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68.砂に埋もれた女神

 魃姫のダンジョン編はこれで最後、ユリエルは魃姫からもらえるだけの支援を受け取ります。

 その間に、ユリエルの血による戦果報告も続々と届きます。しかし、その結果は……。


 そして、神に疑いを持つユリエルに、意外なところから神が……。

 ロッキード回の、自分以外の神の認識を思い出してみよう!

 ロッキードの意向を汲んだ教会が存在を抹消しているだけで、神の力に対抗できる奴は意外に隠れているものです。

 ユリエルが魃姫のダンジョンに保護されてから、三週間ほどが過ぎた。

 その間に、状況は大きく変化した。各地から、ユリエルの血を使った反攻成功の報告が届くようになったのだ。

「どうやら人間ども、慌てふためいておるようじゃ。

 そなたがこれの原因であることも、順調に世に広まっておる。さすがにこれだけ被害が出れば、教会も無視はできまい!」

「やったぁ!インボウズがどうなるか、楽しみだわぁ!!」

 ユリエルは毎日、その報告を心待ちにしてうきうき過ごしていた。

「ねえねえ、愛憎のダンジョンのヒュドレアちゃんがね、一人から採れる量でこんなに強化できる訳ないって人間側の反論を破ってくれたみたい!

 派手に人体実験して、例の造血剤を見せつけたって」

「おおぅ、さすがヒュドレアさん!

 でも、ありがたいです」

 しかしその報告に、魃姫は少し眉をひそめた。

「むう……ユリエルが原因であると明確にするのは良いことじゃ。

 だが、いささか軽率な気もするのう。これでは、自分を倒せば少なくとも今ほど血をばらまけなくなると明かしたも同じ。

 もし人間の総攻撃が、ヒュドレアに向けば……」

「大丈夫じゃないでしょうか。

 あそこはカルメーラ様がいて、少なくともうちよりずっと強いですし。元凶の方が明らかに弱くて攻めやすいなら、絶対うちが先ですって!」

「だと、こちらも動きやすいがな。

 それにしては、虫けらのダンジョンに向けた動きがなさすぎる……うまくいけば良いが」

 浮かれるユリエルとは対照的に、魃姫は浮かぬ顔をしていた。

 確かに、こんなに各地でユリエルが元凶だと叫んでいるのに、人間側にユリエルを攻める動きがないのだ。

 それでも死肉祭が終わればと、思っていたが……。

「ダラク殿から、死肉祭の報告よ。

 攻め入ってきた聖騎士30人中26人撃破、兵士や冒険者にも甚大な被害を与え、ダンジョンの外でもアンデッドが発生したそうよ。

 ただ、魔化させた古の聖者はその場で倒されてしまったって。

 だから、これ以上の追撃は無理そうね」

 桃仙娘娘の報告に、ユリエルは色めき立った。

「聖騎士がそんなに……!?よっしゃ、大被害!!

