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異端の調律者は天秤を持たない  作者: うつおぎ
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1-4

女子三人にほんのちょっとだけ男子二人を添えて。




「アルシェラ、おっはよー」


 空気がふわりと揺れると同時に陽気な声がアルシェラの寝室に響く。窓を背に現れた純白のローブが視界の端に入ったが、顔まではみることができなかった。


「おはよう、セレン……」

「あははっ、やっぱり無理だったねぇ」


 やっぱり、ということはこの状況を見越していたらしい。

 昨日、セレンティナの手を借りてずっと閉じたままだった回路へと魔力を巡らせることに成功した。

 これでやっと魔術を教わることができる、と意気込んでいたのだが……。


「どこか痛いとかはない?」

「ないわ。でも……身体が全然動かないの」


 目覚めると同時に覚えたのは――凄まじい倦怠感。

 眠っている間に身体を鉛に変えられたのかと疑いたくなるほどの重怠おもだるさは初めて経験するものだった。

 しばし奮闘してみたが、動かせるのは手足の指と首から上だけ。どんなに激しい鍛錬をした時でもここまで酷くなかったというのに、これは一体どうしたことか。

 サイドテーブルに置かれたベルにすら手が届かない。これはもう大声を出して呼ぶしかないと覚悟を決めた矢先、今一番会いたいと思っていた人物がやって来たのだ。


 レオノーラに散々注意されているというのに、セレンティナは「歩くのが面倒くさい」という理由で転移魔術を使ってこの部屋へやって来る。

 なお、有事に備えるという意味で廊下を挟んで反対側の客間を宛がわれているのに、である。


「ずっと使われてなかった回路に魔力を流した影響だね。ま、これは大人しくしていればすぐに馴染んでいくよ」

「なんとかできないの? たとえば……魔素マナポーションを飲むとか」


 なんとかこの状態から脱却したい一心で浮かんだアイデアに、セレンティナはきゅっと眉根を寄せた。おかしなことを言った自覚はないが、なにか問題なのだろうか。

 しかし、そんな険しい表情をしても美しさが損なわれないから不思議だ。


「……アルシェラって被虐趣味者マゾヒストなの?」

「えっ?」


 魔素ポーションは魔力を回復させる薬のはず。だからそれを飲めばどうにかできるのでは、という安直な思いから言ってみただけなのだが、セレンティナは明らかにドン引きしている。


「この状態で魔素ポーションを飲んだら、回路へ更に負担が掛かって症状が重くなるよ? いや、別にやりたいっていうなら止めないけど……」

「それは……! 遠慮するわ」

「あ、もしかして魔素ポーションの仕組みを知らないで言った?」


 痛い所を突かれ、アルシェラは黙り込む。

 だって魔術の使えない自分には飲む機会は訪れないと思っていた。だからざっくりとした効果しか知らなかったのを見抜かれてしまったらしい。


「どうせ今日は何もできないし、その辺のことを教えてあげる」

「えぇ、おねが……」

「セレンティナ様っ!!」


 ばんっ! と勢いよく扉が開き、怒り狂ったレオノーラが突入してきた。


「毎回毎回貴女はどうして……!」

「レオノーラ、貴女のご主人様が動けなくなってるからお世話よろしくー」

「……えっ、は?」

「お腹空いちゃった。朝ごはんはなにかなー?」

「ちょ、ちょっとまっ……!!」


 現れた時と同じく、セレンティナは瞬く間に姿を消した。

 突然やってきて突然消える魔術師はその美貌と相俟って、実は精霊の類なのかと疑いたくなる。とはいえ、あんな自由な振る舞いをする者が精霊のはずがないのだが。

 魔術に関して知識のないアルシェラでも、彼女の操る時空魔法がいかに特殊なのかは知っている。しかも術名を口にせずに発動できるのは相当な使い手なのだろう。

 思い返してみれば、セレンティナ自身のことをほとんど知らないのだと遅ればせながら気がついた。


「……訊いてみようかな」

「えっ、なにか仰いましたか?」


 寝間着から着替えさせてもらっていたアルシェラは「なんでもないわ」と微笑んだ。






**********






 朝食を終え、ひと息いれたところでセレンティナは再び部屋にやって来た。

 当然のように転移してきたが、レオノーラにはもう注意する気力が残っていないらしい。わざとらしく溜息をついていたが、その程度の嫌味など効果がないのはわかりきっていた。

 案の定、セレンティナは完全にスルーしてベッド横の椅子にふわりと座った。


「えーと、あっ……魔素ポーションについてだったね」

「えぇ。仕組みを教えて」

「あれはね、大気中を魔素を引き寄せる魔草が原料。だから飲むと一気に魔素を集められるから魔力が回復するっていう仕組みなんだ」

「同じポーションでも回復リカバーポーションとは全く違うのね」

「あっちは強制的に肉体を活性化させるけど、後になって反動が出る。魔素ポーションはそれがないから安全と言えるかもね。ま、いずれにしても常飲するものじゃないと思うよ」


 回復ポーションの危険性についてはこれまで何度も議論されてきた。だが、武器を手に戦う者は多少の代償を払ってもこの局面を乗り切りたい、という場面に直面することが少なくない。

