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47.利用価値、そして証明法

 どうにか土曜日中には間に合った!!


 子供が、溶連菌にかかってしまった!!

 嘔吐と受診と同居してる舅の心配性すぎるいびりで休まる時がねえ!


 自分も黄色いサラサラの鼻水と、目の周りの副鼻腔辺りに痛みが……まさか溶連菌が副鼻腔に回ったんじゃないだろうな!?

 ちなみに作者は小さい頃、通算5回以上溶連菌やってます(敗北宣言)

 ユリエルたちがひと悶着起こしている間に、魔族たちの参集はだいたい終わっていた。

 ユリエルとしてはもう少し自己主張をしたかったが、大事な会の流れを遮る訳にいかず、とりあえず末席に移動した。

「大丈夫さ、あんたのことはお偉方も目に留めてる。

 必ず、事情を聞いてくれるはずだよ。

 特にこの時期、教会の内情を少しでも知ってそうなあんたは、大事な情報源だからね。話を整理して待ってな!」

 カルメーラはユリエルにそう言って背中を叩いた。

(そっか、私……魔族から見たらそういう価値があるのか!

 だったら、その価値をたくさん見せたら、見返りにたくさん協力してもらえるかも)

 元より腐り切った教会の有様をしゃべってほしいなら、望むところだ。憎きインボウズの所業も醜聞も、あらいざらいぶちまけてやる。

 ユリエルははやる胸を押さえて、会の進行を待った。


 少し経つと、奥の幕の向こうから美しい女の声が聞こえてきた。

「皆さま、今年もお集まりいただき、ありがとうございます。

 今年も人間の侵略組織、教会との戦いに当たり、魔王様のお言葉をいただきます!」

 宣言とともに、幕がゆっくりと上がり始めた。

 ユリエルが息を飲んで見守る中、向こうにいる者の姿が露わになっていく。

 最初に見えたのは、ヤギのように毛むくじゃらでひづめのある足だった。そこから骨太な下半身、人間のような上半身が見えていく。

 遠いので正確には分からないが、5メートルはある巨体だ。

 いや、それが本当の大きさなのかも分からないのだが。

 口は狼のように大きく、鋭くひん曲がった牙が口の両側からのぞいている。目は金色で、ヤギか羊のような横長の瞳をしている。

 頭からは、野生の羊の魔物によく似た、それよりもずっと立派なカールした角が生えていた。

 さすがに人間離れした、禍々しい姿である。

 だがユリエルには、本体よりずっと目を引くものがあった。

 この巨大な魔王によりかかったり乗っかったりしている、人間によく似た魔物たち。

(うわっ何あれ!?

 こんな場所でもハーレムとか、ふざけてる!!)

 寄生虫のように魔王にまとわりついているのは、色香であらゆる種族の男を惑わし快楽で堕落させるサキュバス。

 非モテのユリエルにとって、魂の敵と言える魔物だ。

 一斉に頭を下げる魔物たちに合わせながら、ユリエルはぎりりっと奥歯を噛みしめた。

(何よ、結局世の中の権力者は皆あんなんじゃん!

 力は借りたいけど、絶対に心まで許すもんか!!)

 勢力が変われば新しい社会かと思ったが、現実はここの長も女を好き放題堕としている教会幹部と変わらないのか。

 ユリエルは、絶対に冤罪を晴らすまで処女を守り抜くと、心に固い鎧をまとった。


 それからしばらくは、魔王により魔族の歴史と死肉祭の意義が語られた。

 かつて人間と魔族は、人間同士の国のように、争いがありつつもお互いを認め交流しつつ暮らしていたらしい。

 しかし神の中で強大な力と地位を得た一柱が人間に肩入れしたために、それが崩れてしまったという。

 人間は世界を自分たちだけのものと勘違いし、神の加護を得て一方的な侵略を始めた。

 魔族をいてはならない邪悪と断罪し、この世から消し去る事を正義とし、多くの土地と命を奪い続けている。

 この状況に、魔族たちも団結して対抗することにした。

 個々に戦っていては、神の名のもとに団結し、情報を共有し連携して攻め込んでくる人間を止められない。

 だから魔族側も代表者を選び、ある程度連帯できる組織を作った。

 それが、魔王軍である。

(ふーん、学園で習ったのを本当に裏から見てる感じね。

 学園では、魔族は救いようのない悪で倒すと世の中が浄化されるって習ったけど、そんな風に対応される側はたまらないわね。

 私も破門されて、よく分かった。

 確かに魔王もアレそうだけど、人間も変わらんっつーの!)

