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97.暗黒の枢機卿会議

 前回の更新に皆さん気づきましたでしょうか?

 93話以降の話数が一つ先にズレていたので修正し、95話「呪われた祝いの日に」を割り込みで投稿していました。

 そのため、見た目の話数は変わっておらず、更新したかどうか気づきにくかったと思います。


 今回は、インボウズたち教会の枢機卿サイド。

 いろいろと教会に痛いやらかしを重ねてしまったインボウズですが、とある別の汚い枢機卿に対してはやり返すネタがありました。

 今回で、教会の枢機卿は七人全員登場です。

 聖神祭が終わり、新年を間近に控えたある日。

 聖人教会のトップである枢機卿たちは、半分は総本山の地下に集い、もう半分は通信魔法でつながって円卓を囲んでいた。

「それでは、会議を始めましょうか。

 今回は議題が多いので、皆さま無駄な発言を控え手短にお願いします」

 司会のクリストファー卿が、厳かに告げた。

 すると、数名からクスクスと嘲笑が漏れる。

 それを向けられたインボウズは、びくりと肩をすくめた。いつもより多い議題のほとんどが自分に関わると、分かっているからだ。

 しかしそれについて、同格の枢機卿相手にもみ消すことなどできない。

 ここに上がって来る議題は教会の勢力と神の威信そのものに関わってくるため、できるだけ正直に報告し議論せねばならない。

 それでどれだけ自分の評価が落ちるかと思うと、インボウズは胃がキリキリした。


「ではまず、死肉祭からそれに続く魔族の反攻について。

 皆さまからの報告によりますと、一時的に大きな被害は出たものの現在は反抗は下火になり、戦線を維持できていると。

 しかし、聖騎士の喪失はかなり大きい。

 各家、死肉祭からこれまでにどれだけ失ったか報告を」

 まずは、今年一番の災厄であった、魔族の反攻とそれに伴う犠牲について。

 各地の魔族がいきなり強化されて反撃してきたことで、人間側は官民教会に関わらず多大な出血を強いられた。

 聖騎士、騎士、兵士、冒険者と、多くの命が失われ戦力が削がれた。

 幸いにも敵の強化は長続きしなかったため今は押さえ込めているが、特に初期には死肉祭も含めて多くの聖騎士が失われた。

 そのせいで、教会の総戦力はじわりと下がっている。

「よろしいですか、聖騎士は貴重です。

 神の力自体は、我らが神より賜った聖印章により与えることができます。しかし、それを最大限生かせる高レベルの戦力には限りがある。

 元が弱くては、いかに神の力を与えようとさほど役に立ちません。

 それを踏まえて、今の状況はどうか?」

 クリストファー卿は、いかめしい顔で問いかける。

「まあ、失われた数で言えば全体の三割強といったところでしょうか。

 そして、質が落ちたのは卿の考える通り。数は新しく補充したから変わらぬが、平均レベルは確実に落ちました。

 一握りの真の強者と大勢の新入り、二極化しています。

 柔軟な運用がしづらくなったのは、確かですな」

 ラ・シュッセ卿がクイッと冠を持ち上げて述べる。

 この現状報告に、反論は出なかった。

 聖騎士とはあくまで神の力を与えられた者であり、数は神から与えられたリソースによって決まっているので、補充できれば変わらない。

 だが、経験豊富で後続を育てる立場のベテランが一気に減ったのは痛い。

 これではもし同じ規模の第二波、第三波が起これば、新人と残った中堅がまた狩られてさらに戦力を落としてしまう。

「……で、皆さまは原因不明という立場をとられていますが、原因が取り除けた訳ではありませんね。

 皆さまの利権と教会の権威を守るために、どうなさるおつもりで?」

 クリストファー卿が皮肉を込めて問うと、他全員の視線がインボウズに向いた。

「……それはもう、最も原因と疑わしいオトシイレール卿に責任を取っていただきませんと。

 死肉祭の総司令官も、卿でしたし」

「さよう、あそこで26人も失ったのが一番痛い!

