31.かけがえのない名前
アラクネちゃん回。
この期に及んでまだ取り戻そうとされるアラクネですが、本人はどう思っていたのでしょうか。
ユリエルへの断罪と正面衝突の中で、アラクネと人間たちの思いが交錯する。第三者から冷静に見れば、アラクネの態度は……。
そして、ダンジョンものといえば定番のイベントだ!
強い絆で結ばれた配下には、特別の印をあげないと!
「ウオオオォ!!魔女を倒せ!」
「神官たち、兵に強化を!」
尋問の間に、教会軍の新手と回復・補助役の神官たちが追い付いてきた。本来入るはずではなかったが、苦戦の報を受けて将軍が急行させたのだ。
神官たちが通路に密集した衛兵と冒険者たちを強化し、再び突撃が始まる。
だが、ユリエルもワークロコダイルたちを癒し強化する。
「ありがとう……私のために!
死なないように頑張るからね。エリアヒール!フィジカルブースト!」
たちまち、ワークロコダイルと人間の前衛がぶつかり合う。
お互いに強化されているうえ、今度はワークロコダイルがユリエルの周りに集まっているため、人間側が数で押しており戦線は固まってしまった。
「怯むな、何としてもアラクネを……!」
血眼になって叫ぶ指揮官を、そのアラクネがぎょろりとにらんだ。
「んん?あたしに用かい」
アラクネが、ユリエルの側を離れて前線に向かって歩を進めた。
それをどう好意的に解釈したのか、指揮官は精一杯の笑顔で言った。
「おお、アラクネよ!大変だったな、こんな魔女にたぶらかされて戦わされて。我らなら、おまえをこんな目に遭わせやしないものを!」
心にもない、気遣うようなセリフ。
だがアラクネは、冷たい目で見下ろすだけだ。
「ふーん……これまでろくに守りもしなかった奴が、どの口で言うんだろうねえ」
「うぐっ……い、いや、これには訳があってだな!
と、とにかく!おまえは我らにとっても大切なのだ、戻ってきたらこれからは守って安全を約束してやる!
だから、いい子だから……な、戦うんじゃない!」
指揮官は、子供をあやし言いくるめるように言った。
それに、アラクネは困ったような顔になる。
指揮官は、手ごたえを感じた。
(フン、所詮学も誇りもない、死ぬのが怖いだけの虫風情か。流されるしか能がないから、こうなった。
ならば簡単な話よ、ただ生かすことを約束してやればいい。
もっとも、こんな事を起こした以上、生かしたうえでどうなるかは知らんがな……俺もおこぼれもらえねーかな)
助けるような口ぶりで、向けるのは嘗め回すような下品な視線。
それでも、騙せると思っているのだ。百年以上も教会に飼われてきた、オツムも気も弱い、体と糸だけの魔物など。
完全に、アラクネをなめ腐っている。
そんな指揮官に、アラクネはおずおずと言った。
「ねえ……糸をあげたら、守ってくれるかい?」
糸という一言に、指揮官はぱぁっ笑みを弾けさせた。
「おうとも!我らが望むのはそれだ!ちゃんと分かってるじゃないか!」
アラクネを取り戻さねばと発狂しそうになっていた指揮官は、思わぬ希望を見せられて目がくらんだ。
そうだ、アラクネ自体を取り戻せなくても、糸さえ最低限の量採って納品すれば自分たちの首は繋がる。
これは盲点だった。が、素晴らしい道だ。
指揮官は衛兵たちを肉壁に、アラクネに近づこうとする。
アラクネがふわっと放り投げた糸が、指揮官の手に触れた。
「これで、あんたたちが退いてくれるなら……やっぱり、ユリエルのことは守りたいんだ。お互いこれ以上血を流さなきゃ、それが一番なんだけど」
