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51.後ろの盾役、だーれ?

 三連休なので、今日も投稿だ!


 ユリエルの後ろ盾役を巡る、女同士の熾烈なバトル!

 邪神の巫女と四天王の、実力の一端がほとばしる!


 後ろ盾を決めるのは、実力だけではありません。所属を決めるのに、大事なのは信用……その相手の下で安心して働けるかです。

 初めに声をかけて来た邪神の巫女は……。

 気が付けば、会場の魔物たちは減り始めていた。

 ユリエルは食べながら四天王に近づく機会を伺っていたのだが、どうにも近づけなかった。

 理由は簡単、ユリエルを自分のところの傘下にしようと思っている奴が、しつこく妨害してきたからだ。

「ユリエル殿、別に四天王でなくてもいいではありませんか!

 わたくしの主、カルメーラ様の庇護下に入ればよいのです」

 そう言って誘ってくるのは、ヒュドレアだ。

 ヒュドレアは、ユリエルの血を他の魔族にばらまく算段をつけたことで、その恩返しに自分たちの下につけと迫って来る。

「貴女の復讐心には、カルメーラ様も目を留めていらっしゃいます。

 何より我がダンジョンには、復讐にとても適した神様がいらっしゃいます。我らが神に祈り、共に復讐の魔女として力をつけましょう!」

 その申し出自体は、ユリエルにとって悪いものではない。

 だがユリエルは、何となく不穏なものを感じていた。

 なぜなら、カルメーラは……愛憎のダンジョンで邪神に仕える巫女は、ロリクーンがマリオンを手に入れるのに使おうとした薬を作った者だ。

 それが、ユリエルの心にずっと引っかかっている。

 それに、虹色甲爵はユリエルを守るようにヒュドレアを遮ろうとしている。

「だめだ、奴だけはやめておけ!

 確かに奴には邪神の力があるが……奴がなぜ四天王になれないか、考えてみろ!」

 言われてみれば、カルメーラは美王に近づく様子がなく、しかも神という存在をダンジョンに抱えてその力を使える。

 四天王に据えるには、適した人材ではないか。

 しかも虹色甲爵曰く、カルメーラは先代魔王の代から今とほぼ変わらぬ勢力でいたといいう。

 それでも、先代魔王はカルメーラを王子の供にすることも四天王にすることもなかった。

 これが、何を意味するか。

 そしてカルメーラは、派閥を持たない孤立勢力だ。それだけの力を持ちながら、近づこうとする者がいない。

 はっきり言って、ヤバい臭いがする。

 もっとも、そういう奴は四天王にも一人いるのだが。

 正直ユリエルとしても、もう少し見定めるまであまり近づきたくなかった。

「あ、あの……道を開けていただけませんか。

 血ならきちんと提供いたし……うっ!」

 答えかけて、ユリエルは唐突によろめいた。

 すっと目の前が暗くなり、猛烈なだるさが襲ってくる。さっきまでいくらでも食べられたのに、食欲が嘘のように引いていく。

「あらぁ、薬が切れてきちゃいましたか」

 ヒュドレアが、残念そうに言った。

「あの薬、回復力を前借するものですからね。しかもダーゴネラが使うことを想定して作りましたので、レベルの低い人間にはきついでしょう。

 責任取って介抱しますので……わたくしたちのダンジョンにいらっしゃい!」

 自分の作った薬が原因だというのに、まったく悪びれずにそれすら勧誘に使う。

 その態度に、ユリエルはぞっと背筋が寒くなった。このままついて行ったら、自分はどうなってしまうのかと……。


 しかし、そのヒュドレアがいきなり跳びのいた。

 どこからか薄布のようなものが伸びてきて、ヒュドレアを縛りつけようとしたのだ。その薄布は、東の大国風の着物をまとった女につながっていた。

 その顔を目にした途端、ユリエルの喉から悲鳴になり損ねた息が漏れた。

 彼女は、東国のおとぎ話に出てくる仙女のような服装をしていた。ゆったりとした優美な衣と、羽衣のような薄布、上品な冠。

 しかし顔は、美とは程遠い。両目は黄ばんで充血し、まぶたを切り取られたようにぎょろんと開いている。口は両側に裂けたのを無理矢理縫い合わされ、他にも黒く固まった傷口があちこちに走っている。