 これはインボウズが無事じゃ済まないわぁ!さっそくダンジョンに戻って、攻めてくる奴らの迎撃準備を……!」

「待って!!」

 血沸き肉躍るユリエルを、桃仙娘娘が止めた。

 桃仙娘娘の顔は、とても歯切れが悪く、申し訳なさそうだった。

「その……まだ、そういう状況にはなりそうにないの。

 ミツメル君が探ったところ、教会はこの件にあなたは関係ない……口実を与えただけって言い張って、人々に信じさせてるわ。

 邪淫で破門したのが間違いな訳ないから、ユリエルが純潔なはずがない。だから魔族の言うことを信じるなって。

 他の枢機卿も、みんな足並みを揃えてるって」

 その残酷な現実に、ユリエルは絶句した。

 否定しようのない証拠と共に、人間の目を覚まさせてやろうとしたのに……ここまでの現実をまだ嘘と断じるのか。

 そして被害を受けた人々ですら、それを信じてしまうのか。

「え……こ、こんなに人が死んだのに、ですか……!?」

「ええ、残念ながら」

 ユリエルは世の有様が信じられなかった。自分は紛れもなく真実を掲げて、自分の身を切ってまで証拠を出したのに、それすら無視されるなんて。

 まるで自分が、この世にないものとして扱われているようで。

 自分も他人も犠牲にしてここまでやってもだめなら、一体どうしろというのか。インボズウや他の悪徳坊主共に、向き合わせることはできないのか。

 床にへたり込んだユリエルに、魃姫が静かに言った。

「……そんな事だろうと、思うておったわ。

 富貴に溺れた権力者というものは、それを守るために他がどれだけ犠牲になろうと構わんのじゃよ。

 自分に刃が届かぬうちは、自分に動かせる駒があるうちは、決してまともに向き合わぬ。下がどれだけ苦しもうと、権力を使って富貴と名誉にしがみつく」

 魃姫は、懐かしそうに告げた。

「わらわの父が、まさにそうであった。

 わらわの苦しみと己の過ちをまるで認めず、他の原因をでっち上げ責任を押し付け、人の口を封じて戦力も逐次投入ばかり。

 ……おかげでわらわは力をつけ、国中で暴れ回ってやった。

 十年ほど経ってようやく民が蜂起し、父と他の皇族を処刑台に送って王朝が変わった。そこまでやらねば、権力者は気づかぬものじゃよ」

「そう……ですか……」

 消沈しているユリエルに、魃姫は元気づけるように言った。

「まあ、強くなる時間を与えられたとも言える。

 このうえは腰を据えて、敵が悪しき権力を振るえなくなるまで抵抗するしかなかろう。それこそ、教会そのものが信を失い地に堕ちるまでな」

「やっぱり、そこまでやるしかないんですね」

 ユリエルとて、ダンジョンを乗っ取った時から想定はしていた。討伐軍を撃退した時に、その予感はさらに強くなった。

 だが心のどこかで、こんなおかしいことはきっと神様の目に留まり、善良な人が巻き込まれる前に何とかなると信じていた。

 教会でずっと、教えられていたから……神はずっと人々を見守っていて、ふさわしい報いを下すと。

「何だ……神様の救いなんて、嘘っぱちじゃん」

 ユリエルは、失望を込めて呟いた。

「いつも見ていて助けてくれるって……神様も人を騙してばっかり!それどころか、悪い人にばっかり肩入れして!

 そんな神、誰にも信じてもらえなくなって地獄を見ればいいんだわ!!」


 その時、ぽそっと嘲るような声が聞こえた。

「プククッざまぁ!」

 魃姫でも桃仙娘娘でもない、幼い声。ユリエルがはっと顔を上げると、見たことのない少女が扉の隙間から覗いていた。

 クスクスッと気味の良さそうな笑い声をあげて、すぐ引っ込んでしまった。

「む、あやつ……!」

 魃姫は驚いて立ち上がろうとしたが、ユリエルはそれどころではない。

「待てやコラァ!!」

 自分が不当に陥れられてさらに踏みにじられるのを笑われて、黙っていられるか。ユリエルは獲物を見つけた猫のように、体当たりで扉を開けて部屋を飛び出した。


 嘲笑った少女は、意外にもすぐ近くにいた。

 赤い頭巾と短いマントをつけた浅黒い肌の、黒髪ショートの女の子。年のころは、十二、三歳くらいだろうか。

 廊下の壁によりかかり、ふてぶてしい顔でユリエルを見ている。

「ちょっとあなた、よくも人の不幸を笑って……!」

「フン、おまえじゃないのだ~」

 悪びれない顔で言い放つ少女にますますムカついて、ユリエルが詰め寄った途端……。

「ぐっ……熱っ……!」

 ユリエルは、いきなり猛烈な熱気に襲われて膝をついた。肌に感じるだけでなく、体がたちまち熱を持ってだるくなり、頭がクラクラしてくる。

 しかもその中に、ユリエルは懐かしい気配を感じた。

 聖女であった頃、神に祈りを捧げて光や癒しを強化してもらった時に入り込んできた、人とは違う異質な力。

 最近では、ヒュドレアの邪神の造血剤を飲んだ時に似たようなのを感じた。

 つまり、これは……。

「あ、なた……聖女……なの……?

 私、もう……神様の手下じゃ……な……」

「知ってるのだ~。だから、ざまぁなのだ~!」

 もしかしたらこいつは、破門された自分を仕留めに来た神の刺客か何かだろうか。思っていたのと逆だが、報いは確かにあった訳だ。

「くっ……こんな、所で……神、なんか、に……!」

 だが、猛烈な熱にユリエルが気を失いかけたところで、魃姫の声が響いた。

「やめよタルウィ!!

