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46.百鬼夜行と聖衣

 連休中に投稿しようと頑張って、どうにか間に合った!


 さあ、魔族の方々と対面だ!

 これまでユリエルが知っている者、知らない者。そして向こうもユリエルのことを知っている場合だってある。


 それ以前に、魔族たちにとってユリエルが着ている聖女のローブは……。

 誤解を得る標識を背負っているようなもんであった。

 気が付くと、ユリエルたちは薄暗い場所にいた。足下の魔法陣から放たれるわずかな光が、それ以外何もない空間を照らしている。

「ここは……」

「誰も、いないけど……騙された!?」

 訝しんで辺りを見回したところで、ユリエルは壁に貼られたプレートに気づいた。

「なになに、後がつかえないように速やかに広間までお進みください……ここはただの転送室みたい」

「なーんだ、心の準備しすぎて、損した~」

 早くも気が抜けるオリヒメに、シャーマンが突っ込む。

「ほら、油断しなさんな。ここはもう魔王軍の懐なんだよ。

 いつどこから、どんなのが来てもおかしくない」

 そう言われると、オリヒメはまた小動物のように怯えて縮こまる。

 ユリエルとシャーマンはそれを見て、前途多難だなと軽く頭を抱えた。これでは実際に魔王軍と対面した時にどうなるか。

 やはりオリヒメには、実力でも器でも荷が重いのかもしれない。

 だが、ユリエルは魔族の憎む聖女だし、元々のダンジョンマスターはオリヒメだ。魔族の心証を考えて、いてもらわないと困る。

「ほら行くわよ。

 あいさつとかはダンジョンマスターとして私がやるから、オリヒメちゃんはいてくれるだけでいいの」

「うっ……あ、ありがとう……。

 せめて、背中はしっかり守るから……」

 オリヒメは、恥ずかしさ半分感謝半分でこそこそとユリエルの後をついて行った。

 よもやその宣言すらもすぐ破られることになるとは、夢にも思わなかった。思い至れないのが、オリヒメの未熟さであった。

 ユリエルたちの後ろで、転移の魔法陣が再び光を放っていた。


 人の背丈の何倍もある大きな入口の前で、ユリエルたちは立ち往生していた。

 かかっている幕の向こうからは、談笑する声が聞こえてくる。同時に、足がすくむような恐ろしい気配が伝わってくる。

 間違いなくいる、この向こうに魔王軍が。

 その圧だけで、ユリエルもつい足が止まってしまった。

「ねえ……どうやって登場したら皆の目を引けると思う?

 せっかくだから、たくさんの人に覚えてもらいたいよね」

「いや、ユリエル……あんたも声震えてるって!

 それに……こんなヤバそうな人たちにいっぱい見つめられたら、あたし怖くて潰れちゃうよ!

 周りの弱そうな人たちにさ、ちょっと声かけるだけに……」

「それじゃ私が助けてもらえな……ぐぅっ!?」


 いきなり、ユリエルの首が後ろから掴まれた。

 反射的に振りほどこうとしても、さらに強い力で締められる。チャンピオンベルトの強化をもってしても、抵抗できない力。

(ぐっ……油断した!一体、誰が……!)

 あっという間に吊り上げられ、じたばたともがくしかなくなる。

 後ろから、オリヒメの悲鳴とシャーマンの叫び声が聞こえた。

「あんたら、何するんだい!?

 あたしたちゃ、呼ばれてここに……ガフッ!」

 何かを殴る、重い音。どうやらついてきた二人も、無事ではないらしい。

 息が苦しくて意識が飛びそうになる中、ユリエルは前しか見なかったことを後悔した。自分たちの後にも転移してくる者がいると、それを警戒すべきだった。

 だが、後悔先に立たず。

 ユリエルは吊り上げられたまま、乱暴に幕の向こうに突き出された。


 かすんだ視界が、一気に開ける。

 だがそれをしっかり見る暇もなく、ユリエルは床に打ち付けられた。どうにか起きようとしたところで、さらに尻を蹴られて這わされる。

「ぐ、う……!」

 顔を上げることはできないが、周りのざわめきと大量に突き刺さる視線を感じた。

 意図してではないが、注目を集めることはできたようだ。

 しかし、このままではまずい。後ろにいる奴らからは、決して許さぬという殺気を感じる。どう考えても、好意的ではない。

 後ろから、威圧的な雷のような声が響いた。

「やあやあお集まりの諸君!

