99.闇より出でし不都合な真実
余裕綽々で事態を見守るユリエルと、訳も分からず追い詰められるインボウズ。
しかし、訳が分かったとて解決できるとは限らなくてだな……。
被害に遭って殺気立つ人たちに納得して引き下がってもらうには、何が必要でしょうか?
大企業でも、大規模な被害を出してしまったら原因究明と説明を求められます。
この場合、少しでも民の安心材料にできる、教会の落ち度ではないという証拠は……。
虫けらのダンジョンでは、皆が集まってカウントダウン祭りの中継を見ていた。
「うっわ……何だこのバカ騒ぎ!」
「人間は、ここまで愚かだったのでありんすねえ」
ミツメルの目玉中継で見る聖呪のカウントダウン祭りは、事情を知っているユリエルたちから見れば呆れしかない。
何が何でもユリエルを討ちたいのは分かるが、どうしてここまで失敗続きのクソ野郎を信じ続けられるのか。
人々が煽られて気勢を上げる姿は、もはや滑稽でしかない。
ミツメルは、鼻息荒くいくつもの目玉の映像を切り替える。
「ふおおぉ!!撮れる!撮れるぞ!
人間どもの大失態!間抜け面!スクープ!!
しかも大聖堂の大結界に魔力を移しているせいで、普段は入れない所まで目玉を飛ばせるではないか。
激写激写~!次の魔王軍集会での花形は、僕だ~!!」
魔族大歓喜の大事件に立ち会えて、ミツメルは大興奮だ。
ユリエルも、ニマニマ笑ってミツメルを応援する。
「うんうん、しっかり撮って人間にもばらまいてよ!
教会はこんなに嘘つきで、本当にキツい時に弱い者を守ってなんかくれないって、これを見たらすごく分かるわよね。
これならさすがに、人々の盲信も崩れてくれるはず」
ユリエルは、これから起こる大惨事に胸を躍らせていた。
このために、いろいろ危ない橋を渡って胸が潰れるような思いもした。DPで復活したとはいえ、味方にも無茶をさせた。
だが、こうして報われる時は来た。
インボウズの言うことは、教会のやる事は正しくないと、人々に身をもって知らしめる時が。
「さあ、破滅のカウントダウンだ!」
映像の中で、インボウズが拡声器を持ってノリノリでカウントダウンを始める。
これでユリエルは終わりだと信じ切って、正式な演説では絶対言えない罵倒を放ち、うさんくさいポーズまで決めて。
破門直後にこれをやられたら立ち直れなくなるか、無茶をして死に突っ込んでしまいそうな尊厳破壊。
だがユリエルは、優雅に聞き流してハーブティーをすする。
どうせすぐ、これを信じ切る人などいなくなるのだ。
分かっていれば、怖いことなんて何もない。
やがてインボウズのカウントダウンが、終わりを迎える。しかし当然の如く、聖呪は発射されない。
すると、インボウズはオニデスを殴って大結界を解除するよう怒鳴った。
それを見て、シャーマンが哀れっぽく眉をひそめた。
「何やってんだい、あの馬鹿は?
あたしにゃ分かる、あの邪気は並の人間が耐えられるモンじゃない。それをわざわざ、解き放つっていうのかい」
「そうなんです、あのクソは本当に何も分かってませんから」
軽口をたたくユリエルたちの見ている前で、大聖堂から人々の魔力で強化された邪気が噴き出し、人々に襲い掛かる。
あっという間に、正義のセレモニーは阿鼻叫喚の地獄と化した。
その惨劇に、ミエハリスたち人間勢はさすがに青ざめる。
「あああ……こんな邪気、一体どうしろと言うんですの!?