 そのうち半分でも生きておれば、後の戦いがぐっと楽になったものを」

 他の枢機卿たちは、口々にインボウズに恨み言をぶつける。

 クリストファー卿以外の枢機卿は皆腐っており、インボウズがユリエルを陥れたこと自体を責めることはない。

 しかし、それが原因で稼ぎの装置である教会が傷つくなら話は別だ。

 魔族の反攻が下火になり被害の全貌が見えてくるにつれ、他の枢機卿たちはその重大さに焦り始めた。

 このままユリエルが血をばらまき続ければ、下手をすれば魔族に押し返されて教会そのものが揺らぐかもしれない。

 これまで好き勝手やっても守られていたのに、その守りがなくなるかもしれない。

 ブリブリアント卿は、露骨にインボウズをなじる。

「全く、おまえが特権を行使するのは構わんよ。

 しかし、それで儂らと教会にここまで迷惑をかけるのはどうなんだ?

 たかが見習い聖女一人手の平で転がせんようでは、枢機卿としていかがなものか。しかもそれを、魔に利用されるなど!

 貴様はこの賠償を儂らにきっちり払い、できんなら退位してもらおうか~!」

 建前を崩さぬよう言葉を選んではいるが、ブリブリアント卿はついにインボウズを本気で潰しにかかってきた。

 これだけの被害の原因とあらば言い逃れできないし、他の枢機卿も早く幕引きを図るために乗ってくるだろうという算段である。

 ……もっとも、ここでインボウズが断罪されて失脚したとして、新たな枢機卿はこれまで通りに腐った者がなるだろうが。


 しかし、ここでインボウズがしてやったりと笑みを浮かべた。

「くっ……くくく!あの苦戦の元凶が、何を言う。

 死肉祭であれほどの戦力を失ったのは、君のせいじゃないか!」

 なんと、今度はインボウズがブリブリアント卿を断罪したのだ。

 驚くブリブリアント卿に、インボウズは明かした。

「のう、死肉祭の折、僕がブリブリアント卿に依頼した大量の解毒アイテムが届かなかった件は覚えておるか?

 あの時の進軍の遅れと苦戦は、まさにあれが原因だった!

 ブリブリアント君は原因不明だなどとうそぶいているが……最近、僕、分かっちゃってさ~。

 ブリブリアント君の、他人に言えない陰謀のせいだよ!」

 インボウズは、ビシッとブリブリアント卿を指差した。

 途端に、他の枢機卿たちが一斉にブリブリアント卿の方を向く。

「な、何を言っておる?あの件は、儂はきちんと手配したし原因も未だに調査中……」

 なおも白を切るブリブリアント卿に、インボウズは叩きつけるように言い放った。

「ふざけるな!!魔女ユリエルんとこに目と耳を送り込んだ時に、そっちから証拠が出て来たんだよ!

 貴様……死肉祭の直前に、運搬役の騎士を使って虫けらのダンジョンを落とそうとしたな。

 この僕を差し置いて、しかも必要な役目を投げ出す有様!

 償うのは貴様だろうがあぁ!!」

 間髪を入れずに、インボウズの通信映像が証拠映像に切り替わった。

 虫けらのダンジョン内部に囚われた、聖女ミエハリスと神官たち。ユリエルは彼女たちに、不可解なできごとについて尋ねた。

 ユリエルが血をばらまいた反動で倒れ、魃姫に保護されて不在にしていた間に、虫けらのダンジョンに強い騎士が攻め込んだ。

 その騎士は代わりにダンジョンを守っていた魃姫の手下に倒されたが、解毒アイテムをやたら大量に持っていた。

 そして遺品の剣に刻まれた紋章は、ブリブリアント家に仕えていた聖騎士候補のもの。

 それが意味するところは……。

「ほほう、ブリブリアント卿……これは下手を打ちましたね」

「急いては事を仕損じる、言葉の通りだね」

 他の枢機卿から、刃のような視線がブリブリアント卿に集まる。

 つまりブリブリアント卿は、インボウズを出し抜いてユリエルを討伐するために、解毒アイテム運搬役の騎士に虫けらのダンジョンを攻略させた。

 結果、運搬役の騎士はそこで予期せぬ強敵と鉢合わせて命を落とし、ついでに解毒アイテムも奪われてしまった。

 どう考えても、ブリブリアント卿が悪い。

 他人の管轄に無断で手を出し、本来の重大な役目を反故にするとは。

「ご、誤解だ!儂はそのようなこと命じておらぬ!

