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80.話を聞かない大群

 ユリエルに誘われて奥深く進むカッツ先生、何がその運命を定めたのか。

 自業自得、その言葉がここまで似合う野郎は滅多にいない。


 カッツ先生は、自分の思う通りの兵法を批判したり疑ったりする味方を一番の敵だと思っていました。敵視される方も、カッツ先生が嫌になっていました。

 すると、どうなるか……。


 敵を名のある強者で倒す必要なんて、なかった。

 カッツ先生たち討伐隊は、いよいよ前の調査隊が倒れた7階層までやって来た。

「フン、ここまでは安全だった。

 問題は、ここからだな」

 5階層までは、調査隊の開いた道を通ってきたので虫は襲ってこなかった。6階層の毒沼は、虫が生きられる環境ではなかった。

 なので虫との戦いは、ここからのはずだ。


 ……これがユリエルの誘導であることに、カッツ先生は気づいていない。

 坑道の毒はまだ残っているが、虫たちの多くは既に毒耐性を身に着けている。そういう虫は、汚染された土でも掘って奇襲できるのだ。

 実はカッツ先生は、既にその被害者と会っていた。

 だが、自分の理論に合わないからとその証言を切り捨てたのだ。

「ハア?この道に虫が出る訳ないだろ。

 どうせ、道を外れて迷ってたんだろ」

「ち、違うんだ……俺たちは本当に……!」

「君たちがこの道しか通っていないと、他の誰が証明するのかな~?君が、生き残りのたった一人なのに?

 あのねえ、人生の最期に人に迷惑をかける嘘はやめた方がいいよ。

 君の命の価値、今ので下がっちゃったね~。アハハハ!!」

 カッツ先生は、死にゆく者が最期に残そうとした事実を足蹴にした。

 確かに道中そいつ以外の死体は見なかったが、それは虫たちが早々に地中に隠してしまったからだ。

 その作業による、毒液に汚染された後に崩れて埋められた跡はあったのだが、虫はいないと思い込んでいるカッツ先生は気にも留めなかった。

 6階層の毒沼で、騎士が蚊に遭遇した時もそうだ。

 プーンと小さな羽音を聞きつけて、騎士は蚊の存在に気づいた。しかし実物がないまま進言しても否定されることは目に見えていたため、何とか一匹叩き潰して見せた。

 それでもカッツ先生は、憎らし気に顔をしかめて言い返した。

「あのねえ、ここは毒沼なの!蚊が生きられる訳がないの!

 多分、5階層でワークロコダイルについてたのだろ。

 それに刺されてここまで気づかないなんて、どういう神経してんのかな~。君、本当に騎士にふさわしい感覚持ってるぅ~?

 給料通りの仕事ができないなら、もう解毒剤要らないでしょ」

 潰れたばかりでまだ粘っている蚊の死体に触れようともせず、蚊の吸血時間もろくに知らないくせに、でたらめに決めつける。

 しかも命に関わる脅しを受けているのに、冒険者たちは騎士を馬鹿にして笑い、セッセイン家の兵士とプライドンは白い目で見る。

「しかし、ここはダンジョンですぞ!

 何事も想定外は……」

 騎士が魔力を使っても精神集中して言い返すと、カッツ先生はムキーッと威嚇する猿のように歯をむき、乱暴に水筒の中身を飲んだ。

 そして繰り出される、正気なら聞くに堪えない暴言とでたらめ理論。

 騎士が立ってプライドンについて行くのも精一杯まで叩きのめされた頃には、カッツ先生も息が上がっていた。

 その無意味な論戦の最中、プライドンはしきりに首の後ろを掻いていた。

(あれ、おかしいな……私も蚊に……いや、蚊なんていない。

 何か、別の毒にでもやられたかな?)