 もはや、フランケンシュタインの怪物状態だ。

 そのフランケン仙女は、近づけないヒュドレアを見てクスリと笑った。

「そうよ、賢いわ。

 捕まったら勝てないのだから、逃げなきゃ。どうせいくら速くても敵わないなら、大人しくするのが吉ですのよ」

 それから、ユリエルの方を振り返って一礼した。

「初めまして。四天王、魃姫様にお仕えする者です。

 純潔を弄ばれ、それに抗う貴女のことを、魃姫様がいたく気に入られました。共に手を取り合い、歩みましょうと。

 ささ、わたくしたちが保護して差し上げます」

 なんとこのフランケン仙女は、魃姫の配下だった。

 助け船が来たのは嬉しいが、こちらもぼっちである。

 どうしたらと虹色甲爵の方を見ると、虹色甲爵も頭を抱えて悶絶していた。

「ああーもう!どうしてぼっち女しか来ないんだよ!

 いや、キヨモリ様だとそれはそれでまずいんだが……この娘をあんな奴にくれてやるくらいなら……。

 むう……このどっちかなら、魃姫様だ!序列的にも実力的にも、そっちだ!

 とにかく、カルメーラだけはやめておけ!!」

 どちらも男からの評価は芳しくないが、カルメーラよりは魃姫の方がましらしい。

 ユリエルは、ヒュドレアに頭を下げて丁重に断ろうとした。

「すみません、私も魔王軍に所属する以上、位の高い方からのお誘いを優先させていただきます。

 血の価値を教えてくださったことには感謝しておりますし、きちんと注文を受けた分の血はお支払いします。

 ですので、今回は……」


 ユリエルが言い切る前に、恐ろしい圧力が降りかかった。体中から力と温もりが奪われ、ユリエルばかりか虹色甲爵まで膝をつく。

「あたしの邪魔をするんじゃないよォ!!」

 耳から魂までビリビリと震えるような、おぞましい叫びが響く。

 気が付けば、カルメーラが目の前に立っていた。

 カルメーラは恋した男にでもするように妖艶にしなを作った動きでユリエルに手を差し伸べ、ねっとりと言った。

「かわいそうに、こんな奴に脅されて!

 分かるよォ、本当はあたしがいいんだろ?

 大丈夫さ、悪いのは全部こいつだからねェ。すぐこいつを打ち砕いて、あんたを素直にしてあげるからね!」

 その言い方に、ユリエルの背中に冷たい汗が流れた。

 カルメーラは、ユリエルがどう思っているかなど全く考えていない。ただ、全てが自分の思い通りだとして行動している。

 カルメーラの不人気の一因が、すごくよく分かった。

 ……が、実力は確かなようだ。

 カルメーラが現れてからフランケン仙女は羽衣で結界のようなものを張っているが、その表情は苦しげで、羽衣が端から凍り付いて砕けつつある。

 このフランケン仙女をたたんで、ユリエルや虹色甲爵など軽く踏み潰すだけの力が、カルメーラにはある。

「アハハッ身の程知らずを後悔しな!」

 カルメーラが、嗜虐的な笑みでキラキラと輝く冷たい鞭を生成し、振り上げた。


 だがそれが振り下ろされる前に、別の圧力がユリエルたちを押し倒した。

 今度はまるで砂漠の炎天下にいるような、陽炎が見えるほどの熱く乾いた空気。それがカルメーラの冷気を吹き飛ばし、真夏の太陽の下で眠りそうになる感覚を与える。

「身の程知らずは、そなたではないかえ?

