表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/121

53.混沌の死肉祭

 総合ポイント750達成ありがとうございます!!

 憧れの4桁が近づいてきた!これからさらにざまぁをかましていきます!


 統制の取れない大軍により、無駄なダメージが増えていく教会軍。

 そして、ユリエルによる解毒剤の消耗と前回の秘密裏のポカが状況をさらに悪化させる。

 それに、インボウズとブリブリアント卿、そしてもう一人の枢機卿はどう対応するのか。

 現実を知っているギルドマスターの危惧は、現実になっていく。


 そして、その裏で繰り広げられる凄惨ないじめ!

 その余波で誰がどんなに苦しんでいても、上で笑う者には関係ない。第二の破門の惨劇が、迫る!

 聖者落としのダンジョンと教会が相互に宣戦布告し、ついに死肉祭が始まった。

 学園都市からダンジョンに向けて夥しい人と荷馬車が移動し、地の底の死者の国へとなだれ込む。

 多くの兵士と冒険者が交代で湧き出るアンデッドを掃討し、聖騎士たちが一路ダンジョンの奥へと向かう。

 毎年戦っている相手だ、情報はある。

 何年か前にダンジョン内に中間拠点を築いており、そこまではダンジョンを作り変えられることはない。

 それにダンジョンを作り変えるのにも力を使うのか、ここのダンジョンマスターはあまり構造を変えない。

 おかげで、かなり下の階層まで地図ができている。

 だが、聖者落としのダンジョンは60階層を超える規模だ。

 一朝一夕に落とせる相手ではない。

 それでも人間は人海戦術で攻め上がって来るアンデッドを押し止め、騎士を配置して兵站をつなぎ、進む。

 今年は集まった人手が多いため、聖騎士たちはいつもより深く侵攻できていた。


 しかし、浅い階層で無知と利己心から問題が起こった。

「おい、持ち場を離れるな!」

「へへへっやなこった!」

 兵站を維持するために配置した冒険者の一部が、手柄欲しさに離脱する事案が相次いだのだ。

「俺たちはこんな地味な仕事をしに来たんじゃねえ!

 手柄も財宝も、抜け駆けしたってとったもん勝ちだ!」

 都会で一旗揚げようと田舎から出て来た腕自慢の冒険者にとって、軍の命令でやる守りの仕事などクソ食らえだ。

 自分たちしか主力がいなかった田舎と同じように、敵は強い自分たちが好きにやって倒すものだと思っている。

 それでも例年は、地元リストリアの冒険者や衛兵が取り締まって分からせてくれた。

 だが今年はユリエルの反撃でそれらが減り、そのうえ田舎者がぐんと増えたせいで、対応しきれない。

 すると、田舎者たちはますます指揮する側をなめて調子に乗る。

「この先は、魔物が多いが宝物も多いらしいぞ。

 攻略に関係ないから行くなとか言われてるが、知るか!俺らは俺らが稼ぐために参加してるんだよ!

 ほれ、宝箱っぎゃあああ!!」

 油断して守ってくれる軍から離れたところで、痛い目を見る。

「この!しゃらくせえ!!」

 さすがに腕自慢の冒険者だけあって、アンデッド自体はきっちり倒すことが多い。

 しかし噛まれた傷は変色し、やられた冒険者は血の気が引いて悪寒が止まらない。

 これが、聖者落としのダンジョンの厄介なところだ。アンデッドに噛まれると毒と呪いに侵され、死ぬとアンデッドになってしまう。

 毒と呪いの二段構え、両方治療しないといけないのだ。

 毒が徐々に体力を奪い、呪いが死んだ者をアンデッドに変える。毒は解毒剤か回復魔法で、呪いは聖水か光魔法で対処することになる。

 毒の対処なら、一般の冒険者でも手段を持っていることが多い。

 しかし呪いの対処となると、どうしてもできる者が限られる。

 ここで教会の神官、聖女、聖騎士の出番だ。これが必須だから、その力を持つ教会が誘致され、このダンジョンを抑えているのだ。

 聖水だって、作っているのは教会だ、それ以外から入手しようとすると、高くつく。

 ここでようやく、生意気な冒険者共は教会の大切さに気付く。

 だが、命令違反は取り消せない。

 それでもアンデッドにならないよう、回復はしてもらえるのだが……不足している物資は回してもらえない。

「え……こ、これ、回復薬じゃねえか!解毒剤は?聖水は?」

「貴様らごときにやる分はない。足りてないんだよ!