 これはこの騎士が勝手に……」

 否定して喚くブリブリアント卿の隣で、クリストファー卿が冷たく言った。

「では、審問にかけてみましょうか。

 これは数多の人命と聖騎士の喪失に関わる重大案件です。審問に賛成の方は……ああ、他全員、ありがとうございます。

 それでは、審問官の方、どうぞ」

 流れるようにブリブリアント卿の審問が決まり、審問官が招き入れられた。

 その瞬間、ブリブリアント卿はこれが仕組まれていたと悟った。

 審問官は本来多忙であり、こんなに呼んですぐ来るものではない。おそらくこの審問官は、このために呼ばれて待機していたのだ。

 しかも、この審問官はクリストファー卿ではなくインボウズの部下ではないか。これでは、勢力差で脅すこともできない。

 真っ青になるブリブリアント卿の前で、審問官は結果が皆に見えるように魔道具の覆いを外した。

「では、オトシイレール卿より質問をどうぞ」

「うむ、尋ねることはただ一つ。

 おまえは、解毒剤運搬役の騎士に虫けらのダンジョン攻略を命じたか?はいかいいえだけで答えろ!」

 インボウズは、きっちり逃げ道を塞いで審問してきた。

 ユリエルの時は開いた質問だったので巧みに誤情報を仕込まれてしまったが、応えが二つしかない閉じた質問にその余地はない。

「さあブリブリアント卿、お答えを。

 答えは、はいかいいえしか、認めません!」

 クリストファー卿が、険しい顔で回答を促す。

 こうなっては、ブリブリアント卿はどうしようもない。

 嘘をつけばすぐバレるし、逃げれば黒だと言うも同じ。下手に足掻けば、他の枢機卿を全て敵に回すことになる。

「はい……これでいいだろう!」

「真です。正直な告白に感謝いたします」

 ブリブリアント卿の投げやりな答えに、審問玉は真の色を示した。

 これで、決まりだ。

 ユリエルのダンジョンから思いがけず伝わった真実は、凄惨な死肉祭に隠れていたブリブリアント卿の罪を暴いた。

 当然、ブリブリアント卿にはその報いが降りかかる。

「ブリブリアント卿、これは少し、おいたが過ぎるのでは?」

 ラ・シュッセ卿が不快そうに目を細めて言う。

「我々には、管轄というものが決まっています。他者の縄張りに無断で手を出すとは、泥棒も同じ。

 しかもそれで死肉祭の戦況を左右する物資をごっそり敵に渡すとは、お粗末すぎて全く笑えませんな!」

「いやいや、儂はオトシイレール卿が頼りにならぬと思ったのでな!

 早いうちに行動し禍根を断っておれば、今こんな事には……」

 必死に弁明しようとするブリブリアント卿を、インボウズが追い詰める。

「ふざけるな!考えなしに動けばいいてもんじゃないだろう!!

 だいたい、よく知らんのに手を出すからこういうことになるんじゃ。しかも、今どうなっておるか調べもせずに。

 僕ぁきちんとそれを考えて、調査隊を出してから攻め込んだ。

 それでも手こずるのに、行き当たりばったりで楽にやれると思うなよ!!」

 調子に乗って、ついインボウズの本音も出てしまった。

 最初によく調べずに高をくくって痛い目に遭ったのは、インボウズだ。それからはインボウズも多少学習し、調査を行うようになった。

 なのに、ブリブリアント卿は見事にその二の舞をやらかした。

 これを無様と言わずして何と言おうか。

 ブリブリアント卿がインボウズを出し抜こうとせず、情報をもらっていれば、防げたかもしれないのに。

 面子を潰してきた奴が潰れる様に、インボウズは胸がすく思いだった。

 他の枢機卿たちも、一斉にブリブリアント卿を責めている。

「せめて、本来請け負った役目を果たしてからにしてくれませんか。

 あなたの抜け駆けのせいで、失われた物資の代わりに総本山の備蓄を放出することになりました。

 このような事情であれば、あなたにそれを補填する義務があります」

 クリストファー卿は、あくまで教会の受けた打撃を持ち出して理路整然と償いを求める。

 それより、もっと荒っぽい奴もいる。

「そんな事より、よくも俺が鍛えた聖騎士共を無駄に死なせてくれたな!

 聖騎士とは、戦いに命を捧げる定め。全力で戦った末に散ったのなら、俺も祝福して讃えよう。

 それが、物資不足で進めんだぁ?