 プライドンも冒険者も兵士たちも、自分の身に起こっている事すらもう正しく認識できない。

 このダンジョンの近くに湿地があり、そこの蚊に刺されると熱病になると、頭では分かっているのに。

 だが幸か不幸か、大多数は熱病など気にしなくても問題ない。

 なぜなら、発症するまで死神が待ってくれないのだから。


 7階層に入って、冒険者たちはさっそく毒杏の洗礼を受けていた。

 重い荷に背を痛めながらも自前で食糧を持ち込んだセッセイン家と違い、学園勢は最小限(カッツ先生の分は別)しか持ち合わせがない。

 それをできるだけ長持ちさせようと杏にかじりついたところ、調査隊と同じように胃がひっくり返って食糧と薬を無駄にする破目になった。

「畜生、卑怯な手を使いやがって!

 おまえら、冒険者ならもっと用心しろよ!!」

 カッツ先生は喚き散らしたが、そもそも冒険者なら自分で調達しろと言い含めたのはカッツ先生である。

 冒険者たちは4階層で魚の毒に当たった警戒心を、それで潰されてしまった。

 業を煮やしたカッツ先生は、セッセイン家に食糧の供出を命じた。

「お待ちください、それでは我々が聖騎士を待つことも……」

 せめて自軍だけでも守ろうとする騎士を、プライドンが制する。

「戦いは人の和が一番……だから、分けてあげなくちゃ。

 それに、死地に置かれてこそ人は死力を発揮し、不可能を可能にする……これが兵法なんですよね、先生」

「そうだぞ、よくできました~!」

 カッツ先生は、教えた言葉をオウムのように発するプライドンに、ホクホク顔で拍手した。

 ダンジョンに入ってからずっとカッツ先生の言葉を聞かされ続けていたプライドンは、もう完全に操り人形だ。

 結局、セッセイン家の食糧はタダで供出させられた。

 それを検分しながら、カッツ先生は騎士に提案した。

「そんなに食糧が心配ならさ、君たちが探して来たらどうなの?次の階層への道なり安全な水と食糧なりをさ。

 そうしたら君も、心配で判断力が狂ったりしないんじゃない?」

 セッセイン家が主体となって、探索をしろというのだ。

 騎士は迷ったが、こいつと別れられるならその方がいいかもしれないと思い直した。

「……分かりました。では、8階層への道を見つけたら報告に戻ります」

「よろしく~!

 あ、でも殺虫剤は置いてってね。一番倒れたら困るのは、この僕なんだから!」

 カッツ先生は、騎士に殺虫剤を使う事すら許さなかった。

 学園の討伐隊とセッセイン家を合わせても、殺虫剤の持ち込み量は少ない。カッツ先生が手柄に引きずられ、それの到着を待たずに来てしまったせいだ。

 インボウズは大量消費を見越してパクリウス伯にありったけ送れと命令したが、そうすぐに着く訳ではない。

 それでも、聖騎士を待っていればそれには間に合うよう手配されていたのだが……。

 カッツ先生が急ぐせいで、虫特攻の手札が限られてしまった。

「ま、殺虫剤は水や食料と違って、無いと生きていけないものじゃないし。

 君がそんなに自分の力を見せびらかしたいなら、頑張って~!」

 口ではそう言いながら、カッツ先生は内心これで騎士が死んでくれればと思っていた。兵士の中で騎士をなじると少しでも嫌な顔をする奴も、一緒に。

(そうだ、水や食料や薬が少ないなら、口減らしをすればいいんだ!

 そうやって反乱分子を始末すれば、この部隊はもっと完璧に僕の作戦を遂行できるようになる。

 せいぜい、しっかり敵を倒して散ってくれよ!)

 カッツ先生はせいせいした気分で、騎士とレベルの高い兵士たちを送り出した。


 ……それをカッツ先生は、一時間もしないうちに後悔することになる。

 騎士とレベルの高い兵士たちが抜けてしばらくすると、周囲を探索していた冒険者たちににわかに虫が襲いかかったのだ。

 だが殺虫剤で迎え撃とうとすると、すぐに逃げて藪の中に隠れてしまう。

 藪の内部まで殺虫剤は届かないし、藪はそこら中にある。おまけに討伐隊には、ミエハリスほど優秀な魔法使いがいない。

 優秀な戦力を追い出してしまったため、レベルの低い冒険者や兵士たちは防ぎきれずに傷ついていく。

 空を飛ぶ虫や地を掘る虫により全方位から散発的に奇襲されるせいで、気が休まる時が全くない。

「ぐっ……虫共、下等生物は大人しく道を開けろ!

