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34.絆の勝利でいいじゃない

 連休だから初日に投稿したかったんだよぉ!!

 でも、さすがに前の月曜日から間が開いてなくてキツかった……結果、この時間である。


 討伐部隊との戦いを終えて、みんなで勝利を喜び合おう!

 そして、前の話で出て来たレジンと二人の半虫半人の正体と、ユリエルの思い。慕われて、それでも成り立ちゆえに全面的に信じてあげられなくて、でも嬉しい人として支えてくれる仲間。

 沈んでいく騎士を見下ろしながら、ユリエルはホッと胸をなでおろした。

 広場にいた他の騎士たちは、既に全員が血に染まり地に伏している。これで、あちらの最高戦力は全滅した。

「ひいいっ騎士隊がやられた!!」

「逃げろ、敵う訳ねえ!!」

 わずかに残って観戦していた冒険者たちが、ほうほうの体で逃げていく。

 もはや、ユリエルたちに立ち向かおうとする者はいなかった。


「どうだい、敵の様子は?」

 油断なく問うシャーマンに、ユリエルは額の汗を拭って答えた。

「大丈夫、今のところあれ以上強い奴らは入ってきてない。冒険者の増援も止まった。ううん、みんなだいたい外に向かって逃げてる」

「じゃあ……!」

 オリヒメの顔が、感無量の喜びにほころんでいく。

 ユリエルは、力強くうなずいた。

「うん、私たちの、勝ちだ!!」

 次の瞬間、ものすごい歓声が峡谷にこだました。

「ウオオオォ!!!」

 ワークロコダイルの戦士たちが、雄たけびとともに天に拳を突き上げる。虫たちも、羽や足を鳴らして声を添える。


 ユリエルたちは、打ち勝ったのだ。

 許されぬ罪をなかったことにしようとする、悪意の侵攻に。


「やった!やったよぉ!!」

 オリヒメが、黄色い声を上げてユリエルに抱き着く。ユリエルにすり寄せる頬には、うれし涙の筋ができていた。

「あ、あたし、思ったほど役に立たなくて……あたしが原因で負けたらどうしようかって!

 名前をもらって進化までさせてもらったのに、何か気が動転して、逃げるお手伝いしかしてあげられなくて……。

 みんな無事で良かったよぉ!」

 声を震わせるオリヒメを、ユリエルは優しく撫でた。

「うん、本当にみんな……話ができる仲間はだいたい無事だよ!

