表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/121

55.人の命が重いならば

 聖者落としのダンジョンボス戦!!

 インボウズ配下率いる聖騎士VS古の聖者のなれ果て!!


 しかし本人たちの強さだけで勝敗が決まるとは限りません。

 みんなそれぞれ守りたいものがあって、インボウズ配下の団長はそれをだしに配下を戦わせる術を心得ています。


 一方、イマシメルの守りたいものは……。

 リストリアの街は、いつもより明かりを落としていた。

 地方からやって来た冒険者と軍のほとんどが、聖者落としのダンジョンに行ってしまい、通りはがらんとしている。

 それに夜店を開こうにも、食糧が高騰しているうえに足りない。

 夜を照らす燃料も、ダンジョン攻略に注ぎ込まれている。

 すっかり暗く寂しくなった街で、人々はやる事もなく祈っていた。

 これだけ捧げて注ぎこんでいるのだから、どうか今年こそ郊外に巣食う邪悪の根城を清められますように。

 今は暗いけれど、これを乗り越えれば必ず、光と希望に満ちた朝が来る。

 人々はいつもより物足りない腹を抱えながら、明かりのない部屋で明るい明日に思いをはせていた。


 一方、インボウズはダンジョンからの報告をホクホク顔で読んでいた。

「ほほう、ついにあと3階層か。

 これは、明日にでも決着がつくかもしれないね!」

 インボウズは上機嫌でブランデーをあおり、感慨深げにため息をついた。

「ふー……これで、僕はこれまで教会が為せなかった偉業を為すことになる。これほどの功績、聖人に認定されてもおかしくない!

 神はきちんと、忠実な者に報いてくださるものだ」

 インボウズは、満足の笑みでブランデーをもう一口。ついでに、庶民の口には入らぬ高価なつまみを口に放り込む。

 そうとも、自分はもっと恵まれるべき特別な人間だ。

 なぜなら自分は、飴と鞭と陰謀で人々から信仰心を引き出し、神に恵みを与え続けているのだから。

 その自分のやる事が、うまくいかないはずがない。

「ユリエルの件は焦ったが……ダラク討伐さえ成れば、あんな奴のことはどうでもいい。

 そして聖人となった僕の言うことを疑う者など、この世にはいなくなる!」

 インボウズは、最高にいい気分だった。

 今宵は勝利の前祝いとばかりに、カパカパと杯を重ねた。そして、もう悪いことなど何も起こらないと信じて眠りについた。


 ダンジョンの底では、激しい戦いが続いていた。

 魔物化した古の聖者は、ダンジョンボスに設定されたことも相まって、すさまじい強さで聖騎士たちを叩き伏せようとする。

 それも無理矢理従わされているのではなく己の確固たる意志で戦っているため、迷いや隙がない。

「腐った若造どもよ!滅せい!!」

 かつて多くの魔を葬り去った裁きの雷が、聖騎士たちに降り注ぐ。石の床をも抉り焼き焦がす雷は、聖騎士といえどもまともに当たれば無事では済まない。

 逆に聖騎士たちからも強力な光魔法が飛ぶが……強い光耐性を持つイマシメルには大したダメージを与えられない。

「くそっ……アンデッドのくせに!」

 アンデッドには光魔法が定石、ゆえに聖騎士たちは光の攻撃に優れた者ばかり。例年なら、これが最適解なのだ。

 それが通じないこんな強敵が現れるなど、想定外もいいところだ。

 だが、団長は冷静に状況を分析していた。

「ふむ……確かに強い。例年の陣容なら負けていただろう。

 しかし今年は、我々も数を揃えている。

 今押されているのは、くだらん感傷に飲み込まれた軟弱者が手を抜いているからだが……それを本気にさせる手なら、いくらでもある」

 団長は、周りの動きについていけていない女聖騎士に目をやった。

 さっき自分に、インボウズをすぐ捕らえるべきだと進言した目障りな女だ。世の中と狂気の仕組みを分かっていない、愚か者だ。

「ああ、お許しください聖者様!

 わざとではないのです!知らなかったのです!

 どうか、ここから逃がしてくださいませ。そうしたら、わたくしは必ずや事の真偽を正して見せます!」

 情に流されて、化け物に許しを乞うている。

 そんな事をしてここから出られたとて、自分とインボウズがあんな真実を野放しにする訳がないのに。

 イマシメルもそんな事はお見通しで、女聖騎士に逆に問う。

「ほほう、大口を叩きよるが……できるのか?」

 イマシメルの目は、冷めきっている。

「儂も、それが可能なら一番じゃと思っとるよ。

 だがな……人前に出て多くの人を助けて来た聖女が、何の証拠もなく陥れられて人々に石を投げられるのじゃぞ。

 おぬし程度の正義が通るなら、そんな事は起こらんのよ」

「いいえ、通して見せます!