 古来より虫など、簡単に潰せる邪魔者でしかない!貴様らの命など、人間に潰されるか人間のために働くかの……ブフゥッ!?」

 魔力を高めて罵声を浴びせるカッツ先生の顔面に、拳大のカナブンがぶつかってくる。

 いくら弁舌を振るっても、虫たちにはどこ吹く風だ。なぜなら虫たちは、人間の言葉など解さないのだから。


 その様子を、ユリエルは上機嫌で眺めていた。

「ふふふ、簡単なことだったわね。

 言葉を媒体に惑わしてくるなら、言葉が通じない奴に相手をさせればいいのよ。虫とか、主の命令にしか従わないゴーレムとか。

 幸い、それで対抗できない強さの奴は自分から追い出してくれたし!」

 ユリエルたちはどう強い駒で惑わされないように戦うかで悩んでいたが、発想を変えれば何のことはない。

 敵のボスを味方の幹部が倒さなければならないなんて、決まりはないのだ。

 雑魚ばかりに任せたって、目的が果たせればそれでいい。

 強さを見たところ、カッツ先生はレベル20にも届いていない。プライドンと一般兵士や冒険者たちは、20をちょっと超えた程度。

 虫たちの個々のレベルが低いとはいえ、ヒットアンドアウェイで疲れさせてからの数の暴力に対抗できる個の強さはない。

 それに、軍隊や兵法は基本的に人間や知能ある魔族に対抗するものだ。

 その縛りを超えた、人間からかけ離れて普段意識されていない駒を使った方が、かえって打ち破れる。

 酒に酔って知性を捨てたワークロコダイルが、それを教えてくれた。

 だからユリエルは、広い森にたくさんある藪から虫たちを代わる代わる出撃させ、妖精に姿を見せないよう支援させることにした。

 カッツ先生の能力は、カッツ先生が意識して話しかけた相手に、話しかけた内容についてしか作用しない。

 だから妖精たちは、姿を見せなければ安全に支援できる。

 ユリエルだって、言葉が届かない遠距離からならば……。


「貴様、フロアボスか何かか!?」

 攻撃のタイミングを窺っていたユリエルに、凛々しい男の声がかかった。

 単独で8階層への道を探っていたセッセイン家の騎士が、その近くに出てきていたユリエルを見つけたのだ。

「あら、思ったより早かった。

 でも、あなたの相手は私じゃない」

「何を……うおっ!?」

 騎士がユリエルを狙って広場に踏み込んだ途端、結界が広場を覆い、騎士を隔離して閉じ込めた。

 そして、その中にレジンが出現する。

「今回は狂化はなしよ、粘って弱らせて。

 そいつが生きてないと、あの弟君を持って帰らせるのが大変だから!ミンチにしないでよ」

「了解した、任せろ!

 こんなん、杏仙姉さんとの組み手と比べたら屁でもねえ!」

 ここは、レジンを倒さないと出ることができないボス部屋である。レジンがここで粘る限り、騎士は後方の戦いに戻る事ができない。

 ならば全力でボスを倒すのみと、剣を構えた騎士の後ろで……ドーンと大きな爆発音が響き、森に火の手が上がった。


 弱兵ばかり固まってしまったカッツ先生たちは、虫の大攻勢を食らっていた。

「殺虫剤の缶を置け、荷物でバリケードを作れ!

 騎士共、早く戻って来いやああぁ!!」

 カッツ先生が魔力を高めて拡声器を使って叫んでも、返事すらない。

 一番強い騎士はボス部屋に囚われているし、他のやや強い兵士たちも個々にオリヒメやワークロコダイルに倒された。

 カッツ先生から離れてしまった時点で、敵は洗脳を気にせず襲えるようになる。

 カッツ先生が、自ら洗脳が効く敵にチャンスを与えてしまったのだ。

 結果、頼れる戦力はもう戻ってこない。ここにいて防ぎながらも削られる弱兵ばかりで、何とかするしかない。

「畜生、こうなったらアレを使ってやる!