 虫さんと小妖精さんは、結構な数やられちゃったけど……主力はほとんど無事だ。こんなにみんなが助かって勝てるなんて、夢みたい!」

 ユリエルは、にじんだ涙をそっと拭った。

 正直、戦い始めた時は不安で一杯だった。

 どんな強さの敵が、どれだけ来るのだろう。自分たちは、勝てるのか。勝ったとしても、次につなげられる力は残るのか。

 学園都市が持つ軍事力、インボウズたちの権力を知っているからこそ、いくらでも悪い想定ができて気が休まらなかった。

 しかし、蓋を開けてみれば敵は予想よりだいぶ手ぬるかった。

 冒険者の質は悪い、衛兵や騎士との連携は取れていない。おまけに準備がまるでできていない。

 これは、ユリエルのステルス作戦の賜物だ。

 敵はダンジョンのことを、3階層のクソダンジョンのままだと思っていた。いや、鑑定官がいたことを考えると、現状を見て出直すことを許されなかったのか。

 ユリエルたちにはありがたいが、現場の人間にはブラック極まりない。

「……今回勝てたのは、敵がいい加減だったからってのが大きいかな。

 私もいろいろ考えて意地悪な罠を仕掛けたけど、あんなの本当の強者には通じないもの。そういうのが来なかったのが一番だわ。

 ナメられるのはムカつくけど、おかげで道は繋がった」

 ユリエルの言い方に、仲間たちは苦笑した。

 要するに今回は、今の自分たちが対処できる敵しか来なかったから勝てたということ。

 そうでない化け物のような戦力など、教会という組織にはゴロゴロいるのだ。だが、今回は来なかった。

 理由は、インボウズも将軍たちもユリエルをなめきっていたから。

 所詮小娘一人、すぐ倒せると思い込んでいた。

「……本当に、私一人だったら、これだけ時間があってもどうにもならなかった。

 最初にオリヒメちゃんが私の手を取ってくれたから、ここまで来れたんだよ。だからここまでは、オリヒメちゃんに一番助けられた!」

 ユリエルは、改めてオリヒメに心から感謝した。

 ワークロコダイルの一部はちょっと不満そうな顔をしたが、シャーマンも言う。

「そうだね、あんたが一番、敵をかき乱してたよ。

 敵はあんたの糸に執着して、命懸けの場でとんちんかんな動きをしていた。あれがなきゃ、あたしらももっと苦戦したろう。

 それも、立派なあんたの価値だ。誇っていいよ!」

 シャーマンは、そのおかげでワークロコダイルの戦士たちが有利に戦えたのだということをきちんと見ていた。

 尊敬する長に言われて、ワークロコダイルたちもオリヒメに頭を下げた。

「アリガトヨ!メロメロニナッタ敵ハ、殴リヤスカッタゾ」

「オマエノ糸ノオカゲデ、攻撃ガ避ケラレナカッタ。

 俺、モット強クナレタ!」

 この戦いは、ワークロコダイルたちにとっても満足できる結果だった。

 新たに得た住処を守り抜き、大量の餌を手に入れた。そのうえメスや子供たちにまで、有利な状況で経験値を与えてもらった。

 それにユリエルは、戦いがワークロコダイルの住処に及ぶ前にきっちり敵を追い返した。5階層の湿地は、未だ敵の侵入を許していない。

 これはワークロコダイルたちにとって、何よりの安心だ。

「ユリエル、あたしゃあんたの軍門に下って本当に良かったよ!

 これだけの敵に攻められながら、あんたは知恵を尽くして防ぎ切った。地形、魔物、相手の都合まで使って、見事に追い返した。

 あんたのおかげで、あたしらは安心して暮らしていける!」

 シャーマンがそう言って頭を下げると、ユリエルは慌てて言い返した。

「いえいえ、私の方こそ!

 ワークロコダイルの皆さんには、今回もすごく助けられました!

 虫達はいろいろ種類がいますけど、どうしても今の段階では耐久力に欠けるし……ワークロコダイルの皆さんがいなかったら、守り切れなかったかもしれません。

 こんなに力を尽くしてくれるんだから、守り抜くのは当然です!」

 これは、ユリエルの率直な気持ちだった。

 今回もレジスダンの時も、ワークロコダイルたちの働きは目を見張るものだ。彼らの力は、今のダンジョン防衛に不可欠であった。

「それに、私の純潔だって、あなたの方で証を立てていただいて。

 それだけでも、心の支えになりました!」

「いやいや、これはあたしらの都合だ。

 万が一、あんたが嘘をついてやりたい放題するような奴だったら、味方したら一族が危ないからね……そうでないことを確かめただけさ」

 シャーマンは、あくまで一族の利を第一に考えている。

 だが、ユリエルと手を組むことはワークロコダイルにも大きな利があった。それにユリエルは、どこまでも正直で誠実だ。

 シャーマンはこの戦いを通じて、ユリエルへの信頼を新たにした。

「そんなにかしこまらなくてもいいよ。

 あたしらは、あたしらの意志であんたに手を貸すと決めたんだ。

 あんたもあたしらも、お互いだけじゃ守りたいものを守れなかった。だから、手を取り合うのは当たり前だ。

 何なら、もっといろいろ頼んでくれていいんだよ」

 シャーマンは、面倒見のいいおばさんのようにユリエルをふわりと抱きしめた。

 途端に、ユリエルの目からぶわっと涙が浮かんだ。

「ううっ……ありがとうございます!