 体力自慢なんだろ、だったら呪いが消えるまで体力だけもたせてろ!」

 幸い、普通のアンデッドに噛まれた呪いは死ななければ数日で消える。体力さえ回復すれば、助かるには助かるのだ。

 だが予想外にこんな奴らが続出するせいで、解毒も解呪も手が足りない。

 結果、救護所は毒に苦しむこんな奴らで埋まり、元凶共は救ってくれない教会に逆恨みを募らせるのだった。


 この報告は、インボウズにも上がっていた。

「おい、どういうことだねブリブリアント卿!?

 君が十分な解毒剤や魔道具を用意してくれると言ったから、相場より高い金を払ったんだ。なのに届かないとは、どういうことだ!

 おかげで、現場の進軍に影響が出てるんだぞ!!」

 インボウズは通信の魔道具で、同じ枢機卿のブリブリアント卿にまくしたてた。

 リストリアも例年ならそれなりの量の解毒剤を集められるのだが、今年はユリエルの反撃でかなり失ってしまった。

 そのため、インボウズは苦渋を飲んで政敵のブリブリアント卿に大金を払い、解毒アイテムを大量に補給してもらう約束をしたのだが……。

 それが、届かない。

 出陣の閲兵式には合流すると言っていたのに、運搬役の騎士は来なかった。

 そこで派遣されてきたブリブリアント家の聖騎士に抗議したが、自力で用意できなかった奴が文句を言うなと逆になじられた。

 ブリブリアント領から出発したのは確かなのだから、少しくらいの遅れは許せと。

 しかし、本当に待てど暮らせど来ないのだ。

「ふざけるな!!リストリアの在庫はもう底をつきかけている!

 解毒の手段が足りんせいで、さらに深部に突入しようとしてもできんのだぞ!他家の聖騎士たちからも、不満の声が上がっている!

 派兵してきた他の枢機卿に、おまえとの契約書を叩きつけてやろうか!?」

 インボウズはきちんと対策を取ったのだから、責任は明らかにそれを履行できなかったブリブリアント卿にある。

 こうなると、焦るのはブリブリアント卿だ。

 ようやく派兵した先の責任者に連絡して問い詰めても、戸惑い分からないとの答えが返って来るばかり。

 インボウズが何かしたのかと考えようにも、今一番困っているのはインボウズなのだ。奴が自分の首を絞める訳がない。

 となると残る可能性は、死肉祭の前に頼んだ密命の最中に何かあったか、騎士たちが裏切って物資を持ち逃げしたか。

(いや、前者はないか。たかだが7階層の弱小ダンジョンに。

 となると、後者……だがあいつは忠実だった。

 ……もしや、儂とインボウズ両方を陥れるための、他家の罠か!?むしろそうでないと説明がつかんぞこの状況!!)