 本当はボス用に取っておいたものだが……弾は豊富にあるからな」

 カッツ先生は、ついに秘密兵器を使うことに決めた。

 カッツ先生だって、人の強さを超えたボス対策は一応考えていた。そしてそれは、虫と隠れ場所を焼き払うにも有効だ。

 カッツ先生の指示で、殺虫剤缶のバリケードで支えるように、バズーカ砲のようなものが組み上げられる。

 細かい魔法陣が彫り込まれた砲身の根元に、カッツ先生は火の魔石を押し込んだ。

「放て!!」

 カッツ先生が下がり、冒険者が魔力を流すと、ドーンと派手な爆音が響いた。

 砲口から大量の火花とともに火の玉が発射され、藪に着弾した途端に火柱を上げて大爆発する。

 巻き込まれた虫たちは、一瞬で消し炭と化した。

「見たか、人間様の知恵の結晶を!

 これで道を開いてやるぞ!!」

 カッツ先生は、これまでのやり返しとばかりに、ガンガン火砲を撃ち始めた。あっという間に、周囲の藪は焼き尽くされていく。

「ハーッハッハッハ!どうだ、手も足も出まい!

 こっちは安い火の魔石で、ここを焼け野原に変えてやるぞ!

 ……うおっ!?こりゃすごい威力じゃないか」

 さっきまでより一段と大きな爆発音に、カッツ先生はよろけてたたらを踏んだ。大きめの魔石でも混じっていたのだろうか。

 辺りには、蒸したような熱気が立ち込めている。

 と、森の中から撃ち返しのように小さな石のようなものが飛んできた。

「フン、こんなもので敵う訳がないものを。

 お返しだ、もっと撃ち込んでやれ!」

 カッツ先生は、発射役の冒険者に大きめの火の魔石を手渡した。冒険者がそれを装填し、魔力を流した次の瞬間……。


 ドッカーーーン!!!


 すぐ側で火山が噴火したかと思うような轟音とともに、陣地に爆炎がまき散らされた。砲身が、あまりに強い熱と衝撃に耐えきれず、破裂したのだ。

「ぎゃあああ!!?」

 バリケードで発射役をしていた冒険者は、火だるまとなった。

 そのうえものすごい火花の滝を浴びた殺虫剤の缶が、次々と誘爆を始めた。ボンボンと音を立てて、毒煙が上がり違法殺虫剤がまき散らされる。

 カッツ先生は考えていなかったのだ……缶の中身の違法殺虫剤は、火気厳禁の油に溶けている、引火性のものであることを。

 そんなものの上で火砲をバンバン撃ったら、事故は必然だ。


 もちろんユリエルはそれを知っていて、あえてそれを起こすよう仕向けた。

「火砲か……選択は悪くないけど、もうちょっと安全を考えよっか。

 こっちにはその威力を殺すものはないけど、高めるものならいくらでもあるし。せいぜい派手に自爆してちょうだい」

 カッツ先生が火砲を使うのを見て、ユリエルはとある物を投げ込ませた。

 火魔法の威力を上げ、それ自体も火と熱をわずかに発する、炎天の陽石を。

 それを、とあるイモムシの尻にねじ込んで遠距離から飛ばす。このシューターワームは、元は糞を鉄砲のように遠くに飛ばすアオバセセリの幼虫が魔化したものだ。

 もちろん言葉を解さないので、カッツ先生の言葉が届く範囲に入っても平気だ。

 さらにユリエルは、火炎地獄になっている陣地にビッグローチの大群を突っ込ませた。

 前の討伐隊がやられたのと同じ、ゴキブリ火計だ。油分の多いゴキブリが着火したまま敵にしがみつき、逃がさず燃やし続ける。

 もはや、討伐軍の陣地はあちらの処刑場になっていた。


「ぐわああっ……ハァッハァッ……熱い!