 わ、私……女の方や子供たちにまで手伝わせて、でもダンジョンの配下にしてないから死んじゃったらどうしようって!

 でも、強くなってもらいたいし、できるだけ人手が欲しくて……!」

「構わないよ、みんな、あの子たちが自分で決めたことさ。

 それにあたしらはずっと、野生の中で強くなきゃ死んで当たり前って心得で生きてきた。それこそ、使役する奴以外に助けてもらえるだけで十分さ」

「そ、そんな風に……言っていただけて……!」

 ユリエルは、シャーマンの胸に顔を埋めて泣いた。

 正直、ワークロコダイルの手を借りるのは心強いと同時に、不安で後ろめたくもあった。

 自分は確かにワークロコダイルを毒から救ったけれど、それだけでいつ終わるとも知れない自分の意地の戦いに巻き込んでいいのかと。

 もしそれでワークロコダイルがひどい目に遭って責められたら、自分は自分を支えていけるだろうかと。

 緊張が解けて涙が止まらないユリエルを、オリヒメも優しく撫でた。

「優しいね、ユリエルは。

 でもそれだけじゃなくて、生き残るためにやるべきことはしっかりやる。

 だからみんな、納得してユリエルと手を取り合おうって思うんだよ。だからユリエルは、しっかり前を向いて胸を張って!」

 だがユリエルは、ふるふると首を横に振った。

「ううん、私……優しくなんかないよ!

 だって私、こんなにたくさんの人を……オリヒメちゃんたちよりずっと前から仲良かった人たちを……わあああ!!」

 戦いが終わると、じわじわと実感がこみ上げてきた。

 ユリエルと共に勝利を祝ってくれる仲間は、たくさんいる。

 だが逆に、これまで街で仲良く暮らしていた衛兵やたくさんの冒険者たちを、ユリエルはたくさん殺めてしまった。

 どれほど勝利が嬉しくても、これだけは覆しようのない事実だ。


 この一日の戦いだけで、一体どれだけの人が命を落としたのだろう。

 殺した人数もそれで得られたDPも、ユリエルにはダンジョンマスターとして手に取るように分かる。

 その無機質な数字がまた、ユリエルに恐怖を抱かせた。

 自分は、もう人を人として弔うことすらできないのではないか。人として見る心を失ってしまったのではないかと。

 一方で、そんなもの失ってしまった方がいいと思う自分もいる。

 だっていちいち気にして潰れてしまったら、自分が何も報われない。世の真実と道理を通す決意が、台無しになってしまう。

 だが、そのために心まで人をやめるかと言われると……。

 ユリエルは、屠った人を思いたい心と自分を守りたい心の板挟みになっていた。

 そんな中、かつて共に戦った騎士隊長の言葉が胸に刺さって抜けない。

(おまえ一人死ねばこれ以上おまえに殺されて死ぬ者はいなくなる。……今ここに転がっている死体は何より真だ)

