行こう!前行って楽しかったところ」
「ええっ? 笹塚? いいよ じゃあから騒ぎバーで待ってるよ」
トモエとケンイチは埼玉県東松山市のトモエの父方の親戚の家で兄弟として育てられた
それはトモエが中学2年生のときだった
ケンイチはあとからやって来た新しい家族のトモエを本当の妹以上によく可愛がった
ケンイチはトモエの詳しい事情は何一つ聞かされていなかったが、最初にトモエを見たときにあまりにも押しつぶされそうな悲しみを感じてしまった
なんとなく自分がトモエを守ってあげなければと心の中で思ったのだった
トモエは20時過ぎに笹塚駅に着いた
笹塚駅を降りたすぐの商業テナントの2Fに「から騒ぎバー」というスポーツバーがある
トモエは一度だけ兄に連れられてこの店に来たことがあった
客は全員常連ばかりで皆知り合いという独特な雰囲気だった
みんなが自分の事を優しく向かい入れてくれて温かい気持ちになったことを覚えている
「トモちゃんこっちっ!」
自分の名前を呼ばれた方向に目を向けるとケンイチの横にいる女性が右手で自分の椅子のとなりを叩いて左手を左右に振ってトモエを招いていた
「初めまして、トモエと言います」
「ナツミでーす よろしくー」
ケンイチは気まずそうにしていた
「ケンちゃんの妹さんなんでしょ?仲良くしてね」
ナツミはハイボールを呑みながら会話を進めた
「なるほどね トモエの所に一通のハガキが届いた それはずっと帰っていなかった自分の本当の故郷の中学校の同窓会のお便りね ふむふむ」
ナツミは気分よく酔っていて探偵気取りになって事件の推理をするような口調になっていた
「どのくらい帰ってないの?」
「あまり詳しくは覚えていないんですけど、中学2年生のいつかなぁ・・・?」
「ってことはトモちゃん今いくつだっけ?」
「24です」
「わっかー いいね ん~10年くらい帰ってないんだね」
「はあ そうなりますかね」
「行きたくないわけではないけど、いろいろ考えちゃって行くのが怖い?特に自分が住んでいたお家が今どうなってるのかは知りたい半面、知りたくないってことだよね」
「はい でもこれは逃げてはいけない現実と向き合うときが来たのかなって 同窓会のハガキだって多分今まで届かなかったのに今回届いたのはそういうことなのかなって」
トモエはナツミのワールドに引き込まれて普段なら言いにくいことも素直に話せていた
「行こうっ! 一緒について行ってあげるよ」
「いやいやいや 大丈夫です まだ行くかどうかも決めていないですし」
ナツミはハイボールを一口含んでグラスを静かに置いたかと思うと少し据わった目でトモエを見つめてこう言った
「帰りの切符の失くし方って知ってる?」
ナツミワールドが全開だった 他のナツミを知る客たちも耳を傾けていた
「切符を失くしたときはただの不注意ならば駅員さんに言って、お金を払えばちゃんと帰れるんだろうけど、本人が帰るのを怖がって無意識に帰りの切符を失くしてしまう場合は本当に帰れなくなってしまうし 後悔しても取返しがつかなくなってしまう」
「それってどういうこと?」
ケンイチがトモエとナツミの会話に割って入った
「私がそうだったから・・・」
ナツミはトモエにだけに言った ケンイチは不可思議な顔をした
「切符の失くし方なんてないってこと ちゃんと一度色々あると思うけど、決着をつけないといけないよ でもトモちゃん一人で受け止めきれないくらいのものは私が受け持つよ責任は私が取ってあげる」
誰にも見えていない角度でナツミはトモエにウインクをして笑った
(この人 お母さんと似てる感じがするな)とトモエはそう感じた
「俺がトモエさんの責任を受け持つよ」
ひとりの男の人が立ち上がって手を挙げた
「ぼくが受け持つよ」
「わたしが受け持ちます」
トモエとナツミの話を聞いていた周りの男女のお客たちが次々と手を挙げた
ナツミがケンイチに目配せをする
ケンイチは不本意な表情で手を挙げた
「ぼ・・僕が受け持ちます・・・」