 たとえ何を捨てようとも、この身を投げうって……」

「家族まで、投げうてるか?」

 その一言に、女聖騎士は思わず黙った。

 女聖騎士は、もし自分の娘がユリエルのようになったらと思うと胸が張り裂けそうで、許してはならないと思った。

 しかしその想いの根底は、家族を守りたいのだ。

 もし見ず知らずの人を助けようとして自分の家族がそうなるなら、迷わず踏み出すことなどできるだろうか。

 ぐっと唇を噛んで俯いてしまった女聖騎士に、イマシメルは言い放った。

「ほれ見い、もうきれい事で解決などできんのじゃよ。

 そんな事も気づかず、よくもおめおめと従っておったものよな。

 つまり、おぬしにできる事はもうない!文句なら天国で神に言え!!」

 イマシメルの聖杖が、まばゆい雷をまとう。それが鞭のように振り出され、返す言葉もない女聖騎士を打ち据え……。

「フンッ!!」

 バチーンとけたたましい音を立てて、団長の盾がその鞭を防いだ。さすがにインボウズ直属の団長だけあり、その装備と実力は折り紙付きだ。

「だ、団長……!」

 あっけにとられた女聖騎士に、団長はため息混じりに言う。

「やれやれ、難しい女だ。

 だが、そんなに許しが欲しいなら、方法が一つだけある。

 奴が憎んでいる元凶の持つ力……この私をその手で殺すことだ。それくらいの実行力と誠意を見せねば、信じてはもらえまいよ」

 その言葉に、女聖騎士は不覚にも心が揺れた。

 仲間を殺すなど、とんでもないことだ。

 しかしこの団長は、インボウズの罪を糾弾する様子がなく、もしかしたら知っていて見逃したか加担したかもしれない。

 ならばこいつを殺せば、悪い奴だけを犠牲に無実の元聖女を救出することも……。

 女聖騎士の目に、敵意と忠誠が目まぐるしく移り変わる。しかし失敗して家族がどうなるかと思うと、剣を握った手は動かなくて。

 突如、その胸の聖印章がまばゆい光を放った。女騎士の背後から、真っ白な光の筋が突き抜ける。

「あ……え……?」

 胸元を見つめた女聖騎士の目がうつろになり、その体がばたりと倒れた。

「この女の魂は、堕ちる前に神の御許へと旅立った!

 さあ、仇を討てえェ!!」

 団長が宣言する前に、既に何人かの聖騎士がイマシメルに躍りかかっていた。だがイマシメルは、予見していたように全て打ち払う。

「バレバレじゃぞ、阿呆が!」

「ふむ……この女の命が無駄になってしまったではないか」

 聖騎士の聖印章は、死して体が悪用されぬように魂の防衛装置がついている。

 ……要は自爆装置のようなもので、決められた魔力信号により本人に残った力を全て光の奔流に変え、本人の体を強力に清めつつ背後の敵に強力な一撃を見舞うのだ。

 ただしこれはかなり昔からあるため、イマシメルには看破されて防がれてしまったが。

 それでも、効果はある。

 今ので、目の前の敵より不正を気にする清いだけのバカ共への見せしめになった。今力を合わせないとどうなるか、思い知らせてやった。

「さぁーて、もうこんな命を無駄にする愚か者はおるまいな?

 こんな状況で小娘一人にかまけて刃を鈍らせ、負けでもしてみろ……責任を押し付けられた家族は、辛かろうなぁ。

 ほれ、人も世も家族も守り切ってみせい!」

 団長は冷酷に、喝を入れる。

 さすがにインボウズの下でのし上がった団長だ。どうすれば人が思い通りに動くかを熟知している。

 そしてそうする権限を、インボウズに持たされている。

 状況も、ある意味彼に味方している。

 清廉な奴らが外に出て真実を叫ぼうとしても、イマシメルを倒さない限りここから出られないのだ。

 おそらくダラクが設定したのだろうが、これでイマシメルと清廉な聖騎士共が両方出られることはない。

 清廉な聖騎士たちが生きて真実を伝えようとするならば、イマシメルを倒さねばならない。

 ゆえに、どんなに不正を憎もうと、今は戦うしかない。

(……さて、後はアレをどう処分するか。

 高位のアンデッドは弱点以外を攻撃してもさほど効かぬからな……光属性の効きが悪いならなおさら。

 しかし、肝心の鑑定官があれでは……)

 団長は、渋い顔を若い鑑定官に向けた。

「わああぁ……何で!どうして!