このままじゃ、街の中心と学園は人が住めなく……」
「しかも、あれをまた封じ込めるには相当な魔力が要るぞ。ただでさえ聖呪の強化に街中の魔力を集めた後に。
これじゃ、ただ信じている人たちにどれだけ被害が……」
だが、ユリエルはそれに関しては冷めた顔をしていた。
「大丈夫よ、多分カリヨン辺りが備えてて何とかするでしょ。
ユノやカリヨンなら、この局面で私が動かないことの意味くらい分かるはず。
そのうえでもし、起こる事が自分たちの手に負えないって判断したら、向こうから突っ込んで来るって」
それがないということは、カリヨンには対処する自信があるということ。
カリヨンたちがユリエルの意図に気づいたように、ユリエルにもカリヨンたちの行動の意味は分かる。
ずっと学園で築いてきた、絆の賜物だ。
だからユリエルはカリヨンたちの動きをにらみ、決行しても人命に大した被害はないと踏んで安心してやった。
しかし、レジスダンは煮え切らない顔でぼやく。
「優しいねえ、姉御は。
けど、そんな甘っちょろいやり方で人の心は動くのか?
結局助かっちまったら、人はいつか痛みを忘れる。そんでまた教会の都合のいい言い方に流されて、俺たちのせいにするんじゃねえのか」
レジスダンは、大した被害なしでの人々の改心が信じられなかった。
だって自分は世の中を変えようとして、あんなに人々に罰を与えてもだめだった。それどころか、自分が追い詰められてしまったのに。
そんなレジスダンの心中を察して、ユリエルは諭した。
「あのね、反省も改心も命あってのものなのよ。
教会の言うことに裏切られてひどい目に遭った人たちが、違和感を持って生きててくれないと困るの。
それにあなたのやり方じゃ、被害者はただ理不尽に賊に襲われたとしか思わない。それで恨みを持つ遺族ばっかり増えたら、最悪。
あくまで、教会がポカをやったと認識してる人を増やさなきゃ」
その指摘に、レジスダンは悔しそうに俯いた。
人々の心を教会から離すには、ただ暴力を振るうだけではだめだ。
教会の言うことが間違っていると、人々が身をもって体験して気づかないと。
ユリエルは自身もうまくいかない中で、徐々にそれに気づいた。いくら自分が処女の聖血をばらまいて被害を出しても、人々はユリエルを信じず憎むばかりだ。
教会が、人々を守って尊敬されているから。
その意味では、今回の作戦はとても意義あるものだった。
聖王母の桃でインボウズを一撃死させることはできなかったが、考えようによってはこの結果で良かったかもしれない。
「……たとえ桃でインボウズを殺せても、インボウズの悪事が暴かれなきゃ根本的解決にならないのよね。
あのクソがかわいそうなテロ被害者になるだけで、また同じような汚い奴が枢機卿になって繰り返す。
それを断ってこそ、私がここまでやった意味がある」
ユリエルは、しみじみと呟いた。
「私がやむなく殺した人たちも、教会の過ちと私の無実が分かって初めて、本当は誰の被害者か分かるの。
だから、これで人々が目を覚ましてくれたら……」
映像の中で、カリヨンが指揮を執って大結界を張り直している。
これでインボウズの信用が地に落ち、カリヨンが取って代わり、ユリエルの無実を認めてくれたら万々歳だ。
「こんなに威力を上げても二月経っても聖呪が発動しなければ、いくらインボウズでも原因を調べようとするはず。
その時に、アノンが聖呪のために書いた神との契約書が公になってくれたら……。
カリヨンとかユノとか、もうちょっと頑張ってくれないかな」
マリオンからの知らせで、聖呪が発動しない原因は分かり切っている。
そしてそれが誤っていて聖呪が発動しないというのなら、一発でインボウズの悪事にたどり着くことができる。
どうかそうなってくれと、ユリエルは頼もしい友を思った。
インボウズは、追い詰められていた。
リストリアの街中に、教会とインボウズへの怨嗟があふれている。
自分たちは信じてなけなしの魔力と財産を差し出したのに、聖呪は発射されず逆に自分たちがまきこまれた。
信じられない、どうなっているんだ、と。
幸いカリヨンたちの働きで死者は出なかったものの、夜が明けると街の有力者たちが押しかけて来た。
「おい、出て来て説明しろ!
人々を困窮させたあげくあの始末、本当に我々を守る気があるのか!?」
インボウズはひたすら逃げて面会を断っていたが、その態度に人々はますます怒りを募らせる。
あわや暴動が起ころうかというところで、カリヨンが間に入って人々に頭を下げ、何とか引き下がってもらった。
「申し訳ありません、こちらも原因究明に多忙でして。
原因が必ず分かるとは申し上げられませんが、せめてどのように行ったらこうなったのかは明らかにいたします!