するとみんなが示し合わせていたようにケンイチに一斉に言った
「どうぞ どうぞっ!」
どっかーんと笑いが起こった
トモエも笑いすぎて涙がこぼれていた
なんだか勇気が沸いた 今まで心の奥底にしまって鍵を掛けていた石川県加賀市の自分が本当の家族と過ごした家が今はどうなっているのかを見届けてみよう そう決意した
「トモちゃん またねー」
ケンイチとナツミはトモエを京王線の電車に乗るまで送り届けた
ナツミが大きく手を振って見送ってくれた
トモエはナツミが見えなくなるまで小さく手を振り続けた
連休
トモエは忘れ物がないように持ちものを指さし確認していた
明日は加賀中学校の同窓会に参加する
その前に今日は山奥の自分が住んでいた思い出の家が今はどうなっているのかを確認することを決めていた
昨日はあまりよく眠れなかった
まだ暗い朝の中、西荻窪の家から東京駅に向かって始発の新幹線で「加賀温泉駅」へ向かった
朝早かったがたくさんの人が新幹線を待っていた
この日のために買ったキャリーケースが逃げ遅れた自分の左足にぶつかって何度も荷物が転倒しそうになった 階段や改札口でところどころ苦戦しながらもなんとかトモエは自分の指定席にたどり着くことができた 安堵する そして新幹線は間もなく音もなく動き出した
トモエは眠ってしまった そしてやがて眼を覚ました
今乗って来た新幹線よりも幾分空間が広くなっていて、席は向かい合わせになっていた
そして人気がまるでなくなっていた これは夢の中なのだろうか トモエは微睡んでいた
ガタンゴトンッ ガタンゴトンッ
電車の車輪が鉄道に這う音がする 心地よいリズムだった
トモエの目の前で父親と母親が楽しそうに会話をしている
「あれは何て言う星雲なのかなぁ きれいだけどなんだかおっかないねえ」
「そうね でもなんてきれいなんでしょう」
「あれ 木星だよ やっぱりマーブル色できれいなんだね」
「チュッパチャプスみたいね」
独特の二人の世界は相変わらず健在だな トモエは微笑ましく思った
父親と母親が手をつないで電車の窓からみえる宇宙の神秘的な景色をうれしそうに眺めていた
あの頃からは大人になりすぎてしまったトモエのことを父親と母親は気付けていないみたいだった
でもそれでもよかった トモエは両親の仲良くしている姿を見ているのが好きだった
ガタンゴトンッ ガタンゴトンッ
トモエの横にはいつしかマッシュが座っていた 風を感じるときにみせる目を細らせて上を向くかわいい表情だ 口が開いていてまるで笑っているようにみえる ベロがきれいなピンク色で毛色の黒とのコントラストがばっちりだ 真っ赤でおしゃれな首輪には一人前に乗車券の切符がぶら下がっていた
「チョウさんは?」
トモエは母親に尋ねた
「チョウさんはお家で留守番しているよ」
あの頃のそのままの雰囲気で母親はトモエに答えた
逆に今までの現実と思っていたことが実は夢だったというような錯覚に陥った
トモエは何もかもが満たされるような感覚になった
何も驚かない、ずーっとつながっていたような当たり前の世界線
トモエは加賀の山奥にある自分と両親が暮らした家に両親と一緒に帰りたかった
でも母親と父親ともしかしたらマッシュも帰るつもりがないような雰囲気だった
トモエはゆっくりと目を覚まし、車窓からみえる終わりのないトンネルの暗闇をぼーっと眺めていた
加賀温泉駅
「加賀温泉駅~ 加賀温泉駅~ ご乗車ありがとうございました お忘れ物がございせんようご注意ください 次は芦原温泉駅に止まります」
社内アナウンスを聞いてトモエは荷物を持って新幹線を降りた
駅を出ると加賀市はどんよりとした雲に覆われていていた
トモエはこの空を知っていた 日本海側の空だ 快晴の太平洋側(関東)からやって来てこのどんより空は普通ならばどんよりしてしまうだろう しかしトモエはこの空がとても懐かしかった
本当ならば、ただでさえ歩いて目的地に行くのはあまりにも広大な土地なのにキャリーケースを引きずりながらというのは非常識を越えて現実的ではなかった