 間違ってるのに……正しいのにぃ!!」

 若い鑑定官はすっかり錯乱して、意味のない鑑定と審問を繰り返して魔力を浪費している。

 本来なら鑑定官に弱点を見つけてもらい、そこを突いて倒すべきなのだが……これでは使い物にならない。

「やれやれ、数と物理でゴリ押すしかないか。

 まあ、ちょうど良い間引きにはなろう」

 団長は、ヘルムの下で卑劣な笑みを浮かべた。


 若い鑑定官は、命より大事な魔道具を抱えて泣きじゃくっていた。

 目の前で繰り広げられている戦いの、意味が分からない。正義が分からない。どうしてこうなっているのか、分からない。

 真実と正義に従って行動すれば、間違いなんかないはずなのに。そう教えられて、これまでずっとそうしていきたのに。

 世の中にこんな事があるなんて、聞いていない。

 枢機卿も審問官も責任をもって断罪したことが実は間違っていて、憎むべき魔女が本当は純潔な被害者だなどと。

 そのうえ、彼女を助けようと声を上げた女聖騎士は殺されてしまった。

 どう考えても間違っているのに、どうにもならない。

 皆が救われる道が、いくら真実に照らしても見つからない。

 教えと尊い人に従いたい気持ちと真実を守りたい気持ちに挟まれ、心臓が押し潰されそうだ。

 ひたすら泣き叫ぶ若い鑑定官に、冷たい声がかかった。

「哀れだな……信じていたものに裏切られて。

 教会の言うきれいで単純な世界など、存在しないのだ」

 はっと振り向くと、目隠しをした黒いカソックコートの男がすぐ側に立っていた。ヘルズアイデーモン、ミツメルだ。

 すくみ上がる若い鑑定官を、ミツメルはゆっくりと覗き込んだ。

「悔しいか?悲しいか?それとも、認めたくないか?