 早く火を消せ!誰か……僕を助けろおおぉ!!」

 カッツ先生は、火の海の中を腰を抜かして這いずっていた。

 水筒の中身を必死で飲みながら、助けを求めて声を張り上げる。しかし、もうその言葉を聞ける者はほとんど残っていない。

 爆発に巻き込まれて、冒険者と兵士の三割は死傷し動けなくなった。

 残りもほとんどが恐慌を起こし、そのうえ爆発音で耳が馬鹿になってしまい、言葉など聞ける状態ではない。

 燃えながら飛んでくる虫に貼りつかれて人間松明状態になったり、火の海から逃げて水だと思って分荼離迦に飛び込んで結局焼死したりする。

 そうではないわずかな者が、カッツ先生に従って火を消そうとしているが……。

「何で土をかけるんだよ!?

 火には水だろ、さっさと何でもいいから水かけろコラアァ!!」

 火元に土をかけている者たちに、カッツ先生は怒鳴りつけて水をかけさせた。

 すると、一部の火は消えたのだが……それ以上にバーンと火のついた油が跳ねてそこら中に降り注いだ。

 油火災に水をかけてはいけないという世の中の常識を、カッツ先生は知らなかったのだ。

「ぎゃああっ!!なぜだ!?どうして!?

 僕の言うことを、聞けよおおぉ!!」

 カッツ先生がいくら喚いたところで、事態は変わらない。

 四方から襲い来る虫たちに、言葉など通じない。火や油煙や毒ガスは生物ですらなく、そもそも操られる心を持たない。

「おかしい!!こんなの間違ってる!!

 こんなん兵法書に載ってなかったぁ~!!」

 カッツ先生は、恐慌を起こして泣き叫んだ。

 兵法があれば、兵法書の内容を実行していれば、何にでも勝てると思っていたのに。自分は、最強で天才のはずなのに。

 ……という前提が間違っていることに、カッツ先生はまだ気づいていない。

 カッツ先生の元の世界には、魔物もダンジョンも存在しなかった。その兵法はあくまで、対人間に限られたものだ。

 それが、言葉なきものを自在に操れる異世界で全部通じる訳がないのに。

 あまつさえカッツ先生は、異世界の全てを自分のための踏み台だと思っており、ありのままを見さえしなかった。

 結果、カッツ先生がいくら神から与えられた力を振るっても、もう聞いてくれる者はいない。

 さりとて、黙って隠れることもできない。

 こうなっては、いつどこから敵のボスが現れるか分からないから。

 カッツ先生は毒煙にむせ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、それでも見えない敵に向かってしゃべり続ける。

 真面目に己を鍛えも他者と絆を結びもしなかったせいで、もう自分を守れる手段がこれしかない。

 だが、それも終わりがやって来る。

 水筒の中身は空になり、カッツ先生の体に突如として裂傷が走った。

「ひいいっ痛いよ~!母上~!!」

 それを待っていたように、これまで周りを飛び回っていた虫たちがカッツ先生に群がり、毒針を突き立てた。

 そのあまりのおぞましさに、カッツ先生は気を失った。


 その頃、プライドンは既に穴の中で囚われていた。

 火砲の大爆発で硬直してしまったプライドンは、その隙に地中から出て来た虫に穴に引きずり込まれ、麻痺毒を打たれてしまった。

 それでも毒煙と火の雨から守られたのは、ユリエルに必要だからだ。

 レジン相手に粘っていた騎士も、こうなってはもう降伏するしかない。

 話を聞いてくれたらプライドンと共に領地に帰すというユリエルの言葉を信じざるを得ず、縄と麻痺毒にかかった。

 こうして、この戦いはどこまでもカッツ先生の自業自得で幕を下ろした。

 カッツ先生は、自分の能力で操りきれない強者を自分から引き離して、墓穴を掘ってしまいました。

 もしカッツ先生が彼らを自分から離さず固めておいたら、ユリエルは洗脳覚悟で大駒で突っ込むか多大な犠牲を払うかの二択を迫られていたでしょう。

 味方を敵視していたカッツ先生は、そこの正しい評価ができなかったのです。


 そして、カッツ先生と他数名が生け捕りにされました。

 次回、怒れる生徒と感動の御対面です。

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― 新着の感想 ―
小者過ぎてカタルシスが足りないぜ! でも防衛も保護も成功し、被害コストも少なくて良かったぜ!
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