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74.弱った獲物の行く末は

 ミエハリスVSユリエル、聖女と元聖女のガチバトル!

 自分たちの作戦により、徐々に追い詰められていく調査隊。苦し紛れの判断はさらなる窮地を呼び、調査隊は戦力を削がれていきます。


 そんな時に、すぐ近くに大将首が現れたら……

 勝利の可能性を信じた時点で、負けていた。


 今ユリエルが使えるものと、敵の攻撃手段を見直してみよう!

 調査隊は、進退窮まっていた。

「……まずい、もう水が残り少ないぞ。

 かといって、ミエハリスちゃんの魔力をこっちに割く訳にもいかん」

 さっき毒杏の罠にはまった一行は、食糧と水と拮抗薬をかなり失った。特に、汚物を洗い口をすすぐ水の消耗が激しい。

 もっとも、水ならミエハリスが魔法でたくさん出せるのだが……。

「くっ……こんなに水で洗っても、中まで毒が届きませんわ!」

 ミエハリスは、こんもりと茂る藪を前に苦しそうに顔を歪めている。

 この森は見た目にふさわしく、草木の間に大量虫が潜んでいた。そのため、また毒をまいて安全な道を作ろうとしているのだが……。

 虫の待機場所と思しき藪が、浄化できない。

 森のところどころに蔓が絡んだ藪があるのだが、その蔓と密集した葉が邪魔で内部まで殺虫剤が届かないのだ。

 ミエハリスの水魔法をもってしても、相当ぶつけないと危険を排除できない。

「こ、こんなの……そう何度もできませんわ!」

「先生、このままではまずいです。

 いっそのこと、素早く動いて次の階層への道を探した方が……」

 安全な道を作ろうとすると、それだけでミエハリスが魔力切れを起こしてしまう。

 この状況に、魔物学の教師は頭を抱えた。

(何てことだ……これでは、理事長たちの求めるものを何一つ探れんではないか!撤退の手段はある……あるがな!

 教師の私が、ユリエルごときに負けるなど、あってはならん!

 やったら破滅だ!!)

 転移の魔道具ですぐ帰れば、皆確実に助かる。

 しかし、その後が問題だ。

 専門家だと自信をもって立候補したのに目的を果たせなければ、自分はインボウズに無能の烙印を押されてしまう。

 そうなれば、一生底辺だ。

 しかも、自分を馬鹿にした生意気な生徒のせいで。

 魔物学の教師は、それを受け入れられなかった。

 ミエハリスも、孤児院出の野生児ごときに尻尾をまいて逃げ出すことなどできなかった。

 自分は、ユノの言うような世間知らずの役立たずなんかじゃない。思い上がって世に仇為す破門者なんかに負けたりしない。

 だいたい、学園でも聖女としての順位はミエハリスのが上だったのに。

「もう……冒険者たち、早く何とかしなさいよ!

 不測の事態を何とか切り開くのは、あなたたちの役目でしょ!!」

 またもキャンキャン喚くミエハリスに、冒険者たちは顔を見合わせた。

 本音を言えば帰還したいところだが、インボウズの機嫌を損ねたくないのは冒険者たちも同じだ。

「分かりました、周りに水場がないか探してみます。

 そこで水を補給し、ミエハリス様も水を操るだけなら魔力を節約できるかと」

「ええ、頼みましたわ!」

 そうして、調査隊は殺虫剤を浴びせた冒険者を半分、水場探しに送り出した。この階層も虫以外に大した脅威はないだろうと踏んで。


 パーティーを離れた冒険者は、広い森の中に散っていった。

「はぁ……水場、あってくれよ」

 水が残り少ないと分かっていても、汗は止まらない。むしろ水を意識するほど、小便がしたくなるのに喉が渇く。

 そんな冒険者の目に、キラキラと輝く水面が映った。

「み、水だ……!」

 白い蓮の花が咲く、透き通った美しい泉があった。

 冒険者は吸い寄せられるように脇目も振らずに駆け寄った。そして、さっそく飲もうと身を屈めた途端……。

「てやぁー!」「えーい!」

 後ろから聞こえて来た声に、反射的に振り向いてガードした。次の瞬間、ドシンと重いものがぶつかってきた。

 その姿を見て、冒険者はぎょっとした。

 相手は、上半身はピエロのような服装の少年少女、下半身は毛虫の化け物だった。

 冒険者は何とか踏ん張って反撃しようとしたが、できなかった。後ろによろけた体に、何かが巻き付いて引きずられる。

「な、何……あっづぅ!?」

 倒れ込んだ先は、水などではなかった。澄んだ水の代わりに燃え盛る炎が、冒険者の体にまとわりつく。

 冒険者は、必死で叫んで助けを求めようとした。だがその声は水の中のようにくぐもって、遠くに届かない。

(ぐっがっ……ほどけねえ……力が、入らねえ……!)