 こんな所に教会のネズミが忍び込んでいるのを見つけたぞ!我らを消そうとする忌まわしい光の器、聖女だ!!」

「ウオオォーッ!!」

 会場が、揺れるような大音量に包まれた。

「あの聖衣、忘れもせぬぞ!」

「殺せ!殺してしまえ!!」

 方々から、怒りと憎しみのこもった言葉がぶつけられる。

 当たり前だ、聖女は魔王軍にとって、憎むべき教会の駒だ。幾度も勝てるはずの戦いと仲間の命をもぎ取られた、仇だ。

 そんなものを見つけたら、脳内が殺意一色に染まるのも無理はない。

 向けられる怒涛の殺意に、ユリエルは心臓が凍るようだった。

「ち……ちがっ……私、もう……ぎゃん!!」

 必死で反論しようとしても、頭を踏みつけ黙らされる。違うのに、弁明すらさせてもらえない。

「うわああーん!!助けてぇ!!やっぱり、来るんじゃなかったぁー!!」

 オリヒメはすっかり取り乱して、むしろ相手の誤解を煽る言葉をまき散らしている。

 その様に、魔族たちはすっかり殺戮ショーの気分ではやし立てている。

「いい気味だなぁ、聖女様よぉ!」

「そいつは糸売りのダンジョンマスターか?人間などに媚びて、自業自得だ!」

 ユリエルたちは、もう絶体絶命だ。このまま誤解を解くこともできず、道を断たれてしまうというのか。

(う、嘘だ……こんなはずじゃ……!!)

 死の恐怖におののくユリエルの髪が、ぐっと後ろに引っ張られた。強引に顔を上げさせられ、晒し者のように持ち上げられた。

「さあ、とくと見よ!

 思い上がって我らの口の中に飛び込んだ哀れな聖女の顔を!!」


 だがその瞬間、今までとは違うどよめきが会場に広がった。

「おい待て、胸のあれ……!」

「やめろ、敵とは限らんぞ!!」

 これまでとは打って変わって、慌てて制止しようとする声が方々から飛ぶ。泡を食って、皆がやめろと叫び始めた。

 しかし、ユリエルを拘束している者には理由が分からない。

「何だ!?皆、なぜそのような事を言う!

 現にこの女は、我らのダンジョンを荒らしに来たことがあるのだぞ!」

 ユリエルの後ろから聞こえてくる声が、ひどく苛立っている。

「まさか、魅了の力が……クソッ!ならば殺すまで!!」

 せっかく周りが気づいても、それを台無しにする分からず屋の拳が迫る。ついに終わりかと、目をつぶるユリエルの体が……。

「ちょいと失礼!」

「ゴアアッ!!」

 一瞬の衝撃の後、ふわりと宙に浮いた。

 そこから何者かにかっさらわれ……ユリエルはその腕の中に助け出されていた。

「お怪我はありませんか、お嬢さん?」

「ゲホッゲホッ……あ、ありまず……うぅ……」

 呼吸苦に涎を垂らし、首には絞められたアザができ始め、床に打ち付けられた額からは血が流れているが……何とか、助かった。

 その感動も相まって、ユリエルはつい相手に胸がキュンとしかけた。

(やだ、この人かっこいい……!!

 あ、でも腕にそれなりのが当たってる)

 当たっているのがたくましい胸板だったら、ときめきMAXだっただろう。しかしそこにあるのは、自分よりなだらかな柔らかいもの。

 相手は、長い青髪に白と青の冠を被った女だった。

 胸はユリエルほどないが、顔は美しく整い、やや長身でスレンダーで脚の長い女。左半身は黒いレオタードが基調で、右半身に青い装飾を施し、その上から白くぴっちりしたハイレグスーツをまとっている。

 片腕に短剣を装着した、冷水のように涼し気な美女だ。

 だが、今は見とれている場合ではない。

「何をするヒュドレア!!血迷ったかァ!!」

 ユリエルを拘束していた立派な鎧のアンデッドが、青髪の女……ヒュドレアを威嚇する。

 しかしヒュドレアは涼しい顔で、会場の皆によく見えるようにユリエルの体を支えて言った。

「血迷っているのはあなたです!

