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56.死と怨念の夜会

 レビューを書いていただいた方、ありがとうございます!

 おかげで、総合ポイントが800を越えました!


 イマシメルを倒しても、生者落としのダンジョンにはまだ強敵がいます。

 それに、強化されているのがイマシメルだけだと思ったか?

 これまでの不和も相まって、人間たちの地獄が始まります。ゾンビ感染展開は胸が躍りますね!


 ちなみに作者はこれを書き始める前、ほとんどゾンビものばかり書いていました。ゾンビが好きな方は、ぜひ他の作品も読んでみてくださいね。

「あ、ああ……そんな……師匠!」

 ミツメルは、信じられない顔で目の前の惨劇を見つめていた。

 あれほど強く高潔だった師は、巨大な権力の集めた力の前に散ってしまった。

 他ならぬ自分を守ろうとしたせいで、勝てなかった。あれほどの力を与えられながら、一旦守勢に回ると押し切られてしまった。

 元々魔法職の賢者は、肉迫されると弱いのだ。

 そして、それよりさらに攻撃能力の弱いミツメルが、残った四人の聖騎士に勝てる道理はない。

「い、嫌だぁ!死にたくない!

 せっかく、真実を知ったのに!!」

 ミツメルの腕の中で、若い鑑定官が泣き叫んでいる。

 おそらくまだ替えがきく立場であろう、この若く純真な鑑定官は、もう生かしてはもらえないだろう。

「くっ……ぼ、僕は、また……何も為せぬまま……!」

 悔しさに唇を噛みしめるミツメルに、勝ち誇って迫る強豪の聖騎士たち。


 と、その間に濃密な闇が立ち込めた。

「何っ!?」

 油断なく背中合わせになって構える聖騎士たちの頭上から、ぞっとするような重く威厳ある声が降ってきた。

「よくも、我の最高傑作を壊してくれたな!

 だが我らは止まらぬぞ!

 貴様らが奪った百倍の命を、死に引きずり込んでくれよう!!」

 見上げれば、恰幅のいい礼服の男が宙に浮かんで聖騎士たちを見下ろしていた。肌は青白く、口元には鋭い牙がのぞいている。

 ダンジョンマスター、吸血暗黒爵ダラクその人だ。

 その時、一筋の光条が闇を裂いてダラクに向かった。

 しかしダラクは、それを片手で軽く受け止める。握った手がジュッと音を立てて焼けるが、ダラクは力を込めて聖なる光の矢を握り折った。

「フンッ……こそばゆいわ!

 貴様らが捨てたあの小娘の血は、美味しかったぞ。あれで強化された今の我に、その程度の浄化が効くと思うな!」

 ダラク自身もまた、ユリエルの血により強化されていた。

 アンデッドに特攻と言われる光の力を帯びた攻撃が、かすり傷程度にしか効かなくなるくらいには。

 それを見て、ブリブリアント家筆頭聖騎士が団長にささやく。

「ねえ、ちょっとこれは無理じゃない?

 ゴッド・スタンプならいけるかもだけど……俺、あれもう一回は非常にしんどい」

「うむ……そもそも、それを打ち込む状況に持っていくだけの人手がない」

 団長も、不利を認めてうなずいた。

 今残っている四人の聖騎士は皆強豪だが、これだけで強化されたダラクに挑むのは分の悪い賭けだ。

 最終的にはダラク討幕を目標に数を揃えて来たものの、そのほとんどがイマシメル戦で散ってしまった。

 あんなものがいるとは想定外だったため、これでもよくやった方だ。

「……止むを得ん、撤退だ。

 聖杖と記録された魔道具を持ち帰れば、土産にはなろう」

 団長は、あっさりと撤退を決めた。

 ダラク討伐とダンジョン攻略は、どうしてもやらなければならない任務ではない。これまでだって、ずっとできなかったのだ。

 ならば今やるべきは、生きて帰って情報を持ち帰ることだ。

 聖騎士の一人が、若い鑑定官が落とした魔道具を拾う。

「いやー、イキッてるとこ悪いね。

 防衛はおまえの勝ちでいいからな、僕らはもう帰らせてもらうよ」

 だがダラクは、残酷な笑みを浮かべて告げた。

「ククク……無事に帰れると思うなよ。

 貴様らがここに入った時から、ロンバルトとマーレイが中間拠点に攻撃をかけている。今頃、道中はメチャクチャだろう。

 もうここに、支援物資や食料は届かん!

