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87.愚挙の報い

 前回のロドリコの態度は、実はとある重大な怠慢が原因でした。

 セリフの端々に、違和感がありませんでしたか?

 ロドリコが聖騎士として、正義の味方として犯した最大の罪とは……かわいそうだがざまぁ回!


 なろう系のテンプレセリフはいくつかありますが、作者の嫌いなチート系テンプレを言わせてみました。

 そういう作品での使われ方とはだいぶ違うけど、現実的にこのセリフは危機的状況で後の祭りの場合が多い気がする。

 10階層での戦いから一時間程後、聖騎士たちは不毛の砂漠を歩いていた。

「まだ、そんなに広くなさそうだな。

 あと5階層……このまま征けるか」

 聖騎士たちは、聖王母の桃を手に入れただけで退却しなかった。隊長のロドリコが、攻略を決めたから。

「クソ魔女だけじゃねえ……あいつが死ねば、レジスダンのキメラがマスターになって戦い続ける可能性が高い。

 それじゃ、周りの人間の安全は守れねえ。

 そうなる前に、できればこのままコアを破壊して叩き潰す!」

 桃を奪ってユリエルが死んでも、それで終わらない。

 むしろユリエルが整えた基盤と進化させた仲間たちをより残虐なボスが率いて、大変なことになる。

 それが分かった以上、ダンジョン自体も放置はできない。

 ロドリコは、固い信念を胸に確固たる足取りで進む。

 しかし、後ろからついて来る二人の足取りは引きずるようだった。ココスとアンサニーは、憔悴した顔で不安げにぶつぶつ言っている。

「なあ……本当にこのまま潰すのか?

 さっきの、見て聞いたのに。ロドリコって、あんな奴だったか?」

「人々の幸せな食卓を守る、それは前々から変わってない。

 ユリエルが攻め込む人たちに犠牲を出して、普通の幸せを奪い続けている……たとえ処女でもそれは事実だ。

 ロドリコだって、辛さに潰されないようにわざと明るくしてるのかも……」

「わざと?ロドリコにそんな器用な真似ができんのか!」

 後ろの空気が、なぜだか妙に重くて暗い。

 ロドリコは、うんざりして振り返り声をかけた。

「おいおい、何辛気臭え顔してんだよ?

 桃のこと気にしてんのか?大丈夫だって言ったじゃねえか」

「ああ、うん……そっちはな」

 アンサニーはそこだけは素直にうなずいて、今は自分の収納空間で眠っている傷ついた桃に思いをはせた。


 10階層で、聖王母の桃は確かに手に入った。

 だが、無事にとはいえなかった。

 ユリエルが転移で撤退したせいで、行き場を失ったネイル・ストライク二発分の余波が建物を崩壊させ、桃を巻き込んでしまったのだ。

「うおおおい!?桃おおぉ!!」

 アンサニーが必死で飛び込んで潰されるのは免れたものの、桃には傷がつき果汁があふれ出した。

 その一段と芳醇な香りに、つい手が伸びた。

「うぉっもったいねえ!……う、美味えーーーっ!!!」

 つい果汁だけならと舐めてみて、ロドリコたちは歓喜の叫びを上げた。

 感覚の全てが、この桃の味と香りにもっていかれる。ほんの少しの果汁なのに、口の中で爆発して全身が染め上げられるようだ。

「おほぉ~……こりゃ、果汁薄めるだけで何百人も楽しめるんじゃねーの!?

 あー、孤児の奴らに飲ましてやんのが楽しみだぜ」

 ロドリコは、うっとりと幸せな食卓を思い浮かべた。

 ロドリコたちは狩った獲物の一部を、貧しい人たちに分け与えてきた。今回も同じように、これで多くの人々が笑顔になるのだと思った。

 ロドリコは、晴れやかな笑顔で桃を見つめて心の中で語り掛けた。

(なあ、おまえも分からず屋の犯罪者を守るよりそっちのがいいだろ?

 神にも見捨てられる罪人より、他の奴をいっぱい笑顔にしてやれよ)

 桃は黙して答えない。

 代わりにアンサニーが桃を拾い、じっくり観察し始めた。

「おい、それ……傷みそうなら、おまえだけ先に戻るか?」

「いや、どうも大丈夫そうだ。普通桃なんてのは、傷がつくとすぐ変色が始まるもんだが……こいつはそうじゃない。

 果汁ももう止まったし、桃自体が治ろうとしてるようにすら見える。

 これなら、この俺が持ってる限り劣化なんざさせねえよ」

 それを聞くと、ロドリコはホッと胸をなでおろした。

「良かった、そんじゃ、このままダンジョン攻略できそうだな!