 逃れようともがいても、なぜか足腰に力が入らない。いつもならこの程度の拘束、引きちぎれるのに、抵抗できない。

 そのうち、駄目押しのようにナイフが降って来て体に刺さった。

「やった、討ち取ったぞ!」

「やーん、分荼離迦ちゃん優秀~!」

 偽りの水面から冒険者の手が出て来なくなると、半人半虫の化け物、ケッチとミーは楽しそうにハイタッチを交わした。


「……戻ってきませんわね」

 ミエハリスたちは、しばらく不安に耐えて待っていた。約半数の冒険者を送り出したが、誰も帰ってこない。

「殺虫剤をかけたから、虫は襲って来ないと思うが……まずいな。

 もしや、ワークロコダイルでも出たか。いやしかし、あいつらのレベルならそう簡単に負けることはないはず……」

 その時、少し離れた場所から叫び声が響いた。

「ぎゃあああ虫が!!」

「ワークロコダイルと……ユリエルなのか!?」

 冒険者の声に混じって、聞き覚えのある女の声も。

「滅べや強盗が!!」

 その声に、魔物学の教師とミエハリスは顔を見合わせた。間違えようもない、このよく通るアルトの声。

「ユリエルが、そこにいますの!?」

 学園で、特にミエハリスはよく同じ教室で聞いた声。その時も、そして今も、邪悪で忌々しい虫と共にある。

 調査隊は、弾かれたように走り出した。

 こんな所までユリエルが出張って来るとは予想外だが、好都合だ。直接会って話を聞けば、何か分かるかもしれない。

「フ……フフフ、虫が使い物にならず自分が出るしかなくなったか。

 やはり私の作戦は、間違っていなかった!!」

 魔物学の教師は、勝ち誇ったように笑った。

 効率的に手足をもいで群れのボスをおびき出すのは、魔物学の得意とするところだ。はやりユリエルも魔に堕ちた以上それに屈するしかないのだと。


 調査隊がかけつけると、先行した冒険者たちは既に倒されていた。血だるまのからだに、びっしりと虫がかじりついている。

「なっ……さ、殺虫剤は!?」

「何言ってるのよ、私は解毒魔法を使えるわ」

 広場狭しとひしめく虫たちの中心に立つ、見たこともない服装の女。妖しくうねる長い髪と、色鮮やかなチューブトップドレス。華やかな金色の冠。

 だがその顔は、とても見覚えのあるものだった。

「ユリエルちゃん……か?ずいぶん雰囲気が変わったな」

「まあ、邪淫にふさわしくなりましたこと!

 身も心も、魔に染まったってことですわね」

 ミエハリスが侮辱すると、ユリエルは平然と言い返した。

「ええそうよ、魔王軍の方からもらったの。いいでしょ?聖女服以外の全てを奪うばかりの教会とは、えらい違いよね!」

 ユリエルはそう言ってスカートをつまみ、見せつけるようにくるりと回ってみせた。

 それを見て、魔物学の教師はごくりと唾を飲んだ。

 今ので、ユリエルが魔王軍の支援を受けているのは確定した。しかしそこに邪神が含まれているかは、まだ分からない。

「それは、邪神に仕える巫女服か何かかね?

 それがあれば、聖呪も怖くないってか?」

 魔物学の教師が挑発的に尋ねると、ユリエルは余裕の表情で首を横に振った。

「ううん、これは違う……カルメーラ様のとこのとは、関係ない。

 でも、今の私に聖呪なんか通らないわ!冤罪で陥れてそれで神に殺させるなんて、そんな横暴が通ると思わないで!」

 魔物学の教師は、ぐっと眉間にしわを寄せた。

 ユリエルの言葉を信じるなら、一応インボウズからの課題は達成した。しかしユリエルが本当のことを言っているかは分からないし、聖呪が効かない原因は分からないままだ。

 今撤退しても、インボウズを怒らせるだけの可能性が高いし、街も守れない。

「……素直にからくりを吐けば、今は見逃してやらんこともないぞ」

 魔物学の教師が脅しをかけると、ユリエルは挑発的に返した。

「誰が教えるもんか!

