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66.過ちも分かち合って

 魃姫様のやっちまった暴露大会!

 非モテゆえにサキュバスを認められないユリエルを力で従わせようとした魃姫ですが、その背後には悲しい経験がありました。

 しかし、その原因は他でもない……。


 そして、仕えるフランケン仙女たちがあんな姿になった理由とは。

 姉妹にかかっている呪いの、原因が明かされる!

「ねえ、魃姫殿……さすがにやりすぎじゃない?」

 鏡台に向かって一心不乱に化粧をしている魃姫に、サキュバスは声をかけた。

「あたし、あんな風に言われるのは慣れてるから気にしないよ。それに、あたしの同族が他の種族の女に不快な思いをさせてるのは事実だし……。

 あんなに力ずくで折らなくても……」

 優しくそう言うサキュバスに、魃姫は冷たく返した。

「いや、あの手の奴はああでもせねば話を聞かぬ。心で拒んで疑ったままでは、我らを裏切って何をしでかすか分からぬ。

 ……前のあやつらの事は、迷惑をかけたな」

 魃姫の声には、深い憂いがこもっていた。

 サキュバスも、悲しそうに呟く。

「あの子たちも、悪い子じゃないと思ったんだけど」

「ああ、二度と起こさせてはならぬ。

 前のも、あれほど分からせたというに……憎き美王の手下にコロッと成り下がりおって!もっと引き締めねばならぬ!」

「厳しくすればいいってものでもないと思うけど」

 魃姫は、現状ユリエルしか傘下と呼べる者がいない。

 しかし、過去にはぽつぽつといたことがある。男に裏切られたり陥れられたりして、男の気を引いて奪った女を憎む同志だった。

 ……しかし、彼女たちはみな裏切った。

 そして、魃姫自身の手でけりをつけることになった。

 しかも彼女たちはあろうことか、魃姫の宿敵である美王派閥と内通したのだ。中には、そこで借金を負わされながらも、魃姫の助けを拒み討たれた者もいた。

 この経験は魃姫に、深い心の傷を与えた。

 彼女たちの考えることが全く分からず、どうしていいか分からなかった。

 新しい仲間ができるたびに今度こそはと気を引き締めるものの、その思いが通じたことは一度もない。

 だからユリエルが自分を疑った時、その時の恐怖と悔しさが蘇って怒りを抑えきれなくなってしまった。

 何としても、災いの元の二心を砕かねばと。

「すまんのう……今度こそは……今度こそ、しっかり仲間を育ててみせる!」

「だからって、追い詰めすぎても良くないのよ。

 時間をかけて事実を見せればいいじゃないの。それをしないであなたの焦りを押し付けたって、反発しか生まないわ」

「……裏切ってからでは遅い、最初が肝要じゃ」

 サキュバスが優しくするよう言っても、魃姫は疑い深く呟く。

 ここであまり強く言って魃姫を追い詰めてもまずいので、サキュバスはこれ以上言えない。ユリエルと魃姫なら、魃姫の方が強力な味方だから。

 そうしている間に魃姫の化粧が終わり、二人は足取り重くユリエルの待つ部屋に戻った。


 魃姫がギィッと扉を開けると、床に座り込んでいたユリエルは弾かれたように平伏した。

「先ほどは、失礼いたしました。

 私が間違っておりました。これからも、ご教示願います!」

 魃姫の表情は、緩まない。

 これまで裏切った女たちも、諭して思い知らせた直後は同じ言動をしたからだ。今大人しいからといって、油断はならない。

「先ほど学んだことを、その口で言うてみよ」

 魃姫が促すと、ユリエルは顔を上げて言った。

「私たちと違って命に関わる食事のためだから、サキュバスが自分を飾って男を誘惑するのは卑劣じゃない。

 でもそうじゃない私たちは、男うけを狙って飾ったり媚びたりは卑怯でいやらしいこと。

 中身で評価してもらえる世界のために、そういうのは滅さねばならない!」

 ユリエルの答えに、魃姫は力強くうなずいた。

「よろしい!」

「……ええ~、何かすごく偏ったことになってない?」

 後ろで聞いていたサキュバスがひどく不安そうにしているが、ユリエルは覚悟ガンギマリの目で続ける。

「分かりました、これでもう可愛さとか自分で魅せるとか気にしなくていいんですね。

 私にとっても、そういう世界の方がありがたいです!