 さっきのはちっとキツかったが、桃のおかげですっかり元気になったぜ。ここは桃に感謝して、悪の巣窟を潰しに行くぞ」

 こうして、ロドリコたちは10階層で足を止めずにさらに深層に踏み出した。


 ……だというのに、ロドリコは何とも言えない居心地の悪さを感じていた。

 美味い物を口にして身も心も元気いっぱいのはずなのに、他二人の士気がどうにも上がらない。

 一体どうしてなのか、とんと分からない。

 自分たちは正しい事をしているはずなのに、二人とはずっと通じ合っていたのに。

 しかもここはまだ敵地、敵はまだ倒しきった訳ではない。復活して、今度こそ死守しようと抵抗してくるだろう。

 ほら、もう前方に敵の気配が……。

(違う、さっきの奴らじゃねえ!

 もっとずっと強え……格が違う!!)

 にわかに、ロドリコの背筋に悪寒が駆け上がった。

 次の瞬間、前方の景色が蜃気楼のように揺らいで、待ち構えていた敵が姿を現した。


「……よくも、あそこまでやってくれたわね」

 激しい怒りを含んだ女の声が、乾ききった空気を震わせる。そこにいたのは、おぞましい顔をさらに恐ろしく歪めた、フランケン仙女だった。

 それが、二人。さらに真っ赤なマントに中華風の鎧兜、鉄仮面の男が一人。

「三人……だと?」

 ロドリコは、やっとのことで呟いた。

 対峙しているだけで分かる。こいつらは、本来一人に対して自分たち三人で挑むべき強さだ。

 それが、三人も。

 事前情報として、ユリエルが四天王最強から支援を受けているという話はあった。だが、それが一月外れると聞いたから来たのに。

 そんな思惑を見透かしたように、筆頭と思しき桃色の着物の仙女が言った。

「あら、わたくしは10階層に桃を置いて守れと言っただけ。

 それ以外まで見捨てるなんて、一言も言っていないわ」

 その言葉に、ロドリコたち三人は総毛だった。

 この強豪共は、ダンジョンの全てを見捨てる訳ではない。ということは、自分たちはむざむざと虎口に飛び込んでしまったのか。

 愕然とする三人に、橙色の着物の仙女と鉄仮面の男も告げる。

「と言っても、当初はお姉ちゃんだけが来るつもりだったのよ。

 でも、あんな戦いを見せられちゃね~……黙ってられるかっての!」

「うむ、貴様らの一方的な正義と暴虐、目に余る。

 同じ戦に生きる男として、見過ごせぬな。純粋なる乙女を偽りの罪で踏みにじった罰、その身で受けてもらおうぞ!」

 いるだけで吹き付けてくる地獄の業火の如き怒気に、ココスとアンサニーは顔面蒼白になった。

 何が悪かったかなんて、分かり切っている。

 自分たちだって、本来許されないことをした自覚がある。

 だから今責められているのは、自業自得だ。しかしそれでも、自分には世のための任務と信じる仲間の判断があった。

 ココスとアンサニーは、悲痛を噛みしめながら得物を構える。

「ああ、おまえたちの言う通りだ。

 俺たちは、ユリエルの純潔の証を見た。それでも、力で押し潰した」

「悪いと言わりゃ……人の心がないって言われりゃ、そうかもな。

 けど俺らだって、心ある人を守るために戦ってんだ!」

 苦渋の覚悟を決める二人に、ロドリコは澄んだ眼差しで言った。

「何言ってんだ、俺たちが受けなきゃいけねえ罰なんてねえよ。気をしっかり持て、絶対生きて帰るぞ!」

 さらに、場に似合わぬ軽口をたたいた。

「にしても意外だったぜ、おまえがそんなに処女にこだわるなんて。

 好みが決まってんなら、こんな所で死ぬこたぁねえ!生きて帰れたら、おまえの清楚な嫁探しといくか!」

「え……い、いや、そういう問題じゃ……」

 戸惑うココスをよそに、ロドリコは敵の三人にうんざりした目で言い放つ。

「にしても、処女ならなんでも許される守られるってのはどうかねえ。……東側は、そういう文化なのか?