 毒を治せなくてトチ狂った冒険者と、同士討ちだぁ?

 そんな事させるために育てたんじゃねえ!罰として、てめえの聖騎士全員よこせや!!」

 熊のような大きな体と声でがなり立てるのは、枢機卿の中で飛びぬけた武闘派にして聖騎士たちの師範、グンバッツ卿だ。

 戦闘力と権力に任せたすさまじいパワハラで恐れられているが、今その矛先がブリブリアント卿に向いている。

 逆に気怠い雰囲気の女性も、ネチネチと嫌味をぶつける。

「あのさぁ、人の命も成果もさぁ、必要なモノがなきゃ拾えないんだわ。

 死肉祭じゃ、癒し手不足でウチのナース隊も途中から投入されたけど、魔力がないからこそモノがなきゃどーしょーもないのよ。

 モノは命、世の中モノで回ってんだからさー。

 モノがなくて生まれた損害の分、あんたが払えや!」

 枢機卿の中で唯一の女性、ナース卿だ。

 癒しと破壊力の両面を鍛えた修道女隊や、魔力を用いない処置で応急手当や前線での世話をするナース隊を率いている。

 彼女と彼女の弟子たちはどんな醜い血みどろの前線にも赴くが、その根底には他者の不幸を見て喜ぶ恐るべき嗜虐性がある。

 ブリブリアント卿を叩くナース卿の目は妖しく輝き、頬はバラ色に紅潮していた。

 こうなっては、ブリブリアント卿に逃れる術はない。

 ユリエルの血による魔族の反攻でインボウズに賠償を払わせてトップに躍り出た男は、己の愚行で鼻っ柱を叩き折られた。

 屈辱に震えて縮こまるブリブリアント卿に、インボウズはビシッと言い放った。

「ほーら、悪いことはきちんと天が見てるんだよ~ん!

 いくら貴様が隠そうとしても、真実は勝つ!!」

 インボウズの部下の審問官も、笑顔でうなずいた。


 ……これはインボウズにとって壮大なブーメランだが、本人は気づいていない。

 インボウズは今回、ユリエルが明かした真実に助けられた。揺るがぬ真実をもって他の枢機卿を味方につけ、政敵を返り討ちにした。

 だが、ユリエルもインボウズに同じことをしようとしているのだ。

 インボウズが今悩んでいることの多くは、ユリエルの真実が世に出た欠片だというのに……インボウズが、その重大さに思い至ることはない。

 それに、他の枢機卿たちが動いたのは、真実が出て来たせいだけではない。

 自分の利権が脅かされたから、元凶に牙をむいたのだ。

 そして悪徳坊主同士が争う案件になったからこそ、クリストファー卿が割り込んで正義を執行することができた。

 ……インボウズも今、自分の不手際から出た災いでこれだけ他の枢機卿に被害を与えている。

 むしろ、インボウズも同じことにならない方がおかしい。

 それでもインボウズは、自分はブリブリアント卿と違って直接他の枢機卿に手を出していないから大丈夫だと思っていた。


 だが、そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれる。

「さて、それではブリブリアント卿に請求する賠償は後程しっかり詰めるとして……次の議題に移ります。

 オトシイレール卿が保護していた転移者が、味方に大被害を出して戦死したとか。

 しかもその実態は兵法の天才ではなく、洗脳まがいで金をまき上げていたとのことですが?」

 クリストファー卿が出した次の議題に、インボウズはまた胃がギュッと締め付けられた。

 次の議題は、カッツ先生のことだ。

 カッツ先生は神が遣わした転移者であり、人をなびかせる不思議な力を持っていたため、教会内部でも有望視されていた。

 だから多少私腹を肥やして好き勝手していても、信仰促進に役立つし教会への上納もしていたので、見逃されていたのだ。

 それが、実は洗脳により無理筋を通していただけと発覚したのだ。

 おまけに、国軍を支配下に置くための有能な駒にもそっぽを向かれてしまった。

 グンバッツ卿が、怒りで真っ赤になって言い募る。

「今回の件で、セッセイン家は消沈し、対グンジマンの勢力争いを下りてしまった!これでは、国軍を取り込めんだろうが!!