 この娘をよく見もしないで敵と決めつけて、せっかくの明日の味方を殺そうなどと、脳ミソの腐り具合が知れますねえ。

 なぜ皆が殺すなと叫んだのかも、考えてすらいないのでしょう?それとも、耳も腐ってて聞こえませんでしたか?」

 どうやらこのヒュドレア、性格がかなり悪いらしい。

 アンデッドの騎士を見下し、馬鹿にし、嘲りながら真実を告げる。

「目が見えなければ諦めるしかありませんが、こちら、見えてます?

 あ、意味が分からなければ、解説が要りまちゅか~?」

 とことん酷い煽りと共に、ヒュドレアが指さしたのは、ユリエルの胸の聖印章。破門されたため、黒く変色している。

 それを目にした途端、アンデッドの騎士はぎょっとした。

「何、は、破門だと!?

 それではこいつは、もはや……」

「ええ、教会の犬ではあり得ない。

 見ればすぐ分かるのに、よくもまあここまで!」

 そう、この横暴なアンデッド共は、ユリエルが破門されていると気づいていなかった。後ろからしか見ておらず、聖印章を確認せずに敵と決めつけてしまったのだ。

 ようやくそれに気づいたアンデッドの騎士は慌ててオリヒメとシャーマンを解放させたが、周りから注がれる視線は嘲笑と軽蔑ばかり。

「おやおや、これだから低能は!」

「死肉祭も大した成果がないくせに、貴重な駒を自ら潰そうとは」

「もう、死肉祭の支援やめようかのう……」


 聞こえる声にうろたえるアンデッドの騎士に、後ろから声がかかる。

「おい、何だこの騒ぎは!何かあったのか!?」

「は、はひっ!マスター……これは、そのぅ……!」

 どうやら、アンデッド騎士の主がやって来たらしい。ヒュドレアはくすくすと笑い、血色の悪い貴族のような男に声をかけた。

「あら~、きちんと主に報告もできないほど、躾がなってらっしゃらないようで。

 実は招待客のこの娘と配下に、この野郎がかくかくしかじか……」

 口の回らないアンデッドの騎士に代わり、ヒュドレアが説明を始めてしまった。しかも、やっちまった感を最大に強調し、各所に馬鹿にしたような煽りを加えて。

 そのたびに、あちらの主の顔が怒りと恥で青黒くなり、会場中から失笑が漏れる。

 説明を終えて、わなわなと震える主の前で、ヒュドレアはそれはいい笑顔でユリエルに耳打ちした。

「良かったですね。彼、お隣の聖者落としのダンジョンマスター殿ですよ。

 これだけ貸しができてあなたの知名度が上がれば、軽々しく攻め込むことはできないでしょう。

 何なら、連携して戦うのに支援を引き出せるかもですよ!」

「えっ!?この方がそうなんですか!

 うーん、良かったような良くなかったような……」

 思わぬところで縁ができて、あっけにとられるユリエル。

 初っ端からふっかけてきた横暴な者たちは、これまでユリエルがたびたび戦ってきた聖者落としのダンジョン幹部だったのだ。

 その中には、シャーマンも顔見知りがいるようだった。

「へえ……あんた、よく見たら息子を誘いに来た奴じゃないか。

 あの時は大人しく引き下がったと思ったが、その報復がこれかね?」

「えっ……あ、湿地のヌシの御母堂でしたか!

 いえいえ、そんなつもりでは全くありません!私の方はさっぱり気づかな……じゃなくて!息子さんはお元気で……?」

「死んだよ。今の主に殺された」

「ホワッ!?」

 どうも、以前タフクロコダイルガイを誘いに来たのが、このアンデッドの魔法使いだったらしい。

 ということは、聖者落としのダンジョンの戦力に引き込もうとしていたのだろう。

 魔王軍は、思った以上に身近にあったということだ。

 オリヒメはというと、完全に恐慌を起こして泣きわめき、何を言っても聞き入れられない状態だ。

「ひいいぃわああぁ!!

 やっぱり……うぐっ……強い人なんて、みんな怖い人ばっかりだぁーっ!!

 もーやだ、帰りたい!どーせあたしを虐めるんだぁ!!」

 オリヒメはだーだーと涙を流して、恥も外聞もなく泣き叫ぶ。

 それがさらに見る者の気を引き、ふっかけた側が悪い感を加速させる。

「ああっすみません!どうか落ち着いてください!

 もう何もしませんて!謝ってるじゃないですかぁー!!」

 どうにかしろと主にせっつかれ、目隠しをした代わりに目玉にコウモリの羽が生えた魔物を従えている男がなだめようとするが、どうにもうまくいかない。

 その状況を、さらにヒュドレアに馬鹿にされてしまう。

「アーハハハ!そんなに自由な目があるのに、ユリエルの聖印章が見えなかったんですか~?