 けど、純潔と人格は別問題だろ。

 いくら処女だからって、破門される極悪人を許す気はねえ!!」


「え?」「は?」

「あらっ?」「む?」「はにゃ?」

 突然、ロドリコ以外の全員が気の抜けた声を発した。気が付けば全員が、呆れたように口をあんぐり開けてロドリコを見ている。

「え、ど、どうしたんだよおまえら?」

 ロドリコは、さすがに違和感を覚えた。

 何だかさっきから、うまく話がかみ合っていない気がする。自分だけが置いてけぼりで、他は敵味方みんな同じ空気でいるのに。

 おかしい。まるで自分だけ、違う世界を見ているようだ。

 うんうんと懸命に考えようとして、いきなり全身から冷たい汗が噴き出た。全方位から、とてつもない殺気を感じる。

 とにかく、まずい事態なのは分かる。

 ロドリコは、おそるおそる丁寧に尋ねた。

「あの~……俺、何か、やっちゃいました?」


 その一言に、周囲の殺気が一段と膨れ上がった。すぐにでもロドリコを食いちぎらんばかりに、全方位から押し寄せてくる。

 ロドリコは訳も分からず、本能的に愛想笑いを漏らすしかない。

「笑ってないで答えろ!!」

 ココスが、雷のような声で怒鳴った。

「おまえ、ユリエルがなぜ破門されたか、知っているのか!?」

 ロドリコは、一生懸命考えて答えた。

「そりゃ、その……教会として見過ごせねえ、何か悪いことしたんだろ?特に、聖女としてあり得ねえ感じの?

 きっと、すっげえんだよな。何たって、破門されるくらいだもんな!」

「ロ~ド~リ~コ~!!」

 途端に、アンサニーが悪鬼の形相になった。

「あ、え、えっと……だから、その、何?」

 軽く泣きそうになっておろおろするロドリコに、ココスは子供に教えるように告げた。


「ねえ、ユリエルが破門された罪は、邪淫なんだぞ。

 追放されてダンジョンを乗っ取ってから、ユリエルはずっと冤罪を訴えている。でも教会は、それが嘘だって言い続けてきた。

 ……で、さっき俺ははっきり見ておまえに言った。

 ユリエルの血は『純潔なる神器の血』で、しっかり力があったよな?」

「あ、ああ……ん、ちょ待っ……そういうこと!?」


 理解した途端に、世界が真っ逆さまになった。

 いや、世界は始めからそうだった。ただロドリコだけが、知らぬゆえに世界を逆さまに見ていたのだ。

 ユリエルは、邪淫の罪で破門された。教会は一貫してそう言っていた。

 これが正しいなら、ユリエルが処女である訳がない。

 なのにユリエルはさっき、自らの血で仲間を大幅に強化して見せた。処女で神の力を受けた者からしか採れない『純潔なる神器の血』で。

 つまり真実は、ユリエルは純潔。

 ユリエルの訴えている冤罪で破門されたというのは、本当だった。そこだけは本当に、教会が悪い。

 だから本来、ユリエルは救われて復権されるべきなのだ。

 しかしさっきの戦いで、ロドリコたちは真逆のことをした。

 アンサニーは、怒りと恥で真っ赤になって言い募る。

「いや、ここまでやって知らなかったって……ねーわ!マジねーわ!!

 俺らはさあ、本当に濡れ衣だったのにどうしようって悩んで、そんな奴を潰すのが気分悪くて仕方なくてさあ!

 でもおまえがやるならって、一生懸命自分抑えてよぉ!

 俺らのあの葛藤は、何だったのかと……!!」

 そりゃそうだ。ココスとアンサニーはどんなに悩み苦しんだって、状況を理解していないロドリコに分かる訳もない。

 それに気づくと、ロドリコの全身から冷や汗が垂れた。

「いやごめん!ごめんって!!

 俺、ここんとこずっと忙しくて、全っ然聞いてなくて!」

「忙しかったのは認めるぞ。

 でも、聞いてないってことはないだろ!