天候もどんよりとしていて雨は降らないかも知れないが雪が降りそうな雰囲気だった
しかし、トモエは懐かしさもあって歩いてまず自分が過ごした学童にこのまま行こうと考えたのだった
タクシーのおじさんがトモエを心配そうに眺めている
道行く途中では何人かのタクシーの人がトモエを心配して車を止めてくれていた
そのたびにトモエは申し訳なさそうに断った
「いい人たちだなぁ」
トモエは歩きながら加賀の人たちのことをそう思った
そうこうしているうちになんとか自分が通っていた学童にたどり着いた
駅から学童まではゆうに3時間は掛かった 学童に着くころには午前11時を回っていた
道の途中から自分が小学生にタイムスリップしたような錯覚に陥った
この周辺は10年前とほとんど何も変わっていなかった
しかし、自分の身長が大きくなった分、比例してみていたものは小さく映った
恐る恐る学童の中を覗いてみる 相変わらずの雰囲気だった
子供たちはグランドで駆け回り、中ではレゴを組み立てたり、ピアノを弾いていたり
それぞれのやりたいことを自由奔放に子供たちはのびのびと学童で過ごしていた
トモエは2階の自称漫画喫茶部屋で漫画をよく読んでいた マリちゃんの趣味が色濃くておそらくマリちゃんが自分の家から持ってきたものがほとんどだったのだろう
そして、入り口の水槽には昔一緒に暮らしていたチョウさんが住んでいた ずっとそこに当たり前のように存在しているかのようだった
「チョウさん!」
トモエは嬉しくて大きな声を上げてしまった
学童の子供たちは一斉にトモエを見た トモエは恥ずかしくなって俯いた
「トモエっ!トモエでしょ!」
マリちゃんがトモエに気付いて走り寄って来た
「わー!マリちゃん」
「トモエー元気だった?」
わーきゃーはしゃいでいる傍でチョウさんはうるさそうに顔をゆっくり引っ込めた
「あれから埼玉?に引っ越したって聞いて、急だったからびっくりしたんだよ」
「うん。連絡もできずにごめんね」
「いいよいいいよ 大変だったねー でも顔を見れて安心したよー 元気そうで何よりだ」
トモエは久しぶりに学童の中に入れてもらった
「あの後のことを聞いてもいい?私はまだ幼くて大人たちが決めたことに従っていたから特にチョウさんとマッシュのことは知らされていなくて」
「うん チョウさんはこの通り、マッシュもね学童で引き取ったんだよ 去年かな寿命が来て天国からお迎えがきたんだよ」
「そっか 去年までここで過ごしてたんだ じゃあ良かったマッシュは幸せ者だ」
「ふふっ そういえば明日加賀小学校と中学校の合同で同窓会があるんでしょ?それできたの?」
「うん」
「そっか で泊るところは決めているの?」
「・・・・。」トモエはこんな時に引き攣る自分の顔のことが好きになれなかった
「ノープランかぁ 家来る?」
「いやいやいや 大丈夫だよ そこらへんの宿でこれから予約するつもりだから」
マリちゃんとトモエが会話しているところに突然、携帯電話が鳴りだした
連絡の相手はナツミだった
「トモちゃん今どこらへん?」
「どこら・・・へん?・・・ですか?」
「うん どこ? 一緒に行こうよ トモちゃん家」
「えっ!! ってかナツミさん今どこにいるんですか?」
「加賀温泉駅。 レンタカー借りたよ 学童は何て言う名前だったっけ?言ってみ すぐそこまで行くから」
トモエはナツミの言葉に少し呆気に取られていた 返事を返すのに少し時間が掛かった
「・・・山の子学童・・・です」
「わかった じゃあそこで待っててね」
ナツミは一方的に話をして一方的に電話を切った
「なんかパワフルなお友達がいるみたいね よかったよ」
「兄の彼女なんです」
「へー トモエのお兄ちゃんなら一度挨拶をしとかないとね」
「んー・・・兄が来ているかどうかは・・・」
「お兄ちゃんの彼女さんだけ来るわけないじゃん」
マリちゃんはトモエがとぼけていると思って突っ込んで笑っていた
30分後に車のエンジン音がして、ナツミとマリちゃんとトモエと3人で話を続けた