「そうかそうか、ダンジョンの支配には逆らえんものな。
だがよく思いついてくれた!えらいぞ!」
敵と味方に分かれながらも細い糸でつながって、指揮官は運命の糸にでもつながったような気分だった。
そうとも、やはりアラクネを一番わかってやれるのは教会なのだ。
アラクネもきちんとそれを分かっていて、魚心あれば水心で応えてくれる。あんな場当たりの破門者などに、こいつと通じ合える訳が……。
そう一人で悦に入る指揮官の手が、ぐいっと強く引っ張られた。
「うん、だから……あたしたちのためになってよ!」
気が付けば、指揮官の手は糸束でぐるぐる巻きにされていた。それが、釣りでもするように指揮官を引っ張り上げる。
「のおおお!?」
指揮官は、間抜けな声を上げて宙を舞った。
そして、アラクネの持つパルチザンに突き刺さった。
何が起こったか分からない指揮官を、アラクネはぞんざいに何度も地面に叩きつけ……最後にユリエルの目の前に振り落とした。
「はい経験値、入用だろ」
「ありがとう、すごく助かる!」
ユリエルは瀕死で足下に転がる指揮官に、裂けるような笑みを向けた。そして、血濡れの慈悲の刃を突きつける。
「冤罪で人を殺させるんだから、殺される覚悟はいいわね?」
「あっ……がっ……!」
ユリエルは、一思いにそれを指揮官の首に突き立てた。ブシューッと噴き出した血が、ユリエルの聖衣を真っ赤に染める。
「ひいいっ!し、指揮官殿ぉ!!」
再び現場の指揮官を失い、恐怖におののく衛兵たち。
アラクネは、呆れたように呟いた。
「あんたたち、何驚いてんだい?こんなダンジョンの奥で敵に糸をくっつけられて、避けもしないのが悪いんじゃないかい。
あたしを何だと思ってるの?
どんなに騙しても、何をしても許してくれる?
……そんなのはもうごめんだよ!!」
その言葉に、衛兵たちや審問官はようやく認識を改めた。
今ここにいるのは、大人しく糸を採られるだけのかつてのアラクネではない。己の誇りと絆のために容赦なく力を振るう、ダンジョンの魔物だ。
もう、これまでのような威圧や懐柔は通用しない。
それでも上は考えずにアラクネを生かして捕らえろとか言うものだから、現場の人間はたまったものではなかった。
アラクネは、艶やかな笑みを浮かべる。
「うふふ、糸が欲しいんだろ?
たっぷりやるから、覚悟しな!」
アラクネが、両手をぎゅっと握って何かを引き上げる動作をした。
途端に、地面に張られていた糸が衛兵や冒険者に絡みつく。それほど頑丈な網ではないが、戦場では一瞬の隙が命取りだ。
動きが鈍ったところに、ワークロコダイルの爪と牙が叩きこまれる。
「ぐわああぁ!!?」
アラクネをなめ切っていた人間たちは、その命で代償を支払うことになった。
だが、その糸の網が一気に焼き払われた。
元コアルームに広く炎がぶちまけられ、巻かれていた衛兵や冒険者たちを火傷と引き換えに解放していく。
「あっづううぅ!?何しやがる!!」
「助けたのに文句言わない!」
ぶっきらぼうに言い放つのは、大人っぽい紫色のローブの魔法使いだ。その周りを、他の冒険者よりいい装備で固めた仲間が囲んでいる。
冒険者たちの目に、希望の光が灯った。
「や、やった……Bランクパーティーだ!」
苦戦の報を受けたギルドマスターが慌てふためき、ギルドによる強制動員をかけたそこそこ強いパーティーである。
「……ったく、クソダンジョンが乗っ取られたって聞いたのに、何だよこれは?