 これまで少しでも男の目を引けたらと、水着やアクセに興味を持ったことを猛省します。

 そしてそんなものにうつつを抜かして世をおかしくする、美王配下もそうでない奴らも、みんな媚びる装備をはいでやる!!」

「ええええ、やりすぎよ!!

 ちょっと魃姫殿、そんなにしなくても……!」

 サキュバスは慌てているが、魃姫はとても達成感に満ちた顔をしている。ようやく真の仲間に巡り合えたとばかりの。

 だが、次の一言に、魃姫は凍り付いた。

「でも、魃姫様だけはいくら化粧しても着飾ってもいいんですね。

 だって魃姫様は、強くてエラくてやんごとなき特別なお方だから!!」

「ぬっ……!?」

 言われてみればそうだ、魃姫はいつも厚化粧で醜い顔を覆い隠し、豪華絢爛な衣装に身を包んでいる。

 これに、他者からよく見られたい以外のどんな理由があるのか。

 魃姫自身、常に渇望していながら目を背けてもいた。

 過剰に外見ばかり飾って男を食いつぶす美王とその手下を憎みながら、自分がどれだけ外見に手を加えているか考えていなかった。

 なのに仲間に自分を飾るのをやめ素のままの世界を作ろうとは、明らかに矛盾している。

 うろたえる魃姫の後ろで、サキュバスがパンパンと手を叩いた。

「はいはい、ここまでにしましょ~。

 今、ユリエルちゃんがすっごくいいこと言った。

 魃姫殿……あたし分かっちゃったの。これまであなたの仲間になった子が、どうしてみんな裏切っちゃったか」

「な、何ぃ!?」

「へ、裏切り!?」

 サキュバスの爆弾発言に、魃姫もユリエルも驚いてそちらを向いた。これで一旦狂った非モテ談義を止められると、サキュバスは内心胸をなでおろした。


「……という訳でね、これまで魃姫様の傘下になった子たちは、みーんな美王の側について殺されちゃったの。

 それで魃姫殿は、疑われたり反抗されたりするのに過敏になっちゃってね。

 怖かっただろうけど、分かってあげてね~ユリエルちゃん」

「……そ、そんな事が……!」

 サキュバスはユリエルを労わりながら、魃姫の事情を話した。

 魃姫は何とも極まりが悪そうな顔をしているが、かつての仲間の裏切りが今の状況に関係があるなら、話さぬ訳にはいかない。

 事情を聞くと、ユリエルはひがみに満ちた顔で魃姫を励ました。

「へえー、ひどい奴らがいたんですね!

 でも、私は大丈夫。魃姫様の作る世界を支持します。

 多分ですけど、前の子たちは見てくれの小細工で男に気に入られた経験があるんじゃないですか?