 そうね……話すとしたら、決着がついてからよ。

 あなたたちこそ、私の純潔を認めて許しを乞うなら命だけは助けてあげるわ。今なら痛い目を見ずに済むけど、どう?」

 ユリエルの言葉に、ミエハリスは毅然と言い返した。

「そんな誘惑には乗りませんわ!

 罪には罰を、嘘をつく舌は抜き、悪には鉄槌を!

 わたくしが信仰と正義をもって、あなたを打ち据えて差し上げます!!」

 堂々と言い切って杖を構えるミエハリスに、ユリエルは酷薄そうに笑った。

「それ、どっちのセリフだろうね。……生かさなきゃ、分かってもらえないんだよなぁ」

 ユリエルの闘志に応えるように、虫たちがブウッと羽音を立てて飛び立つ。全く逆の世界を見ている、聖女と元聖女が激突した。


 ザアアッと豪雨のような音を立てて、虫たちが襲い来る。見たこともない大群に、ミエハリスは鳥肌が立った。

「負けませんわぁ……アクアスプラッシュ!」

 だが己を奮い立たせて、殺虫剤を混ぜた水を全方位にまき散らす。

 しかし、虫の大半がそれを突き抜けて来た。アサルトビーの針が、カメムシの刺し口が、甲虫の大顎と体当たりが一行を襲う。

「がはっ!つ、使い捨てにする気か!?

 味方の命をいとわぬ……ぐっ……数の暴力!虫の真骨頂だ!」

「じゃあどうするんですの!?」

「このまま浴びせ続けろ、敵は無限じゃない!」

 調査隊はミエハリスを中心に円陣を組み、冒険者が肉壁となって虫を防ぎ、神官たちがそれを回復する。

 殺虫剤が効いてくるまでの辛抱だ、と思っていた。

 しかし突撃してきた虫の大部分はふらつきながらもユリエルの側に戻り、そこでユリエルが回復と解毒を行う。

「エリアヒール!エリアキュアポイズン!

 まだまだやれるわよ!」

「はぁ!?癒しを何だと思ってますの!」

 突撃して来るそばから毒を浴びせても、何度でもユリエルの側に戻って回復してしまう。それでも少しずつ減ってはいるが、予想ほどではない。

「チッ、癒しを何とかせねば!

 冒険者共、ユリエルを止めろ。ミエハリスはもっと毒をまけ、ここで使い切って構わん!」

 魔物学の教師は、マジックバッグから次々と殺虫剤の缶を取り出した。

 ミエハリスは集中して魔力を練り上げ、缶の中の殺虫剤をたっぷりと混ぜた水の槍を作り出す。

「道を開きますわ!

 いきますわよ……アクアスプラッシュ!!」

 ミエハリスが毒水の槍を射出すると同時に、冒険者たちの一部がその後について走る。この毒水の槍こそが、虫の弾幕を破るユリエルへの道だ。

 ……が、それがユリエルに届く前に揺らぎ始めた。いきなり形が崩れて毒水がボタボタと垂れ始め、冒険者に降り注ぐ。

「うわあ、何するんだ!?」

「そんな!もう一度!」

 ミエハリスは慌てて冒険者を水で洗い、その水で崩れかけた矢を押し上げて強引にユリエルに向かわせる。

 しかし、それもすぐに崩れ始めた。

「フン、こんなもの……ファイヤーアロー!」

 不安定に速度を落とした毒水の矢に、ユリエルが真っ向から火の矢をぶつけた。本来水に弱いはずのそれは見事に毒水の矢を止め、盛大に水蒸気爆発を起こした。

「ぶびゃあああ!!殺す気か!?」

 飛び散った毒水は再び冒険者にぶっかかり、その体を黒く汚していく。

「ああっ何やってんだ!!拮抗薬にも限度があるぞ!」

 魔物学の教師と冒険者たちに責められて、ミエハリスはぎりっと奥歯を噛みしめた。いつもあんなにうまくいく魔法が、今日はなぜこんなに言うことを聞かないのか。

「分かってるわよ!やります!やりますわ!!」

 がむしゃらに魔力を放つミエハリスを、ユリエルが煽った。

「ヘイヘイ実戦ビビッてる!

