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虫愛でる追放聖女はゲテモノダンジョンの妖精王となりて  作者: 青蓮
第1章 ダンジョンマスターへの道
7/114

7.迎撃~ゴミは資源です

 ガチ戦闘回!クズ冒険者共と、アラクネちゃんを巻き込んで対決!

 血生臭いシーンが多いです。

 制圧して虐げるのに慣れちゃうと、相手の本当の強さを忘れちゃうことってあるよね。

 翌日の朝、ユリエルは上機嫌で森の中にいた。

 ダンジョンの入口から少し離れた森の中で、大グモや大ムカデたちに穴を掘ってもらう。そして、そこに昨日手に入れた生ゴミを放り込む。

 さらのその上から、ゲースが持ち込んでいた酒をドバッとふりかける。

「虫さんホイホイ、完成~!」

 ユリエルは昨日手に入れたもので、さっそくさらなる虫を呼び込む仕掛けを作っていた。ここに集まる虫たちも、もちろん仲間に加えるのだ。

 虫は、一匹では弱い。

 虫けらなんて言い方のように、プチッと潰されて終わり。

 一種類でも、対策されれば弱い。

 虫はそれぞれに特徴ある体や攻撃手段を持っているが、その尖った部分が通用しないと弱者にしかなれない。

 だから、できるだけ数を多く。

 そして種類も多く、多様性を持たせて。

 たとえ一匹では弱くても四方八方から襲い掛かり、多種多様な攻め方で対策の穴を突いていけば、虫けらだって勝てる。

 だから、もっともっと虫を集めなければ。

 ……ただし、そのための資材は十分とは言いがたい。

 ユリエルは元々食べ物をそれほど持っていなかったし、ゲースの残り物はユリエル自身が食いつなぐのに必要だ。

 そんな事情なので、昨日の生ゴミには心から感謝した。

 農家にしてみればゴミでしかなくても、ユリエルには立派な資源である。

 いらないと思っても、考えれば使い道はあるものだ。

「さて……今日来るゴミ共は、どれだけ有効に使えるかしら?」

 ユリエルは残酷な笑みでそう呟きながら、ダンジョンに戻った。おそらく今日訪れるであろう、社会のゴミに対処するために。


「お帰りなさい、ユリエル」

 ダンジョン二階層に新しく作った小部屋で、アラクネは虫たちにまみれて待っていた。

 ここは、虫たちの魔物化を待つための部屋。コアルームに続く一本道から、分かりづらい所で分岐させて隠し部屋のように作った。

 そこには、ユリエルがこれまで連れて来た虫たちがうじゃうじゃと集められていた。

 もちろん、昨日ユリエルが連れてきたアシナガバチも飛び回っている。ダンジョンに入った途端に配下にしてもらったので、今はユリエルを襲わない。

「もー、昨日はびっくりしましたよ!

 いきなりあんなにハチに追われてくるんですから……。

 仲間が増えるのは嬉しいですけど、あんまり無茶しないでください!あなたが死んだら、あたしは……」

 アラクネは、本気で心配している。

 もし今ユリエルが死んでしまったら、自分はどうなるのかと。

「あなたには感謝してますけども、ゲースがここで死んだのはなかったことにできないんですから!