 だから、それを否定されてムカついたんでしょう」

「言われてみれば……そうだったのか!」

 魃姫は、合点がいった。

 これまで魃姫にすがった子たちには、捨てられたり奪われたりということは、彼氏がいた時期がある。

 となると、彼氏に愛されようと自分を磨いてほめられたことがあるのだろう。それは彼女たちにとって、自分を肯定する何より大切な思い出だったはずだ。

 それを全否定されたら、そりゃあついて行けないだろう。

 自分の努力で得た幸せを、あってはならないと言い切られたら。

 その点ユリエルは、これまで男と幸せに満たされたことがない。元々手に入れたことがないから、諦めるなんてことができてしまった。

「……でも、ユリエルちゃんも無理してるわよね。

 だって原型分からないくらい塗りたくった人がそう言うんだもの。いくらモテ搾取を憎んでも、これじゃ納得できなくて当然」

「いえいえ、そんな事ありませんよ~!」

 サキュバスの指摘を否定するユリエルの顔は、しかしひどい嫉妬と怒りに歪んでいる。

 その顔を見て、魃姫はサキュバスの言うことが本当だと理解した。

「そう……か……わらわが、原因……!」

 魃姫は、たった今化粧を直してきた自らの顔に手をやった。少し触れるだけで、指先に白粉がついて白くなる。

 はっきり言って、容姿偽装もいいところだ。

 だが正直、魃姫に自分を飾っている自覚はなかった。だって魃姫は、こうしたってせいぜい初対面で嫌な顔をされなくなる程度で、得をしている実感がなかったから。

 それでも、本来の扱いより上がっているのは確かである。

 なのに他のちょっとかわいい女の子には媚びるな飾るなと……気が付いてみれば、不公平極まりない。

 魃姫はこれまで、華やかなモテ美女を憎むあまり、そんな不条理を不幸な女の子に押し付けていたのだ。

 押し付けられた女の子にしてみれば、泣きっ面にハチだ。

 苦しいからすがったのに、復讐を果たした後に自分を磨いて新しい幸せを掴むことが許されないなんて。

 これでどうやって、幸せな未来を思い描けというのか。

「うん、はっきり言っちゃうとね~……これは魃姫殿が悪いわ。

 だって彼女たちにしてみたら、自分は化粧と衣装に頼ってる人の横暴で、自分たちが幸せになる努力を禁じられたようなものよ。

 むしろ魃姫殿がね、身勝手に他人の幸せを踏みにじる悪党になっちゃったの。

 その点、美王派閥はどんどん努力して幸せになろうって謳ってるから……」

 サキュバスにズバッと言い切られて、魃姫はふらついてたたらを踏んだ。

「そ、そんなぁ……わらわはただ、見目で人が不幸にならぬ世界を……。

 こんな、つもりでは……!!」

 魃姫の脳裏に、これまで裏切って討たれた女たちの顔が浮かんだ。


 せっかく手を取り合えたと思った、痛みを抱えた女たち。けれど表では大人しいふりをして、いつの間にか美王派閥と取引し内通していた。

 それを問い詰めると、勝てぬと分かっていても壮絶な決意を目に襲いかかってきた。

「私は、あなたのねたみと横暴なんかに屈しない!!」

「頑張ってきれいになって報われる……幸せになれる世界のために!!」

「確かに借金は負わされた。けど、こっちには自由がある!!努力する余地がある!!」

「勝てなくたっていい……この気持ちは、絶対守る!あの人が可愛いって言ってくれた、私を守って死ねるなら!!」

 彼女たちは口々にそう言って、どんな苦痛にも決して折れることなく散っていった。

 魃姫はその理由が分からず、ただただ美王を憎み裏切った者を恨んで疑心ばかりを募らせていたが……。

 今、ようやく分かった。

 彼女たちは、恋して自分を磨いて外見も含めて好きな人に気に入ってもらうという、常識的な幸せへの道を守りたかっただけ。

 並ならぬ努力をしても普通の見返りが得られなかった魃姫にはそれが分からず、普通の幸せを踏みつぶそうとしてしまっていた。

 それが、これまでの悲劇の大元だった。


「わ、わらわのせい……!