 その娘の言うことも聞かず、言いがかりも甚だしい」

 ユリエルと虹色甲爵、そして部下のフランケン仙女をかばうように、豪華絢爛な衣に厚化粧の女が割り込んできていた。

 四天王にして大陸中央の広大な砂漠の女王、魃姫だ。

「おのれ!そこをどきな!!この泥棒猫が!!」

 カルメーラはすっかり逆上して鞭を振るうが、魃姫は平然としている。

「泥棒とは異なことを。わらわは何も、盗ってなどおらぬ。

 そなたが勝手に思うておるだけであろう?」

 落ち着いて呟きながら、カルメーラの攻撃を全く寄せ付けない。

 必死で鞭を振るうカルメーラに対し、魃姫は動いてすらいない。だが鞭が魃姫に近づくだけで、シュワッと蒸発して消えていく。

 それだけの、歴然とした力量差があるのだ。

 周りで見ている野次馬もそれが分かっているのか、落ち着いて見ている。

「おい、またあのヒス女が暴れてるぞ」

「今日の相手は魃姫様か……珍しい」

「ま、魃姫様なら大丈夫だろ。ありがたいね」

「どっちも仕えたかねえが、カルメーラよりは魃姫様のが無害だもんな。大人しい方が、ヒスを叩き潰してくれりゃ、文句はねえ」

 どちらも男人気はないが、カルメーラは人望そのものがないらしい。しかも、こういうことをよく起こすようだ。

 だが、今回は相手が悪い。

 カルメーラの力は、魃姫に通じていない。

 伊達に四天王ではないということか。

 そのうち、業を煮やしたカルメーラは、恨めしい呪文を唱え始めた。

「ああぁっ憎らしい!恨めしい!おまえのせいで……おまえさえ、いなければ!!

 我が復讐の女神よ!この恨みと憎しみの報いをかの者に!あたしの無念を晴らしておくれ!!」

 カルメーラの周りに闇で描かれた読めない文字が浮かび、おどろおどろしい気配が漂う。そして、カルメーラの手の中にその闇が収束する。

 ……が、現れた魔力の塊は握りこぶし大であった。

 それを見て、魃姫がため息をつく。

「……そら見よ、正当な復讐でなければその程度じゃ。

 そなたの神も大変よのう、かような逆恨みばかり食わされては」

 今のは、カルメーラが邪神の力を借りたらしい。だが魃姫の口ぶりからして、大した力を引き出せなかったようだ。

(あれ……カルメーラ様、力をうまく使いこなせてない?)

 ユリエルは邪神の力というだけでとんでもなく強いと思っていたが、どうも思ったほどではないようだ。

 カルメーラはやけくそのようにその魔力弾を投げつけたが、魃姫は炎をまとわせた片手の一振りでそれを消してしまった。

 すると、カルメーラはひどく悔しそうに地団駄を踏んだ。

「何だい!何でだい!!こんなに憎いのに!!恨めしいのに!!

 復讐を望む者に手を差し伸べることの、何が悪いんだい!!」

 カルメーラはひたすら現状に怒り、感情を暴れさせている。

 なぜ自分の望むことがうまくいかないのか、その原因が自分であることが全く分かっていないようだ。

「あたしは、ユリエルがかわいそうに思って手を貸そうとしただけなのに!

 ろくでもない男に踏みにじられる女に、抗う力を与えてやろうとしただけなのに!