 もしその罪を着せられたら、あたしは……!」

「うん、相当責められるだろうね」

 ユリエルは、事も無げに言う。

 もし戦力が整う前に、教会に宣戦布告する前にユリエルが倒れることになれば……アラクネの監視をしていたゲースがここで死んだ事実だけが残る。

 これはアラクネにとって、非常にまずい。

 反逆罪でこれからは動けないように拘束されるか、最悪処分されるかもしれない。

 ゲースが死んだ時点で、アラクネが元のような生活に戻る道は断たれた。

 もっともユリエルには、最初からそうなると分かっていた。分かったうえでアラクネ自身に助けを求めさせ、自分を裏切れないようにした。

「だからこれからは……アラクネちゃん自身のために、頑張って戦ってね!」

「うう……卑怯ですよぅ!」

「人間は卑怯なものです。知らなかったの?」

 ささやかに抗議したって、アラクネの状況は変わらない。

 アラクネは、不安そうに己の体を抱いた。美しいビキニアーマーの間に、見事な谷間ができた。

 アラクネがビキニアーマーを着ているのは、これから戦うから。これからはアラクネも、傍観者ではいられない。

 今日訪れる敵は、ユリエル一人で倒すには厳しい。

 奴らを一人も帰さぬために、アラクネも一緒に戦わねば。

「……来た!」

 にわかに、アラクネの目が鋭くなった。

 ダンジョンマスターとして、敵の侵入を感知したのだ。

「じゃ、アラクネちゃんはコアルームで待機。それから、配下を集めて例の仕掛けをお願いね。

 私は気を引いて、適当に反撃しながら向かうから。コアルームに着いたら……アラクネちゃんの初陣、期待してるよ!」

 ユリエルは落ち着いた声でそう言って、ダンジョンの一本道に姿をさらした。


「さーて、ゲースはよろしくやってっかなー!」

 ダンジョンの一本道を、大きな荷車を引きながら進む三人の男がいた。装備のボロさも表情の下品さも、ゲースと似たようなものである。

 この三人は、ゲースといつもつるんでいる冒険者仲間だ。

 ゲースが慰みも兼ねて受けているアラクネの監視を補助するという名目で、教会から捨扶持をもらって生きている。

 今日は、そのための水と酒と食糧を届けに来たのだ。

 ただし、一人分にしては量が多い。

「ぐへへ……結局、ただで好きなだけ揉める乳はここにしかねえんだよな」

 一人がだらしなく鼻の下を伸ばして呟く。

「おうよ、ここならいくらやっても誰にも怒られねえ」

「街の酒場はシケてやがるし……あのネーチャン、ちょっと親しくしただけで衛兵呼びやがって!」

 仲間の二人も、うんうんと賛同する。

 そのうちの一人は、忌々し気に顔を歪めてハゲ頭に手をやった。大きなたんこぶができ、内出血が垂れて顔に青あざが広がりつつある。

 こいつらも結局、街でまともな女にしてもらえず、アラクネ目当てなのだ。

 ゆえに、荷車には四人で数日分の物資が積まれている。

 それでもダンジョンの中を進むには問題ない。元々人と荷物が通り抜けやすく整備されているし、光魔法を込めた教会のお札があれば虫モンスターは襲ってこない。

 これまでにない邪魔がなければ、大丈夫だったのだ。


「お……あいつは」

 先頭を行く一人が、道の途中にいる場違いな人影に気づいた。

 剥き出しの岩肌に、疲れたように身を預ける一人の女。聖女のローブは少し土で汚れ、可愛らしく主張する胸の中央には黒く染まった聖印章。

 それを見た途端、男たちの鼻の下がさらに伸びた。

「おい、あれって噂の……」

「ああ、破門聖女だ!ギルドでも噂になってたぞ!」

 男たちの目が、みるみるギラギラと輝く。

 破門されたということは、何をされても文句を言えない人でなし。この好色な下種共がこういうものを見つけたら、考えることはただ一つ。

「こいつはツイてる!今日はもう一人楽しめるぜ!」

「おうおう、俺らの性剣で魔女退治といくか!」

 三人は、ニヤニヤ笑いながら女に近づいた。

 すると、女ははっと男たちの方を見て、焦たように立ち上がった。

「なっ……冒険者!?」

 思わず後ずさりする女に、三人はそれはもう気持ちよく言い放つ。

「もう逃げられねえぜ、清純な顔して男を騙す邪淫の魔女が!俺たちが、天に代わってお仕置きだ~!!」

 女は怯えたように腰を引き、いかにも清純そうに助けを求める。

「私、そんな罪犯してません!まだ処女なんです!!

