42.調査隊の帰還
帰還した調査隊と、教会とギルドサイドの話です。
しかし、前回書き切れなかったダンジョン内でのできごとも挟みます。
鑑定官たちは調査結果を報告しつつも、これからどのようにしようと考えていたのでしょうか。
調査、工作部隊を敵に回すと怖いぞ!
出発から六日、インボウズが一日千秋の思いで待っていた調査隊が帰還した。
「おお、待ちかねたぞ!それで、攻められそうなのか!?」
インボウズは前のめりになっているが、ギルドマスターと審問官は既に結果を悟って消沈した顔をしている。
なぜなら、戻って来た調査隊は一人少なかった。しかも、このパーティーの主力でもあった熟練者が欠けている。
明らかに、いい結果ではない。
ただし、死肉祭に影響を出したくないという意味では、意に沿う結果だが。
代表の鑑定官が、しんみりと深く頭を下げて、結果を述べる。
「調査の結果、あのダンジョンを短期で落とすのは困難と判断いたしました。
聖騎士の突入は、どうかお考え直しください」
案の定、インボウズは激昂した。
「何を言っとるんだ君は!!乗っ取られて二月も経たん、ケツに卵の殻のついたヒヨコのようなダンジョンだぞ!?
それが落とせんなど、あってはならん!!
帰るのも少し早かったし、本当にしっかり調査したのか!?どこまで行ったんだ!!」
やはりというか、インボウズの中で虫けらのダンジョンは進みやすいクゾダンジョンのままだ。
前の討伐であれだけ犠牲を出しても、自分に都合のいい状況を信じるのをやめられないらしい。
ギルドマスターとオニデスが、額にビシビシと血管を浮かせながらなだめにかかる。
「落ちついてください、まずは報告を聞いてくだされ!
心配しなくても、あなたが差し向けた騎士よりはよほど先に進みましたとも!!」
「そちらがひよっこのダンジョンだからこそ、そちらに全力を向けて聖者落としのダンジョンに後れを取ったら困るでしょう!
あちらは百戦錬磨のベテランなんですよ!?
どちらとの戦いに重きを置くべきか、正しいご判断を!」
オニデスがインボウズの意に沿うように進言したため、インボウズはフンと鼻を鳴らしてひとまず黙った。
鑑定官はようやく、本来の目的である報告書を広げた。
「……という訳で、虫けらのダンジョンは想定より遥かに長く進みづらい道となっておりました。
我々が強敵に遭わずともこれだけかかった道を、騎士の方々が一週間で踏破できるとはとうてい思えません。
特に、案内役のロリクーンを失ってしまった今となっては」
鑑定官の説明に、インボウズは唖然としていた。
「お、おい……ダンジョンは普通、浅い階層は進みやすいモンだろう?
なのに、何でこんな……!」
虫けらのダンジョンの変貌は、インボウズはおろかやや現実的なオニデスや審問官の想定をも遥かに超えるものだった。
深さとしては7階層のままだが、5階層にたどり着くまでに1階層から4階層を三回通らねばならない。
しかも一度4階層を抜けた後は、道が悪魔のような難路。
さらに、時間が経ってから効いてくる不快症状の毒罠がある。
これも軽装の調査隊だから素早く気づいたし被害を抑えられたが、全身鎧の騎士では嫌な予感しかしない。
おまけにしっかり対処しようとすれば、解毒剤や予防薬でどんどん荷物が増える。すると、ますます進軍が遅くなる。
「何だよ、くしゃみや痒みくらい、死ぬ訳じゃないんだろ?