 孤独と絶望の中で、横暴を悔い力尽きるが良い!!」

 これは、聖騎士たちにとって想定内だった。

 ロンバルトとマーレイは元々このダンジョンの幹部として知られているのに、今回に限って出てこないのはおかしい。

 タイミングを図って何か企んでいるんだろうとは、思っていた。

 だからもちろん、対策もしてきている。

 聖騎士たちは、団長の周りに固まった。

「まともに付き合いはせんよ。

 我らは我らが生きて帰れればよい。せいぜい、雑魚共相手に猛るがいい!」

 別れの口上とともに団長がオーブを掲げると、聖騎士たちの足下に魔法陣が広がった。直後、聖騎士たちの姿が掻き消えた。

「何!?……クソッ転移か!」

 ダラクは、ぎりっと歯を鳴らした。

 聖騎士たちは、きちんと撤退の手段を備えていた。ダンジョン内で使える高度な転移の魔道具で、恥も外聞もなく逃げてしまった。

「ぐぎぎ……奴らもここで倒せれば、大手柄だったものを!

 だが、これで道にいる奴らは見捨てられたも同じ。くれるというなら、盛大に刈り取ってくれるわ!!」

 大きな魚は逃がしたが、まだ獲物は残っている。

 ダラクはすぐさま、取り残された人間に狙いを定めた。


 地面に降り立つと、ダラクはミツメルの長い髪を掴んで怒鳴りつけた。

「さっさと立て、愚図目玉が!!

 貴様のせいで、せっかくの古の聖者が台無しになってしまったではないか!責任を取って、キリキリ働け!!」

 ミツメルの失態は腹立たしいが、死ねとか人間に突撃しろとかは言わない。

 イマシメルの遺した言葉が正しいと、ダラクにも分かっている。

「DPで強化してやるから、ありったけの目玉を飛ばせ。そして今の惨劇の原因を、人間どもに見せつけてやるのだ。

 このために生かしてやっているんだぞ!!

 人間どもに思い知らせ、後悔と絶望に叩き落せ!!」

「は、必ずや!!」

 勢いよくうなずくミツメルを横目に、ダラクは若い鑑定官に吐き捨てた。

「貴様にもすぐ目をやるから、こいつの仕事をしっかりみていろ!

 ここで汚らわしい人間の生とおさらばだ、良かったな!!」

 ダラクはコアルームに戻り、すぐさま若い鑑定官を魔物化させ、さらに人間を追い詰めるべくダンジョンを弄り始めた。

 正直、ダラクもこんな事になるとは思っていなかった。

 例年聖騎士など十人も来ればいい方なので、イマシメルがいれば何も心配ないと判断し、莫大な支援のほとんどを美王に上納してしまったのだ。

 蓋を開けてみれば大人数の聖騎士が来て腰を抜かしたが、もう遅い。

 解毒剤の不足で人間がつまずいていなかったら、危なかった。

 だが今は、聖騎士がたくさん命を落としたおかげでDPが豊富にある。人間側にも、十分な対処ができていないアンデッド予備軍がゴロゴロいる。

 それらを使って、一気に巻き返してやる。

「さあ、死に染まれ人間どもよ!