三階層のクソダンジョンって戦力じゃねえぞ!」
愚痴を吐きながらも、前衛がワークロコダイルにぶつかっていき、崩されかけていた冒険者たちを数人救出した。
その陰で、身軽な一人がユリエルを狙うも……。
「させないよ!」
またアラクネの邪魔が入る。
それでも腕利きの冒険者だけあって、低くかがんでアラクネのパルチザンを回避したが……その足をいきなり掴まれた。
「やっ……何コイツ!?」
見れば、地面から土を固めたようなふたが開き、一抱え程もあるクモが穴から身を乗り出してしがみついてきていた。
慌てて振り払うも、その隙にアラクネの糸に捕らわれそうになる。それを味方の炎が焼き切って引いた身に、ユリエルの放った矢がかすった。
腕利きの冒険者たちは、ゴクリと唾を飲んだ。
「これは……地面の下にも天井にもクモの魔物がいて、アラクネと連携してるのか!?」
アラクネは、とても嬉しそうな顔でうなずいた。
「ああ、そうだよ。
ユリエルが、たくさん連れて来てくれたんだ。外から、あたしの友達になれるいろんなクモをさ。
だから、あたしはもう、人間がいなくても寂しくない。
むしろこの子たちのために、たくさん人間を獲らなきゃねえ!」
アラクネの声音には、心からの幸せと感謝が詰まっている。
腕利きの冒険者たちは、ぞわりと悪寒を覚えた。
「なるほど……それでこんなに、今までいなかった虫が……」
「アラクネは、ずっとみじめで寂しかったのね……そりゃそうか。で、それに寄り添って唯一埋めてくれたのが、魔女だったと」
大人っぽい魔法使いが、渋い顔で他の冒険者たちを振り返る。
「そりゃ、誰だっていやになるわよ……こんなのの相手させられたら」
ユリエルたちに太刀打ちできそうな味方が現れたことで、他の冒険者たちは調子に乗っている。
中には、アラクネにこんな暴言を吐く者までいる。
「おい、コラ、立場分かったか乳グモ!
てめーは、わざわざ生かされてたんだよ!かわいいだけの人でなしが、言うこと聞かなきゃ何の価値もねえ!」
「大人しく糸吐いて揉まれてりゃ、安楽に生きていけたのによ。
残念だなぁ~!後でたっぷり分からせてやんよぉ!」
ゲースたちと大して変わらない、下種な男の冒険者たち。アラクネがこれまでどんな目に遭ってきたか、嫌でも分かる。
そうかと思えば、衛兵が冒険者を殴りつけた。
「黙れ!あからさまな事を言うな!」
「そういうこと言うから、あいつが戻ってこねーんじゃねーか!子供に言うこと聞かせるにゃ、どうすりゃいいか分かんねえか!?」
衛兵たちだって、アラクネを本気で気遣っている訳ではない。アラクネを上辺でごまかして言いくるめるのに、欲を隠さない冒険者が邪魔なだけ。
一皮むけば、こいつらの本性は似たようなものだ。
「やれやれ……こんな扱いをしなきゃ、こうはならなかったものを」
腕利きの冒険者パーティーは、アラクネを気の毒そうに見つめた。
彼らには分かる。アラクネは、被害者だ。人が好き放題に虐げて守らなかったせいで、あんな魔女が救世主になってしまった。
誰が悪いかと言われれば、間違いなく教会と冒険者だ。
「……が、なっちまったモンは仕方ねえ。
これ以上被害を出さねえために、殺すしかない。
それでいいな、審問官殿?」
腕利きの冒険者が問うと、審問官のヒステリックな声が返ってきた。
「それでいい!私が、許可する!殺してしまえ!!
そんな事より魔女を……魔女に与する者を、一人も生かすな!!あいつさえ……殺せば、終わる!そのためには、何を殺しても構わん!!」
審問官の声は、悲鳴のようだった。
腕利きの冒険者たちはちょっと首をかしげたが、アラクネを殺す許可をもらえたのは素直にありがたい。
許可されないまま殺して、後で教会に責められるのはごめんだ。
そういう意味では、傲慢な中間指揮官が死んで、理知的な審問官に指揮権が移っていて良かった。
もっとも審問官も、ひどく怯えて錯乱しかけているが……冒険者が無駄に死ななくていい判断をしてくれるなら文句はない。
「アラクネ、あんたには同情がない訳じゃない」
「でも、ここで終わってもらうよ!たくさんの可愛い仲間に、これ以上死なれちゃ寝覚めが悪いからねえ!」
大人っぽい魔法使いが、杖を構えた。その先端に、ごうごうと燃える炎がどんどん集まっていく。
それを、アラクネは冷めきった目で見つめて呟いた。
「ほらね……同情したって、結局大事なのは悪い仲間さ。
結局ユリエル以外に、あたしを助けてくれる人なんていない」
それなりに良心を持った腕利きの冒険者たちだが、結局その行動はアラクネの冷たい世界を肯定しただけだった。
「フレアトルネード!!」
冷たく気まずい世界を強引に蒸発させようとするがごとく、魔法使いの強烈な炎魔法がアラクネを襲う。
だがアラクネは、避けずに受け止めた。
「ぐ……ふううぅ!!」
避けたら、後ろにいるユリエルに当たってしまう。魔法に自分より強いとはいえ、体が脆く体力がないユリエルのことだ。当たったら、それで勝負がついてしまうかもしれない。
アラクネの柔肌を強烈な風が切り裂き、そこを炎が焼いていく。炎玉のビキニアーマーで少し耐性がついていても、これはこたえる。
だが、その傷はできるそばから癒されていく。
ユリエルがアラクネの大きな腹を盾にしながら、必死で癒しているのだ。
「ごめん……ごめんねアラクネちゃん!