そんなモンに負けるような信仰の薄い奴は、騎士隊にはおらん!」
インボウズはそう言うが、自分がそうなったらすぐ癒させている。現場の状況どころか、我慢する苦しみをそもそも知らないのだ。
そういう事を面と向かって騎士たちに言い放てばそれこそ忠誠心がどうなるか、まるで分かっていない。
オニデスはその程度なら何となく分かるらしく、それとなく話を逸らす。
「問題は毒ではありません、時間がかかることです。
特にこの、5階層につながる4階層の、洞窟の川。ここで流されると峡谷に戻されるというのが、誠に質が悪い。
難路の浅い階層のやり直しになりますし、一部が流されて分断されても厄介です!」
鑑定官は、うんざりしたように実体験の感想を述べた。
「ああ……あれは、酷かった。難路往復の苦労が、一瞬で無にされるんですよ。
ま、おかげで撤退は楽でしたがね……」
4階層の洞窟の川で鉄砲水に流された後、鑑定官とハゲ男は高い所から広い所に投げ出された。
洞窟の川の出口というのが、峡谷に流れる谷川の起点の滝だったのだ。
鑑定官とハゲ男は滝から放り出されてすぐ糸ネットで受け止められ、眼前に広がる見覚えのある景色に絶句した。
つまり洞窟の川で流されてしまえば、再び1~3階層の往復をやり直し。
それに気づいた途端、どっと疲れが出て気力を持っていかれた。
しかも自分たちはユリエルのはからいで滝の出口から戻してもらえたが、それがなければ長時間分断されていたのだ。
ただの時間稼ぎと甘く見てはいけない。
唯一助かるのは、鉄砲水を使えば帰り道をショートカットできるくらいか。
あくまで自分を殺しに来る敵を相手にし、逃げる敵には情けをかけるユリエルらしい仕掛けだった。
「うむむ、水、のう……騎士共はどうしても重装備だからな。
確かに、このような階層は向かぬか」
インボウズも、これには唸った。
騎士たちは、生半可な攻撃で傷つかぬ重装備による防御力と対人戦の能力を売りにしている職種だ。
当然その鎧は重いものが多く、水に落ちれば沈んでしまう。
峡谷なら落ちなければいい話だが、洞窟の川の鉄砲水は逃げ場がほとんどない。
ものすごく上質な軽い素材の鎧をまとった聖騎士ならまだしも、金属の鎧をまとった普通の騎士には大敵だ。
軽装の騎士もそれが必要な地域にはいるが、ここはそうではない。
湿地は近いが出てくる魔物を迎え撃つだけだったし、聖者落としのダンジョンではアンデッドの攻撃を通さない方が大事だから。
そこに追い打ちをかけるように、鑑定官はその先を報告する。
「ええ、ここから先は騎士には厳しいですよ。
5階層は、ワークロコダイルの巣のある湿地でした。あんな所を騎士に歩かせたら、あっという間に消耗しますよ!」
調査隊はダンジョンで、ユリエルに5階層まで案内してもらった。
少しでも先に進めたという土産がないと調査隊の立場が危ういこと、インボウズにすぐ聖騎士を突入させられたくないのが理由だ。
「ほら、元の湿地にそっくりでしょ!
まだ見た目ほど広くはないんだけど……移動に倍時間がかかれば、広いのと同じよね」
5階層は、沼地と湿った草地が入り混じる足場の悪い場所だった。しかも、ところどころに底なし沼がある。
入口から少し離れた所にワークロコダイルの集落があり、屈強なワークロコダイルの戦士が常に水中から目を光らせている。
こんな所で足を取られたら、一瞬で餌食になるだろう。
これまた、重量のある騎士が進みづらい地形だ。
「あそこには、ポイズンフロッグやハードバイパーなど水場を得意とする虫以外の魔物が生息しておりました。
虫と小妖精だけの対策では、突破できません!」
鑑定官は、非常にすまなさそうに頭を下げた。
「残念ながら、ロリクーンを失った我々ではここの踏破は無理でした。
我々も報告を持ち帰らねばならぬのでこれ以上危険を冒す訳にいかず、悔しながら撤退を決めた次第です!」
深く頭を下げる調査隊の面々に、オニデスはねぎらうように言った。
「そうか、よく生きて帰りました。