 どう言い訳しようと、逃れられるはずもない。

 この戦いで死んだ三桁に上る人々は皆、ユリエルが自分の意志で命を奪った。

 その仲間が、家族が、知人が、ユリエルを恨まないはずがない。そうなって当然のことを、ユリエルはした。

 そういう人たちが怒りと悲しみに我を忘れて攻めて来た時、ユリエルはそれでも意地を通して迎え撃てるだろうか。

 だが、それができなくなれば、ユリエルの全ては闇に葬られることになる。

 進むも地獄退くも地獄だ。

 それでも、ユリエルは進むと決めた。

 しかしその道を進むほど、ユリエルに大切な人を奪われて涙する人は増え続ける。そして復讐の連鎖が、どこまで広がるか分からない。

 進むと決めた時から、分かっているつもりだった。

 しかし今こうして死体に囲まれ、人の死の証を手にすると足下が抜けたようにその闇に引きずり込まれそうになる。

 死にたくなかった、許さない……そんな幻聴がユリエルを苛む。

 この人に対して犯した罪は、どんなに魔物の仲間がいてもぬぐえなくて……。


 だが、そこに凛とした声がかかった。

「大丈夫だ、許されねえのは主じゃねえ。

 主を陥れて、そのうえ人間どもを嘘で動かして戦わせたクソ坊主が、誰より悪い。こいつが悪い事しなけりゃ、誰も死ななかった。

 そうだろ?」

 赤い服を騎士たちの血でさらに真っ赤に染め上げた、レジンだ。

 レジンは、ユリエルをしかと見据えて強い意志を込めて言った。

「生きてくための正当防衛まで罪になるなんて、んな馬鹿な話があるか!

 教会の教えに従うなら、それこそユリエルは慈悲を与えられて許されるべきだ!陥れた奴らこそ、関わった全てから恨まれて地獄に落ちるべきだ!

 それでもどうしようもなくなった奴を断罪する奴は、この俺が許さねえ!!」

 ユリエルの行為を、あくまで正当防衛だと認めて後押ししてくれる。そして罪の全てをインボウズたちに押し付けて、安心させてくれる。

 ユリエルにとって、誰より救われることをはっきりと言ってくれる。

 ……だがその正体を思うと、ユリエルは複雑な気分になった。

(記憶を奪っていいように使ってるのに、すがっていいのかしら?

 それに、これってダンジョンマスターを守るためだけに言ってるんじゃ……)


 このダンジョンボス、レジンは、レジスダンの魂をレッドキャップの上位種と合成して生み出した魔物だ。

 本当は体も合成できると良かったのだが、体は教会への囮として渡さなければならなかったため、魂だけ使うことになった。

 それを、ワークロコダイルが総力を挙げて捕まえてきたクリムゾンキャップに宿らせた。

 そのため、体はほぼ人間要素がなくなり、レベルも肉体に合わせて少し下がった。

 だが、今はこのレジンがダンジョンの最高戦力にしてボスである。

 ダンジョンの機能を使って作った魔物なのでもちろん配下であり、ダンジョンマスターに絶対の忠誠を誓っている。

 また、ずっと暮らしていくうえで元のままではやっていける自信がなかったので、人としての記憶は封印した。

 元が元だけに、これくらいやらないとユリエルが安心できなかったのだ。

 それでも人であった頃の人格と思考は保たれており、はっきり思い出せなくても強い想いや感情は残っている。

 免罪符を見て狂化するのは、その証だ。

 そんなレジンは、自分が生前どうにもならぬ理不尽に抗って凶悪犯になってしまったため、ユリエルに全面的に同情し擁護してくれている。

 だが、それがユリエルには逆に不気味に思えた。

(こいつ、私を許さないって殺す気で襲い掛かってきたんだけど……最期に和解できたと思っていいのかコレ?

 ああ、でも教会への復讐はこいつの悲願だったし。

 それができれば、何でもいいとか?

 あそこまでやった私を、それで許せちゃうのかなぁ……)

 ユリエルは控えめに言っても、レジスダンにひどい事をした自覚がある。

 レジスダンを倒してその道を折ったのはユリエルだし、死体もユリエルの策のために憎き教会に引き渡してしまった。しかもワークロコダイルの噛み跡をごまかすため、四肢を乱雑にちぎってダルマにして、である。