 だがそうは問屋が卸さん、これは紛れもない現実だ。

 おまえは目を開く道具を与えられたつもりで、その実目を塞がれて道具にされていたのだ!」

 ミツメルに言い切られて、若い鑑定官はヒュッと息をつめた。

 相手は忌々しい魔族なのに、決して屈してはいけないのに……頭の中がぐちゃぐちゃで返す言葉が見当たらない。

 今すぐ殺されるかもしれないのに、体が動かない。

 しかしミツメルは、ふっと口元を緩めて優し気に言った。

「大丈夫だ、おまえに無知の他に罪はない。

 おまえもまた、あの娘を陥れた悪徳枢機卿の被害者だ。あの娘の足掻きに巻き込まれ、傷つき苦しむ者は全て。

 おまえは、目を与えられ真実に仕える者として、どうしたい?」

 唐突に問われて、若い鑑定官は思わず考えてしまった。

 今の状況はどう考えても間違っているんだから、世のため人のため、真実を広く知らせて巻き込まれた人を助けるべきだ。

 だが、今自分がここから出ることはできなくて……。

 悔しそうに歯を食いしばる若い鑑定官に、ミツメルはささやく。

「実は、君が戦いの最中にここから出る方法が一つだけある。

 君が……我々に降伏し、魔族となることだ!」

「へっ……!?」

「ボスを倒さないと出られない、は敵にしか適用されないんだよ。鑑定してみればすぐ分かるだろう。

 だから、君がそれさえ受け入れれば……君は、人々に真実を伝えることができる」

 その言葉に、若い鑑定官は頭がくらくらした。

 ダンジョンに降伏し魔に魂を売るなど、普通に考えたらとんでもないことだ。

 しかし、それで偽りのために命を落とし続ける人々を救えるなら。真実に仕えて世を正しくするという、使命を全うできるならば。

 さっき団長の言った、家族のことは頭をよぎった。

 それでも、今まさに偽りのために死ぬもっとずっと多くの人の家族が、意味もなく地獄を味わわされているのだ。

 ミツメルは、どこか儚げに笑った。

「僕もね、この身この立場になって、人間だった頃よりずっとよく見えるようになった。

 君も、もっと見えるようになるといい」

 その表情が他人とは思えなくて、若い鑑定官は思わずミツメルの腕に身体を預けた。

「ミツメル……あんた、元は……!」


 だが次の瞬間、目もくらむような光が視界を埋め尽くした。ほぼ同時に、ミツメルが若い鑑定官を抱きしめて転がる。

「ギャアアッ!!」

 耳元で上がるミツメルの悲鳴と、ジュッと何かが焼ける音。そして少し遅れて鼻腔に広がる、肉の焼ける臭い。

 ミツメルが、自分ごと攻撃を受けている。

 だが、守ろうとしてくれている。

 訳が分からないまま、その恐ろしい状況は終わった。

 若い鑑定官が目を開けると、体中に火傷を負ったミツメルが、荒い息をしながら傷を癒されていた。

 そして、そんな自分たちをかばうように、障壁を展開するイマシメルの姿。

 イマシメルが、雨あられと降り注ぐ光弾をたった一人で受け止めていた。


「……馬鹿弟子が、やるならさっさとやらんか!!」

 光の雨が止むと、イマシメルは険しい顔で振り向いた。

「あの時、あれほど正しい忠告を儂にしておいて……結局、欲深き者共の都合通り儂と共に追い出されよって。

 あれほど見える目を持ちながら、何を学んだのだ!

 それを己で狭めるのと行動力の不足が、まだ直らんか!!」

 激しく怒鳴りつけながら、その声はややかすれ、先ほどの覇気がなくなっていた。

 いかにイマシメルといえど、これだけの数の聖騎士を相手に防戦一方に回ってしまうと正直厳しい。

 自分だけならまだしも、ミツメルを癒しながら若い鑑定官と二人を守り切ったため、魔力を一気に消耗してしまった。

 その失態に、ミツメルは慌てて謝る。

「申し訳ありません、師匠!

 ……ですが、私もこの者も所詮この程度。師匠が身を挺する必要などございません!

 師匠こそ、私が気を引いている間に聖騎士を葬れば良かったのです!目の前の弱者に気を取られる質が、まだ直りませぬか!!」

 そのやりとりで、若い鑑定官と聖騎士たちは気づいた。

 イマシメルとミツメルは師弟、そしてミツメルは元教会の人間だ。

 しかし聖者落としのダンジョンで命を落としてから、ミツメルは早々に魔に堕とされてしまったため、教会の歴史から消し去られてしまったのだ。

 イマシメルは、深い悲しみとともに呟く。

「結局、おまえの言った通りになったのう。

 教会に金持ちが集まり始めたのは、腐敗の兆候。儂が辺境への布教を任されたのは、奴らが儂を遠ざけようとしたから。

 そしていくら儂が清らかな信徒を増やしても、いずれ全てが欲深き者共の肥やしになってしまうであろうと。

 ……所詮儂こそ、善性を信じることしかできぬ愚か者よ」

 イマシメルの胸は、かつて聡明な弟子がしてくれた忠告を台無しにしてしまった後悔で一杯だった。

 もし自分がそれに従って中央で目を光らせ、しっかり後進を育てていれば、教会がここまで腐敗することはなかったかもしれない。

 無実の罪で踏みにじられるユリエルと、その反撃で命を落とした多くの人を、救えたかもしれない。

 それをしなかったのが、聖者と呼ばれた己の罪。

「……馬鹿弟子が、もう儂には人を葬ることしかできんよ。

 だが、おまえは生きておる限り、人に真実を見せ続けることができる。これからの世に必要なのは、儂よりおまえじゃ!