 ブリブリアント卿は他の腐敗勢力を疑いながら、自腹を切って再び解毒アイテムを集めるしかなかった。


 ブリブリアント卿からは必ず送ると言われたものの、インボウズは気が気でない。

 解毒剤の不足は、差し迫っている。

 そのうえ、解毒魔法を何十回分も込めた解毒のメダリオンがないのが痛い。いちいち飲んだりかけたりする必要がないこれがあるかで、前線の負担はだいぶ違うのだ。

 リストリアに元からあった分は既に代わりに前線に送り、インボウズの実家から取り寄せるにも時間がかかる。

「せっかくこんなに聖騎士がいるのに……どうしろというのだ!!」

 そこで、頭を抱えるインボウズに、カリヨンから声がかかった。

「わたくしを解放して下されば、お父様が総本山の備蓄を解放してくださいます。

 最大容量のマジックバッグと竜騎士便を使えば、三日とかからぬかと」

 インボウズにとっては、天からの救いだった。

 カリヨンはティエンヌが独断で捕えてしまったため、死肉祭中保護するという名目で、軟禁して聖水作りをさせていた。

 だが正直、前線で癒しと浄化を手伝わせた方が遥かに有用だ。

 それができなかったのは、一応ティエンヌが犯罪疑いで捕えてしまったため、理由もなく開放すると信用に瑕がつくからだ。

 しかしこの取引なら、一応は面子が保たれる。

 元手がタダかつ頭痛の種と引き換えに必要な物が届くなら、万々歳だ。

 インボウズがさっそく取引を持ち掛けると、クリストファー卿は渋々承知した。

「全く、何をやっているのですか……あなたも、ブリブリアント卿も。

 死肉祭は人間全体のための戦いです、きちんと力を合わせてもらわねば困ります。私の娘のことも……。

 足並みをそろえて当たらねば、勝てるものも勝てませんよ!」

「その小言を、僕以外の枢機卿にも言ってやってくれ!」

「言わせてもらいますとも……特に、ブリブリアント卿にはね」

 そうして、カリヨン解放と引き換えに、クリストファー卿が管理する教会総本山の備蓄が届けられた。

 カリヨンがこれを現場に届けると、兵士や冒険者はカリヨンを神の如く崇めたという。

 それに応え、カリヨンは自らも力強い癒し手として前線に加わった。

 インボウズもブリブリアント卿も、面目丸つぶれであった。


 これで、最前線の聖騎士たちは進軍を再開した。

 しかし後方では、問題がさらに悪化していた。

 どうにか毒と呪いが自然治癒して復帰した冒険者たちが、さらにあらぬ行動に出て兵站を脅かし始めたのだ。

 解毒剤も聖水も与えられなかった不良冒険者共は、自業自得だがさらに教会に反感を持った。

 その火に油を注ぐ者もいた。

 実戦経験のない頭でっかちの次期将軍が、毒で横たわる不良冒険者を見て、ここで対策講座をしようと言い出したのだ。

 どうせ動けないのだから、一見名案に見えるかもしれない。

 だが、受ける側からしたらどうだろうか。

 毒で体調が悪く頭もぼうっとしているところに、知らなかったからこうなったんだと嫌味満載の授業を受けさせられるのだ。

 この不良冒険者共のせいで負担が増している神官たちは、ここぞとばかりに憂さを晴らさんと、抜き打ちのテストで頭の悪さをなじる。

 時には、正解するまで回復薬を与えず目の前でぶら下げる。

 二度とこんな事をしないように、徹底的に分からせようと。

 だが、それは完全に逆効果だ。

 これで不良冒険者共は、教会は必要な助けもくれないうえ、勉強と言って下を虐める奴らだと固く思い込む。そのうえ内容など、不快すぎて頭に入らない。

 すると、どうなるか……素直に助けを求めなくなるのだ。

 アンデッドに噛まれても、救護所に戻ってこなくなった。

 心配して仲間が探しに行くと、アンデッドと化していて襲ってくる。

 だが、素直に倒されてくれればまだいい。

 助けに行った仲間がそいつらと仲が良く、教会憎しで意気投合していたりすると……事態はさらにひどい事になる。

 戦友への情に流され、特にアンデッドのことをよく知らない奴は、教会の言うことなど信じるかとアンデッドを助けようとして噛まれてしまう。

 そうして、芋づる式にアンデッドになってしまう。

 そういうアンデッドが一気に、既に掃討したと思っている場所に現れると、一時的に兵站が途切れるようになってきた。

 いや、こいつらは知能をなくすだけましだ。

 最悪なのは、まだ人間の状態で他の人間を襲って解毒剤や聖水を奪おうとする輩だ。

 まともな人間は人間なら味方だと思っているだけに、死に物狂いの不良冒険者に反撃もできず蹴散らされてしまう。

 そうしてさらに怪我人が増え、物資が行き渡らなくなる。

 すると、下の方にいる不良冒険者はさらに不信を募らせて暴走する。

 当初はこれほどの大軍で今までになく深く攻略できると喜んでいたのに、もはや伸びきった兵站を維持するので精一杯だ。

(どうしてこんな事になってしまったんだ!!)