なので、数を絞っていただき、他はお引き取りを!」
カリヨンは聖神祭の時も昨夜の大聖堂でも人々を邪気から救った、高潔な大聖女である。
カリヨンに免じて、人々は一旦引き下がった。
しかし、何か手を打たねばまたすぐ燃え上がるのは、火を見るより明らかであった。
「あああ……どうする、どうすればいい!?」
インボウズは、理事長室にこもって頭を抱えていた。
このままではまずいのは分かる、しかしどうしたらいいか分からない。そもそも、どうしてこうなったか分からない。
インボウズとしては、聖呪は必ず放たれるはずだったのに。
信じていた神に裏切られ、地獄に突き落とされたようだ。
その神に伺いを立てようにも、一人ではできない。他の枢機卿にこの件を白状し、助けを請うことになる。
最近ただでさえ負い目の大きいインボウズには、耐えがたい屈辱だ。
「ええい、ユリエルのせいにしろ!
あいつがまた卑怯な手を使ったに違いない!
とにかく早く討伐するように、街中の戦力を集めて攻めさせろ!!」
インボウズは癇癪を起こして喚くが、オニデスが必死にそれを止める。
「お待ちください、力攻めでどうにかなるなら既に解決しています!今、虫けらのダンジョンには魃姫の応援が入っているのですよ。
攻めたとて、被害が広がり原因は分からずじまい!
それで信徒たちが納得する訳ないでしょう!」
「ぐぎぎぎ……もはや、攻め落とすにも一人では厳しいか」
状況を的確にとらえたオニデスの説得に、インボウズは何とか踏みとどまった。
いかにインボウズが権力を持っていようと、枢機卿一人だけで動かせる教会の戦力には限りがある。
折しも強い聖騎士を他家に貸しているこの状況で、短期間で虫けらのダンジョンを落とせるとは思えない。
時間をかければ可能かもしれないが……次の枢機卿会議も暴徒化寸前の民衆も、それまで待ってくれないのだ。
そこに、カリヨンが入ってきて言った。
「何とか、代表者数名を除いてお引き取りいただきました。
しかし、すぐに納得できる何かを示さない限り、次はこれでは済まないでしょう。
とりあえず、本当にわたくしたちの行いに間違いがないか確認して、それを示すしかないのでは?」
その提案に、インボウズとオニデスは顔を見合わせた。
自分たちが疑われているのは癪だが、これで自分たちに落ち度はないと納得してもらえるなら安いものだ。
「確かに、聖呪のための作業記録はしっかり残っております」
「僕らに手落ちがなければ、ユリエルのせいと決められるしのう。
よし、すぐ案内せい!」
とにかく今この状況を脱するために、インボウズはカリヨンの案を採って街の有力者たちを招き入れた。
インボウズたちは、街の有力者たちに聖呪のやり方と作業の記録を一つ一つ説明して、確認していった。
「……でありますからして、必要な物品の使用に間違いはありません。
儀式についても、誰が何を担当したかここに記しております。おまえたち、きちんと手順通りやったのだな?」
「はい、間違いありません!」
実際に儀式を行ったものが呼び出され、オニデスに従っててきぱきと説明していく。
聖呪は教会の特権ではあるが、使うには枢機卿の力が必要であるため、方法が民間に見られたところでさほど問題はない。
「ふむ、見た所問題はなさそうですな」
「となると、本当に教会のせいではないと」
他の有力者が納得しかけたところで、リストリア領主のミザールが声を上げた。
「いや、まだ見ていないものがある!
