第六話 サイレントノイズ ※麦視点
「定期メンテナンスを開始いたします。カプセル内に入ったら内部のボタンを押してください」
真っ白な部屋の中央に置かれたカプセル型の機械に検査着で入る。
もう慣れたもので、あたふたすることもない。
ただ、この時間は嫌いだ。
自分が人を捨てたのだと再確認するからだ。
もう何年前だという認識もないくらいずっと昔の話。
今朝、昨日まで一つ屋根の下で同じ釜の飯を食って笑いあっていた家族が亡くなった。そして、夕暮れ時に先程まで話していた友人が死んだ。
一人になり次はオレだと考えると急に怖くなる。
「残されたくなったな……」
明け方、鼓膜を破るような爆発音がした。
気づけば瓦礫に埋まって身動きが出来ない。
身動きの取れない俺の視界は青空から夕陽にかわり、月が現れた。
月が降ってきて、一瞬でこの戦争が終わればいいのに。
実は月は大きなバター。
みんなで美味しいパンケーキを作って降ってきたバターを分けて美味しくお腹いっぱい食べました。
それで平和になったらいいのに。
途切れそうな意識の片隅でだれかに話しかけられた。
視界が霞んでいたけど、銀色の髪だったと思う。
いや、それは空にある月の話だったのかもしれない。人か月か定かじゃないんだ。
「さて、君はまだ息があるね。どうだろう。痛みや死に怯えることもなくおいしいものをお腹いっぱい食べられる世界を取り戻しに行こうじゃないか」
「何言ってんの?」
「君はそういう顔をしている。平和を食べたい顔だ」
「このありさまじゃ無理でしょう。死にかけだよ。足が潰れてすでに痛みはないし、おそらく内臓も潰れてる。血の味しかしない」
「それでもかまわないよ。一緒に平和を食べに行く気があるのなら」
「……おいしいなら、いいよ」
「わかった」
平和を食べに行くことと引き換えにその日からオレは人であることをやめたのだ。
「定期メンテナンスが終了いたしました。カプセルが開くまで動かずにお待ちください」
カプセルが開いて外に出る。
更衣室には新しい服と銃、そして真新しいラジオが置かれている。
検査着を使用済みボックスに放り投げて新しい服に着替える。。
ジジジジ。
ラジオからNに電波を受信する。
「次は東街区域、砂の街……了解しました」