 皆が、心の中で叫んでいた。

 そして気づく……例年前線でよく働いていた、なじみの神官がいないことに。


 地元リストリアの冒険者だけでなく、毎年死肉祭に来る冒険者や兵士たちは覚えていた。汚れを恐れず魔に立ち向かう、死肉祭常連の勇気ある神官を。

 その名は、ユノ、アノン、そしてユリエル。

 神官時代から、この三人の働きは目覚ましかった。

 カリヨンのように圧倒的で上品ではなかったが、この三人は泥臭くも持てる力の全てを尽くして人間を守ろうとしていた。

 その優しくも頼れる姿は、人間を安心させ勇気を与え、結束させる力になっていた。

 聖騎士のように派手な働きはしなくとも、後方を安定させる大事な力だった。

 それが皆聖女になったというのに……今年は、誰もここにいない。

 ユノは国軍の戦場での治療が長引き、戻ってこない。

 アノンはなぜだか学園で薬作りに専念していて、現場に来ない。

 ユリエルはあろうことか邪淫の罪で破門され、そのうえ虫けらのダンジョンを乗っ取って多くの人命と解毒剤を奪った。

「あいつが、あんな事さえしなければ!!」

 期待していただけに失望もひどく、皆ユリエルに怨嗟の声を吐く。

「聖女と認められておいて裏切るなんて、ふざけてる!!」

「噂によると、解毒剤が不足してるのは奴のせいらしいぞ。毎年顔合わせてた冒険者や衛兵も、奴に殺されたと」

「しかも、枢機卿が発して審問官が判定した邪淫の罪を認めず、純潔を認めさせるためだけにこれだけ人を殺してるんだ」

「どんだけ清らかに見せかけたいんだよ!!

 それが人の命より重いたぁ、とんでもねえアバズレだ!!」

 ユリエルのせいで自分たちの思うように戦が進まないため、兵士や冒険者たちは鬱憤をぶつけてユリエルを叩きまくる。

「死肉祭が終わったら、すぐ穴倉から引きずり出して回してやる!」

「堕落して好き放題した報いを、思い知れ!!」

 あいつさえいなければと、敵意と憎悪をごうごうと燃やす。

 ……本当に堕落してやりたい放題しているのは誰か、末端の彼らは知らない。だから、自分たちが助かる終わらせ方も分からない。

 誰のせいで、どうして頼もしい味方がここにいないのか、彼らには知る由もなかった。

 そしてそれは、アノンについても同じだ。

「ユノ様は別の戦場にいらっしゃるから、仕方ない。

 ……でもアノン様は、いるならきちんと出てこいや!」

「こいつも聖女になって、天狗になっちまったのかねえ。

 ハァー……去年まではあんなに一生懸命俺らを守ってくれたのに。ユリエルといい、偉くなると変わっちまうもんかね」

「噂では、アノン様も、最近評判が悪いらしいぞ。

 もしかしたら、次に破門されるのはアノン様かもな」

 裏の事情は知らなくても、この噂は的を射ていた。

 アノンはもう、人前に出て戦える状態ではない。アノンは学園という牢獄に閉じ込められ、これまで積み上げて来た信用と評価まで奪われつつあった。



 とっぷりと日が暮れた学園の片隅に、ぽつんと明りのついている部屋があった。

 そこには木箱と薬草が積み上げられ、痩せこけた聖女がたった一人で解毒剤を作り続けていた。

「ハァ……ハァ……オェッ!もっと、もっと作らなければ……」

 アノンは、疲れ切った体に鞭打ってひたすら調合を続けていた。

 アノンの目の下には深い隈ができ、体には切り傷のようなものが走っている。限界を超えて魔力を絞り出したせいだ。

 魔力があるうちは聖水を、なくなったら解毒剤をひたすら作り続けている。

 できなければ、借金を返せないし元いた孤児院に仕送りもできないから。

「あ~んなに高級な食べ物を粗末にして、高級なお店を汚して、弁償できないなんて……言えませんわよねぇ?

 だって、悪いのはあなただもの!

 罪は、誠意をもって働いて返しなさい~。聖典にも書いてありますよぉ~」

 とことん馬鹿にしてそう言ったミザリーの顔と声が、アノンの脳裏にしみついて離れない。

 アノンはミザリーに陥れられ、償いと言われて断り切れずに、借金までさせられてしまった。

 それを返すために奉仕しろと言われて、こんな夜中までたった一人で薬作りを強要されているのだ。

 しかも、明らかに不当な安い報酬で、自分のノルマではない分まで。

「ちょっと、手が止まってるわよ!

 ……何これ、粗悪品じゃん!真面目にやってんの!?」

 時々ミザリーたちと仲の良い聖女や神官が様子を見に来て、身を粉にして作ったものをなじっていく。

 だが、その品質も当然だ。

 アノンはもう、何日もまともに食べていないし寝ていない。そんな状態できっちりやれという方が無理なのだ。

 だが、元々身分が高い令嬢たちはそんなこと意に介さない。

「孤児の分際で聖女になったんだから、やるべき事をやりなさいよ!

 平民なんて、馬車馬のように働けるだけが取り柄なんだから」

「そうよ、わたくしたちやミザリー様みたいに、お金で支援できないくせに!