 ユリエルのことは、教会どころか一般人の中でもかなり噂になってた。それが原因って喧伝されてる魔族の反攻がいくつも起こって、おまえも討伐に参加しただろう。

 なのに……食べることで頭が一杯で、聞こうとしなかっただけじゃないか!?」

 ココスに凍るような目で言われて、ロドリコはうなだれて身を縮めた。

 ココスの言う通り、完全に自分の情報不足だ。

 ロドリコは元々美食ハンターだったところを聖騎士にスカウトされてからも、行動原理が全く変わらなかった。

 大事なのは食材を狩ること、それを分け与えて皆を笑顔にすること。

 それ以外の情報は、二の次だ。ファットバーラ家から下される任務をこなし、それで世の中が平和になればよし。

 これまでずっとそれでうまく回っていたから、それ以外を考えようとしなかった。

 魔族の反攻についても、世を引っ掻き回す破門者のことはおぼろげに聞き流し、滅多に出現しないレア肉の味ばかり考えていた。

 その結果が、これだ。

 目の前で冤罪の動かぬ証拠を突きつけられても、それを認識できず、貶められた乙女の腹にネイル・ストライクを叩きこみ。

 世の正義に照らして疑問を投げかけてきた仲間も無視して、そのうえ悩み苦しむ二人に無神経な言葉を投げつけ。

 二人の心中を思うと、心臓がギリギリと締め付けられる思いだ。

「ご、ごめん!本当にごめんよ!!」

 ロドリコは、二人に手を合わせて懸命に謝った。


「ふーん……で、敵に謝る事はないって訳ね?」

 ロドリコの心臓を、とてつもない怒りの声が鷲掴みにした。

 ロドリコは、全身がカチカチになってロボットのようなぎこちない動きで振り返った。

 そうだ、一番謝るべきは仲間じゃない。ロドリコは、その手で理不尽な暴力を振るってしまった相手にまだ謝っていない。

 気づくや否や、ロドリコは勢いよく土下座して地面に頭を打ち付けた。

「申し訳ねえ、知らねえまま一方的に痛めつけちまって!

 無実だって分かってたら、あそこまでしなかった!

 だから、その……ユリエルの無実が認められるように、帰ったら頑張るから。この通りだ、許してくれ!!」

 それを見て、杏仙娘娘と鎧武者が桃仙娘娘の方を見た。

「どうする、お姉ちゃん……何か都合のいいこと言ってるけど」

「そうね……でも、貴重な証人であることは確かだわ」

 ロドリコたちは、聖騎士の立場でユリエルの純潔を証言することができる。しかも、インボウズの政敵の配下だ。

 これは、ユリエルの悲願の有力な突破口になり得る。

 桃仙娘娘は、怒りを抑えて静かに言った。

「……分かったわ、桃を持って地上に帰りなさい。

 一月は桃を守らない、主の判断をどうこうする権利はわたくしたちにないわ」

「だが、それではユリエルは……」

「彼女を守る手札が、あれだけだと思って?わたくしは桃以外のことは、何も話す気はないわ。

 持ち去られてもユリエルのために使えるなら、それはそれで有意義でしょう」

 その答えに、ロドリコたちは心底ホッとした。

 これで自分たちだけ生き残ってユリエルが死ぬようなことになれば、さすがに寝覚めが悪くなる。

 だがそうならないなら、桃を最大限に使ってファットバーラ卿を動かすのみ。

 これで、双方にいい方につながるはずだ。

「ありがとよ、恩に着る!

 その……ユリエルには、本当に悪かったって伝えといてくれ!」

 ロドリコは、重荷が下りた肩をほぐしながら仲間とともに去ろうとした。


 ……が、その進路を羽衣が遮った。

「はっ!?」

 反射的に飛びのくと、着地点に刃のついた鉄扇が回転しながら飛来した。傷つきながらもそれを打ち払うと、その身を絡めとらんと二本の鞭が迫った。

「ロドリコ!!」

 何とか有効打は避けたものの、ロドリコは一瞬で二人の仲間と分断された。

 目を白黒させるロドリコに、桃仙娘娘がたおやかな足取りで近づく。

「残念、戻っていいのは二人のお仲間だけよ。お二人は、ユリエルが証拠を見せたらきちんと救おうという心を持ってくれた。

 でも、あなたは何!?

 もし知らないままユリエルを手にかけていたら、どうする気だったの!?」

「そうよそうよ、話を聞く気もなかったくせに!!

 だいたいね、みんながあんたみたいにユリエルを殺しに来るのに、いくら情けをかけたってキメラ以外でどうやって共存すんのよ!?

 できそうな答えがあるなら、言ってみろ!!」

 仙女姉妹は思いのたけをまくしたてて、ロドリコと仲間の間に割って入る。ロドリコだけは、何が何でも逃がさない構えだ。

 ロドリコは愕然としたが、これも己が招いたことかと覚悟を決めた。

「すまねえ、ココス、アンサニー……おまえらだけでも戻れ!

