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69.ユリエルの帰還

 ついにユリエルが虫けらのダンジョンに帰ってきて、次なる戦いの準備だ!

 ユリエルが魃姫にもらったものと、その役立て方とは。

 そしてダンジョン作成に必須の収入を補って余る、最強の稼ぎとは。

 傘下にはならなかったけれど、ヒュドレアやカルメーラとのつながりは決して無駄ではなかった。むしろお互いに大儲けだ!


 さらに、ユリエルを支えようとするささやかな支援があのお方から……。

「ただいま~!!」

 ユリエルが元気よく転移陣から姿を現すと、虫けらのダンジョンの面々は喜色満面で迎えてくれた。

「うわ~んユリエル!!

 心配したよ、寂しかったよ!元気になって良かったよぉ~!!」

 オリヒメが、大泣きしてユリエルにとびついてくる。

「ごめんごめん、心配かけたね。

 でも、もう大丈夫だから」

 ずっと一緒にダンジョンを守ろうと言っていたのに離れ離れになって、オリヒメはそれはもう心細かっただろう。

 それでも、オリヒメは信じて待っていた。

 なぜなら、オリヒメはもう一人ではない。ユリエルと力を合わせる他の仲間たちと、支え合えるから。

「ほほう……いい顔をしている。

 また一皮むけたようだね、ユリエル」

 ワークロコダイルのシャーマンは、母のような優しい眼差しでそう言った。

 ユリエル不在の間このダンジョンをまとめていたのは、他でもないシャーマンである。仲間や外の様子に気を配り、仲間たちの拠り所となっていた。

 ここは、長年ワークロコダイルの集落をまとめていた経験の賜物だ。

 ダンジョンボスにして代理マスターのレジンも、それに文句を言うことはなかった。なぜなら、レジンにはもっと面白いことがあったからだ。

「主が帰って来たってことは、姐さんとはお別れか。

 たっぷり鍛えていただいて、ありがとうございました!」

 レジンは、名残惜しそうに杏仙娘娘に別れを告げている。

 ユリエルがいない間、虫けらのダンジョンには杏仙娘娘が派遣されていた。レジンは杏仙娘娘から東方の舞闘術や拳法の基礎を習い、師弟の絆を結んだ。

「よしよし、君は伸びしろも気合もあって教え甲斐があったぞ~。

 これから敵が来たら、思う存分実践してみてね!」

「はい、このご恩は無駄にしません!」

 ワークロコダイルも引くほどの、体育会系な絆である。

「ボス、スゲェヨ……アノシバキニ、毎日付キ合ッテ喜ンデヤガル……」

「姐サンノ体力ハ、化ケ物ダ……俺ラガ束ニナッテモツイテ行けケネエ。コレデ平和ニナルガ、タマニハ鍛エテモライテエナ」

 虫けらのダンジョンを守りに来た杏仙娘娘だが、騎士パーティーの後は敵が来なかったため、暇を持て余していた。

 そのうえ自分の強さをほめてもらうのが嬉しくて、ついレジンやワークロコダイルを鍛えるのに熱が入ってしまった。

 レジンは教会への復讐心からくる気合で食らいついていたが、ワークロコダイルたちは正直へばってきていた。

 だから、この辺りでお別れがちょうどいい。

 杏仙娘娘は、ユリエルを気遣うように言った。

「私は一旦帰るけど、強敵が来たりして必要だったらいつでも呼んでね。

 私、人を助けるのに性格が向いてないって言われるけど……敵を倒すのと杏を実らせるのは得意だから。

 ……そうだ、森に杏の木を生やしてあげよっか!

 甘い実ばっかり実るヤツと、中が未熟でクソ苦い毒の実が混じるヤツと、どっちがいい?」

「毒が混じるヤツでお願いします!