 ユリエルもこれまで教会の教えを正義と信じて戦ってきたが、教会の偽りと醜さを知った今なら、魔王の主張もある程度信じられる。

 少なくとも、人間が一方的に善でないことは確かだ。

 なのに問答無用で狩られ続けたら、今まとっている聖衣を見るだけで殺意を覚えるのも無理はないと思えた。

 そんな理由で、魔族は魔王中心に緩く結束し、人間と戦っている。

 中でも教会の権威ある要所に位置するのが、学園都市リストリア近郊で抵抗を続けている聖者落としのダンジョンだ。

 ここが落とされずに残り続けることは、魔族の抵抗の象徴となっている。

 さらにかつては、名前の通り神の加護を受けた聖者を討ち取ったこともあるという。

 教会の力がその時よりさらに強大になった今は、魔族側もそれに抵抗するために聖者落としのダンジョンを支援している。

 もっとも、近年は周辺にアンデッドをあふれさせることも困難らしいが。

 魔王から今年は気合を入れろと言われたマスター、ダラクは、威勢よく拳を突き上げて皆に支援を求めている。

「今年もこの我が、魔の看板を背負って教会に立ち向かう所存です!

 しかし教会は強大、既に多くの手ごわい冒険者が我がダンジョンの配下を狩り始めております。

 これは何度も申すように、我一人の手に余るものであります!

 我が教会の喉元に刃をつきつけていられるかは、皆さまの支援にかかっております!

 我らの未来のために、どうぞ人間に突き立てる刃を束ねていただきたい!!」

 それに大きな拍手をする者と、白けた目で眺める者がいた。

(へえ……本当に一枚岩じゃないみたい。

 どっちの派閥が、私の得になるのかしら?)

 ユリエルは素早く会場に目を走らせたが、正直よく分からない。

 しいて言えば拍手をした者たちのハーレム率が高い気がするが、白けている側にもハーレム野郎はいる。

(魔王は英雄色を好む的な好戦派で、それと気が合う人たちがこの戦いに力を入れてる?

 うーん、あまりお近づきになりたくない。

 でも教会と戦ううえで私を買ってくれそうなのは、間違いなくそっちだろうし。難しいとこだなー)

 力でモテ自慢をする奴らへの嫌悪感と、自分の価値を見てほしいのに挟まれて、ユリエルは一人苦悩した。


 ひとしきり主題の話が終わると、魔王の側で司会をしているサキュバスがユリエルの方を向いた。

「さて、本日は死肉祭でも助けになりそうな特別ゲストがいらっしゃいます。

 元聖女でありながら、破門され虫けらのダンジョンを乗っ取ったマスター、ユリエル殿です」

「非力な若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」

 ユリエルが予防線を張りつつあいさつすると、サキュバスは同情するような気の毒そうな顔で言った。

「よろしければ、破門されてここに来た経緯を話していただけますか?

 元は聖なる身でここまで来るとは……深い事情があるものとお察しします。

 もしお話しいただけたら……私どもも、より力を貸して差し上げられるかもしれません」

 ユリエルは勢い良く立ち上がり、声を張り上げた。

「お耳を貸してくださるならば、喜んでお話しします!

 そして、私を陥れた教会に必ずや復讐を!!」

 魔族たちにうけが良さそうな言葉と共に、ユリエルは自分の身に降りかかった人として許せない陰謀を語った。

 身分が低く後ろ盾がないだけで、枢機卿の娘にいじめられた。

 それに抵抗しただけで、いや初めからその娘を聖女にするのに邪魔だからという理由で、破門されて加護を奪われた。

 しかも、処女なのに邪淫の烙印を押され、捕まったら娼館で売られるところだった。

 やったのが教会のトップだから、教会を信じている周りの人々は誰も弁明を聞いてくれず一方的に悪いと言うばかり。

 ダンジョンを乗っ取って安全地帯をつくる以外の、どんな方法で生きられたというのか。

 叩きつけるように訴えるユリエルの話を、魔族たちは驚いて、あるいは興味深そうに聞いていた。

 少なくとも、この場でユリエルをけなす者はいない。

 それだけで、ユリエルは少し救われた気分だった。

「まあ……大変な目に遭われたのですね!