それに、前の討伐で判明した道のりの倍近くを新たに探索できたのは大きい。よく調べてくれましたね」
「この程度の成果にそのお言葉、恐縮です!」
正直、オニデスは調査隊に心から感謝していた。
あれだけの衛兵と冒険者を投入しても調べられなかった場所を、調査隊はきちんと調べて意に沿う報告書を出してくれたのだ。
これがなければインボウズの一存でまた大きな犠牲を出し、副官であるオニデスの出世の道まで断たれるところだった。
オニデスは、その最悪な未来を潰してくれたことに何より感謝していた。
ひとしきり様子の報告が終わると、インボウズは苦い顔で決断した。
「……分かった。そのようなくだらん時間稼ぎに、聖騎士を付き合わせる暇はない。
死肉祭前の突入は、なしにしよう!」
その言葉を聞いた瞬間、ギルドマスターと調査隊の面々は体中の力が抜けて倒れそうになった。
これで、死肉祭の戦力が削られることはない。
そのせいでさらに死肉祭が厳しくなり、冒険者に余計な犠牲が出ずに済む。ギルドマスターが不満で突き上げられることもない。
調査隊にとっては、それ以上にユリエルが命を長らえることが嬉しかった。
このクソ枢機卿が濡れ衣を着せていると判明した以上、それを正義の象徴である聖騎士に討たせるなどもっての外だ。
ダンジョンの防備を見る限り、今のダンジョンに聖騎士を投入されれば、時間はかかるがユリエルは討たれてしまうだろう。
少しでも聖騎士の投入を遅らせ、もっと防備を固めてもらわねば。
そうしてユリエルが長く生きていれば、いつか冤罪を晴らせる日が来るかもしれない。
その可能性をできるだけ守りつつ街からの犠牲を減らすのが、生きて返された彼らの新たな使命だった。
方針が決まると、しかしインボウズは訝し気に尋ねた。
「……で、ダンジョンはあれから成長しておらんのかね?
あまり成長しとるようなら、早く手を打たねばまずいが」
その問いに、鑑定官はとても困った顔で答えた。
「正直それは、我々にも分かりかねます。前の討伐から深さは7階層のまま変わっていませんし、4階層からの折り返し道がその時からあったのかも不明です。
ただ、魔物の数は前の討伐とは比べ物にならないくらい減っていました。
以前騎士隊を全滅させたという魔物にも、出会いませんでしたし」
そこに、マリオンが補足する。
「もしかしたら、そいつも騎士との戦いで深手を負って療養中かもな。
ワークロコダイルも5階層の巣に行くまで見なかったし、あちらさんもかなりダメージ受けて回復が追い付いてねえっぽいぞ。
だから、難路で敵を消耗させる方向に切り替えたんだろ」
それを聞いて、インボウズは少し安堵の笑みを浮かべた。
ダンジョンが長くなったかは知らないが、どうやらユリエルも前の討伐で苦しい状況だと分かったからだ。
これなら、二月ほど放置したところで大して成長は見込めまい。
死肉祭の間に裏をかかれて攻められる恐れはないだろう。
「なるほど、前の討伐もまずまずの成果ではあったか。
とりあえず大人しくしておるなら、急ぐ必要はないな。
ならばひとまずこちらは死肉祭に集中することとして、虫けらのダンジョンはその間立ち入り禁止にしておけ。
日干しにしておけば、悪さもできんじゃろう!」
「は、ご賢察恐れ入ります!」
鑑定官は、インボウズを持ち上げながらも、内心してやったりと笑った。
ユリエルのダンジョンが配下でないワークロコダイルを飼っており、日干しにできないことを、調査隊は報告していない。
調査隊の全員が黙っていれば、これは教会には分からない。
こうしておけばインボウズは虫けらのダンジョンが成長できないと思い込み、本気の戦力投入を遅らせるだろう。
これは、権力に抗えない調査隊のささやかな抵抗であった。
もちろんこれだけに甘んじることなく、ユリエルの真実を暴く方法もそれぞれが考え始めている。
鑑定官は、にわかにしかめ面でギルドマスターに言った。
「それにしても、こういう事があるなら、もうちょっといい鑑定の魔道具を用意していただけませんか?