「えっ!っでお兄さんは来てないの?」
マリちゃんはそこが一番気になっているようだった
「ん?ケンちゃん ですか? どうだろう現地集合って言ったからもしかしたらもう着いてるかもしれないですね トモちゃん ケンちゃんから電話なかった?」
「いいえ」トモエは答えた
ナツミとマリちゃんの目が合って何か通じるところがあったのだろうか とても楽しそうにしていた
トモエは二人を交互に見て笑った
子供の頃に過ごした風景
学童を後にしてからトモエはナツミのドライブに連れ回された 昼食もまだだったのでとにかく美味しいものを食べようとナツミは言った
小松市まで足を運ぶと大きなショッピングモールがあってナツミは大きな駐車場にレンタカーを止めた
偶然にも今流行っているアニメの劇場版の時間が丁度良くて、チケットを2枚買って、大きなポップコーンとジュースを買って真っ暗なシネマにコソコソと入って映画を観た
笑いながら泣ける不思議な内容の映画だった
映画を観終わると二人は腹ペコだったのでフードコードで色々な食べ物を頼んでシェアをした 銀だこのたこ焼き、ローストビーフ丼、ちゃんぽんラーメン どれも美味しかった
トモエは嬉しかった こんなに楽しくておいしいご飯は久しぶりだった
トモエを乗せたナツミが運転する車は雪が降り始めた山奥を音もなく走りつづけた
そしてやがて トモエの過ごした家の近くにたどり着こうとしていた
「少し歩きたいからここで止まってくれる?」
トモエはナツミに言った
ナツミはすぐに車を止めた
「一人で大丈夫?」
ナツミはトモエに言った
「大丈夫」
二人は笑顔を作ってお互いを見ていた
もう山の中は暗かった 一人では到底この状況を耐えることはできなかったであろうとトモエは思ったナツミがいなかったら断念していたかも知れない
それでも足取りは複雑だった
熊が出てきておじいさんに助けられたところまで着いた 松ぼっくりが道に落ちていた
トモエはふと小学校のあの時になぜ、学童に行かずに家に帰ろうと思ったのかを突然思い出した
暖炉の薪を燃やすために焚き付けが必要で松ぼっくりが良いということを知ったトモエは学校の登校中に松ぼっくりがたくさんある場所を見つけた 両親を喜ばせるためにたくさん松ぼっくりを持って帰りたかったのだ
しかし熊に会って松ぼっくりがほとんど転げ落ちた あの時の松ぼっくりではないとは思うが、懐かしい気持ちになった
暖炉に火がくべられると火が透明な耐熱ガラスの扉の中でゆらゆらと燃えていた
マッシュは暖炉の火が好きなようで暖炉に火が付くといつも一等席に座って火を眺めていた トモエはその隣でマッシュに寄りかかりながら時間を過ごした
間もなく自分が過ごしていた家が見え始める
自分が過ごしていた2階の部屋に明かりが付いていた
誰も住んでいないならばもう少し近づけたかもしれないけど、他人の家になってしまったあの家にはもうこれ以上近づくことはできなかった
母親と父親はもうあの家にはいないのだった
懐かしさをこれ以上懐かしむことはできなかった
トモエはクルッと反対に向き直り帰り道を歩き始めた
トモエは空を見上げて雪を眺めた ナツミの前で恥ずかしくないようにしようと思った
「早くいい人みつけよーっと」
「結婚して家族を作ろーっと」
「子供は・・・・ふたりがいいかなー」
「犬もかおーっと」
「か・・かめっ・・・・も・・・・」
トモエは大げさに明るく独り言を言って自分を奮い立たせようとしたが逆効果だった
ナツミがすぐそこまで迎えに来ていた
トモエは涙声で震えながらナツミに言った
「・・・わたしの家・・・他の人のおうちになっちゃった・・・」
トモエは大きな声で子供のようにナツミにしがみついてしばらく泣き続けた
雪は温かく、静かにトモエを包んだ
ナツミは黙ってトモエを優しく包み込んでいた
同窓会
少し離れた場所に素泊まりで泊れる場所があって、事前にナツミがそこを予約してくれていた 宿賃は格安でその代り夕飯は自分たちで用意しなければならなかったのだが、温泉があってトモエとナツミはゆっくりとくつろげることができた