私なんかに、こんな……逃がすって、約束したのに……!」
ユリエルは、アラクネを盾にしていることを悔いて、涙を流していた。自分が手を伸ばさなければ、こんな目に遭わせずに済んだのにと。
さっきの理不尽な断罪で、少なからず心が揺れているのか。
だがアラクネは、振り向かずに守り続けた。
「逃げるなんて、冗談じゃない!
あたしだって……ユリエルの側以外に、幸せな場所なんかないんだ!だから、一緒にいさせておくれよ!!」
長く続いた炎の嵐が、止んだ。
「ハァ……ハァ……これで死なないとか……。
え?ゲースの持ってたビキニアーマー?……死んで盗まれてまで魔物守ってんじゃないわよおおぉ!!」
魔法使いが、息切れを起こしている。どうやら、魔力が残り少ないようだ。
しかし、魔法使いに襲い掛かるワークロコダイルは全て仲間に防がれている。さらに教会の神官が、魔力回復薬を持って走り出した。
このままでは、遠からず第二波がくるだろう。
ユリエルが、アラクネに触れる手に力を込めた。
「アラクネちゃん……どうしても逃げないなら、力をあげていいかな?
ただ、これをやるともっと逃げられなくなるんだけど……」
アラクネは、あっけらかんと答えた。
「むしろ、望むところさ。
あたしはあんたを信じて、マスターの力を失った。それは良かった。けど今は、あんたを守る力が欲しい!
あたしを、もっと強く結んでおくれよ!」
「アラクネちゃん……!」
ユリエルは、そこで一旦言葉を止めた。
「こんなに信じ合って、種族でしか呼べないのは失礼だね。私だけの特別な呼び方、あげていいかな?」
思えばアラクネはずっと、種族の名でしか呼ばれてこなかった。元々名前なんてないし、冒険者たちも一時の戯れ相手にそんなもの求めなかった。
しかし、ユリエルは、特別な証がほしいと思った。
このアラクネは、自分にとって世界でたった一人のアラクネ。それを区別して証明する、印を与えたい。
「アラクネちゃんに、名前をあげるよ」
途端に、腕利きの冒険者たちの顔色が変わった。
「おい、まさか……ネームドにする気か!?」
「え、冗談でしょ?だってネームドなんて、5階層以上のダンジョンでないと出ない……」
戸惑うのも無理はない。魔物に名前と力を与えて強化するのは、5階層以上のダンジョンでないとできないから。
経験豊富な冒険者は、それを知っている。
ゆえに、3階層しかないはずのここでできるのかと、戸惑っている。
だが、ここで鑑定官が声を上げた。
「止めろ!奴らはやれる!!
詳しくは言えないが、その……とにかく止めるんだ!!」
「何だと、じゃあここは……!?」
鑑定官は審問官と将軍の手前はっきり言わなかったが、腕利きの冒険者たちは気づいた。このダンジョンは、聞いていたとおりではないと。
その間にも、ユリエルは言霊を紡ぎ始めている。
「アラクネちゃんのおかげで、私の命はつながった。アラクネちゃんと一緒に、たくさんの仲間と繋がれた。
これからも一緒に、運命を紡いでよ!
そして、私の勝利の錦を織って!」
「やめっ……ぐぅっ!?」
慌てて阻もうとした腕利きの冒険者たちに、霧のようなものが重くまとわりつく。ワークロコダイルのシャーマンが、妖精を使って縛っているのだ。
そのごく短い隙に、ユリエルは思いを込めて叫んだ。
「縦糸は私、横糸はあなた、決して離れず未来への道を織れ!