 あなたがそうしてさえいれば、こんな事にならなかったのに!」

 言う事自体は事実なので、さらに質が悪い。

「うるさいな!僕はこの聖女がダンジョンを荒らしに来てるのを何度も見てるんだ!

 こいつが教会の尖兵どもを回復するせいで、こっちは実害を受けてるんだぞ。見たら殺そうとして、何がおかしい!?」

 この自由な目をした魔族は、ユリエルの顔を覚えていた。

 どうも死肉祭の時に、ダンジョン内で教会軍の後方の様子を探っていたらしく、よく働くユリエルを疎ましく思っていたようだ。

 そのせいで、聖印章より顔にばかり目がいってしまった。

 しかし、ヒュドレアは冷ややかな目で言い返す。

「その時はその時、今は今です。

 今あなたがやるべき事を怠ったせいで、こんな事になってしまった。何とかしたいなら、早くその蜘蛛女郎を泣き止ませては?」

「ぐううぅ……くっそおおぉ!!」

 煽られた自由な目の魔族がイライラするほど、オリヒメはそれを感じ取ってさらに怯えて泣き叫ぶ。

 すると、ヒュドレアはさらに面白がって煽る。

 どうもヒュドレアは、ユリエルたちを助けるのではなく事態を面白くしたいだけらしい。解決する気は、全くないようだ。

「あ、あの、オリヒメちゃん……そろそろ泣き止んで。

 いい加減話が進まないんだけど」

 さすがに困ったユリエルが声をかけても、オリヒメは泣くばかりだ。

 だがその時、オリヒメの側にズドンッと何者かが着地した。オリヒメは狂乱したまま、反射的に糸でそいつを縛ってしまう。

 しかしその糸が、一瞬で弾けとんだ。

「フンッ!縛りが甘いぞ!」

 中から現れたのは、筋肉ムキムキのビキニアーマー女戦士だ。

 燃える炎のようにワイルドに流した赤髪、全身のはちきれそうな筋肉、そしてその肉にも負けず主張する爆裂な乳。

 この力が人の形をなしたような女は、全身の筋肉をパンプアップさせる勢いだけで糸を引きちぎったのだ。

「ヒェッ……!」

 そのあまりのインパクトと威圧感に、オリヒメが放心したように黙った。

 それに赤髪の女はうなずき、暑苦しい笑顔でユリエルたちに向かってサムズアップした。白い歯が、キランッと眩しく光る。

 あっけに取られているユリエルの代わりに、ヒュドレアがつまらなさそうに声をかけた。

「せっかくいいところだったのに、やめていただけます?お姉」

「おまえこそ、泣き叫ぶものを放置してかわいそうと思わぬのか!

 話したければ堂々と向き合わねば、武人の誇りに反するだろうが」

 赤髪の筋肉女は、ヒュドレアの仲間のようだ。しかしヒュドレアとは逆に、脳筋かつ武人の誇りを重んじる性格だ。

 そうしてひとまず収拾がついたところで、広間の奥から声がかかった。


「そこまでです、皆さま敵意を収め、名乗りなさい。

 新たなダンジョンマスターよ、災難でしたね。それがただの見世物で終わらぬよう、その名を知らしめなさい」

 心の奥まで届き、思わず何も考えずに従いたくなる声。

 広間の奥にある、カーテンの向こう側から聞こえてくる。

(もしかして、あそこに魔王が……!)

 そちらに視線を向けた途端、ユリエルは気圧されて固まった。

 まるで、巨大な目玉が自分の鼻先にあって、見つめられているような感覚。本能的な恐怖と叩き潰されるような威圧感に、鳥肌が立つのに汗が噴き出す。

(な……に……これ……!格が、違う……!)

 あんなに遠くにいるのに、指一本触れられていないのに、雁字搦めにされたように動けない。

 必死に声を出そうにも、かすれた息を吐くのが精いっぱいだ。

 ……向こうにもそれが分かったのだろうか。ふっとそれが和らいだ。

 目に見えぬ力が緩んだ瞬間、ユリエルは気力を奮って立ち上がり、広間を埋め尽くす魔族と奥に控える者へ声を張り上げた。

「お初にお目にかかります!

 虫けらのダンジョンのマスター、ユリエルと申します!