 そやつは我らの味方……そなたの姉の仇を、引きずり下ろす可能性ぞ!」

 瞬間、ふっと周囲の熱気が消えた。


 数分後、ユリエルと少女は机を挟んで向かい合っていた。少女は魃姫の膝に座って足をブラブラさせながら、ユリエルにさっきのことを釈明した。

「勘違いさせて悪かったのだ~。

 アタイは、おまえの不幸を笑ったんじゃないのだ~。おまえが原因で信心を失う、ロッキードの奴を笑ったのだ~」

 その言い方に、ユリエルはひっくり返りそうになった。

 ロッキードとは、聖人教会が崇めている全知全能の主神の名である。ユリエルもかつて、その加護を受けていた。

 その偉大な存在を呼び捨てにするとは、こいつは一体何者なのか。

「あなたは、どのようなお方なのですか?

 もしかして、ロッキード以外の神様にお仕えする……」

「神様はアタイなのだ~」

 その爆弾発言に、ユリエルは吹っ飛んでいきそうになった。

 別の神様に仕えている聖女かと思ったら、まさかの神本人である。そんなものがこんなに簡単に出て来ていいのか。

 二重の意味で目を白黒させるユリエルに、魃姫が神妙な顔で説明してくれた。

「この者はタルウィ、元は天におった熱と毒の女神じゃ。

 とはいえ、今は力を失い、追手から逃れてわらわの下に隠れ住む身。わらわには頭が上がらぬから、安心せい」

 魃姫も、さらりとすごい事を言った。

 そこに、タルウィがジト目でユリエルを見て割り込む。

「おい元聖女、おまえは神についてどう習った?

 さっきアタイのことを、ロッキードの刺客なんかと勘違いしたな~。おまえの中で、神はロッキードしかおらんのか~?」

 ユリエルは、教会の経典を思い出して答える。

「いえいえ、確かもう一人女神さまがいらっしゃると。ロッキード様と結ばれる運命の美の女神、グラーニャ様が。

 あとは、愛憎のダンジョンに邪神がいると聞いております」

 それを聞くと、タルウィは呆れて言い放った。

「ハァ~……反逆者が聞いて呆れるのだ~!

 信じないとかいいながら、ロッキードの嘘っぱちを信じてるのだ~。

 おまえが気づいた通り、ロッキードは人間を騙しているのだ~。なのに、何で奴の経典が正しいなんて思うのだ~?」

「はっ……言われてみれば!!」

 ユリエルは、目からうろこが落ちた。

 そうだ、経典はロッキードのために作られたものなら、ロッキードに都合よく作られているに決まっている。

 人間の思考を誘導し、ロッキードの勢力のみを崇めるように。

 ロッキードとグラーニャ以外の神が邪神とされているのも、ロッキードにとって都合がいいからだろう。

 抗うと誓いながらそんな事にも気付かなかった自分が、ひどく愚かに思えた。

 うろたえるユリエルに、タルウィは続ける。

「あのクソ野郎はグラーニャに気に入られるために、そして人間の信仰心を自分に集中させるために、他の女神を踏みにじったのだ~。

 あらゆる手で従わせようとして、従ったら天使と誤認させて信仰心を取り上げる!従わなければ封印するか殺す!

 アタイの姉さんも、奴の手にかかって……!!」

 タルウィは、すさまじい憤怒の形相でギリギリと奥歯を鳴らした。

 身勝手に服従を迫られ姉を滅せられたうえ、地に落ちて神としての名声すら消されたタルウィにとって、ロッキードは不倶戴天の敵だ。

 その敵の足下を崩せそうな奴がいたらつい様子を見たくなるし、ロッキード失墜の予兆を見たら笑いたくなるだろう。

 この女神は、ロッキードの破滅を望む同志なのだ。


「とにかく、おまえがロッキードの信仰を奪うのには大賛成なのだ~。奴を盲信する人間どももろとも、グチャグチャに叩き潰してほしいのだ~。

 そのために、アタイもおまえに力を貸すのだ~!」

「ほえっ!?」

 ユリエルは、思わぬ提案に目を丸くした。

 神に挑むなんてたいそれた事だと思っていたが、まさか別の神が手を差し伸べてくれるとは。

 まさに、渡りに船だ。

「それじゃ……私は、あなた様の聖女になるってことですか?」

「う~ん……したいけど、それはできないのだ~」

 ユリエルの問いに、タルウィは残念そうに答えた。

「アタイは今、ロッキードに死んだように見せかけて追手を逃れているのだ~。うかつに使徒を作ったら、気づかれるのだ~。

 だから今は、アタイを食ったことにした魃にちょっと力を与えるのが精いっぱいなのだ~……」

「ロッキードに討たれた悪魔ということにされて、信仰心も集められぬようじゃから」

 魃姫が、気の毒そうに補足した。

 言われてみれば、暴れて反抗できるだけの力があればとっくにそうしているだろう。それができないということは、そういうことだ。

「でも、魃の力に紛れてアタイの力が入ったものを渡すことはできるのだ~。

 このダンジョンで、アタイは魃と力を合わせてそういうものをい~っぱい育てたのだ~。それをおまえのダンジョンの奥深くに置くなら、そうそうバレないと思うのだ~」

「なるほど、それは本当に欲しいです!