 お願い信じて……見逃して!!」

 しかし男たちには、そんな訴え何のそのだ。

「へっへっへ……分かってるぜ、そうやってまた騙すんだろ?」

「分かってるんだよ、女どものやり口は!身も心も壁みたいに塗りたくって、年も本心もごまかしてやがる!!」

「なら本当に処女か、確かめてやるよ!」

 ……これは男たちの実体験でもあるので、一概に悪いとは言い切れない。

 中年になっても自堕落でうだつの上がらない彼らは、非モテと金欠ゆえに怪しいお店や娼婦に手を出し、騙されてきた経験があるのだ。

 結果、今では女とはそういうものだと決めつけている。

「……ま、本当に処女だったら儲けモンだな」

「お、なら最初はよこせや!」

 もっとも、こんな性根だからモテないのだが。


「そっか、じゃあ……私も自分を守らせてもらうよ!」

 ユリエルは闘志を燃やして、短弓に矢をつがえた。

 ダメだろうと思っていても、つい心のどこかで望みをかける自分を叱りつけながら。もし信じて見逃してくれたらと、考えてしまう自分を。

 だが、この下種共は思った通り襲い掛かってきてくれた。

 ユリエルは、本当のことを言って助けを求めた。なのにそれを嘘と一蹴して嘲笑い、無実の人をいいように犯そうとしている。

 だからこいつらは、社会のゴミ。

 正当防衛で、掃除しなくては。

「せーい!」

 突進してくる男どもに、まずは短弓で矢を射かける。

「なっ!しゃらくせえ!」

 矢は、男の一人が盾で防いだ。しかしそうして足が止まった隙に、ユリエルは火魔法を放って他の男を狙う。

「ファーヤーボール!」

「あっづうう!?」

「うぉっ危ねえ!!」

 一人が腕で受けて尻餅をつき、もう一人が大きく飛びのいた。そこを狙って、さらに矢の追撃。一人の足を射る。

 だが、追撃はそこまでだ。

「このクソアマぁ!!」

 盾を持った一人が、ユリエルに肉迫して剣を振りかざした。ユリエルは火魔法で敵の動きを止めると、自分に身体強化をかけて奥へと走り出す。

「くっ……三人いるとやりづらいわね!

 あっでも、下にはゲースが……くっそ!」

 盾を持った一人がそのまま追おうとしたが、仲間に止められた。

「焦るこたねえ、三対一だ」

「囲んでやった方が、無駄に怪我しねえで済むぞ」

 男たちは落ち着いて荷車から回復薬を取り出し、傷口にかけた。たちまち痛みが引き、傷が塞がって出血が止まる。

 戦うつもりではなかったが、彼らも冒険者だ。備えはある。

 それに、ユリエルはたった一人で、こちらは下にいるゲースも入れれば四人。どうせ下に出口はないのだから、逃がさないようにじっくり追い詰めればいい。

 三人は荷車を置いて、若干前のめりになってユリエルを追いかけ始めた。


 だだっ広いコアルームで、アラクネは冒険者たちの情報を見ながらじっと待っていた。ダンジョンに入ってきた当初は、こんな感じである。


 名前:バカッス

 種族:人間 職業:戦士

 レベル:18 体力:340 魔力:20


 名前:アホウス

 種族:人間 職業:盗賊

 レベル:17 体力:270 魔力:70


 名前:ノータリン

 種族:人間 職業:重戦士

 レベル:17 体力:250(/320) 魔力:20


(……何で戦う前からダメージ受けてんの?)

 アラクネは、静かに心の中で突っ込んだ。

 そのうちユリエルとの戦闘が始まったらしく、三人の体力が少しずつ削られていく。最初のダメージはすぐ回復されてしまったが、その後も少しずつダメージが入っていく。

 さすがのユリエルも、三人相手では遠距離攻撃を放ちながら逃げるしかないようだ。

 一人ならただのゴミでも、数が揃うだけで抗うのも難しくなる。

(……だからこそ、あたしが……!)

 アラクネは、胸に手を当てて深呼吸した。

 思えば、人間と戦うなどいつぶりだろう。マスターになってすぐこてんぱんにやられて、教会に服従を強いられて以来だ。

 そのため、アラクネ自身も自分の強さがよく分かっていないところがある。

 それでも、もう後には引けない。ユリエルの手を借りた時点でそうなっていたし、それも自分が心から助けを求めてのことだから。

(戦うんだ……今度は、あたしが守るんだ!)

 怖いし、不安ではある。

 それでも、嘆いて他人を頼ってばかりではいけない。せっかく解放されて恨みを晴らしてもらったのに、他力本願のまま死ぬのは情けなさすぎる。

 アラクネは勇気を振り絞って、コアルームの入口をしかと見据えた。


 そのうち、ユリエルと下種共がコアルームに駆け込んでくる。ユリエルが悔しそうに弓を構えるのに対し、男どもは盾持ちの重戦士が入口を塞いで他がじりじりと迫っていく。

「おいゲース、獲物だ……って、寝てやがる!!」

 男どもは、アラクネの前に散らばった酒瓶と盛り上がった毛布を見て呆れて叫んだ。

 そして、アラクネに目をやってさらに驚いた。

「うおおぉい!!そのビキニアーマー……まさか、ゲースが!?」

 アラクネは、恥じらうようにもじもじと言った。

「あ、あの……これは、もらったんです!やっぱりおまえの乳が一番だから、今日から俺の嫁だとか……。

 で、着てみたら大騒ぎし出してすごい勢いで飲み始めて、その……飲みすぎと抜きすぎで倒れちゃって……」

「ゲースううぅ!!」

 この最低な作り話を、男どもはすっかり信じてしまっている。

 ゲースの日頃の行いと評価が知れようというものだ。

「くっ……ゲース、そうか……幸せだな!人間は諦めたんだな!」

「なら、起こすのは野暮だ。この女は俺たちでいただく!