こいつでは、ダンジョンは深さしか測れません。
せめて階層ごとのエリア数が分かれば、今回も成長しているかどうか分かったのですが……どうにか予算下りませんか?」
鑑定官がそう言うと、インボウズがギルドマスターをぎろりとにらんだ。
「ううむ、そこをケチるのは良くないのう。
せっかく命懸けで奥まで行ったのに道具のせいで分からんでは、調査隊の働きを無駄にしとるようなもんだ。
必要なことには、きちんと予算をつけたまえ!」
ダンジョンの監視予算をとことん中抜きしておいて、どの口がという感じである。
……が、調査隊を派遣しても調べたいことが分からなかったのは、ギルドの責任だ。そしてギルドの責任を最終的に負うのは、ギルドマスターだ。
ギルドマスターは奥歯をぎりぎりと噛みしめて、せめて一矢報いんと言い返す。
「それを言うなら、教会も高位の魔道具や鑑定能力者を抱えてらっしゃるのに。
毎年、死肉祭に合わせて総本山から呼んでいるあれらを、もっと長く借り受けることはできんのですか?
破門者の反逆は、そもそも教会の責任でしょうに!」
「フン、そちらこそ、早期に発見できなかったではないか!」
「こっちは、この件で冒険者への慰問金と人手不足で首が回らんのです!」
現に困ることが起きても、インボウズとギルドマスターは出費を相手に押し付けようと言い争うばかりだ。
結局、解決しなくても自分の富と地位が脅かされなければ、解決する気がないのだ。
ユリエルが動けないと思い込ませただけで、この体たらくである。
これに、鑑定官は別の意味で落胆した。
(うーん……ユリエルが処女かどうか鑑定できるレベルの魔道具が使えれば、突破口が開けるかと思ったが。
これではどうしようもないな)
ユリエルを救える手立てが、さっそく一つ潰れてしまった。
死肉祭になれば毎年高位の協会所属の鑑定官が派遣されてくるが、そいつらは結局教会の犬だ。
そうでない揺るぎない鑑定手段を手に入れればと思ったが……世の中そううまくはいかないらしい。
マリオンが、少しでもギルドマスターが考えるように哀れっぽく懇願する。
「なあ、魔道具がこんなだったせいで、ロリクーンの犠牲も大した成果にならなかったんだぜ。
聖騎士を突入させるにしても、俺のレベルじゃまだ足引っ張っちまう。
有能な奴を無駄に死なせないためにも、な」
だがここで、審問官が鋭い声を上げた。
「待て、今の言葉は真実が伴っていないな。
ロリクーンはなぜ死んだ!?本当のことを言え!」
審問官は、会話の初めからずっと真偽判定を行っていた。マリオンがユリエルの友だと聞いて、初めから怪しんでいたのだ。
だがマリオンは、平然と真実を口にした。
「ああ、俺が殺したよ。
邪神の力を帯びた薬で俺を手に入れようとしやがったもんで……さすがに、正当防衛だろ?教会は邪淫を許さねえもんな」
「やはり裏切り……え、邪神!?真!?」
驚愕する審問官たちの前に、鑑定官は一つの小瓶を置いた。
「証拠品です。奴が使おうとしているのを、この目で見ました。
これは教会としては、所持するだけで有罪では?」
「何だと、奴めこんな代物まで……!」
ギルドマスターが、寂しくなった頭を抱えた。
ロリクーンはこれまで、自身の性犯罪をもみ消してもらうのと引き換えに、ギルドや教会の後ろ暗い仕事を引き受けてきた。
そのため、インボウズもギルドマスターもできることなら助けたかった。
しかしロリクーンはもう死んでしまったし、出てきたのは教会として絶対に許す訳にいかない邪神絡みの薬物である。
この期に及んでかばうメリットが全くない。
「我々はダンジョン内で少しの間分断され、合流したら奴がこれを使おうとしているところでした。
真偽は、審問官殿が見ればすぐ分かるでしょう。
これでも、奴をかばいますか?」
鑑定官に怖い顔で詰め寄られ、ギルドマスターは観念した。