 安心しろ、死ぬ気はねえ。必ず、また一緒に美味いモン食おうぜ!」

 それを聞くと、ココスとアンサニーは脱兎のごとく逃げ出した。

「約束だよ、いつまでも待ってるから!」

「てめーのせいでこうなったんだから、きちんと責任取って来いやアホが!死んだらブッ殺すからな!!」

 恐るべき魔の強者たちは、去っていく二人に手を出さなかった。

 人間なんかより、ずっと筋が通っているじゃないか。

 ユリエルを無実の罪で陥れ、それをよく調べもせず殺そうとするリストリアの人々や自分なんかより。

 己の罪を受け入れたロドリコに、鎧武者が重い声で言う。

「やめてと言ってやめてもらえたら、幸せよな。

 しかるに、おまえはユリエルや仲間がやめてと言うたのを聞いたのか?それで、自分は聞いてもらえると思うたか?

 その傲慢な心、この鞭で叩き直してくれるわ!!」

 鎧武者が両手に持った二本の鞭を、桃仙娘娘と杏仙娘娘が羽衣を広げて刃つきの鉄扇を構えた。

 ロドリコに、その罪にふさわしく死ねと。

 だがロドリコは、抗い、足掻いた。

「罰は受ける、けど死なねえ!生きて償うんだ!

 俺はあいつらと一緒に、生きてユリエルを助ける。そんで、理不尽に陥れられた人たちを助けるんだ!!」

 ロドリコは、今までにないほど強く、神に祈った。胸の聖印章が強く輝き、体中に力がみなぎる。

 だが、その体は簡単に羽衣に絡めとられた。

「ダメよ、力ばっかり振りかざしても。

 どうにもならない人の気持ちを、分からなきゃ……めっ!」

 子供を叱るような口調で、桃仙娘娘はロドリコを地面に強かに打ち付ける。その衝撃で砂が舞い上がって、ロドリコの目と口を塞ぐ。

 口答えできなくなったロドリコに、豪雨のように鞭が降り注いだ。しかも一撃一撃が、焼きゴテのように熱い。

「むぶっ……ぐぶぶぅ!」

 砂まみれになって必死に訴えようと砂を噛むロドリコに、杏仙娘娘は子供のように無邪気に残酷に言い放った。

「ほらぁ、悪いって分かってるなら受け取りなよ。悪いんでしょ?

 返事は……?聞こえないなー。

 じゃあ、分かるまでやるわよ!分かれオラァ!!」

 細腕で振りかぶった鉄扇が、ロドリコの鋼のような筋肉を薄衣のように引き裂く。流れ出た血は、すぐに砂に吸い取られた。

 敵わぬ力で集団リンチを食らいながら、ロドリコはようやく分かった。

(そっか……ユリエルはあの時、こんな気持ちで……!)

 やり直す気持ちはあるのに、一生懸命最善を選んできたのに、どんなに伝えようとしても分かってもらえない。

 圧倒的な力で口を塞がれ、弁明も許されず一方的に痛めつけられる。情の欠片もないただ今の事実と正論で、己の全てを否定される。

 自分は今、ユリエルにしたことを返されているのだ。

「さあ、どれくらいやったら、分かるかしら?」

「心と体、どっちが先に折れるのかな~?」

「すぐには終わらせぬ……ユリエルはこれを、夏からずっと味わっておるのだ!」

 今すぐに死なないのは、希望なのかもしれない。しかしそれが死よりも恐ろしい絶望に変わる時が、いつか訪れるのだろうか。

 ……ユリエルの苦しみもロドリコの残酷な集団リンチも、そう簡単に終わりそうにない。

 現世の地獄と化した砂漠に、ロドリコの悲鳴がこだました。

「俺、何かやっちゃいました~?」

↑作者がムカつくチート系テンプレセリフ一位。これでハーレムフラグが立ったりするとさらにムカつき倍増。


 善か悪かに関わらず、チートな力の持ち主は自分のやりたいようにやって周りを省みないことが多いですね。そして周りがどれだけ振り回されているか、自分がやったことが簡単だと思っているから重大に考えようともしない。

 そしてそれが、無条件に女を振り向かせる。

 じゃあ努力してもその域に届かない男はどうしろと?懸命に目を奪われた女を引き留めようとしても、嫉妬で見苦しいとこてんぱんにされるだけ。

 非モテで、複数の男の財布を自在に開かせる女に見せつけられたことがある私は、そういうのがめっちゃ嫌いです。

 なので、いっぺん知らないままうまくいって突き進む野郎を叩き潰してやりたかったのさ!


 三連休なので、月曜日にもう一話投稿予定です。


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― 新着の感想 ―
ど、鈍感難聴系主人公の、究極体…。アホ過ぎる…。 2人逃がしてこの似非主人公だけを痛めつけるとか、真っ当な処置をしてくれてるなぁ。この強者3人が居なければ、こいつが間違いに気づくこともなかった訳だし…
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