 そして我の尖兵に変われ!」

 ダンジョン全体に、毒と呪いの効果を高める瘴気が噴き出した。


 その少し前から、ダンジョン中層の人間の拠点は強襲を受けていた。

 グールジェネラルのロンバルトとリッチのマーレイがそれぞれ別の拠点に現れ、荷運びの兵士や冒険者を蹂躙する。

 もちろん人間側も、防衛人員を置いてない訳ではない。参加した聖騎士が多かったため、大きな拠点には聖騎士が一人配置されていた。

 ……が、こいつらは深層への突入に不適と判断された実力不足な奴らである。

 それでも聖騎士というだけで、いつもならばそれなりに勝負になるのだが……。

「効かんなあ!」

「アハハッ弱~い!ううん、私が強くなってるのよ!」

 いつもなら止められる光魔法で、ロンバルトの突撃が止まらない。いつもなら防げる障壁を、今日のマーレイの魔法は軽々割ってくる。

「な、何で光がこんなに効かないんだ!?」

「こんなに強いなんて、聞いてた話と違う!!」

 対処できる敵だと油断していた人間たちは、あっという間に蹴散らされた。

 そこに隠れていたゾンビやグールが襲ってきて、あれよあれよという間に人間を不死者に変えていく。

 たちまち、中間拠点は大混乱に陥った。

 聖騎士でも倒せないものを、一般の兵士や冒険者にどうにかなる訳がない。

 人間たちは統率を失って散り散りになり、我先にと上へ向かって逃げ始めた。

 その混乱の中で人間同士の争いが発生し、さらに不良冒険者が変化したアンデッドが帰り道のあちこちに潜んでいる。

 だが、これはまだ地獄の序章にすぎなかったのだ。


 いきなり、ダンジョン内の空気が変わった。

 ただでさえ空気が淀んでいる救護所で、毒と呪いに侵されて横たわる者たちがにわかにひどく苦しみ始めた。

「ぐううぅ……た、頼む……解毒してくれええぇ!」

 だが解毒剤の余剰など、もうどこにもない。

 そのうえ治療に当たる教会の神官たちは不良冒険者の対応にすっかり疲れて頭にきており、まともに取り合おうとしない。

 そうしている間に、弱っていた者が死に、起き上がる。

「おい、どうした?治まった……ぎぃえええ!!?」

 救護所のど真ん中でアンデッドが発生し、周りの弱っていた負傷者が噛まれてあっという間にアンデッドが増えていく。

「うわっどこからこんな!」

「てめえらが治療しなかったせいだろ!鬼畜共が!!」

 慌てる神官たちに、解毒を求める冒険者が死に物狂いで襲い掛かる。

 安全と思われていた救護所に、大した戦力は配置されていない。たちまち、神官たちは負傷して逃げ出した。

 冒険者たちは恩人を追い出して救護所の物資を漁るも……。

「ほ、本当に解毒剤も聖水もこれっぽっちかよ!

 どどどどーすんだ!!」

 神官たちは使わなかったのではなく本当に使えなかったのだと、今さら気づいてももう遅い。

 こうなると頼みの綱は神官や聖女の癒ししかないのだが、冒険者たちは彼らを攻撃して追い出してしまった。

 もう、自分たちを助けてくれる者がいない。

「畜生、死んでたまるか!そいつをよこせ!!」

「ふざけんな、これは俺のだ!!」

 あっという間に、残されたわずかな薬を巡って同士討ちが始まる。それでまた多くの冒険者と兵士が傷つき、倒れていく。

 倒れた者は強化された呪いによって、即座にアンデッドとなって起き上がる。そして、せっかく解毒剤を奪って一息ついた者に食らいつく。

 争いが争いを、死が死を呼ぶ地獄絵図。

 冒険者と兵士たちは、混乱と絶望の極みにあった。どうしてこうなってしまったのかと、訳が分からないまま傷つけ合う。

 逃げ出した神官たちも、やり場のない怒りと失望の中にあった。できる限り手を尽くしていたのに、なぜこんな目に遭わねばならないのかと。

 皆が、理不尽な惨劇に身も心も痛めつけられていた。


 そこに、その原因映像が投下された。

 ダンジョンの至る所からコウモリの羽のついた目玉が飛び出し、目玉が光って虚空に映像を映し出す。

『よろしくお願いします、どうか教会に思い知らせるために私の血をお使いください。

 それが、純潔の証明になるならば!』

 魔の手を取り、純潔を証明するために血を捧げるユリエル。

 そしてその血を使った儀式で、無念の叫びを上げながら魔に堕ちていく古の聖者。

 その聖者のなれ果てとの戦いで、次々と命を落としていく聖騎士たち。

「見るがいい人間どもよ!

 今貴様らに降りかかる苦難は、貴様らの信じる教会の罪と貴様ら自身の盲信の報いだ!無垢なる聖女を虐げた罰だ。

 真実を足蹴にしたことを後悔し、己も教会も恨んで死ね!!」

 おぞましい映像と共に、ダンジョン中にミツメルの裁きの声が反響する。

 さらに、ダラクの嘲笑も。

「フハハハハ!!無様だな人間どもよ!

 かの元聖女は、誠に甘美なる血の処女であった。その力で、我は聖騎士を返り討ちにする力を得たのだ!

 悔しいか?悲しいか?だがもう遅い!!

 貴様らは、自ら陥れ追放した純潔なる元聖女の血で死ぬのだ!救いようのない愚かさよな!ハーッハッハッハ!!」


 これを見て聞いて、人間たちは天地がひっくり返ったような衝撃を受けた。

「お、おい……あれって……虫けらのダンジョンの……!」

「純潔だと!?嘘だろ!!」

「でも、嘘だったらこの負けはどう説明するんだよ!聖騎士様たちは帰ってこないし、敵のボスが明らかに強くなってんだよ!