コンビニが近くにあって夕飯はそこで適当に調達した
コンビニで買った缶酎ハイで乾杯をした 旅の疲れもあって二人はすぐに眠ってしまった
明くる日にナツミが同窓会の会場まで送ってくれた
国道8号線上にある結婚式場の駐車場はいっぱいでナツミとの別れもせわしなかった
「同窓会、楽しんできておいで 早くいい人みつけなよー 私は一足お先に帰ってるよん」
トモエは昨日の独り言はやはり聞かれていたかと思った 少しだけうつむいて気を取り直した
「ナツミさん 本当にありがとうございました」
「なんもなんも じゃ またね」
なんだかとても長い時間をナツミと過ごしたようなそんな気分だった
なので別れるのがとても名残惜しく感じられた
同窓会の会場で受付を済ませ会場に入るとたくさんの人で賑わっていた
食べ物はブッフェスタイルだ お酒も置いてあった
トモエは中学で仲良くしていた友達が来ているかを探した
しかし混みあっていたのでなかなか見つけることが出来ずにいた
みんなの顔は覚えている 飲み物を片手に会場を歩いた
そんなトモエの後ろから一人の男が声を掛けてきた
「トモエッ!」
トモエは男の声に振り返った
今の今までずっと忘れていたこの男の顔を今、見て思い出した
トモエの過ごした人生がそれどころではなかったのだ
「・・・覚えているか? オレのこと・・・?」
不安そうな顔でトモエの顔を見ている
「うん タマオ君だよね」
「・・・うん」
タマオはあの頃から変わらない目力でトモエを見つめた
「俺が買ったんだ あの家」
「え?」
トモエはあまりにも唐突な言葉に対して言葉を失っていた
「急にお前がいなくなって俺は考えた 考えた結果 お金を貯めてお前の家を買うことにしたんだ」
トモエはあーっと思った タマオはこんな思考の奴だった 独特の判断基準を持って誰も成し遂げられないような偉業を成し遂げる そんな奴だった
トモエとタマオは中学時代恋人同士だった
「久しぶりだね、タマオ君は元気だった?」
「うん 元気だった」
「トモエは元気だったの?」
「・・・まあまあ」
「だろうな だってお前が大変だったの知ってるから お前が急にいなくなって俺はまいってしまった めっちゃ考えたよ お前のために自分が何をしてあげられるのかをね」
トモエはまともにタマオの話を受け止めてはダメだと思った
タマオはあの時のままで力強い言葉で心が空に舞い上がってしまう
「もう10年も前だよ 何言ってんの?」
トモエは呆れたという様子でタマオを見つめた
「すぐには買えなかったからな だって家だぜ お前を向かい入れる準備にはちょうどよかったんだ」
トモエはこのままどこかに飛び立ってしまいそうな気分になった
それを引き戻してくれたのは友達の呼びかけだった
「あーっ!トモエ-っ!!こっちこっち」
中学生の時によく遊んでいたグループの子たちがトモエを手招きした
タマオは構わずトモエに話しかけた
「年末年始はどうするんだ?一人か?」
タマオはまっすぐトモエを見て言った
トモエは寂しげなコンビニの店長のおでこが頭をよぎった
「・・・帰る場所があるから・・・」
トモエはタマオにうつむいて言った
「じゃあ送っていくよ その帰る場所に」
タマオは自分の携帯番号をナプキンに書いてトモエに渡して離れていった
これで顔が良ければきっとこいつモテまくっていたんだろうなぁ なんだこいつの言葉選びと立ち振る舞いは トモエの心はドキドキしていた
トモエは友達と楽しく過ごしながらも、タマオの姿を無意識に追いかけていた
帰りの切符の失くしかた
早く同窓会を終えて、タマオに連絡をしたいとトモエは思ってしまった
もう一度だけ、またタマオの声が最後に聞きたかった それで十分だった
トモエは友達と別れてからナプキンを広げて、タマオに連絡をした
「もしもし、お言葉に甘えて加賀温泉駅まで送ってもらえる?」
「わかった どこに行けばいい?」