 冒険者が通るとこに設置するので」

 杏仙娘娘がいい所を見せたくて置き土産をくれるというので、全力で甘えにいくユリエル。

 もちろん、これからの戦いのためになるものを選ぶ。

 安らげる居場所に帰ってはきたが、それは安らかに暮らすためではない。

 自分の安らぎを奪った敵が倒れるまで、抵抗して戦い抜くためだ。それが終わるまで、真の安らぎはない。

 だから今は、甘いものにばかり浸ってはいられない。

「杏仙娘娘様、私がいない間ありがとうございました。

 これからはできる限り私たちで戦いますので、どうか見守っていてくださいませ」

「うん、応援してるよユリエルちゃん!」

 虫けらのダンジョン一同が頭を下げる中、杏仙娘娘は魃姫の下に帰っていった。


 杏仙娘娘がいなくなると、一同はどっと力が抜けて座り込んだ。杏仙娘娘は親し気にしていたが、圧倒的強者が側にいるとそれだけで緊張するものだ。

 魃姫に保護されていたユリエルも、それは同じだ。

 ユリエルは久しぶりにいい香りのする下草にごろんと寝ころび、しばらく固まりっ放しだった体を解した。

「ああ~落ち着く。

 この湿気と草の匂い、心が洗われるぅ~!」

 帰って早々ふにゃふにゃになっているユリエルを、オリヒメが労わった。

「いや、本当に良く頑張ったよユリエルは。

 あの仙女さん一人いるだけで、何か粗相がないかってずっとビクビクしてたのに、あれより強くて偉い人と一緒に過ごすなんて。

 あたしだったら、怖くておかしくなりそう!」

 ちょっと見ただけの魃姫にビビりまくるオリヒメに、ユリエルは苦笑した。

「うん、まあ、ちょっと死ぬかと思うことはあったけど……見た目よりずっと優しい方だったよ、魃姫様は。

 私が服がないって嘆いてたら、この服をくれたし」

「……そう言や、見た事ない服着てるね」

 オリヒメは、物珍しそうにユリエルのまとう服を見つめた。他の仲間も今気づいたと言わんばかりに、注視する。

 元から服を着ない魔物だったり戦闘狂だったりで、服に興味がなかったのだ。

 唯一そうではないミーが、キラキラと目を輝かせて言う。

「へえー、何だかこの辺じゃ見ない形ね。

 楽そうなのにカワイイ~!!」

 ミーはここにいる中で唯一、普通の女の子の感性を持っている。もっとも、半虫化したことで虫への嫌悪は失われたが。

 そのミーが言うなら多分大丈夫だろうと、ユリエルは内心安堵した。

「でしょー、砂漠の東南にある熱帯雨林の国の服だって。

 他にもいろいろお土産もらったんだよ!皆で確認しよっか!」

 もらうものばかりもらってきて申し訳ないが、他のダンジョンと交流して自分のダンジョンを有利にするのもマスターの仕事だ。

 わくわくしている皆の前で、ユリエルは大切な土産を広げた。


「うわぁ~いっぱいある!」

 見たこともない土産の数々に、一同は目を輝かせた。

 ユリエルが魃姫の下から持ち帰ったのは、服と罠と聖なる桃だけではない。他にも様々な道具をつけてもらった。

「これ、オリヒメちゃんに。チャンピオンベルトにつける帯飾りだよ。

 それからシャーマンさんに。魔力感知と操作能力が上がる、頭骨の冠。

 こっちはレジンに。バーサク中の魔力消費が減る組紐飾り。

 あとはダンジョンの環境維持に役立つものかな。常にほんのり熱を発する石とか、周りの湿気をぐんぐん吸う石とか、すぐ桃の木が生える種とか……」

 魃姫は、名のある幹部のためにも合う装備を贈ってくれた。

 それから、ダンジョンに置くことで環境作りができるものも。

 ただしこれは、虫けらのダンジョンに合うものではない。どちらかというと、魃姫のダンジョンで採れすぎて余っているものだ。


 炎天の陽石

 放熱:小 火魔法強化:小 火ダメージ:小

 日光によって長時間高温となった大地に発生する、赤く不透明な石。持つとほんのり温かく、周囲を熱する。放熱しきると、砕けて砂になる。


 干天の輝石

 湿気吸収:中 水魔法・氷魔法減衰:小 光ダメージ:小

 何年も雨が降らず乾ききった土地に発生する、白く薄ぼんやりと光る石。周囲の空気を乾燥させる。限界まで湿気を吸うと、砕けて砂になる。


「へえー、珍しいものくれたね。

 あ、これ宝石っぽくてきれいかも」

 オリヒメは干天の輝石をひょいとつまみ上げ、しばし見つめた後、顔をしかめて放り出した。

「うわ……ちょっと持ってただけで指先がガサガサしてきた!