 今までこんな事あったか!?」

 信じたくない。

 だが、否定するには敵の言うことに状況が合致しすぎている。

 例年とは比べ物にならないほど強化されたロンバルトとマーレイ、あんなにいた聖騎士たちと連絡が取れなくなり……。

「皆、落ち着け!魔族の言うことなど……」

 神官たちは信じないように叫ぶも、逆に冒険者たちに詰め寄られてしまう。

「じゃあ、他のどんな原因でこんな事になってんだよ!?」

「それは、その……」

「ほら答えられねえ!もうてめえらの言う事なんざ聞くか!!」

 これまで教会に不満を溜め込んでいた冒険者たちは、このダラクたちの暴露と状況により、それを爆発させた。

 助からないなら道連れにしてやるとばかりに、教会軍に襲い掛かる。

「ええい斬れ!

 そもそも、こいつらのせいで戦況が悪くなったんじゃないか!!」

 それに対し、教会軍や貴族の私兵たちも怒り全開で迎え撃つ。こんなに迷惑ばかりで役に立たないなら、殺してしまえとばかりに。

「ぐおおぉ……こんな……こんな奴らの言うことを、聞いたせいでえぇ……!」

 見る間に、すさまじい恨みを持った死者が量産された。彼らはその恨みによりやや強いアンデッドとなり、軍に第二ラウンドを仕掛ける。

 すると、軍の側からも無念の死者が出て敵に加わる。

 人間同士の血で血を洗う戦いの中で、生者とアンデッドの数が逆転していく。

「フハハハハ!!麦のように人が刈れるわ!」

 もはや人間側は、制圧した場所を維持することもできない。かつて仲間だった不死者に追い立てられながら、命からがら逃げることしかできなかった。


 そんな惨劇の渦中で、真実はカリヨンにも届いていた。

(ユリエル……何てことを!

 いえ、人として彼女を助けられなかったわたくしに責めることはできない)

 ユリエルの取った大胆かつ残虐な手段に、さすがのカリヨンも度肝を抜かれた。こんなに早くここまでやるとは、思っていなかった。

 とりあえず安全に生きられる場所を得たのだから、しばらくは小休止かと思っていた。その間にできることを探そうと、考えていた。

 だが、陥れられたユリエルにそんな事は関係なかったということか。

 人の中でどうやっても純潔を信じてもらえないならと、一線を越えてしまった。

 結果、ユリエルを信じなかった人たちは恐慌を起こして傷つけ合い、どんどん死に引きずり込まれている。

 だが、ここまではさすがにやりすぎだとカリヨンは思った。

(この者たちが皆殺人強盗だという、ユリエルの言い分は分かる。しかし彼らは騙されているだけで、本来善良に生きてきたのに。

 それに、こんな事をしていくら末端を叩いたって、インボウズに届かなければ意味はないのよ!)

 カリヨンは、その意味のない犠牲を許せるほど寛容ではなかった。

「皆さん、わたくしの周りに集まってください!

 エリアキュアポイズン!エリアキュアカース!」

 カリヨンはすぐさま救護所の真ん中に飛び込み、負傷者の毒と呪いを癒した。

「おいてめえ、ユリエルが純潔って本当なのか!?」

「こんな所では分かりかねます!

 それより、今は逃げるのです!!」

 カリヨンが体を張って……無理に魔力を絞り出して傷つくまで解毒と解呪を行ったおかげで、その救護所の者たちは一丸となって避難できた。

 途中で兵士や冒険者の集団に出会っても、大半は癒して仲間に加えて進んだ。

 自分の身を省みず聖女の役目を果たすカリヨンに心打たれ、神官や兵士たちが自分のために隠し持っていた魔力回復薬を差し出したからだ。

 その様子に冒険者たちも、この人なら信じてみようかという気になり、傷つけ合うことなく脱出のために力を合わせられた。

 さらに、アンデッドを力の限り狩っていたマリオンとも合流できた。

「おうカリヨン、無事だったか!