「あそこにいてよ」
トモエは自分で言っていてめんどくさい女だなと思った「あそこ」ってどこだよ 突っ込んで欲しかった
「わかった あそこって言ったらあそこの事だろ?」
「うん そう あそこ」
二人とも記憶力を試しているかのように電話を切ってそれぞれが思う「あそこ」に向かった
二人は間もなく待ち合わせ場所で再開して、お互いを見つめ合って爆笑した
「わかったねー あそこ」
「うん ちょっと正直不安だったけどねー 10年越しだしね」
そこはトモエとタマオが学校帰りに二人で歩いてたどり着いた公園だった
タマオがトモエに告白をしてお付き合いが始まった場所だった
偶然同窓会の会場からすぐ近くにその公園があったのだ
「送ってくよ 寒いな」
タマオは繋がらない単語を二つ並べてトモエを車に乗せた
トモエは少し寂しくなっていた
タマオは車の中でトモエの両親の事を話してくれた
タマオはトモエの両親のファンだったことを教えてくれた 二人が共同で出した絵本があることをトモエは初めて知った タマオはその絵本と直筆のサインを持っているとのことだった
トモエの父親と母親はお互い身寄りがなかったらしい 飼っている動物や子供の行先については熊を追い払ってくれたおじいさんが探してくれたらしい
トモエの父親の方は結構有名らしく、ウェキペディアを調べると父親の情報が掲載されているとのことだった
トモエはあっという間に加賀温泉駅に着いてしまってタマオと別れなくてはならないことが寂しかった
「ありがとう じゃあね」
トモエは大げさなくらい素っ気なくタマオに言った
「うん またね」
タマオは笑顔でトモエに答えた
(コイツなんだ!トモエは頭に来ていた 同窓会のところではあんなに言ってきたのになんでこんなに潔いんだ さてはいろんな女と遊んでいて遊び慣れているのか?)
知らず知らずのうちにトモエはタマオを睨みつけていた
「んっどうした?」
タマオは機嫌が悪いトモエに質問した
「なんでもありません じゃあね」
トモエは車からキャリーケースを取り出して駅に向かった
しばらくした遠くでタマオの声が聞こえた
「待ってるぞー ずっと待ってるぞー トモエ-」
トモエは後ろから聞こえるタマオの声を心から待っていた
しかしトモエは振り返らずに駅の改札前まで進んで行った
トモエはもう心の中で何かを決めていた
ポケットから取り出した帰りの切符をわざとじゃないと自分を騙して落とした
トモエは改札と反対方向へ胸を張って歩き出した
進む先はタマオの所だった
携帯電話をいじりながら車を止めたままにしていたタマオがトモエに気が付いた
「ん?どうした?忘れ物か?」
トモエとタマオはしばらく見つめ合っていた
「・・・切符・・・なくしちゃってさぁ 帰れなくなっちゃった」
トモエはタマオに言った
「なんだそれ」
タマオは笑顔で答えた
「俺ん家に来るか?」
「もともとは私の家だからね」
トモエはタマオの車の助手席に乗り込んだ
二人は加賀の山奥にある家へと向かった
「オレも犬と亀飼いたいと思うよ」
返り道の途中でタマオはにやにやしながらトモエに言った
(コイツも聞いていたんだ)
トモエはしまったと思い顔を赤らめてうつむいた
完
僕は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が好きで特に情景描写がとてもきれいなところが思春期だった頃の感受性豊かな自分を形成するとても大切な「自分の一部」になっていったような気がします
死後の世界については幼い頃からときどき考えて、それでもなかなか向き合えないまま答えが出ないで今に至るみたいなことになっています
大きな不安や恐怖はそこにあってそれは現実として受け止めなくてはならなくなってしまった場合
僕は「銀河鉄道の夜」を思い出してその恐怖に立ち向かいます
帰りの切符を失くしたトモエは決して現実から逃げたわけではないと思います
おそらくですが、ちゃんと色々と折り合いをつけて彼女なりの幸せを掴んだことでしょう