 だがそれをユリエルが仕方なかったと報告し、どうやらうまくいったようだと伝えると、レジスダンの魂は教会ざまぁと笑った。

 だからこれで、レジスダンの希望には沿えているのだろう。

 それでレジンが心の奥底でユリエルに感謝し、人の心で寄り添ってくれるなら、やぶさかではない。

 こうして、レジンはユリエルの心身両面の守りとなった。


 そのレジンの後ろから、もう二人、特別な魔物が歩いてくる。

「ご主人様、生き残ってた奴らのトドメ、終わりました!」

「一日でこんなにレベルが上がるなんて、夢みたーい」

 嬉しそうに報告する少年と、甘い顔で少年にくっついている少女。上半身は赤と青の水玉模様のピエロ、下半身は毛虫という奇妙な魔物だ。

 この二人もまた、人間を合成して作ったものだ。結婚したい駆け出し冒険者、ケチンボーノとミーハを使って。


 名前:ケッチ

 種族:マイマイリトルクラウン 職業:軽業剣士

 レベル:16 体力:250 魔力:65


 名前:ミー

 種族:マイマイリトルクラウン 職業:軽業魔法士

 レベル:17 体力:160 魔力:180


 この二人は、人間であった二人の魂と肉体を、マイマイガの幼虫が魔物化したブランコファーと合成したものだ。

 結果、半虫半人で襟巻のようなファーから痒くなる毒針を出し、尻から糸を出してサーカスの空中ブランコのような軽業で戦う魔物となった。

 記憶と人格の具合は、レジンと同じようなものだ。

 そもそもこの二人は教会や周囲の人に言われるままユリエルを敵として殺しに来たため、記憶は封じないと味方にならない。

 魔物化したのだって、無垢で真面目な二人をどうにか救いたいというユリエルの勝手だ。

 それでも、二人はユリエルを慕い、守ろうとしてくれる。

「真面目に頑張って人の役に立ってきたご主人様をいじめて殺そうとするとか、世の中おかしいだろ!

 頑張っていいことを続けてきたら、報われるべきだ!

 それをブチ壊す悪い奴らは、僕が倒してやる!!」

「そうよ、乙女の純情は踏みにじっちゃいけないんだから!

 正々堂々頑張る女の子の敵は、許さないもん!!」

 立場が反転し、教会に従うのが正しいという考えを外した途端、二人はユリエルの置かれた状況に同情し世の過ちに憤慨した。

 元から純粋で素直で、真面目でしっかりした子たちだったので、ある意味必然だろう。

 地に足を着けて幸せになろうとするユリエルを同志として応援し、立ち塞がる悪を倒すのだと正義感を燃やしている。

 ……もし自分が濡れ衣を着せられなかったら人間のままこうなれたと思うと、ユリエルは悔しくてたまらなかった。

 同時に、こんないい子たちをこうしなければ救えなかった元凶は誰かと考えると、殊更にインボウズが憎かった。


「大丈夫だよ、本当のことを知ってる人は、ユリエルが悪くないって分かってくれる」

 オリヒメが、希望をもって言う。

 レジンも、力強くうなずいた。

「ああ、許されるためにも、偽りを打ち破ることだけを考えろ。

 ……さっき戦った騎士隊長、命懸けだってのに辛そうな悲しそうな顔してたぜ。ありゃ自分たちが悪いって、分かってたんじゃねえかな。

 そうやって自分の行動も仲間も信じ切れねえんじゃ、勝てるモンも勝てねえ。

 けど、おまえは……ここは違うだろ?」

 それは、暴走して自分も仲間も信じられなくなって滅んだ、レジスダンのおぼろげな記憶が言わせたものか。

 シャーマンも、遠い目をして告げた。

「必ず手を取り合える方が勝つって訳じゃあない。……でも偽りでつながって動いてる奴らは、一つ動くたびに軋んで、いつか必ず瓦解する。

 あたしたちは、命を落とさないようにつなぎ合って、敵がそうなるまで耐えるだけだ」

「……まあ、私以外の命はDPで復活できるけどね~」

 ユリエルの冷静なツッコミに、皆脱力したように笑った。

 だが、それでも心ある者の命を使い捨てにしないのがユリエルの情け深さだと、ここにいる皆が分かっていた。

「はいはい、細かい話はもういいよ!」

 重い話を断ち切るように、オリヒメがパンパンと手を叩く。

「あたしたちは、みんなで手を取り合って勝った。今は思いっきり、絆の勝利を祝おうよ。それでいいじゃない!」

「ウオオオォーッ!!宴ダーッ!!」

 待ちきれないように、ワークロコダイルたちがやんややんやと騒ぐ。

 ユリエルも、つられてはにかんだ。

「分かったよ、もう~!