 ねえユリエル……あたしは、純粋で一途な想いは報われるべきだって思ってるよ。あんたの純潔も、その時のために守るべきだって思ってる。

 そんなあたしと手を組まない……何の理由があるんだい?」

 カルメーラは目を潤ませて、ユリエルに呼びかけた。

 その有様に、魃姫は呆れたように首を横に振る。

「目的が悪いとは、誰も言っておらぬぞよ。ただ人に信じられぬ原因が己の醜さであることに、なぜそこまで気づかぬか。

 ユリエルよ、相手にする必要はないぞ。あのような戯言に……」

 しかし魃姫の後ろで、ユリエルが弱弱しく手を挙げた。

「あ……あります……私が、あなたを信じられない理由……」

 それに、二人ともが驚いた。

「あるのかい!?」

「ほう、よもや……よかろう、話してみるがよい」

 意外な展開に、双方が矛を収めてユリエルの話に耳を傾けた。


 正直、ユリエルはもう意識を保つだけで精いっぱいだった。薬の反動に加え、二度も圧倒的強者の圧力を食らい、身も心もへとへとだ。

 しかし、カルメーラにこれだけは聞いておきたかった。

 ユリエルは己に強い癒しと身体強化をかけ、気力を振り絞ってカルメーラに尋ねた。

「カルメーラ様は、純粋で一途な想いを大事されているとお伺いしました。それで、その想いを叶える秘薬を作っていらっしゃると」

「ああ、そうだよ!あたしは、純愛の味方だからね」

 うっとりと陶酔するカルメーラに、ユリエルは告げた。

「では、それを与える者は一人を深く愛しさえすれば、それまでどれだけの乙女の純情を踏みにじっていてもよろしいのでしょうか?

 ……先日、私の大切な友が、あなたの邪神の秘薬で手籠めにされそうになりました。

 それを入手して使おうとしたのは、それまで数多の幼女を弄んだ外道の性犯罪者でした。純愛の味方たるカルメーラ様は、その愛は報われるべきと仰いますか?

 私があなたを信じるには、どうか納得のいくお答えを!」

 それを聞くと、カルメーラはきょとんとした。

「は……?そんな、ことが……。

 いや、あたしはきちんと侵入者に試練を与えて想いをじっくり聞きだして、本当に相手への愛で心が満たされてる奴にしかやらないよ!」

「……つまり、そやつが過去にやらかした所業は何も調べておらんのじゃな?」

 魃姫が、冷静に突っ込んだ。

「あ、あたしはその愛の強さと純粋さを信じただけさ!それだけの愛を抱く奴が、他に目移りなぞする訳……!」

「浮気者や外道でも、一時的にそうなることがあるじゃろう。

 つまりそなたは、相手の今の愛しか見ず、背景も意中の人の気持ちも都合も何も考えず、愛を強要する薬をばらまいた訳か」

 魃姫に指摘されて、カルメーラは目を白黒させている。

 どうやら本当に今の今まで、それを考えたことがなかったらしい。

 愛憎のダンジョンで稀に入手できる、純愛の秘薬。一途な想いを必ず叶える夢のような秘薬だが、それが絡んだ話は実は胸糞なことの方が多い。

 我慢を知らない野郎が愛(という名の欲情)で胸を一杯にしてそれを手に入れ、素朴に愛し合う恋人同士を引き裂いたり、将来有望な女を恋奴隷にして全てを失わせたりするからだ。

 さらにその後、相手に飽きた野郎が邪神の呪いで死に、使われた女のみが洗脳されたまま残されるという救いようのない話もある。

 平気でこんなことをするカルメーラは、果たして純愛の味方なのか……大いに疑問だ。

「で、でもっ……あんなに他人を愛することが、悪い訳ないじゃないか!

 一途な愛は何よりも……」

 それでも愛にすがって喚くカルメーラに、嘲笑が降りかかる。

「フォッフォッフォ……呆れるほどに盲目よの。そこのおぼこなどより、有り得んほど男女の妙を知らぬわい!」

 いつの間にか、分厚い座布団に乗った骸骨の僧侶が飛び回っていた。四天王の一人、暗黒大僧正、キヨモリだ。

 キヨモリは、艶やかな着物の骨女たちを愛でながら尊大に言った。

「愛で胸が一杯といえば聞こえはいいが、そうなるのはだいたい、自制できぬうえ後先考えぬ愚か者じゃぞ。

 そしてそういう奴は、恋をするたびにそうなる。別に一人に限らんのじゃよ。

 儂も人間だった頃、ある女にこれ以上ないほど熱を上げていたが、別の女で胸が一杯になったらそいつがどうでも良くなってのう。

 ……おぬしが手を貸したのは、その類の男だったようじゃな!」

 多くの女を愛し酸いも甘いも知り尽くしたキヨモリの言葉には、重みがあった。

 だがカルメーラは、なおも食い下がった。

「黙りな!この娘の友を娶ろうとした男が、本当に悪人とは限らないよ!