 ったく、ユリエルの奴やってくれるぜ。何するか分かんねーとは思ってたがよ、俺もここまでとは予想外だった!」

 マリオンはその俊敏さで的確にアンデッドの頭を貫き、安らかな死に戻してやっていた。相手が顔見知りでも、容赦はしない。

 聖癒科で身に着けた癒しと浄化で、自分を毒と呪いから守りながら。

「頑張れカリヨン、もう少し行けば、転移で戻って来た強い聖騎士が防衛線張ってるぞ!

 ただ、お前の親父の敵しかいないがね」

 その一言で、カリヨンは状況を理解した。

「そうですか……ならばマリオン、あなたは早く行きなさい!

 ギルドマスターに現状を知らせて、ダンジョンの出口に検問を敷くのです。知った者が殺し尽くされる前に、早く!!」


 ダンジョンの出口近くでは、深層から戻って来た四人の聖騎士がアンデッドを食い止めていた。

 いや、半分ほどはまだ人間だ。しかしうかつに外に出すとアンデッドになる者も多いので、まとめてここで屠っているのだ。

「うおおお!出してくれ、俺はまだ人間だぞ!」

「死にたくない!殺されたくない!」

 必死に逃げて来た兵士や冒険者たちを、圧倒的な力でブルドーザーのように押し潰していく。

「フンッ!こちらも、仕事なのでな。

 アンデッドと真実を、出す訳にはいかんのだよ!」

 外に布陣していた将兵たちも使い、冷酷に脱出しようとする者を殺し続ける。

 だが、聖者落としのダンジョンに投入された人員は膨大だ。その死に物狂いの流れを、止め続けるのは容易なことではない。

 さしもの四人の筆頭聖騎士たちも疲れてきたところで、中からカリヨンが、外から冒険者ギルドの援軍が到着し、生きている者の救出が始まった。

 筆頭聖騎士たちはカリヨンも始末しようとしたが、多くの兵士や神官たちがすがって守っているのでできなかった。

「……むう、ダンジョン外への口封じは無理か。

 クリストファーの娘め、手こずらせよって!」

「うーん、まあ人の口に戸は立てられないって言うし。

 幸い、騒いでんのは冒険者がほとんどだし、枢機卿たちなら何とかするでしょ」

 こうして聖騎士たちの目論見は外れ、ユリエルの真実を見聞きした者たちがダンジョンからあふれることとなった。

 しかし、筆頭聖騎士たちは、あまり心配していなかった。

 いくら情報をぶちまけられたところで、結局真実と受け入れられるかどうかは、信じてもらえるかなのだから。



 ここでダラクがダンジョン外に出てもう一攻勢かければ、外の人間たちにも一泡吹かせられたかもしれない。

 しかし、ダラクが打って出ることはなかった。

(くそっ……もう効果が切れてきた!

 せめてもう少し、あの小娘の血を補給できれば……)

 ユリエルの血による強化は、それほど長続きするものではない。外に打って出る前に、ダラクたちの強化は切れてしまった。

 このまま勢いで飛び出せば、今度はこちらが筆頭聖騎士たちに圧倒されることになる。

 血の在庫は、もうない。

 イマシメルがいれば聖騎士を全滅させられると甘い考えでいたダラクは、美王配下の吸血美女たちにせがまれて余りを渡してしまったのだ。

 今から補給できなくもないが、とんでもなく高くつく。

 ユリエルは造血薬の反動で倒れており、しかも魃姫が守っているため手を出せない。そのため、他の勢力が持っている分の血もとんでもなく高騰している。

 ダラクは、肩の力を抜いてため息をついた。

「ふう……今回はここまでか。

 まあやる事はやったし、強い恨みを持つ新兵も大量に手に入った。久しぶりに人間どもに恐怖を叩きこむこともできた。

 そこだけは、ユリエルに礼を言っておこう。

 後は他の勢力と、ユリエル本人に任せておくか」

 こうして、今年の死肉祭は終わった。

 しかしユリエルの血を手にしているのは、ダラクだけではない。他の魔族たちも、それを使って何か仕掛けるはずだ。

 その時人間たちがどんな顔をするのかと思うと、ダラクは愉悦の笑みをこらえきれなかった。


 ミツメルとダラクの目論見は、うまくいったのでしょうか?

 解毒剤の不足から来る教会と冒険者の不和により、少なくとも冒険者側には真実を信じる者がそれなりに出ています。

 これは、足掛かりになるのでしょうか。


 次回、インボウズに弩級インパクト!

 三連休なので、月曜日も投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] インボウズもだけどその娘たちにも弩級インパクトがほしいなぁ なんて
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