 種族は人間ですが、教会にはもう破門されましたのでご安心くださいませ。これから、よろしくお願いします!」

 続いて、シャーマンとオリヒメもあいさつをした。

「リストリア近郊の湿地から虫けらのダンジョンの傘下となった、ワークロコダイルの族長にしてシャーマンです。

 名乗るほどの名は持ちませぬ」

「ああっ……えーっと……虫けらのダンジョン、元マスターのオリヒメです!

 ユリエルに救われ、名前までいただきました。ユリエルは尊厳の恩人です」

 三人は、揃って深く頭を下げた。すると三人を迎えるように、広間の魔族たちから大きな拍手が巻き起こる。

 ユリエルたちがホッと一息ついていると、今度は聖者落としのダンジョンの者たちが名乗ってきた。

「部下が失礼したようだな。

 これで、貴様がこれまで我がダンジョンを荒らした罪と棒引きにしようではないか。

 貴様とてあの学園都市の聖女ならば、我が名くらい聞いたことがあろう。聖者をも闇に引きずり込む、吸血暗黒爵ダラクとは我のことよ!」

「破門者とは知らず、手荒にして済まなかった。

 ダラク様の剣、グールジェネラルのロンバルトだ」

「リッチのマーレイよ。よろしくね!」

「ヘルズアイデーモンの、ミツメルです。

 おまえに何があったとしても、僕の目と脳に刻まれた敵としてのおまえの姿は、消えることはないからな」

 毎年、死肉祭のたびに討伐対象として教えられた、聖者落としのダンジョンの幹部たち。

 それと、こんな形で相対する日が来ようとは。

 このことは、ユリエルに自分がどういう場所に来てしまったのかを、この上なく実感させた。

 だが、それが何だ。どうせ人間の側にいようとしても、解決策なんかない。だったら、こうして違う側の御近所さんとのつながりができたのは快挙じゃないか。

 そう気持ちを切り替えるユリエルに、今度は赤髪の筋肉女が歩み寄ってきた。

「早々ひどい目に遭ったようだが、良い胆の鍛錬になっただろう!

 我は力の魔女、剛力砕女ダーゴネラだ」

「申し遅れました、機敏なる智の魔女、俊敏才女ヒュドレアです。

 わたくしたち二人は、愛憎のダンジョンにて、復讐の巫女カルメーラ様にお仕えしております。

 お見知り……ぎゃん!!」

 得意げにしゃべっていたヒュドレアを踏みつけて、もう一人、妖艶な女が着地した。

「あたしのセリフを取ってんじゃないよ!

 あたしが、愛憎のダンジョンマスター、カルメーラさ!」

 蜂蜜のような甘く濃厚な金髪に、豊満な胸と魅惑の腰つきをした、妙齢の美女。露出度が高くきらびやかな、民族衣装のような衣をまとっている。

(愛憎のダンジョン……ロリクーンが邪神の薬を手に入れたっていう!)

 マリオンに使われそうになった邪神の秘薬を思い出して、思わず身を固くするユリエル。

 その頬を、カルメーラの指がするりとなぞった。

「おやおや、お前、いい復讐心を持ってるじゃないか。

 あたしのダンジョンで祀ってる神様は、そういうのによく応えてくれるよ!力が欲しいなら、祈ってみるかい?」

 ユリエルは、すぐには答えられなかった。

 力は欲しいけれど、やすやすと手を伸ばしていい力ではない気がしたからだ。

 それでも、選択肢は増えた。自分の知らなかった、これまで使えなかった選択肢が、間違いなくここにある。

 来て良かったと、心から実感できた。

 そしてその選択肢をもっと見つけて掴み取って、必ずや自らの潔白を証明するために、ユリエルは胸を張って百鬼夜行の宴へと踏み出した。

 新しいキャラがたくさん出てきました。


 うち三人は、ウルトラマントリガーの推しキャラをオマージュしています。

 妖麗戦士カルミラ→復讐の巫女カルメーラ

 剛力闘士ダーゴン→剛力砕女ダーゴネラ

 俊敏策士ヒュドラム→俊敏才女ヒュドレア

 なお、最推しはヒュドラム。これからも時々絡んでくる予定です。

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― 新着の感想 ―
 ああ、あの3人はあの番組の方からでしたか。  正直、ティガの劇場版かトリガーのどちらかと思っていましたので。  では、いずれヒュドレアを一族の仇と追いかける宝探しオンリーの冒険者が出てくるとか、カル…
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