 こんなに水分吸うの!?怖い!」

「うーん、干物作りとか塩田とかでは重宝するんだけどね。

 これをまいておくと、砂漠の維持費が安くなるんだって。だからうちのダンジョンにも、灼熱の砂漠の階層を作る事にするよ。

 レジンも必要だって言ってたし!」

 ユリエルが使い道を告げると、レジンが牙をのぞかせてサムズアップした。

 虫けらのダンジョンには、快適な環境の場所が多すぎる。以前レジンに言われたことだ。

 とはいえダンジョンの階層の維持費は外の環境やダンジョンの性質から離れるほど多くなるため、温帯林向きの虫けらのダンジョンで砂漠の維持は難しかった。

 だが、維持費を削減できるなら話は別だ。

「確かにレジンの言う通り、過酷な環境や変化はそれだけで武器になるわ。

 うちに来る軍や冒険者は、これまでの情報から湿気対策に重きを置いて、水は現地で調達できるって思ってるはず。

 それをいきなり砂漠に放り込んだら……見ものね!」

「ああ、その情報が漏れないうちはバタバタ死ぬだろう。

 下手したら、その石は水筒の中の水まで蒸発させちまうかもな」

 殺意の高い提言が通って、レジンは嗜虐性を露わにして大喜びだ。

 逆にオリヒメは、少し怯えているが。

「敵を殺せるのは、分かったよ。でもそんなに乾いてたら、虫や植物はまともに育たないんじゃないかい。

 あたしは、何の命もない不毛なだけの場所はちょっと……」

「大丈夫、砂漠でも生きられる子たちを少しもらってきたから!