聖呪を神に依頼するための、契約書だ。形に残る記録の中で一番大事なものだが、それを確認できぬでは。
見られるものは全て見て確認せねば、王への申し訳が立ちませぬわい!」
ミザールは、教会が支配するこの街で目立った働きはしないものの、一応王からここを正式に任された領主である。
しかも王に報告するとあらば、無下にはできない。
「うーむ……しかしあれは、今大聖堂の中にある。
あのすさまじい邪気の中から、取ってこねばならんぞ」
「大丈夫です、わたくしが取って参りましょう。
どうせこのままではらちが明かないのですから、この際徹底的に調べるべきです」
これに、カリヨンも賛成した。
インボウズとオニデスも内心、原因が分からず途方に暮れていたので、どんなことでも安心を積みたかった。
こうして、カリヨンが大聖堂の中から聖呪の根幹をなす契約書を取ってきて、皆で見てみることになった。
「さあ、こちらが契約書です」
カリヨンは、圧倒的な光魔法をまとって真っ暗闇のような邪気の中に突っ込み、聖呪の契約書を皆に差し出した。
皆の注目が集まる中、契約書が開かれた。
そこには、アノンが自らの血で記した契約文があった。
<邪淫の罪に染まりながら純潔とうそぶき、偽りのために教会に背き数多の人を殺した罪人ユリエル。かの者を、この身の全てをもって誅滅せん>
(うっ……!!)
途端に、インボウズとオニデスは石化した。
二人には、はっきり分かる……この契約書の何が誤っているのか。
当たり前だ、純潔なユリエルを弄んで有り得ない罪を着せ、反応を楽しんでせせら笑ったのはインボウズなのだから。
そのための裏工作を担ったのは、オニデスなのだから。
(な、何たることじゃ……これでは、対象の条件が違うではないか!
まずいぞ、これでは……聖呪はいつまで経っても発動せん!)
契約書とは、神への注文書。指示した対象の下に、神罰である聖呪を下すための。
だが、この契約書に記された対象は存在しない。
ユリエルは純潔で本当は邪淫に染まってなどいないし、偽りではなく真実のために反抗しているのだから。
(クッソ~こういうことか!
誰だよこんなの見過ごした奴は!
だが原因は分かった。これなら一旦解除してアノンを回復し、きちんとユリエルが当てはまる条件に書き直させれば……)
インボウズは息を飲んだが、気づけて良かったと気を取り直し……。
だが、一緒に見ていた街の有力者たちの反応は違った。
「うむ、どこにも間違いなどない」
「となると、原因はやはり魔女の方なのか?
疑ってすみませんでした、枢機卿!」
インボウズの真っ赤な嘘である教会の正式発表を信じている彼らにとって、この対象条件は全く正しい。
街の有力者たちは口々に、インボウズに感謝と労わりの言葉を述べた。
「ありがとうございます、これで人々に教会の正しさを伝えることができます」
「枢機卿の行ったことに、間違いはございませんでした。
それではこの映像記録をとり、民と王に見せて説明いたしましょう。これなら、文句は出ますまい」
ミザールなど、こう言って契約書の撮影を初めてしまった。
インボウズは、再び石化した。
こいつらはまだ気づいていないが、この文面こそが聖呪が飛ばない原因と教会の嘘の証拠なのだ。
こんなものを民や王の目に晒して、もしユリエルの純潔がバレたら……。
ただでさえ、聖王母の桃を取ってきたファットバーラ家の聖騎士に気づかれたばかりだというのに……。
「あ、ま、待って……それは、その、機密だから……!」
慌てて止めようとしたインボウズに、ミザールは訝しそうに尋ねた。
「なぜ、だめなのです?
あなた方の正しい仕事の証ではありませんか。何を隠すことがあるのです?
隠しているほど、都合の悪いことでもあるのかと民に疑われますぞ」
その言葉に、インボウズは言葉を失った。
そうだ、彼らから見てこれは、何も隠す必要のない全く正しいことなのだ。それを隠そうとすれば、やましいことがあると叫ぶに等しい。
そこに、アノンにこれを書かせた拷問官が得意げに割り込んでくる。
「ほらぁ~、オラたちはきちんと仕事してるど。
正しいこととそうでないことを、間違えたりしねえだ!」
その頭が空っぽな笑顔を、インボウズは殴りたくなった。
だが同時に、根本的な原因に気づいた。
ユリエルの邪淫が冤罪だと知っているのは、教会の中でもごく一部。この拷問官のような末端が、知る訳がない。
だから拷問官は、アノンが書いた内容が命じられたのと少し違っても、本当のことだからいいと思ってしまったのだ。
表に出せない闇ゆえの、中枢と末端のすれ違いである。
(ぐ、ぐぬぬぅ~!あの時、僕かオニデス君が確認しておれば!!)