 なのでグランヴィル王国の国軍では支給する数を制限する措置が取られているが、裏取引が横行しているのもまた事実だった。


「貴女は魔素ポーションを飲んだことはある?」

「あるよー。時々兄様の実験に付き合わされるからね」

「兄様……」

「そう。二番目のアドヴェール兄様は魔法薬を研究をしているんだ」

「あ、えっと……ごめんなさい。セレンは何番目の調律者なの?」

「言ってなかったっけ? 私は最後だよ」


 調律者は十二人いると言われているので、セレンティナは十二人兄弟の一番下ということになる。

 なお、兄は六人、姉が五人だという追加情報で男女比が同じだと判明した。


「アドヴェール兄様は水と土、そして草の属性を持ってるから、作るポーションは最高品質なんだ」

「三属性持ち……さすが調律者ね」


 魔力を持つ者には必ず属性がある。

 それによって扱える魔術が決まっているが、魔道具を使えばその限りではない。

 有する属性はほとんど場合は一つ。稀に二属性や三属性、そして「四元素」と言われる火・風・水・土の四属性を持つ者もいるのだ。


「アルシェラは風のみだけど、弓との相性は最高に良いから役に立つと思うよ。レオノーラは火だよね」

「えっ……どうして、それを」

「ふふっ。ひ・み・つ」


 追及を眩い笑顔でかわしたセレンティナが視線を廊下へと繋がる扉の方へ向ける。急に注目される形となった二人の護衛が素早く姿勢を正した。


「黒髪のお兄さんは土で……あれっ? 金髪のお兄さんは火だけど、ちょっと頑張れば光になるね」

「えっ……ほ、本当ですかっ!?」

「うん。少し鍛錬すればいけると思う」


 火と水にはそれぞれ光と氷という上位属性がある。

 これもまた素養が大きく関係しているので、単に魔力量が多ければなれるというものではない。

 この国では重要視されていないとはいえ、上位属性持ちはなかなか希少性がある。光属性の素養があると言われた彼は嬉しそうに目を輝かせていた。

 それも束の間、レオノーラがじろりと睨みつけるとたちまち笑顔を引っ込め、再び置物と化した。


「レオノーラ……そんなに僻まないであげてよ」

「僻んでいません」

「火属性はね、戦闘では風と同じくらい使い勝手がいいんだよ。だから機嫌なおして、ねっ?」

「僻んでないと言ってるじゃないですか!!」


 そもそもレオノーラは戦闘時に魔術を使っていない。

 だが今後もし、アルシェラが使うようになったとしたら……?

 不意に浮かんできた想像を頭から追い出し、アルシェラとセレンティナの会話に耳を傾ける。


「草と雷は上位属性ではないのね」

「うん。似てるけどまったくの別物。草は土か水との二属性になる場合が多いかな。雷はうーん……どうだろう。そもそも数が少ないんだよね」

「時空とおなじくらい?」

「ううん。それよりはちょっと多いよ。あぁでも、闇と聖よりは少ないかな」


 セレンティナから出た「闇」というワードに部屋にいた全員がぴくりと反応する。グランヴィルでは禁句なのだが、当然ながらそんなことを気にする人物ではない。

 だからこそ、とでも思っただろう。レオノーラが「あの」と会話に割り込んできた。


「闇属性持ちを根絶することはできないのでしょうか」

「レオノーラ……それは、」

「だって存在そのものが危険じゃないですか」


 怪我や病気を治療する聖魔術の対となる闇魔術は、昔から災いをもたらすと言われている。

 そして、かつてグランヴィル王国で起こった凄惨な事件もまた、この闇魔術が大きく関係しているのだ。

 重々しい声での問いに、セレンティナは不思議そうな顔でこてんと首を傾げた。


「えーと、なんか誤解しているみたいだけど、闇魔術そのものに害はないんだよ?」

「ですが……っ!」

「待って。まず聖と闇の属性について説明してあげる」


 なにが誤解なものか。いくら調律者とはいえ、闇魔術まで擁護するなんてありえない。

 簡単には騙されない! と言い聞かせながら頷いた。


「聖魔術は一言で説明すると『穴を塞ぐ』魔術なんだよね」

「穴を、塞ぐ……?」

「そう。例えば剣で刺されたら身体に穴が開くでしょ? その穴を『塞ぐ』の。埋める、といってもいいのかな」

「……では、病気の場合は?」

「病気で欠けた魂を魔術で修復するって感じ。そうすることで病の元が消えるんだよ」

「なるほど……」


 想像することしかできないが、なんとなくは理解できた。

 レオノーラが納得したのをたしかめてからセレンティナが説明を続ける。


「闇魔術はその逆。『穴を開ける』魔術なわけ」

「だから、それは……!」

「たしかにどんなものにでも穴を開けられるっていう危険な魔術だよ? でも、できることはそれだけ。しかもどんなに優れた術者でも、直接手を触れないと人体を貫通させることはできない。それってさ、武器を持っている場合と変わりないと思わない?」


 セレンティナはそこで言葉を区切り、固唾を呑んで続きを待つ面々を悠然と眺める。

 次の瞬間――アルシェラの部屋に衝撃が走った。


「つまり……闇魔術だけ(・・・・・)が施された魔道具で人を殺すことは不可能なんだよ」





属性について、だいぶややこしいと思うので一覧をおいておきます。


メジャー:火・風・水・土

ややレア:光(火の上位)・氷(水の上位)

レア:闇・聖・草(複合属性になる率高め)

超レア:雷・時空(一番レア)


以上、11属性の魔術でこのお話は進んでいきますのでよろしくお願いします!

全部をうまく使いきれる自信は正直ありません(きっぱり)


次の更新は明日12時です!

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