 階層の出入り口をつなぐルートから外れた所に、サボテンや灌木でも飢えとくよ。で、それらにつく虫とサソリと砂漠ヘビを放っとく。

 そして、奥にオアシスのふりをして分荼離迦を設置しておく」

「なるほど、危険を冒せばオアシスに行けると見せかけて……オアシス自体が罠なんだね」

 ユリエルだって、生物がいない場所なんて嫌だ。

 それに、砂漠にだってたくましく生きている生物はいる。大砂漠の辺縁にいるそれらの生物を、ユリエルはもらってきた。

 どんな階層にもできる限り生態系を、がユリエルの信条だ。

「そうか……まあ、うちのダンジョンが維持できる砂漠っていうとその程度か。

 魃姫様の本家みたいな砂漠を維持しようとしたら、ここじゃいくらDPがかかるか……」

 レジンが、残念そうにぼやく。

 本来は環境攻撃を最大にするには、水を必要とする生物が生きられないくらい過酷なのを設置するべきだろう。

 しかし虫けらのダンジョンは、どうしてもそれに向かない。

 特にDPにまだそれほど余裕がない今は、道具で補助しつつ荒野と砂漠の中間のようなのを維持するので精一杯だ。

「この階層も長ければ長い程効果を発揮するから……5エリアはつなげたいところね。で、広くするとその分維持費はかさむ。

 だから正しいルートにこの石をまいて、端の方は生態系ができる程度になるのよね。

 まける量にも限りがあるし」

「ああ、その石、買うと割と高価だもんな」

 ケッチが言うことに、しかしユリエルは首を横に振った。

「いやいや、魃姫様は言えばいくらでもくれるわよ。

 ただ……頼りすぎるんじゃなくて、多少は私の力で……私のスタイルで戦いたいってこと。だって私の戦いだし」

「ああ、主にも意地ってもんがある。

 復讐は、できる限り自分の手でやりたいもんだ」

 魃姫はできるだけの支援をしてくれるつもりだが、これだけもらっておいてさらにおねだりするのもどうかと思う。

 それは、本当に危機に陥った時で十分だ。

 改めてもらったものの質と量を確認して、ユリエルはそう思った。

「それにしても、こんな広い範囲の維持費を減らすほど石をもらっちゃって……逆にあっちの砂漠がぬるくなったりしない?」

「ああ、それなら大丈夫。

 魃姫様のお城は、見渡す限り干天の輝石が転がる砂丘と、山肌が全部炎天の陽石でできてる山脈に囲まれてるから。

 掘っても掘っても、出て来た岩が一年くらいで陽石か輝石に変わるんだって」

「ヒェッ……それどんな環境!?」

 自分の陣営にはない環境を使いこなす仲間がいれば、本来育つまで設置しづらい環境を少しだが取り込むことができる。

 その意味でも出会いに感謝して、ユリエルは新たな地獄をダンジョンに追加することにした。


 だが、ダンジョンを広げるにも先立つものが必要だ。

 いくらやりたいことがあっても、具体的な構想があっても、それを実現するだけのDPがなければ意味がない。

「……レジン、DPってどれくらい貯まった?

 結局あれから、騎士パーティー以外の敵は来てないのよね?となると、まだそんなに広げられるほどのDPは……」

 心配するユリエルに、留守番組はニッと笑った。

「へへへ、そいつぁ要らぬ心配ってやつだぜ!」

「ユリエル、忘れたのかい?