 おいアラクネ、教会を敵に回したくなきゃ、手伝え!!」

 ゲースの参戦を諦めると、男どもはアラクネに味方するよう怒鳴った。完全に、アラクネを家畜か何かだと思っている。

「ええ……でも、その人は聖女……」

「うるせえ、破門されてんだよ!分かんねえか!!」

「でも、人間を攻撃するのは……」

「ああん、俺らに逆らうか!何ならこの女を痛めつけて、それをてめえが勝手にやったことにしてもいんだぜ!?」

「黙って言う事聞きゃいいんだよ、糸しか価値のねえ置物が!」

 あまりな罵倒と脅迫に、アラクネは怯えた表情で近くにあった手斧を拾った。そしてそれを振り上げ、ヤケクソのように叫びながらユリエルに突進する。

「う……ああ……わあああぁ!!!」

「そんな!?」

 思わぬ背後からの突撃に、慌てて振り返るユリエル。そこに、男二人が逃げ道を塞ぐように突っ込んだ。


 だが次の瞬間、ユリエルはアラクネの方に身体を投げ出した。ぴったりと地面に張り付き、両手で頭を守る。

 たちまち、その上にアラクネが走り込んだ。

「あっこら……!」

「潰すなよオイ!」

 ぶつかりそうになって止まった男の一人めがけて、アラクネが手斧を振り下ろした。あっという間に、一人の肩から胸にかけてざっくりと刃が食い込む。

「キィエエエ!!!」

 一人を斧で引きずったまま、アラクネは止まらない。行きがけの駄賃とばかりに、もう一人を強靭な脚で切り裂く。

「ぐわああっ!?」

「バカッス!アホウス!……どうなってやがる!?」

 思わぬ展開に目を白黒させるノータリンの前で、アラクネは力任せに斧を振り下ろした。バカッスが、大量の血しぶきとともに地面に叩きつけられる。

 そしてアラクネが通った後で、ゆっくりと起き上がるユリエル。

「残念、アラクネはもう奴隷でいたくないんだって。

 悪徳教会に復讐するために、今は私の味方だよ!」

 アラクネがユリエルに被さって守りつつ、下種共に不意打ちを食らわせる……これは、初めから示し合わされた動きだった。

 誇りを持って寄り添う二人の足下で、バカッスが信じられない顔のまま息絶えた。


 この逆転劇に、男どもは総毛だった。

 今ので一人は死に、一人は手負い。そのうえあのアラクネは、認めたくないが自分たちよりずっと強かった。

 アラクネは、見たこともない怒りに牙をむいて言う。

「これまで……さんざんいいようにしてくれたねえ!