 大人しく回復しといた方がいいんじゃない?」

「そんなこと……ありませんわあああ!!」

 ユリエルに馬鹿にされて、ミエハリスはさらに冷静さを失った。もう、今果たせない役目を果たすことしか考えられない。

 そうしている間にも、突出したうえ毒を浴びた冒険者たちはワークロコダイルにさんざん殴られているのに。

「ぶっ……おえっ!ち、力が入らねえ……!」

「ぎゃあ!こんなはずじゃ……うごっ!」

 ワークロコダイルのレベルはそれほど高くなさそうなのに、冒険者たちの動きは精彩を欠き防戦一方だ。

 そのうえ、息が上がって涙と涎を垂らしている。

「何よ、あなたたちこそ無様ねえ。

 まあいいわ、ワークロコダイルにもたっぷりと毒を浴びせて……」

 自分を責めた冒険者たちの失態にさらに苛立ちながら、ミエハリスは全身の魔力を振り絞って巨大な渦巻く水球を作り上げた。

 だが、またしてもそのコントロールが乱れた。

「な、何!?くううっ負けませんわああ!!」

 それを押し止めようと、ミエハリスは体が震えるほど力を込めた。底をつきかけた魔力を無理に絞り出し、ミエハリスの目が血走り鼻から血が垂れる。

 極度の集中状態にあるミエハリスの耳に、小さなクスクス笑いが届いた。

「アハハッもう少しだー!」

「誰があれを崩せるか、競争だー!」

 四方八方から聞こえてくる、いたずらっ子のような笑い声。

 はっと気づくと、たくさんの妖精たち……パックやピクシーが遠巻きに集まっていた。そして手に手にパチンコを持ち、小さな何かを飛ばしてくる。

 それがミエハリスの水球に触れると、水球がぐわんと揺れ、飛んできたものはピシッと音を立てて砕け散った。

「な、何だこれは……魔道具おぶううぅ!?」

 魔物学の教師が正体にたどり着く前に、ミエハリスの水球が崩れて頭上から降り注いだ。

「かはっ……う、嘘よ……!」

 魔力を使い果たしたミエハリスは、その場に崩れ落ちた。

「おい、おまえ聖女だろ、癒しを……ゴフッ!」

 冒険者たちは助けを求めながら、次々と虫やワークロコダイルの手にかかっていく。

「あーあ、だから回復しとけって言ったのに」

 ユリエルは、その光景を気の毒そうに見つめた。

 さっきから妖精たちに投げ込ませているのは、水魔法を減衰させる干天の輝石。癒しを妨害はできない。

 ミエハリスが意地を張らずに回復に専念すれば、ここまで総崩れにはならなかっただろうに。

 もはや、ミエハリスは魔力切れで使いものにならない。魔力回復薬があっても、ここまで消耗してしまうとすぐ元には戻らない。

 神官たちだってもう魔力が尽きかけているし、それに……。

「おい、早く回復せんか!!」

「ひぃっ……あ、あわっ!」

 魔物学の教師がすごむと、神官の一人がぶるっと体を震わせ、しょわっと股間に黄色いしみを作った。その顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。

「貴様ああ!!何ふざけてるんだ!?

 貴様のようなたるんだヤツのせいで!」

「たるんでないよ。中毒してるだけ」

 キレ散らかす魔物学の教師に、ユリエルが淡々と突っ込んだ。

「なっ……ち、中毒?貴様、また何か仕掛けて……!」

「まあ私もやったけど……大半はあなたのせいでしょ。むしろ、私は助かったわ。おかげで冒険者も楽に殺せたし。

 先生、まさか殺虫剤の中毒症状を知らないんですか?」

 ユリエルの言葉に、魔物学の教師はざぁっと青ざめた。

 この違法殺虫剤が人体にもよくないのは、分かっていた。しかし拮抗薬があるからと、症状を詳しく学んでいなかったのだ。

「涙や鼻水や涎や汗……とにかく液体が出やすくなって、下も出すのを我慢しづらくなって、力が出なくなる。

 完っ全にそれの中毒じゃない。

 なのに解毒もしてもらえなくて、かわいそうに!」

 ユリエルは、哀れっぽく言った。

 神官や冒険者たちが満足に戦えなかったのは、殺虫剤の中毒が原因だ。6階層で専用の拮抗薬を飲まずにそれを浴びたため、通常量の拮抗薬で対処できる量を越えてしまったのだ。