 浪費するしか能のない馬鹿は、体動かして払いなさいよ!」

 本当はこの薬作りは、クラスごとにノルマがあるのだが……身分の高い令嬢たちは金や他の物資、もしくは兵力を差し出して責任を逃れていた。

 だが多くの金持ちがそれをやるせいで、クラスのノルマはとても達成できない。

 代わりに買って補充しようにも、既にどこも薬は高騰しており、何とか揃えようと金を投入すればするほど暴騰する。

 今まで金の流れについて考えたことのない令嬢たちは、原因が自分たちであることも分からず、なぜうまくいかないのかと苛々していた。

 そこにミザリーが、素晴らしいスケープゴートを用意してくれた。

「皆さまの頑張りは、ワタクチよく存じておりますぅ~。

 なので、皆さまが責任を取る必要などありませ~ん!

 ここは金も払わないし食べ物の大切さも分からない、アノンちゃんに責任者になってもらいましょ~。賛成の方~!」

 こうして、アノンは数と身分の暴力で物資調合のクラス責任者にされてしまった。

 アノンは拒もうとしたが、ミザリーはゴミ箱に捨てられた大量の菓子を見せて責めた。

「これ、ワタクチが善意であげたのに、あなた捨てたでしょ?」

「く、くれたって……あなたが手を付けた食べかけではないですか!?食べかけのものは、腐るのが早いんですよ!

 それに、こんな物ばかり食べてたら体を壊してしまいます!

 私は元々、こんなに食べられませ……」

 アノンが必死に弁明すると、ミザリーはいつものごとく泣き出した。

「ああ~ん!かわいそうだから恵んであげたのに~、踏みにじられた~!!

 こ~んなに高いお菓子なのに!お腹減らしてかわいそうだから、いっぱいあげただけなのに~!びぃえええ~~~ん!!」

 そのうえ、ワーサがゴミ箱の中身をアノンの頭にぶちまける。

「ほらほら、やーっぱり虫が湧いてる。

 あなた以前、ミザリーに、お菓子くずには虫が集まるから教室で食べるのやめてって注意してましたよね?

 なのに、あなたは平気で同じことをするのですか?」

「うわっ最悪~!

 本当は新しいのが欲しいだけなんじゃないの?」

 ティエンヌも加わって、あっという間にアノンが悪い様に仕立て上げる。

 元はアノンに憧れていた孤児院出の神官たちも、自分まで責任を取らされてはたまらぬと、見て見ぬふりだ。

 こうして、アノンは果てなき労働に陥れられた。


 順調に弱っていくアノンの様子を聞き、ミザリーは愉悦の笑みを浮かべる。

「ヌフフゥ~!これで死肉祭後には、アノンがワタクチの魔力タンクに~!

 な~んかティエンヌも欲しがってるけどぉ、それなら代わりにどっさりいろいろ頂きますわぁ~。

 下々の文句はアノンに押し付ければいいし~、人生楽勝ですわぁ~ん!」

 ミザリーと父ゴウヨックは、初めからアノンを破門して堕とす気だ。

 しかも前ユリエルに逃げられたため、今度は逃がさないように借金と責任で学園に縛り付けて。

 その借金もほとんど不当なものだし、作った薬を売った金もこいつらが中抜きしているのだが。

 そのせいでアノンのみならず現場の兵士や冒険者が地獄の苦しみを味わっているが、ミザリーたちには関係ない。

 どうせ勝てる戦なんだから、下々がいくら文句を言おうが知ったことか。

 どんなに不正を重ねたって、自分たちの権力が盤石ならバレやしないのだから。

 腐った教会上層部は、それを神より信じていた。


 ……彼らは知らなかった。

 その不浄な岩盤に鉄槌を打ち込む存在が、聖者落としのダンジョンに待ち受けていることを。

 インボウズのみならず教会を揺るがすそれが振り下ろされる時は、刻一刻と迫っていた。

 いじめを誰かが抜けると、次に標的がもっとひどい目に遭うことがあります。いじめっ子たちも学習しますから。


 そして、金を出すだけが多く物を出すやつが少ないと、必要な物はどんどん暴騰していきます。

 これが分からない奴が、自分だけ楽をしようとして金を注ぎまくると……物資を買い占めた誰が得をするか、分かりますよね。

 ちなみにクリストファー卿は、教会の物資をタダで放出しているので得をしません。


 次回、ついに教会への特大インパクトが!!

 ユリエルの血の逆襲が始まる!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はやく教会の奴らが痛い目を見るのをみたいですねぇ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