 証拠もないのに純粋な愛を……!」

「よし分かった。サグメ、探ってみよ!」

 証拠がないと言われて、キヨモリは一人の翼を持つ女を呼び寄せた。その手には、不思議な輝きを放つ水晶玉が握られている。

「ホイホイ、今度はどんな不都合な真実暴くのん?

 ……え、本人もうこの世にもおらへんの?それ、かなり魔力消費がえぐいねんけど……それと、他人の記憶だけやのうて、遺品とかあらへん?」

「魔力なら後で儂が濃密なのをブチ込んでやる。

 ほれ小娘、何か奴に関係するブツを出せ!」

 キヨモリに促されて、ユリエルはサグメにロリクーンの遺品を渡した。倒すのに協力したことで、マリオンに分けてもらったものだ。

 サグメがそれを受け取って、何らかの儀式を行うと、水晶玉が光って辺りにいくつもの映像が投影された。

『や、やめて取らないで!!』『何で、こんな事するの?』

『い、痛い痛いの!やめてー!!』『やだ、私の初めては……あの人に……ひいいぃ!!』

 下着を奪い取られ、体を触られ、時には凌辱されて貞操さえ奪われる幼女、幼女、幼く見える少女……全て、ロリクーンがやってきたことだ。

 踏みにじられた乙女たちの、真実が晒された。

 サグメが、乾いた笑みを漏らして呟く。

「おお……これは完全にアカンやつや。

 カルメーラはん、純愛やのうて色情狂の味方名乗った方がええんちゃう?」

 これには、当のカルメーラが一番愕然としていた。だが、カルメーラが薬を渡すときに調べなかった結果がこれなのだ。

 魃姫が、呆れて言う。

「……勝負あったな、カルメーラよ。ユリエルの拒絶は正当じゃ。

 そなた、言う事とやる事がまるで違うではないかえ。これにこりたら、愛への盲信もいい加減にせいよ」

 この惨状には、配下のヒュドレアも慌てている。

「うわっ……これはまずいですって!

 さすがに出直し……ま……」

 ヒュドレアの声が、急に間延びして途絶えた。


 もはや、ここにカルメーラの味方はいなかった。カルメーラが知ろうともしなかった真実は多くの魔族たちに知れ渡り、カルメーラは嘲笑の的になっている。

 だが、カルメーラは逃げなかった。

「何だい!!皆で寄ってたかって、愛を否定するのかい!!

 悪いのは、昔そんなことをしたあいつじゃないか!あたしは、愛を見て信じただけ!!

 一途に一人を想うことが、それを信じることが……悪い訳ないんだよオオォ!!!」

 カルメーラは、他者の指摘を冷静に受け取ることもできていない。誰もそんなこと言っていないのに、愛そのものを否定された気になっている。

 どうにも極端な、偏った性格だ。

 だが悲しい事に、本人にその自覚は全くない。自分はこんなに正しい事をしたのに貶められたと、被害妄想に陥ってすらいる。

 しかも、それで配下を無理矢理巻き込む。

「カルメーラ様の愛は、絶対……否定する者は死になさい!」

 ヒュドレアが恐ろしいほどの棒読みで呟き、魃姫に襲い掛かった。

 だが、すぐに配下のフランケン仙女が羽衣を巻き付けて止めた。ヒュドレアの動きは、似合わぬほど単調だったからだ。

 捕まったヒュドレアの目は紅く光り、顔からは一切の表情が抜け落ちていた。

 その有様に、ユリエルは総毛だった。

「何あれ……操られてるの!?」

「ああそうだ、だから奴はダメなんだよ!