 どうか、お恵みくださいませ~!!」

 ユリエルは、一も二もなくタルウィにひれ伏した。

 インボウズの背後に神がいるのなら、こっちだって神の援護があるに越したことはない。しかも敵に知られていない手札なら、面白いことになりそうだ。

 すると、タルウィはにわかに真顔になって告げた。

「よし、その信仰心受け取ったのだ~。

 ただし、条件があるぞ。

 おまえがアタイのことをバラしてロッキードに知れたら、非常にまずい。だからおまえには、アタイの本当のところをしゃべれない呪いをかけるのだ~!」

 言葉が終わるや否や、魃姫が目にも留まらぬ速さでユリエルの首を掴んだ。

「禁人、縛術!この者に、タルウィの真実を、このダンジョンに住まう者以外に話すことを禁じる!

 破れる場合は、死をもって守れ!!」

 ユリエルの魂に、圧倒的な強さの呪詛が刻まれた。

「……すまんのう、操られたりして口を割る可能性が捨てきれぬのでな」

 魃姫は謝ったが、ユリエルの覚悟は決まっていた。

「いいえ、これでいいです。

 そういう状況になった時、私にはもう尊厳も抗う術もないでしょう。むしろ、万が一の時の自爆装置をいただいたと思えば」

 ユリエルに、自らそれを破る気は欠片もない。

 そんな事をすれば、憎きロッキードを利するだけだ。捕らえられて嬲られながらそうなるくらいなら、死んだ方がましだ。

 そんなユリエルの覚悟に、タルウィは感心して言った。

「うむ、良い心がけなのだ~。

 ほうびに、アタイと魃が育てたものをダンジョンに持ち帰っていいのだ~。それでロッキードを盲信するクズ共を、焼き殺してやるのだ~!」

「はい、喜んで!!」

 勇んで返事をするユリエルを、魃姫とタルウィはさっそく現場に連れて行った。


 作品があるのは、魃姫の城に入るために侵入者が通らねばならない地獄のような階層である。

 等渇地獄、酷蒸地獄、焼業地獄と、東方の神が支配する地獄をもじった熱と渇きの地獄だ。

 その最も厳しい大焦熱地獄に、ユリエルたちは来ていた。

「ひぎいいぃ!!熱い!死ぬううぅ!!」

 離れていても吹き付けるものすごい熱風に、ユリエルは魃姫の守りがなければ目を開けることもできない。

 そこには、確かにとんでもないものがあった。

 グラグラとマグマが煮え立つ大地から、真っ赤な蓮のような花が生えている。しかしその花弁は凶悪な棘だらけで、灼熱の炎をまとっている。

 おまけに、棘だらけの蔓が獲物を引きずり込もうとうねうねしている。あれに捕まったらどうなるかは、火を見るより明らかだ。

「紅蓮華なのだ~!

 東方のとある山神のダンジョンから持って来て、アタイの力をたっぷり注いで育てたのだ~。

 これがあれば、人間の勇士なんかイチコロなのだ~!」

 タルウィは得意げに言うが、ユリエルには大きすぎる力だ。

「ああああ無理!!

 こんなん、うちのダンジョンじゃ養えません~!!」

 悲鳴を上げるユリエルの傍らで、魃姫も難しい顔をした。

「ううむ、ダンジョンはそのものの性質や立地によって魔物や罠の維持費が異なるからのう。これは水や木の性が強いユリエルのダンジョンには合わぬ。

 これ一体維持するだけで、今の虫けらのダンジョンが自然に生み出すDPの8割食われてしまうぞえ。

 それに、これはよほど強い力で階層を隔離せねば、上下5階層ほど影響を及ぼすでのう……」

「ダンジョンが全部焼け野原になります~!!」

 残念ながら、これは持ち帰れない。

「すみません、もう少し火力低いのはないですか?