 そこの小僧とともに……真実で、一人でも多くの目を覚ませよ!」

 イマシメルはそう言ってミツメルと若い鑑定官を防御結界で覆い、しゃんと背を伸ばして聖騎士たちに向き直った。


 覚悟を決めたイマシメルに、団長が傲慢に言う。

「おやおや、人を混乱させる魔を守るとは、すっかり心まで堕ちてしまわれたか。

 これは、世のため人のため、必ず仕留めねば。我々には、今生きている大切な数多の命を守る義務がある!」

 残酷な宣言と共に、聖騎士たちがガシャガシャと得物を構え直す。

 しかし刃のまとう光は弱まり、聖騎士たちの多くは肩で息をしている。一方的に攻撃できたとはいえ、さっきの一斉攻撃で体力も魔力も尽きかけているのだ。

 それでも守りたい人のために、聖騎士たちは戦う。

 ここから生きて出られる望みが薄いからこそ……この強大な魔を討たねば、何も知らない人々に犠牲が出る。

 そして自分という守りを失った家族がスケープゴートにされ、壮絶な苦痛の果てに全てを奪われて殺される。

 その重さを振り払えるほど、聖騎士たちは強くはない。

 団長と他数名の偉そうな聖騎士を除いた、全員がイマシメルに殺到する。

「神よ、ご照覧あれ……イヤアアァーッ!!」

 イマシメルも、残った力を総動員してそれを迎え撃つ。

「なめるな悪の手先がァ!!」

 イマシメルの体から金色の稲妻が走り、何人かの聖騎士が貫かれて倒れた。それでも十人ほどの聖騎士が、イマシメルに刃を振り下ろす。

 刹那、イマシメル自身が光り輝くほどの雷をまとう。それが聖騎士たちの刃を伝い、心臓を焼き焦がした。

 だがそれでも聖騎士たちの刃は、イマシメルの体の方々に食い込んでいた。

 それで動きが鈍ったイマシメルの腕を、ベテラン二人がすれ違いざまに斬り落とした。

「悪いのう……今生きとる命が、大事なんじゃ!」

「理不尽に堕とされる少しの命が重いなら……教会が守る大勢の命は、もっと重い!」

 そして、自分がこれから守れない、インボウズたちの思いのままにされる大切な家族の命は、何より重い。

「よーし、その忠誠受け取った!!」

 団長が上機嫌な声とともに手を掲げ、イマシメルに向けられた二人の背から、命を対価にする光の筋が撃ちだされた。

 それがイマシメルの腐った体を抉り、ローブを破り、骨と内臓を露出させる。

「ぐおおぉ!!」

「命を捧げよ!人のために!!」

 魔力の尽きた聖騎士たちが、さらに特攻をかける。

 イマシメルは失った腕代わりに雷の鞭を伸ばして振り回すが、数多の武器に貫かれた体ではさばききれない。

 そのうえちょっとでも隙を見せると、背を向けた聖騎士が人間砲台となって撃ってくる。

 それでさらに動きが鈍ったイマシメルを斬りつけた聖騎士が、次の瞬間にはイマシメルに背を密着させて自分ごと剣で貫き、人間爆弾と化す。

 いかにボスとして強化されたアンデッドでも、この猛攻には再生が追い付かない。

 団長は配下の聖騎士たちを使い捨てながら、確実にイマシメルを削っていく。

 二十数人いた聖騎士が偉そうな数人を除いて全滅する頃には、イマシメルは骨と気力だけで立っている状態だった。

「ぐっ……ぬううっ……クズ共が!」

「魔族に言われたって、痛くも痒くもないねえ。

 ところでさ団長殿、こいつのとどめは俺が刺すから、ウチの若いのが解毒剤なくしたのチャラにしてくんない?」

 イマシメルの前に、巨体で棘つきの大槌を持った聖騎士が迫る。

「おう、譲ろうぞ。

 ただしあの娘の件、おぬしの主人にも協力してもらうぞ!」

「まあオトシイレール卿のことだから、俺が言わなくてもまとめると思うけどね」

 己の無力に打ちひしがれるイマシメルの前で、堂々と事後の裏取引の話をしながら、ブリブリアント家の筆頭聖騎士が大槌を振り上げる。

「時代に横やり入れるジイさんは、さっさと退場しな!

 ゴッド・スタンプ!!」

 胸の聖印章が輝き、神の力を帯びた大槌がイマシメル体を叩き潰した。人と教会を守りたかった聖者の心は、打ち砕かれた。

「師匠―――っ!!!」

 ミツメルの絶叫が、だだっ広い墓所にこだました。

 〇聖騎士軍団(ただし二十数人いたのが数人まで撃破された)

 ●イマシメル(ただし情報拡散源は守り切った、聖騎士軍団の継戦リソースほぼ壊滅)


 イマシメルは外に直接影響を与えることなく退場することになりましたが……これで終わると思うなよ。

 聖者落としのダンジョンの他の幹部、ロンバルトとマーレイは、今どこで何をしているのでしょう?


 ミツメルさんは元教会の人間で、侵入者の様子を探るうちに自分が歴史から消し去られた&教会の腐敗に気づいたので、余計教会憎しになっています。

 それでユリエルの聖衣を見た瞬間に、行動力のなさを振り切ろうと暴発してひどい事になりました。

 で、今はまたちょっと臆病になってしまい師匠にまた叱られるという……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミツメル、イマシメル…。茶番や法螺でもなく本当に「嵌められた」側かよ…。 強さや眼の良さを持つが故に教会から疎まれ捨てられ、魔族になり上位の力を得ても願いには届かず。 数の暴力ってのは厄介だなぁ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