「……いや、よく尻尾を掴んでくれた。奴にはいろいろ悪い噂があったが、どうにも証拠を掴めんでのー。
これで奴の悪行も終わりか、良かった良かった!」
ギルドマスターは白々しい嘘を吐いて、ロリクーンを切り捨てた。
それでもギルドマスターとインボウズはユリエルとマリオンの結託を疑っていたが……マリオンが、マジックバッグから仕事の証を取り出して見せた。
「ほら、仕事は奴から引き継いでこなしてやったぜ。
パクリウス伯爵から買い上げた、毒性の強すぎる殺虫剤……きっちりダンジョンの湿地と虫の溜まり場にぶちまけてやったよ。
これで、あいつの戦力はさらに削がれるはずだ」
「おお……やってきてくれたか!」
調査隊の仕事は、調査だけではなかった。
虫には殺虫剤をと、かつて毒性が強すぎて流通禁止になったパクリウス伯の殺虫剤を、ありったけ買い集めてばらまかせたのだ。
これで、ユリエルの邪悪な使い魔どもをこの世から払うために。
そしてマリオンがこの仕事を遂行したということは、マリオンは教会に従っているとみて間違いないだろう。
でなければ、友と友の可愛がる生物の楽園にそんな事はできないはずだ。
安心して猫可愛がりしてくるギルドマスターを、マリオンは冷え切った目で見据えていた。
「ああ、例の殺虫剤?いいよ、まいちゃって」
マリオンがこのミッションのことを告げると、ユリエルはあっけらかんとそう言った。そして、ワークロコダイルを避難させて虫たちを集めた。
「分かってる……奴らも、虫への対処くらい知ってるのよ。このままじゃ勝てない。
でも、時間がもらえるなら……その廃棄物もこの子たちの命も、無駄にはしないわ」
ユリエルの目には、悲壮な覚悟があった。
マリオンはその意図を汲んで、おぞましい毒を湿地に注いだ。
そんな二人の思いなどいざ知らず、ギルドマスターとインボウズはもうこの件から離れて次のことを考え始めていた。
「さて……これから死肉祭の準備で忙しくなりますな」
「ああ、有能な冒険者がわんさか集まってくるぞ!」
そこで、インボウズが鼻の下を伸ばして小瓶に手を伸ばした。
「その中の、強く美しい冒険者か聖女を……ヒヒヒッ……僕の側に留めておけるのか。正義のために使うならば……」
邪神の惚れ薬を都合よく私物化しようとするインボウズに、鑑定官が釘を刺した。
「ああ、その薬は確かに、相手を一途な想いに応えさせます。
しかしそれを使った相手に一途に愛を捧げ大切にしなければ、例えば他の女と遊んだりすれば、邪神の呪いで破滅するとあります。
それでもお使いになられるほどの、お相手が……?」
「ヒェッ!そ、それは要らんよ!
さっさと浄化して処分してしまえ!!」
鑑定官の説明に、インボウズは慌てて手を引っ込めた。
結局、インボウズは気に入った女を手籠めにしたいだけなのだ。一人に絞る気などないし、それで自分が呪われるなどまっぴらだ。
そういう意味では、今さらだがマリオン一人を一途に思って身を固めようとしたロリクーンの方が、まだましと言える。
「……フン、どいつもこいつも使えんのう!
こんなに苦労しておる僕に、そろそろ神様のお恵みがないかな~」
インボウズは気づかない。
水面下で真実を知る者がわずかずつだが増え、自分に向けられる怒りと敵意が育ちつつあることを。
そしてその調査と工作に長ける者たちが、いつも自分を見張っていることを。
それでもこれまでなかったし見えないものはある訳がないと信じて、インボウズは例年通りの目の前のことだけ考えていた。
またパクリウス製の殺虫剤が出てきました。
ユリエルはあえて虫たちに浴びせることを選びましたが、この伏線は既にあります。農薬と虫の戦い、選択淘汰……どうなるか、だいたい分かりますよね?
そして次回の閑話を挟んで、物語の舞台ががらりと変わります。