 それで、今ダンジョンをここまで成長させたということは……既に、教会とは何度か戦って退けていらっしゃるので?」

「ええ、もちろんです!

 あんなひどい奴らに、素直に負ける気などありませんから!」

 魔族たちが実に面白そうに聞き入ってくるので、ユリエルは売り込みも兼ねて、これまでの戦いを熱く語った。

 その中で、元マスターのオリヒメが置かれていた状況も話してやった。

「……という訳で、オリヒメちゃんはずっと虐げられて、踏みにじられてきたんです!

 先ほど、糸を売っていたと咎める声が聞こえましたが……売るのと奪われるのは違います。

 それに、他のどんな方法でオリヒメちゃんが生き延びられたというんですか!?

 オリヒメちゃんがこうして生にしがみついてくれたから、私が生きて教会に一矢報いることができました。

 それに免じて、これ以上責めるのはおやめください!」

 ユリエルは、強い意志のこもった目で会場を見回した。

 ダンジョンをもらう時、オリヒメのことは必ず守ると約束したのだ。その相手は、人間だけとは限らない。

 それから、魔王軍が目をつけていたタフクロコダイルガイにも話が及んだ。

 そこは、あえて母親のシャーマンが説明した。

「……この戦いで、息子は主の策にはまり命を落としました。

 しかし主は息子を立て、我ら一族をダンジョンに受け入れてくださいました。息子も、誇りある死を迎えられたと思っております。

 そして今は、主とオリヒメを守る力となっております」

 シャーマンはしんみりと、ユリエルの帯とオリヒメのたすきをなぞった。その様を見て、魔族たちは納得したようだ。

「何と悲しくも誇りに満ちた戦よ!

 タフクロコダイルガイは惜しかったが、この聖女もなかなかの武士ではないか!」

 そう感動して涙ぐむ者までいる始末だ。

 これは、戦に生きる意味を見出す武闘派にうけたらしい。

 そこにたたみかけるように、ユリエルは呼びかけた。

「教会は今や腐り果て、同胞を平気で踏みにじり搾取するようになっております!それを盲信する者もまた、然り。

 このままでは私や不赦のレジスダンのような貶められた者は、永遠に救われません。

 ゆえに、どうか教会を倒すのに力をお貸しください!

 そして、願わくば私の純潔を証明し、教会を盲信する者たちにも鉄槌を!!」


 しばし、沈黙があった。

 それを破ったのは、馬鹿みたいな笑い声だった。

「ンフフフ……ホホホホッ……キャ~ッハッハッハ!!」

 明らかに魔王に近い上座にいる、アンデッドと思しき魔族に囲まれた美女が、腹を抱えて笑い転げている。

 思わずユリエルが眉を顰めると、美女は笑いすぎの涙を拭いながら言った。

「あらぁ、別にあなぁたを馬鹿にしてる訳じゃ……クフフッ……なくってよぉ。

 ただねぇ、そのぉ、人間の枢機卿?とかいうのがぁ、馬鹿すぎぃ~!自分でぇ、こーんな墓穴掘ってぇ~!

 あはぁ~面白すぎぃ!久々にぃ……アハハッ……こんなに笑ったわぁん!」

 自分が笑われている訳でないと分かっても、この女は不快だ。

 周りがそんな雰囲気じゃなくても、相手の気持ちを考えず楽しむことしか頭にない。しかも周りにあんなに取り巻きがいるのに、誰も止めない。

 何となくティエンヌと同類の……いやそれ以上の、いじめの女王気質を感じた。

 しゃべり方も、誰にも気を遣わない馬鹿っぽさ全開なのに、妙に間延びしてもったいぶって、男に媚びるような色香を出しすぎで気に食わない。

 周りの男どももこの女が笑い転げているのをさも幸せそうに見つめるばかりで、ますます気に食わない。

(確かに、あの顔、あの体……すっごい美人!

 見るだけで幸せになるのも分かるけどさ……時と場合があるでしょ!!)

 という愚痴はおくびにも出さず、ユリエルは今必要な事を尋ねた。

「インボウズが墓穴、ということは、私がお役に立てるということですか!?純潔を証明し、奴を叩き潰せるのですか!?