 わらわが、普通の女子の幸せの……敵……!」

 あまりの衝撃に、魃姫は頭を抱えて崩れ落ちた。

 自分は自分の苦しみを減らそうと、それが同じように苦しむ者を救う世直しと思っていたのに、それで自分も他人も傷つけて不毛な悲劇を繰り返していたとは。

 決してそんなつもりではなかったのに、知らぬとは何と恐ろしい事か。

 縮こまってポロポロと涙をこぼす魃姫に、サキュバスは言った。

「……これまでの子たちは、ユリエルちゃんほどバカ正直でも大胆でもなかった。だからどうにもならなくなるまで、勝てない相手に不満を言わなかったのね。

 だからあなたは気づかず、あたしも気づかず、繰り返してしまった。

 でも、やっと気づけた。だから、もうこんなのは終わりよ」

 サキュバスは、ユリエルに深く頭を下げた。

「正直に口に出してくれて、本当にありがとう。

 そうやって思ったことが何でも口と顔に出ちゃうの、疎まれたこともあるでしょ。でもそうじゃなきゃ伝わらないこともある。

 どうかこれからも、その正直さで魃姫殿を支えてあげて。

 魃姫殿には、あなたみたいな子が必要だわ!」

 そう言われて、ユリエルはポカンとしていた。

 とても怖い目に遭って、いろんな期待を捨てる覚悟をしたのに、間違っていたのは魃姫の方だったというのか。

 確かにこれまで、この何でも口と顔に出るのを嫌がられたことはあった。直さなきゃと思いつつ、どうしてこんな思いを我慢しなきゃいけないんだと思う自分が反抗して、無理に抑えようとしてキモがられたこともあった。