 しかし運悪く……あるいは運よく毒杏に当たってしまったミエハリスと魔物学の教師は、その時点で解毒して拮抗薬を飲み直せた。

 代わりに毒杏に当たらなかった者は、中毒に気づかず戦わされた。

 それが、調査隊の敗因だ。


 魔物学の教師にその全貌は分からなかったが、とにかく勝ち目がなくなったことは理解できた。

「くっ……ここまでか!」

 魔物学の教師は、ついに転移の魔道具を取り出した。

 学生ごときにしてやられたのは腹立たしいが、命あっての物種だ。こうなったら、評価も戦果も捨てて逃げるしかない。

 だが、その体が突然動かなくなった。

 気が付けば、手足と首に白い糸が巻き付いている。

「悪あがきはよしな。

 あんたの転移と、あたしの糸が首を折るのと、どっちが速いかねえ?」

 ねっとりと艶やかな声とともに、オリヒメが姿を現した。

 マリオンからの知らせで調査隊が撤退の手段を持っていると知ったユリエルは、戦い始めた時からそれを警戒していた。

 オリヒメを妖精に気配を隠してもらって、ずっと教師の近くに伏せてあったのだ。

 結果、こうして魔物学の教師の転移を阻止するに至る。

 しかし、生きようと足掻く冒険者がそこに突っ込んだ。オリヒメは魔物学の教師を盾にするも……。

「ぎょえええ!!?」

 冒険者は、なんと魔物学の教師の手を斬り裂いて転移の魔道具を奪った。

「ふざけんな、割に合わねえ!

 おい魔女、てめえを害さなきゃ見逃してくれるんだよな!?もう二度と来ねえよ!!」

 魔物学の教師とミエハリスに失望した冒険者の生き残りが三人ほど、捨てゼリフを吐いて自分たちだけ転移してしまった。

 これで、魔物学の教師とミエハリスと神官たちは取り残された。

 退路は難路、行きと違って守ってくれる冒険者はいない。頼みのミエハリスは魔力切れで、もう戦えない。

「それで、どうするの?」

 ユリエルがワークロコダイルたちと共に踏み込むと、神官の一人が弾かれたように土下座して叫んだ。

「ひいいい!認めます、ユリエル様は純潔です!!

 だからどうか、命だけは!!」

「よろしい、キュアポイズン」

 命乞いを受け入れたユリエルは助ける証に、その神官を解毒してやった。

「おい、何やってんだ!破門者ごときに……」

 魔物学の教師はまだ拒もうとしたが、他の神官たちが逆に言い返した。

「こんな状況で意地張ったって、死ぬだけじゃないですか!先生だって戦えないくせに、死にたいんですか!?」

「命さえ助かれば、誰かが助けに来るかもしれないし」

「命がかかってるんですよ!信仰は取り戻せても、命はなくしたら戻って来ません!」

 神官たちに口々に言われて、魔物学の教師もついに折れた。

「ぐぬううぅ……だが、助かるにはそれしかないか。

 分かったよ、うなずきゃいいんだろう。ユリエルは純潔だ!」

 後は、真っ青な顔をして倒れたままのミエハリスだ。ミエハリスは意識もはっきりしないようだが、破門者に決して屈しまいと口をつぐんでいる。

 だが神官の一人が、ミエハリスに助け舟を出した。

「ミエハリス様を殺したら、この国の多くの貴族を敵に回しますよ!無駄に殺したくないというなら、行動で見せてください!

 それに、罪が偽りと言うなら、証人は必要でしょう。

 冤罪が晴れる日なんてものを望むなら、生かして証拠を見せてください!」

「ふーん、まあ一理あるわね。

 どのみちダンジョンに捕らえておくなら、もう反撃なんてできないし」

 ユリエルは少し考えて、ミエハリスも生かしておくことにした。

 殺したら、もう考えを変えることはできない。この高慢ちきな八方美人が、真実を知ったらどんな顔をするか、見たくなったのだ。

 降伏した調査隊に、オリヒメが逆らえないよう糸をかける。

 こうして、調査隊はユリエルの策と自らがまいた毒に敗れ去った。

 干天の輝石と分荼離迦、魃姫からもらったものがさっそく役に立ちました。

 さらに新しい服のおかげで、妖精たちに細かい指示を出せるようになりました。


 殺虫剤は、有機リン系をイメージしています。

 涙と涎でぐちゃぐちゃになってお漏らしをするのは負けシーンの定番ですが、この農薬中毒でも似たような症状が出ます。見た目のせいで味方から誤解されるのが最大のダメージかもしれない。


 そして、久しぶりに敵を捕獲することになりました。

 これはユリエルに、何をもたらすのか……。

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― 新着の感想 ―
これがテンプレ(?)魔族反逆ものなら、捕虜は洗脳して魔物化が相場だが…。 まあ、牧場で飼育でDP稼ぎの畜生にするのが無難かな?
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