インボウズとオニデスは激しく後悔したが、もう遅い。
「では、この正しい契約書を皆で守ろうではありませんか!
ユリエルの卑劣な守りをはぐ前に、魔族に何かされたら困りますからな」
「おう、そうだ!これから大聖堂には封印を施し、私たちが分割して鍵を持つことで、軽々しく入れぬようにしよう。
これが守られる限り、教会の正しさは担保される!」
街の有力者たちは、これを教会の正しさの証と認め、厳重に守ろうとしている。
これでは、こっそりやり直すことができないではないか。
青くなってぐっしょり汗をかいているインボウズに、ミザールは丁寧に頭を下げた。
「では、私たちはこのことを民に伝えて納得させます。
その代わり、魔女の方の原因究明と対策は頼みましたぞ。それが為された時、聖呪もその役目を果たし、街は歓喜に包まれるでしょう」
インボウズは、引きつった笑顔で息も絶え絶えだった。
本当は、今すぐ本当のことを叫びたい。喉から心臓が飛び出しそうなくらい、叫びたい。
今すぐ契約書の誤りを認めて直せば、きちんと聖呪はユリエルに届くんだ。街はこの邪気から、解放されるんだ。
ユリエルが正しい聖呪を防いでいる原因と対策なんて、存在しないんだ。どんなに探っても、出てこないんだ。
しかし、口が裂けても言えない。
言ってしまったら、自分の嘘で街にこれだけ被害が出たと認めてしまうことになる。
(あ、あわっ……なぜ、言えんのじゃ!!
正解が目の前にあるのに、なぜそれができんのじゃ~!!)
インボウズは心の中で絶叫したが、どうにもならない。
周りが偽りをきれいに信じていて、本当のことを言ったら自分が異端となって罰を受ける。言いたくても、自分が生きるために、言えない。
これまでインボウズが堕として、今は娼館で働かされている元聖女たちと同じ状況。
しかしインボウズは、これでもまだ何の報いなのか分からなかった。
インボウズは自分のついた嘘に退路を断たれ、袋小路で打ちのめされていた。
確認を終えて館に帰ると、ミザールは限られた側近に明かした。
「計画通り、ハゲツルヌスがいい仕事をしてくれた。
これで事態はインボウズが罪を認めねば解決せず、民の違和感も時とともに再びぶり返すだろう。
魔女側の原因と対策など、ありはせんのだから。
前やられた聖血テロと同じことだ」
ミザールは、このからくりをはじめから知っていた。
なぜなら、アノンが契約書を書く前に部下のハゲツルヌスを使ってこれを仕掛けたのは、他ならぬミザールだから。
「……長年、我が一族は教会の不正を見て見ぬふりさせられてきた。
しかし、ようやくそれを終わらせられる時が来た。そのためなら、私は道化にでも何にでもなってやるぞ!」
ミザールは、領主として不退転の決意を固めていた。
民にも多少苦しい思いをしてもらうが、仕方ない。インボウズの嘘ばかり信じて無実の聖女を責めてばかりいる民にも、罪はある。
願わくば、民が自らそれに気づいて正しい世を勝ち取ってくれたら。
そのためなら自分は突き上げられて八つ裂きにされても構わないと覚悟を決め、ミザールは契約書の写しを手に民への説明に向かった。
インボウズが完全に自縄自縛です。
そして、今回ついに領主がインボウズの逃げ道を断ちつつ事態が解決しないように出し抜きました。
アノンが聖呪をやらされる回をもう一度見直してみよう!ユリエルが純潔だと知っているマリオンたち冒険者ギルドから、つながっています。
今回も冴えた応対と能力を見せつけて、ますます株を上げるカリヨン。カリヨンは領主の作戦については知りませんでしたが、今回契約書を見たことで察しています。
このまま民の違和感をきっかけに、打破なるか……。