 だが今回は、どうやらそれでとても大きな事が解決したらしい。

 ただし、どうして女の敵のサキュバスが心から嬉しそうな顔をするのかは謎だが。


 困惑するユリエルに、サキュバスはささやいた。

「あたしたちのことは、今すぐ認めてくれなくたっていい。

 だいたい、魃姫殿だってそうだったし。あたしたちを敵視して邪魔して、いくつものダンジョンや独立勢力が美王の手に落ちるまで、認めなかったんだから!」

「ファッ!?」

 思わぬ発言に、ユリエルは目が点になった。

 今こんなにサキュバスに屈している魃姫も、かつては逆だったとは。しかし、非モテの心情を考えるとその方が自然だ。

 それにしても、サキュバスの邪魔をすると美王の勢力が伸びるとは。縄張り争いという意味ではそうだろうが、どうも釈然としない。

 すると、魃姫がしどろもどろと声をかけてきた。

「ユリエルよ、その……わらわのことを棚に上げて力で押して、すまなんだ。

 だが今のサキュバスたちの働きは、本当にまっとうな女のためになることじゃ。

 男の体まで独占しようとして心を失ったら、本末転倒じゃろ。美王派閥はそれをさせようとし、サキュバスたちはそうならぬよう尽くしておる」

 今のユリエルよりずっとひどかったかつての自分のことを掘り起こされるのは、魃姫にとって相当恥ずかしいだろう。

 信用は落ちるし、威厳も沽券もあったものではない。

 それでも魃姫は、それを謝罪してまでユリエルを説き伏せようとしている。さっき力で押された時より、ずっと聞く気が湧いた。

「……で、具体的にはどのように?」

 ようやくユリエルが耳を傾けると、サキュバスは得意げに説明した。

「まあ、やる事自体はふしだらかもしれないけど……伴侶のいる男や立場のある男の余計な精を吸って、他の女にふらつかないようにしてるのよ」

「それは結局、あなた方に心を奪われるのでは?」

「……めちゃくちゃ純粋だね、ユリエルちゃん。

 でもこれから男と幸せになりたいなら、覚えておいた方がいいわ。男にとって、性欲と愛は結び付くこともあるけど別物よ。

 そして愛があっても性欲の不満があると、男はそれに突き動かされてしまう。性欲の不満で、愛や信頼が壊れることだってある。

 それを防ぐのが、今のあたしたちの役目」

 半信半疑のユリエルに、サキュバスは具体的に例を挙げた。

「いくら相手を愛していたって、性欲に応えられない時が女にはあるものよ。体調が悪い時、気分が乗らない時、大事な仕事の最中、そして愛する人との赤ちゃんを育む時。

 そんな時、どんなに愛していたって、性欲の不満は溜まっていく。それを放っておいたり理詰めで縛りつけたりすれば、男はさらに不満に引きずられてしまう。

 そういう時、あたしたちが抜いてあげれば、男は妻に対して冷静で賢くいられるの。

 あたしたちは、そのための便利であと腐れがない処理係を引き受けてるの」

「ううーん……そう言われると、そうなのかな?」

 ユリエルも恋に恋しながら、相手がいる女の悩みを耳に挟んだことがある。

 特に赤子を育てていて余裕がない時、夫に求められるのが苦痛で仕方ないという話はそれなりに聞く。

 応えるどころじゃないしさらに孕まされても困るのに、応えないと夫はどんどん機嫌が悪くなり、いくら諭しても分かってもらえずしまいには不倫に走られることも……。

 それを聞くたび、何と愚かな男を掴んでしまったんだろうとユリエルは同情した。

 自分は絶対にそんな男に捕まらないぞと、思っていた。

 だが男のほとんどがそういう性質なら、そういうものと理解して対処を考えた方が遥かにうまくいくのかもしれない。

 例えば別の女に抜いてもらうのもその一つだが、人間社会でそれをやるとその女に夫を取られる、金がかかって家計を圧迫するという問題が生じる。

 だが、精が食べたいだけのサキュバスならば……。

「あたしたち、ちゃんと伴侶の同意を得たうえで、夫を奪わない契約の下でやってるわ。

 夫の欲を抜いた後、食べる訳でもないのに愛してくれる奥さんは優しいわねって、フォローも欠かさない。

 そうして夫を賢者にしておくだけで、夫婦のいさかいも美王の手下が付け込む隙もぐっと減らせるのよ。

 ねえ、魃姫殿?」

 サキュバスに振られると、魃姫はとてつもなく気まずそうにうなずいた。

「そ、そうじゃ……そのような働きのサキュバスをわらわが追い出して男を理で諭したところに限って、あっという間に美王に乗っ取られてしまったんじゃ。

 わらわがどう反発して抗おうと、これは動かぬ事実。

 ユリエルや、どうかわらわの顔を立ててこやつらを認めてたもれ!」

 魃姫は、己の過ちから思い知ったのだ。

 だからサキュバスたちにはその分返さねばと恐縮しているし、ユリエルには同じ轍を踏ませまいと強く当たってしまった。

 それが分かると、ユリエルはふっとほおを緩めた。

「そうですね……自分の考えがいつも正しいとは限りませんから。

 それに、過ちを認めたお方の言葉は貴重です。魃姫様には過ちを認める度量がおありになると、よく分かりました。

 でしたら、私もそれを無駄にせぬように従います」

「お、おう、そなたの過ちなどわらわの足下にも及ばぬから安心せい!