 君のあんな姿なんて、見たくない!!」

 虹色甲爵が、這いつくばったまま叫ぶ。

 カルメーラは、大切な配下の諫言すら聞き入れず、逆に自分の思い通りに動くよう操ってすらいるのだ。

 別の所では、サグメと水晶玉を叩き割ろうとしたダーゴネラが、呪骨大将軍ヨシナカに取り押さえられていた。

「あ、愛は正義……お姉さまの、愛は……!」

 やはりダーゴネラも表情を失い目を紅く光らせ、がむしゃらに抵抗している。

 ヨシナカは、気の毒そうに呟いた。

「哀れなりダーゴネラ……いつものおまえなら、この程度訳なく抜けるだろうに。磨き上げた武技や体術すら忘れたか」

 言いながらも、ヨシナカは的確に関節を極めていく。

 ダーゴネラも本来は優れた戦士だが、操られて自分で考えることができないため力ずくで抵抗している。

 そのうえ、痛みも感じないものだから……。

 バキッと鈍い音がして、ダーゴネラの片手片足があってはならない方に曲がった。

「ああっダーゴネラ……この、役立たずが!!」

 自分でこんなにしておいて、カルメーラのこの言い方である。

 魃姫はヒュドレアを拘束しているフランケン仙女を指差して、強く言い放った。

「それで、こちらはどうする?そなたが抵抗をやめねば、この女も全身を砕くしかなくなるが……。

 貴重な配下が使えねば、もはや何もそなたの思い通りにはなるまいな!」

 そこで初めて、カルメーラは怯んだ。

 いくら喚いたって暴れたって、これだけを敵に回して勝てるはずもない。ただでさえ仇敵が増えたのに、ダーゴネラとヒュドレアを失ってしまったら……。

「くっ……か、帰るよ、あんたたち!」

 カルメーラは、胸が張り裂けそうな無念をのんで退いた。

 その原因を、相変わらず自分ではない誰かに押し付けて嘆きながら。

「よくも、あの人間のせいで!あの男さえ、あたしを騙して秘薬を持っていかなければ……あいつさえ、いなければアアァ!!」

 もはや、誰も何も言えない責任転嫁である。

 ゆえに、カルメーラは四天王になれないのだ。


 こうして、ユリエルの庇護者は魃姫に決まった。

 そのユリエルは、カルメーラが退くのを見た途端、ふっと気が抜けて気を失ってしまった。オリヒメとシャーマンもだ。

 魃姫は、三人を見下ろして呟いた。

「ふぅ……なかなか芯の強い女子ではないか。

 だが、これはしばらくわらわの下で治療と教育を施した方が良いのう。

 さりとて、こやつのダンジョンを空にするのもまずい。死肉祭中は大丈夫だと思うが、念のためわらわの配下を派遣しておくか」

 一つの戦は、終わった。

 しかし、人と魔の本格的な戦いはこれからだ。

 ユリエルの参入によりこれまでとは違う戦いの幕が、上がろうとしていた。

 もう一度いいますが、カルメーラのモデルはウルトラマントリガーの妖麗戦士カルミラです。

 トリガーをどこまでも一途に愛し、執拗に追いかけ回したカルミラ。トリガーへの愛憎に囚われて、本来の目的も見失い、仲間のダーゴンとヒュドラムを食い殺して操ったカルミラ。トリガーが帰ってこない世界などいらないと、自ら邪神になって世界を滅ぼそうとしたカルミラ。

 ……一途な愛の負の側面を煮詰めたようなお方です。

 この物語では、トリガー役はまだ出てきませんが……。


 そして男の四天王が介入した理由。

 キヨモリ→何も分かってないのに愛を振りかざすカルメーラを分からせたい。

 あと、将来自分が抱くに足る女に成長するかもしれないユリエルに、カルメーラ2号になってほしくない。

 ヨシナカ→筋が通ってないことを押し通すカルメーラが大嫌い。

 武勇を認めたダーゴネラがそれに加担させられるのが見てられない。


 次回から、舞台が人間サイドに移ります。

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― 新着の感想 ―
サグメって東方のキャラじゃね?って思ったがあのあたり妖怪は元ネタあるんだよなそういや
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