 お肉はいっぱいあるからね、好きなだけ食べていいよ。今日はみんな、心行くまで楽しんでよ!」

 いろいろ複雑なことはあれど、ユリエルは生きている。

 真実の証を、守り抜いた。

 今はこれで、十分ということにしておこう。他のことを考える時間など、頑張ってそれを得てからでいい。

 ユリエルは、かすかに痛みを伴う満足を噛みしめた。


 ……が、この仲間たちに対して全く不満がない訳ではない。

 重い話を切り上げると、ユリエルはぼそっと漏らした。

「せっかく人間の心を持った仲間を……男を二人加えたのにさあ、どうしてここまで勝ってもどっちも私にときめかない訳?

 いや、ケッチは分かってるけどね!」

 ユリエルの視線の先では、人だった仲間三人が仲良くしている。

 ケッチは、人間の頃からラブラブだったミーに夢中だ。この二人は結婚して幸せになりたい一心で魔物化を受け入れたため、仕方ない。

 しかし、レジンまでミーにぞっこんになっている。

 レジンはどうやら、ミーを生前亡くした妹と重ねて世話を焼いているようだった。元より、妹が死んだら世界の全てを許せなくなるようなシスコンである。

 ユリエルが可愛らしく頼ろうとしても、

「は?主はどう見ても姉御だろ」

と見透かしたように一蹴された。

「あ~あ……いっぱい血で汚れちゃったし、お着換えしようかな~」

 悔しくなったユリエルがその場で血まみれの聖衣を脱ぎだしても、二人とも見向きもしない。それがますます、屈辱を煽る。

 ユリエルが柔肌を晒しても、刺さるのはワークロコダイルの食欲だけだ。

「アノ胸肉ハ、子供ノオヤツダナァ」

「モモ肉ハアルケド、尻肉ガ足リネエヨ」

「モウ少シ太ッタ方ガ(食用的な意味で)美味ソウダナ」

 新しい仲間はできたけれど、相変わらずユリエルの春はやってこない。

 断腸の思いで、学園都市のたくさんの男たちを敵に回しても仕方ないと決断して生き抜いたのに……非モテの宿命は非情だ。

 オリヒメが、困ったように言う。

「うーん、でも恋人ができて純潔じゃなくなっても困るしね。

 今はこのままにしとけってことじゃない?」

「チクショー!!絶対に冤罪晴らして純潔を失える日を迎えてやるからな!!」

 ユリエルの魂の叫びが、平和になったダンジョンに響き渡った。

 マイマイガは最初にユリエルを助けて思い入れのある虫なので、特別な用途に使われました。

ブランコファー:マイマイガの幼虫が魔物化したデカい派手な毛虫。マイマイガの一齢幼虫は実際に糸を出してぶら下がって移動するため、ブランコ毛虫と呼ばれる。

マイマイリトルクラウン:上半身が人間で下半身がマイマイガの幼虫な、冷静に考えると悪夢みたいな魔物。マイマイガの幼虫本来の水玉模様の服を着たピエロの恰好をしており、毒針毛が変化した毒針と、尻から糸を出す。糸は頑丈でそれを使ったアクロバットな戦い方をし、悪路でも毛虫の下半身の腹脚で地面をがっちり掴んで移動するため峡谷と相性がいい。まだ幼虫なので子作りはできない。


 レジンは独身だったけど、ユリエルの彼氏にはなれなかったよ。

 彼は新しい妹もどきに夢中なのさ!このシスコン野郎!!

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― 新着の感想 ―
ユリエル氏ェ…。 ケッチはともかく、レジン相手に欲情されたいのか…? 本当にそうか? 妖精少年になって見目が良くなったのかもだが、相手は自分勝手なモラハラ狂戦士おじさんですよ…? これが罪の意識か…
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