 生きとし生ける者は過ちを犯すものじゃ、これからも諫め合い支え合おうぞ!」

 魃姫は、引きつった顔でユリエルの手を握った。

 そこで、サキュバスも手を重ねて告白する。

「うふふ、過ちというならあたしも、サキュバスの代表として謝っておくわ。

 百年くらい前まで……あたしの姉が代表だった頃までは、サキュバスはあなた方の思うような邪なやり方が主流だったの。

 でもその悪名を美王に利用されて、うちは淫魔じゃないから健全よって、悪いことしてた人はほとんど客を奪われて殺されちゃって……。

 どうにか滅びない方法を考えて、今の形になったのね。

 始めからこうしてれば、良かったんだけど……先人たちがごめんなさい!」

 ユリエルとサキュバスと魃姫は、お互いの過ちを認めて謝り合った。

 過ちを認めて謝り、それを他人に話して共有することは、とても勇気が要る。しかしそれは、誠と度量の比類なき証となる。

 この恥と波乱を乗り越えて、ユリエルと魃姫はさらに強い絆で結ばれた。

 そして、お互いに分かり合えない部分はあるけれど、補い合って分かる努力をしようと、復讐ではない部分まで心を重ねた。


 と、一息ついたところで、魃姫がぼそりと漏らした。

「ところで、桃仙娘娘と杏仙娘娘のことだが……あやつらは美しさを鼻にかけて気に食わなかったので、呪いであの姿にしたのじゃ。

 これもわらわの勝手なひがみなら、解いて謝った方がいいかのう?」

「え……あの二人は、何してたんですか?」

 魃姫の話によると、こうだ。

 桃仙娘娘と杏仙娘娘は、元は桃と杏の木の精だった仙女だ。姿かたちは美しく、体は桃と杏のいい香りを放っていた。

 二人はそれぞれ桃と杏の木をどこにでも生やして実らせる能力を持ち、それを使って迷い人などを飢えと渇きから助ける仕事をしていた。

 ……が、そのやり方がひどい。

 迷い人に虹や果樹の幻影を見せてさんざん迷わせた末、本当にもうダメだとなってから実物を恵むのだ。

 そうして迷い人が感謝しか考えられなくなって果実を貪るのを、自分たちの徳だと得意げに眺めていた。

 特に妹の杏仙娘娘はひどく、それで迷い人に後遺症が残ってもお構いなしだ。

「え、ちゃんと助けてるからいいじゃん。

 ちょっとぐらい遊んでも、みんな許してくれるよ。それどころか、優しくて美しいあなたといたいって求婚してくる人もいるんだよ~。

 ふふん、あたしは可愛い恩人だもん!

 あ、醜い化け物のあんたには分かんないか~。キャハッ♪」

 杏仙娘娘はあろうことか、魃姫討伐に来た敗残兵にすらそれをやって弄んだ。桃仙娘娘も一応謝るものの、子供のいたずらを咎めるような軽い調子だ。

 命懸けで人が救いを求めるのを、美人だから許してくれるなんて勘違いまでして、最終的に仕事をこなせば何をしても許されると思い上がっていた。

 だから魃姫は呪いで美しさを奪い、真逆の世界を体験させ、助けられる力を持つ者が助けてくれない地獄を味わわせている。

 それを聞くと、ユリエルとサキュバスは静かに答えた。

「……それは、呪っていいですよ」

「必死に助けを求める人を弄ぶなんて、これは自業自得だわ。

 しかも助けた人が求婚って……迷って死にそうだったところに食糧を出せる女が現れたら、そりゃそうなるでしょうに。それに、男って生命の危機にこそ性欲が高まるのよ。

 男を命の欲でぐちゃぐちゃにして、それを徳だなんて……悪質にも程があるわ!」

 フランケン仙女姉妹があんな姿をしているのは、彼女たちの業によるものだった。たとえそこまで悪気がなかったとしても、これは魃姫のひがみでは済まされない。

 彼女たちもいつか罪を償うまで、魃姫と共に修羅の道を歩むのだろう。

 ユリエルやサキュバスたちと手を取り合い、美に思い上がっている美王たちを滅ぼし、世の過ちを正すまで。

 私も結婚前はサキュバスなんて女の敵と思っていましたが、結婚後に男の質を知って、サキュバスがいた方がいい時もあると思うようになりました。

 つわり中とか産後とか、本当に求められても無理なんじゃ……しかしそれを一生懸命伝えて訴えるほど、男に欲求の恨みが溜まるという理不尽がある世の中。


 幸い私の旦那は持病で体力が削げていて心臓も股関節も危険なので、求めてきません。

 でも、一度だけエロ動画で抜いているのは見てしまいました。(気づいたら旦那が泣いた)

 しかしよく考えたら、現実ではエロ動画やエロアニメ、エロゲーが都合のいいサキュバスに近いのではと思う。現実で夫を略奪しないし、本物の女遊びより遥かに安全で安上がり。むしろ欲求不満からくる不倫防止にそれらを与えておけという意見もネットで見た。

 それなら、たとえ旦那が興奮しすぎて心臓にきても私が殺人犯にはならない。二次元に加害者はいない。むしろ私には許さない理由がないんだが……。

 私が元非モテで色香でつなぎとめられる自信がないから、こういう思考になるんでしょうか?


 ちなみに私は性欲がないのではなく、大部分が二次元向いてるだけです。

 でも、おかげで旦那の体の都合でレスでも、エロ漫画の人妻みたいに不倫して家庭を壊したりしないよ!適材適所だ!(そもそも不倫しようとしてもモテな……ぐわああトラウマが!)

 こんな私と旦那を娶わせた神様はマジ神だと思う。

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― 新着の感想 ―
作者様の見識(泣)が深いなぁ。 しかし、なるほどと納得できる視点。性欲を適度に発散させることで、愛や社会を守れるって言うのは一定ライン存在すると思う。 学べる小説だ…。追放聖女系ザマァダンマスもの、…
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