 八つ裂きにしてやるよ!!」

 閉ざされた空間をビリビリと震わす怒声に、男二人は震え上がった。自分たちがこれまでしてきたこと、街の女たちの反応を考えれば……。

「うわあああ!!頼む、起きろゲース!!」

 アホウスは半狂乱になって、盛り上がった毛布に走る。ゲースを加えて三人で戦えば、きっと何とかなると信じて。

 だが、毛布をはぎとった下にいたのはゲースではなかった。

「げえっ!?」

 毛布の下には、大グモと大ムカデの塊が蠢いていた。あっという間にアホウスは大ムカデに巻きつかれ、大グモに噛みつかれる。

「アホウス!!……くそっどけ!!」

 急いでアホウスを守ろうとするノータリンの前に、アラクネが立ち塞がる。そこにノータリンは、何か小さなものを投げつけた。

 次の瞬間、アラクネの上半身を炎が包む。

「虎の子の火の魔石だ!どうでえ……」

「ふーん、ぬるいねえ」

 火が消えた時、アラクネは相変わらず立ち塞がっていた。火を受け止めたであろう腕がわずかに赤くなり、髪が少しチリチリしている程度だ。

「あ……あ……そうか、炎玉のビキニアーマー!」

 ノータリンも仲間として、このビキニアーマーのことは散々聞かされてきただろう。切り札が通じないと分かると、みるみる顔が青ざめていく。

「こ、んな……馬鹿な……やってられるか!!」

 ついに、ノータリンは一人で逃げ出してしまった。

「ま、待ってくれよ……ぐえっ……置いて、行かないでくれ!!」

 大量の虫にたかられてのたうつアホウスに、ユリエルがそれはいい笑顔で問う。

「死にたいですか?もう少し、生きたいですか?」

「い、生ぎだいです!!お願いじまずぅ!!」

 アホウスは気が狂いそうな恐怖と痛みの中で、ついそう答えてしまった。ユリエルが、優しそうに目を細めた。

 次の瞬間、アホウスに大量の糸が巻き付いた。


 たった一人、辛くもコアルームを抜けて地上へとひた走るノータリン。

 しかし、ここは敵地。のこのこ逃げられる訳がなかった。

 ノータリンが汗だらけになりながら二階層まで戻ってくると、来る時に置いてきた荷車が見えた。あそこには、薬も入っている。

 あそこまで行けば……そう思って力を込めた足が、いきなり宙を掻いた。

「え……グギャ!?」

 気が付いたら、暗い穴の底に叩きつけられていた。おまけに昨日衛兵にぶたれた頭をまた強打して、くらくらする。

「ちく……しょう……アホウスが、生きてりゃあ……」

 落とし穴などの罠の看破は盗賊の仕事であり、重戦士にできることではない。

 底辺の冒険者など、パーティーが崩れればこんなものだ。

 狭い穴の中で動くこともままならないノータリンの上から、キチキチと気持ち悪い音が聞こえてきた。

 見上げれば、岩ムカデが穴の入口からのぞき込んでいた。

「な、なあ悪かった……許してくれよ……!」

 そんな命乞いが、虫に通じるはずもない。岩ムカデの鋭利な大あごがノータリンの首を挟み、一息に掻き切った。


「よーし、戦果は上々ね!

 よく頑張ったね、岩ムカデちゃん」

 ユリエルが、晴れやかな笑みを浮かべて道の奥から現れた。そして荷車の中を改めると、さらに弾けるような笑顔になる。

「何これ素晴らしい!しばらく食べ物に困らないじゃん!

 虫さんたちも……お肉がたくさん食べられるね」

 ユリエルは、冷たい目で落とし穴の中のノータリンを見下ろした。

 普通のダンジョンなら落とし穴などの罠にも警戒して当たり前だろうに、これまでここが安全だったからないと思い込んでいたらしい。

 アラクネが敵になっていた時点で警戒しろと突っ込みたいが、支配にあぐらをかいた人間などこんなものだ。

「さあ、そいつを引き出して虫部屋に運ぶんだよ」

 アラクネが命令すると、岩ムカデはノータリンを引きずり出して運んでいく。

 これからバカッスとノータリンの亡骸は、虫たちの餌になるのだ。ダンジョンの配下になれば魔力だけで生きられる虫たちも、当然餌を与えた方が成長も繁殖も速い。

 そしてぐるぐる巻きにして生かしてあるアホウスは、生きている限り少しずつだがダンジョンにDPを供給し続ける。

 何度でも傷を癒して、虫たちの餌になる。

 これが、社会のゴミの有効活用だ。

 さらに、いいことがもう一つ。

「……人間って、こんなに弱かったんですね。

 今まであんなにされて黙ってた自分が、馬鹿みたい!」

 アラクネが、強気の笑みで言う。

 今回冒険者たちを鮮やかに蹴散らしたことで、アラクネは自信をつけた。人間への恐怖と劣等感を、振り切った。

 もう、人間と戦うことに迷いはない。

 自分がどれだけ理不尽で不条理なことをされていたか、分かったから。

 ビキニアーマーをまとい血染めの斧を携えたアラクネは、立派な女戦士の顔をしていた。

「けど、油断しないでよ。

 こういうのって、だんだん強いのが来るのがセオリーなんだから」

 ユリエルは、釘を刺すように言う。

 今回も勝てたが、所詮稼げる時間が伸びたにすぎない。状況からして四、五日は大丈夫だろうが……それを過ぎれば怪しまれてまた誰かが様子を見に来るはずだ。

(何か、うまくごまかす手を考えないと)

 ユリエルは思ったが、すぐうまい手が浮かぶ訳ではない。

 当面できるのは、今回手に入れた資源を使って迷宮を強化するくらいだった。

 人のステータスは、だいたい体力+魔力=レベルの20倍で考えています。

 もっと詳しい能力も、これから先出すかもしれません。

 ただ、能力にこだわりすぎて読みづらくならないバランスは考えていきます。

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― 新着の感想 ―
名前が分かりやすくてええわぁww ゴミの有効活用、SDGs。 (このページ下の広告に、「夜間専門の害虫駆除」って表示が出てきてさらに大爆笑w アホウスの魂の叫びかな?ww)
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