 どうぞ、その方法をお教えください!!」

 ユリエルが必死に頭を下げても、その絶世の美女は笑いばかりだ。

「ンフフフッ……今、面白すぎて……ホーホホホ!それどころじゃ……!

 フフゥッ……せっかちな子は、モテないわよ……ンホーホホホ!!」

 瞬間、ユリエルの表情が凍った。

 こっちはこんなに解決策を求めて、怒りを抑えて教えを乞うたのに、何という態度だ。しかもまるでこちらが悪いみたいに。

 見せつけながら、モテないだなんて。

 ユリエルは、血涙を流しそうな修羅の顔で唇を噛みしめた。

 だがその隣に、またしてもヒュドレアがやって来てすました顔で言った。

「大丈夫、解答を知っているのは彼女だけではありませんよ」

 すがるような顔で弾かれたように振り向くユリエルに、ヒュドレアは邪悪な企みに満ちた顔で説明した。

「フフフ……あなた、吸血鬼は処女の血を好むと聞いたことがありませんか?

 処女の聖女は邪に狙われやすいと習ったことは?」

「あるわ!理由は、聖なるものを汚すのが好きだからとしか、聞いてないけど……」

「んな訳ないでしょう!

 ちゃんと利益があるから、私たちは処女の聖女を狙うんです」

 ヒュドレアの細くきれいな指が、ユリエルの心臓の上をつうっと滑る。

「フフフ……処女というのは、誰の種にも染まったことのない白糸のようなもの。そして聖女は、神の力を受け止める器。

 その血は、魔力や呪いの伝導性がすごく良くて、最高の触媒になるんですよ!

 しかも、特定の神の力が抜けた空の器……これほどそそる素材もありませんねぇ!」

 ユリエルの目が、希望に満ちて輝いた。

「じゃあ、私自身を証拠にして……いろんなことができるってこと!?」

「然りよ!!」

 突然、ユリエルの後ろからダラクの声がした。ユリエルの影の中からダラクがにゅっと姿を現し、その首を掴んだ。

「きゃっ!?」

 気が付いた時には、ダラクの牙がユリエルの首筋に突き立てられていた。ユリエルの体に悪寒が走り、力が抜ける。

 だが幸い、ダラクはすぐに牙を抜いた。

 そして、血まみれの口元を隠しもせず、痛快そうに笑った。

「ガッハッハ!!何と……本当に処女ではないか!!

 しかも、神が手を引いたゆえの圧倒的な魔力容量……貴様自身の素質もなかなかのものだ。これは使えるぞ!!」

「くっ……教会に見せつける前に、処女じゃなくなったら、困るんですけど……!」

 傷口を押さえながらも頬を赤らめるユリエルを、ダラクは楽しそうに見下ろした。

「何だ、男女の口づけとでも思ったのか?」

「か、からかわないでください!初めてなんですよ!

 それに、吸血鬼に吸われたら……」

「フン、血を確かめる以外の意味などない。安心せよ。

 それに、確かに我らは血を吸って殺した者を配下にすることができるが……貴様如きにそんな気はない。

 この程度の邪気、貴様自力で払えるだろう」

 ユリエルは悔し気に顔をそらし、傷口に当てた手に光魔法を灯した。体を巡る悪いモノが、みるみるうちに浄化されていく。

 ダラクの言う通り本気ではないし、実力で聖女になった者にこの程度の浄化はお手の物だ。

「……で、どのようにお使いに?あなたご自身が強くなって戦われるので?」

 ユリエルが尋ねると、ダラクは悪どい笑みで答えた。

「それもできるがな、もっといい方法がある。

 我がかつて、聖者を討ち果たしたことは聞いておろう。その聖者の遺体は今もわが手にあるが、どうにも聖気が強くアンデッドにできなくてのう。

 だが、貴様の血を触媒にすれば、奴を我が手駒にできる!」

「そして奴を教会の聖騎士にぶつけながら、先ほどからの映像を教会軍に見せるのです。

 さすれば教会軍は、自分たちが何をしたせいでこんな目に遭うのか思い知り、おまえにしたことを後悔するだろう!」

 気が付けば、ミツメルが羽の生えた目玉を光らせてユリエルの周りを飛び回らせていた。

「え、映像って……今、これ撮ってるの?」

「おまえの願いために、あった方がいいだろう?」

「ええー……私、初キス放映されるの?