 できれば、周りの木や水への影響が少ないやつで」

「うむ、あるにはあるが……あれはイタズラ用なのだ~」


 次にユリエルは、もう少しましな等渇地獄に連れてこられた。

 ここは常に炎天下の夜がない砂漠で、全てが渇ききっている。と思ったらポツンとオアシスがあり、美しい白い蓮の咲く清らかな池があった。

「……罠ですよね?」

「もちろん、これが作品なのだ~!」

 魃姫がネズミを放り込むと、ネズミは水面に触れた途端に炎に包まれた。そして偽りの水面の下から伸びて来た蔓に絡まれ、沈んでいった。

「分荼離迦なのだ~!

 きれいな水と花の幻で獲物を油断させて、近づくと引き込んで焼き殺すのだ~。

 紅蓮華ほど強くはないが、不意打ちにはもってこいなのだ~。こいつ自身が本性隠すから、周りに熱と渇きが漏れないのだ~。

 ……ちょっとつまらん」

 タルウィは退屈そうだったが、ユリエルにはこれがちょうどいい。

「はわあぁ……私、これにします!」

 ユリエルは、目を輝かせて求めた。

「これなら、普通の池のフリして森に置けるじゃないですか!

 それに、きれいで清らかなフリして騙し討ち……私にそれをやったインボウズや手下どもへの罰にちょうどいいです。

 教会の本性と同じのを味わわせてやる!!」

「うははは!ロッキードの本性もそんなもんなのだ~。

 嘘で殺しに来る奴は、嘘で殺すのが一番なのだ~!」

 タルウィもユリエルの意趣返しは気に入ったらしく、一緒になって楽しそうに笑った。

 こうして、ユリエルは偽りの地獄花をダンジョンに持ち帰ることにした。これで、インボウズや手下共に偽る事の罪を思い知らせてやると息巻いて。


 ユリエルが一通りもらうものをもらって帰る準備をしていると、桃仙娘娘が血相を変えて飛び込んで来た。

「大変よ!ミツメル君から連絡があったの!

 あなたの元仲間?……アノンって聖女が破門されて、その子を生贄にあなたに聖呪を使うらしいの!!」

「アノンが!?」

 ユリエルは、震える声で叫んだ。

 恐れていたことが、起こってしまった。

 誰もユリエルの言うことに耳を傾けないせいでインボウズたちの悪行は止まらず、次の犠牲者が出てしまった。

 しかも、それで聖呪とは……。

「ユリエル、顔をよく見せろ!……まだ楔は感じないのだ~」

 タルウィが見た所、今のところ聖呪はユリエルに向いていない。しかし、時間の問題ということも考えられる。

 魃姫は、ユリエルの守りに一つの桃を差し出した。

「持っていけ。東方の天の……聖王母の桃園で実ったものじゃ。強力な魔除けの力がある、神の呪いでもしばらく防げるじゃろう。

 ……そしてもし呪いが来なければ、敵の親玉に献上させるのじゃ。

 元は永遠の恵みをもたらす聖なる桃じゃが、わらわとタルウィがたっぷり力を注いである。敵に食わせれば、一発でけりがつくかもしれん」

 ユリエルは、力のこもった手でそれを受け取った。

「アノンの仇……絶対に思い知らせてやる!!」

 処女の証の血で乱をばらまいても、悪徳坊主共は止まらなかった。必死で抵抗するユリエルから、さらに大切な人を奪い取った。

 ならば、もう大人しくしてなどいられない。

 やり返すための強力な力を、ユリエルは手に入れた。

 これで悪徳坊主共を本当の地獄に落としてやると決意して、ユリエルは本来の居場所に帰還した。

 ロッキードが死んだと思っていた女神が一人生きていました。

 死んだと思っていた奴が生きていて噛みついてくるのは、ざまぁのテンプレですね!

タルウィ:ゾロアスター教の悪神ダエーワの一人で、熱と毒草を司る女神。熱波や熱病を起こして人々を苦しめ、不毛となった大地に毒草を育てる。渇きの女神、ザリチェと二人で活動する。

分荼離迦:仏教の地獄にある、白い蓮の花が咲いた池の幻で罪人を呼び寄せ、触れた途端に焼き殺す罠。仏教の教えと違う邪悪な考えを持つ者が落ちる地獄にある。

等渇地獄、酷蒸地獄、焼業地獄:等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄 仏教の地獄のパロディ


 聖王母はもちろん、西王母がモデルです。

 彼女が育てた神の守りを帯びた桃ですが、魃姫とタルウィが魔改造しているので、こんなもの食べたら……誰がどうなるかはお楽しみに!

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