 俺が築いてきた関係までブチ壊しおって、どうしてくれる!?」

「い、いや、あの参戦はカッツ本人の希望であって……」

「ほほう、これは真ですか。

 ……だとしても、貴重な力を持つ転移者を最大限活かすよう管理するのも卿の役目でしょう」

 他の枢機卿も、せっかく使いようによっては有能な駒をだめにされて、怒りと失望を露わにしている。

 カッツ先生がインボウズに逆らえなかった以上、インボウズがきちんと目を光らせて行動を縛っていればこんな事は防げたのだ。

 これもまた、インボウズの不手際で教会に傷がついた案件だ。

 しかも、そういう案件が最近また増えた。

「そう言や、貴重な転移者を失ってまで東方の神の守りをはいだのに、聖呪が発動してないって?

 聖神祭、ひどい事になったらしいねえ。

 本当に大丈夫なのかい?」

 インボウズは聖呪でユリエルを倒すよう仕掛け、これで片が付くと言っていたが、他の枢機卿たちは疑いの目を向ける。

「……まだ、仕込んでから二月経っておらん。

 魔女が思ったより強くなっており、限界まで溜め撃ちせねばならんのだろう」

 インボウズは、だらだらと汗を流しながら答えた。

 しかしこれは、今となっては全く根拠のないインボウズの希望でしかない。

 ここまでことごとくうまくいかないインボウズに、他の枢機卿は白けた目を向ける。

「果たして、本当にそれで済みますかのう?限界まで溜め撃ちするということは、それで仕留めきれぬ可能性もありますよ」

「一回聖呪を防がれたんだから、また同じような仕掛けをされるんじゃないの?」

「いやそもそも、見習い聖女一匹ごときに聖呪まで使わされるのがおかしい!

 そこまでせねばならん時点で、貴様の手腕が知れるわ」

 他の枢機卿たちはもう、聖呪でユリエルの件を終わらせられるかも半信半疑になってきている。

「ともかく、二月まであと数日。

 年が明けてその日が過ぎたら、結果にかからわずまた協議いたしましょう。どのみち、もうユリエル一人の案件ではないのですから」

 不毛なリンチを打ち切って、クリストファー卿が会議を締めた。

 ようやく袋叩きから解放されたインボウズは、しかし、気が気でなかった。

「へえ、じゃあ一週間後くらいにまた会議だねえ。

 もーしそれまでに聖呪が発動しなかったら……あんた、どうなっちゃうんだろうねぇ~?ククククッアーハハハッ!!」

 ナース卿がインボウズの困り果てた顔を見て、愉悦の笑みを浮かべる。

 もし二月経って思うような結果が出なければ、このドSの頭の中で展開されていることが本当にインボウズに降りかかるだろう。

(頼む、発動してくれ!終わらせてくれ!

 ああ、神様~!!)

 インボウズは、あと数日に迫った聖呪の限界日を前に、必死で神に祈っていた。


 こうして会議が終わると、枢機卿たちはぽつんと一つ空いた席に目を向けた。

「……それにしても、ファットバーラ卿はどうしたんだろうね?

 あいつ食べることしか考えてない馬鹿だけど、こんな風に大事な会議をすっぽかした事はなかったんだけどねえ」

 よほどのことがない限り欠席が許されない枢機卿会議に、今日はなぜかファットバーラ卿が出席していない。

 一体何が起こっているのかと、他の枢機卿たちは不気味に思った。


 ……悪徳に溺れる枢機卿たちは、気づいていない。

 インボウズが陥れたユリエルから生じた反攻が、裁きの鉄槌が、思った以上に早く自分たちの身に迫りつつあることを。

 ファットバーラ卿が、今まさにそれで自宅から追い出されていることを。

 ただクリストファー卿と審問官だけが、その時が早く訪れるよう密かに祈っていた。

 新たに悪徳枢機卿が二人登場しました。

 パワハラ軍人のグンバッツ卿と、アングラな女性部隊を統括するナース卿です。


 この話はセッセイン家が真実を知った後になります。セッセイン家は表立ってユリエルの味方にはなりませんが、教会のパワハラ師範と手を切ってはいました。

 ユリエルの行動が、いろいろな部分で別の枢機卿たちにも影響を及ぼし始めています。


 そして、今回の会議では聖呪が発動していない件は保留になったインボウズですが、確実に発動しないとおかしい二月は間近に迫っています。

 次回、悪化の一途をたどる状況に、インボウズは……。

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