 まあ、これでインボウズが思い知るなら……」

「おい、男女関係にカウントするんじゃない!我にそんな意図はないぞ!」

 つまり、処女の元聖女であるユリエルの血を使ってかつての聖者を強力なアンデッドに変え、証拠映像とともに教会軍にぶつけるということ。

 確かにこれは有効かもしれない。

 毎年死肉祭で戦う聖者落としのダンジョンのことは、教会も把握しているはず。

 もしそこでこれまで出なかった強敵が出て、教会軍が手痛い打撃を被ったら、教会は必ず原因を求めるだろう。

 そこでユリエルの処女にして元聖女の血が原因と分かれば、必ずやインボウズが責められるはずだ。

 ただし、教会軍や一般の冒険者の被害も相当に大きくなるだろうが……。

(でも、それが何よ!

 どうせそいつらは、死肉祭が終わって生き残ったら私を殺しに攻め込んでくる!その前に判断の機会をあげるんだから、むしろ感謝しなさいよ!)

 ユリエルは、決断してダラクに頭を下げた。

「よろしくお願いします、どうか教会に思い知らせるために私の血をお使いください。

 それが、私の純潔の証明になるならば!」

 するとそれを待っていたように、マーレイが大きな注射器を何本も取り出した。一本がユリエルの肘から先くらいある。

「よーし、なら気合入れて採っちゃうぞ。

 はい、腕出して~!」

「え……ちょ、多くないですか?」

 採血量に恐れおののくユリエルに、ヒュドレアが横から怪しい液体を差し出した。

「大丈夫です、この我らが神の力を使った造血剤があれば!

 これを使えば、失った血をどんどん作って補えますよ。あ、材料が入ってる訳ではないので、めっちゃ食べないといけないですけど……吸収もすごくよくなるので大丈夫。

 いやー、ダーゴネラの無茶に備えた薬がこんな所で役に立つとは!」

 幸いと言っていいのか、会場のテーブルには大量の料理が並んでいる。

 ユリエルは、据わった目をして邪神の薬をひったくった。

「ええーい、純潔を証明できるなら、何でもやったらああぁ!!」

 ユリエルはぐびぐびと音を立てて、邪神の薬を飲み干した。その豪快さに、会場から拍手が巻き起こる。

 ヒュドレアはそれを見て、とてもいい笑顔で瓶を取り出した。

「素晴らしいです!!お代は血でいただきますね。私たちも使いたいので。

 皆さーん、支援すれば採らせてもらえるかもしれませんよー!」

「は、ちょ……死なない程度にしてええぇ!!」

 叫ぶユリエルの声は、どこか嬉しそうだった。

 血を捧げねばならないが、ちゃんと安全策を用意してくれて、しかも各地でいろいろな魔族がユリエルの純潔を喧伝してくれるのだ。

 こんな面白い話はない……ユリエルは抜かれていく血を眺めて、青白くなっていく顔に喜悦の笑みを浮かべていた。

 魔王軍の中にも、ユリエルの非モテ心を逆撫でするハーレム野郎や傍若無人な美女がいます。

 今後彼らは、どのように関わってくるのか……敵が人間だけとは限らない現実。


 吸血鬼が処女の血を好むというのは、いろんな作品で見る設定ですね。昔から、男は処女に特別な意味を見出していたのでしょうか。

 結婚願望があるのに20代後半まで持っていると、ちょっと気が狂いそうになりましたが。

 旦那は喜んだ。

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― 新着の感想 ―
まあ、男側から見た場合、処女は「確実に自分の遺伝子を継承した子」を宿す存在ですからね…。 他の男の血をひく子って可能性が無いのは、生存戦略的にはかなり重要。身も蓋もない言い方ですが。 逆に、経験者の…
 う~む、なんかユリエルの目的が”冤罪を晴らし、自分の純潔を証明する”になってますけど、このまま魔王軍に力を借り続けていけば最終的には”嵌められて破門された聖女”から”人類の裏切り者”になってしまうよ…
[一言] 男は本能的に他人の子供を育てたくないのでしょう。たぶん。
感想一覧
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