 あんたの血、無償でばらまいた訳じゃないだろ。その対価と感謝の気持ちが、たっくさん届いてるよ!」

 それを聞いて、ユリエルはようやく思い出した。

 魔王軍の集会でユリエルの血を集める時、ヒュドレアは支援すれば与えるとか何とか言っていた。

 つまり直接取引をしたダラク以外の勢力は、有償でユリエルの血を買ったのだ。

 血の注文を取りまとめて取引を行ってくれていたヒュドレアは、(造血剤の分を中抜きして)きちんと対価を虫けらのダンジョンに届けてくれた。

 その成果が今、ダンジョン収納に山と積まれていた。

「DPオーブ……こんなに!?」

 その成果の大きさに、ユリエルは目を疑った。

 DPをダンジョン間でやりとりするための通貨のような結晶……DPオーブが、百万DP分以上貯まっている。

 これまでの虫けらのダンジョンの収入からは、想像もできない額だ。

「こ、これ……全部、私の血で……?」

「ああそうさ。

 と言っても、ヒュドレアの手腕とカルメーラの名声も大きいがね」

 驚くユリエルに、シャーマンが賞賛半分呆れ半分で説明してくれた。

「あのヒュドレアって女、ずいぶんあこぎな性格で悪知恵が回るね。誰がユリエルの血をより欲しているか、誰が高く買うかしっかり計算して売ってる。

 それに、胴元があのカルメーラ様じゃ、代金を踏み倒せやしないよ。復讐の邪神の力で、何されるか分からないから。

 ここは、取引をあいつらに任せて正解だった!」

 ヒュドレアとカルメーラはユリエルを傘下にはできなかったものの、自分たちの得になる血の取引は(自分たちの儲けのために)最大の利益を出すよう行ってくれた。

 ユリエルが自分でやっていたら、絶対にここまで利益は出なかった。

 そもそも自分の血がどれくらいの値段で売れるか知らなかったし、代金も払わない奴から自力で取り立てることができない。

 最悪、身を削っても踏み倒されるだけに終わっていたかもしれない。

 それを防いだのは、間違いなくカルメーラたちの働きだ。

「うう……ヒュドレアさん、卑怯な愉快犯に見えてこんなに真面目だったなんて。

 私、あの方のこと誤解してたかも!」

「いや、多分あの女の性格はそれで合ってるよ。

 あんたの血を売る事が自分たちにも大きな利益をもたらすから、これからも長く続けるために誠意を見せたのさ。

 その証拠にほら、追加の造血剤と採血瓶が届いてるよ」

「おっふぅ……!」

 ヒュドレアは、これからも商売する気満々だ。

<このたびは、造血剤の無茶な使い方でご迷惑をおかけしました。その分血はできるだけ高く売りましたので、悪く思わないでくださいね。

 さて、貴女の血を欲しながら今回配り切れなかった方、追加を望む方がまだまだたくさんいらっしゃいます。

 前回のデータを分析して、貴女に負担がかからない用法用量を計算しましたので、余裕がありましたらこれからもよしなに>

 つまり、これからもユリエルの体調に余裕があれば、血を売って儲けられるということ。

 しかもヒュドレアによれば、各地でユリエルの血の効果が証明されたため、手に入れたいと望む者が増えたという。

 ならば、DPはこの儲けを期待して少々派手に使ってもよさそうだ。

「よし、すぐ砂漠の階層を作って、10エリアくらいつなげちゃおう!

 それから、前からやりたかった湿地と森の拡張もガッツリやっちゃおう!たとえ強敵が来ても、時間を稼ぐのは有効だし。

 ……ただ、いきなり深さを倍とかにするのは考え物ね。

 まだ魔物も少ないし、ある程度の余裕は持っておきましょう」

 死肉祭が終わった以上、インボウズはこちらに戦力を向けられるようになっているはずだ。

 いくら死肉祭で聖騎士がたくさん死んだとはいえ、インボウズの権勢ならばこのダンジョンを落とすだけの戦力を集められる。

 どうかそれが一度にではなく小出しに来てくれと祈りながら、ユリエルはダンジョンの改築に着手した。


 ところで、ユリエル宛にDPオーブ以外にも様々な品が届いていた。

 その中には、虹色甲爵から届いた箱もあった。

「……何これ?」

「ああ、これはあのきれいな虫さんたちの餌だよ。

 ジャングルの種っていって、暑くて湿った階層を作って中身をまくと、一週間くらいで密林が生えるんだってさ」

「餌ってレベルじゃない!!」

 虹色甲爵にはユリエルの血を売った訳ではないが、虫を大切にするのが気に入られて大層なものが届いていた。

「そっか……暑くて湿った環境なら、そんなにコストはかからないわね。

 ここは、ついでに熱帯雨林の階層も作っちゃおう!

 うちの生態系がますますパワーアップするぞぉ!!」

 思わぬ贈り物に感謝し、ユリエルは毒虫に満ちた密林をダンジョンに加えた。

 しかし、贈り物は素直に受け取って使えても、それに込められた気持ちを素直に受け取ることはできなかった。

(どうしよう……こんなのもらって、お礼とかした方がいいのかな?

 でも、あんまり馴れ馴れしくしたらまた引かれるかも……)

 虹色甲爵がどんなつもりでこれをくれたのか、ユリエルには分からなかった。

 もし女として気に入ってくれたなら嬉しいが、それを信じてグイグイいくとオデンの焼き直しになりそうで怖い。

(……深読みはやめよう、きっと虫の楽園を守ってほしくて応援してくれただけだ。

 それに、大事な戦いの前に傷ついてふさぎ込む訳にはいかない。こういうことは、戦いが終わって落ち着いてからにしよう!)

 ユリエルはそう決めて、いっそそっけないほどの礼状を送ってしまった。


 ……もし本当に女として気に入ってくれていた場合に、それで虹色甲爵がどんな気分になるか、全く考えが及ばないユリエルであった。

 何か商売を始める時に、初めは信用のある大きな商会に任せるのはとても安全なやり方です。

 ユリエルたちのような新興勢力がいくら役立つものを売ろうとしても、足下を見られて搾取されてしまったら意味がありません。

 カルメーラたちは足下を見られるほど弱くないし損をすると邪神の力を正しく使えるため、取り立て役にもってこいです。


 ユリエルが怖気づくせいでもどかしい虹色甲爵……どうなってしまうのか。

 次回、人間サイドの話で新たな戦いの幕が上がります。

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