命名、オリヒメ!!」
その瞬間、アラクネの体が温かい光に包まれた。
大きかった腹部が縮んでいき、八本ある脚の一番前の二本が変形していく。上半身と自然につながるように、まるで人間の脚のように。
光が消えると、そこには一抱え程のクモの腹部を尻からぶら下げた、人間のような美女が佇んでいた。
それを見た腕利きの冒険者の顔が引きつる。
「あの姿……まさか、進化したのか!?」
アラクネだったオリヒメは今、明らかにさっきとは違う空気をまとっている。ユリエルと鑑定官には、その結果がはっきり見えた。
名前:オリヒメ
種族:蜘蛛女郎 職業:ガーディアン(虫けらのダンジョン)
レベル:28 体力:630 魔力:150
さすがに、ダンジョンマスターだった頃には及ばない。
しかしユリエルから特別な力を与えられ、守ると誓って自ら役職を得たオリヒメは、並の蜘蛛女郎よりずっと強くなっていた。
さらに、色香と美貌にも磨きがかかっている。
アラクネだった頃はまあ美人だけど華が足りない感じだったが、今は吸い寄せられるような色香を放っている。
長い黒髪はさらに艶やかに、唇は紅く鮮やかに、そして表情にも所作にもぐっとくる科が入った。
男の衛兵や冒険者たちは、思わず目を奪われてしまった。
そんな中、ユリエルはふと気になって呟いた。
「下半身が、人間みたいに……これなら、ビキニアーマー普通にはける?」
「どうだろ……でも、クモに戻すことはできそうだから……。
てゆーか、人間ってどうなって……?」
つい気になって、オリヒメは股間が割れたビキニアーマーをめくり上げる。
そこに、全男の視線が集中した。
「えっ……?」
下半身が人間になったということは、当然その下には人間が下心で見たくてたまらない部分がある訳で。
「ダメ、隠して!!」
「あひいいぃ!!?」
ユリエルが慌ててビキニアーマーを下げ、オリヒメも真っ赤になってそこに糸を巻き付けたが、もはや手遅れだった。
男どもは揃いも揃って目を皿のようにし、涎を垂らして凝視していた。
それは、蜘蛛女郎になって備わった魅了の力のいたずらかもしれない。だが、うっかりこぼす色香には、計算された魅了にはない価値があるのだ。
そこに、唯一冷静なシャーマンの声が響く。
「今だよ、やっちまいな!!」
その一声にワークロコダイルが我に返り、棒立ちの衛兵や冒険者たちに痛打を食らわせた。
「邪淫は、滅殺だああぁ!!」
ユリエルも、気にされたのが自分じゃなかった恨みを込めて、長弓で毒矢をばらまいた。
だが、オリヒメは真っ赤になってわたわたしている。強くはなったが、とても冷静に戦える状態ではない。
さらにそこに、また敵の新手がかけつけてきた。
「少々強くなったとて、我らの守りは打ち砕けぬ!
聖なる刃に、滅びるがいい!!」
ガシャガシャと重そうな鎧を鳴らす、全身防備の騎士だ。神の加護は感じないが、あれを今のオリヒメが相手どれるかと言われたら……。
ユリエルは、即決で撤退命令を下した。
「みんな、一旦退くわよ!4階層へ!!」
「は……?どういうことだゴラァ!!鑑定官ー!!」
ついにごまかせなくなった鑑定官への怒声が乱れ飛ぶ中、ユリエルたちはこれ幸いと奥の通路を駆け下りる。
ここから先は、これまで誰も見たことがない地獄。
欲と偽りに塗れた人間たちを、新たな罰が待ち受けていた。
クモの狩りは走るか巣を張るかが主ですが、そうでないクモもいます。
今回までちょくちょく人が消える描写がありましたが、こいつのしわざだったよ。
トタテグモ:地面に穴を掘り、蓋つきの巣を作って、通りがかる獲物を引きずり込んで狩りをする。巣の場所はちょっと見ただけでは分からない。
そして、たまにはお色気描写を入れてみた。
ビキニアーマーを壊してはいたのは、これの準備でもあったのさ!