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虫愛でる追放聖女はゲテモノダンジョンの妖精王となりて  作者: 青蓮
第1章 ダンジョンマスターへの道
21/121

21.水面の上と下~罪と許すこと

 三連休なのでもう一話投稿できたらいいなと思いつつ、一日早い投稿です。


 ユリエルが潜んでいる間に進行する、学園とダンジョンの閑話。

 ユリエルは安全になったけれど、代わりにティエンヌたちの標的になった子がいました。ユリエルが受けたいじめが、具体的に語られます。

 胸糞展開注意!いじめっ子にとって素直で純真な子ほどの獲物はいない!


 そしてダンジョン内でも、集団が来るといじめが……正当な理由はあっても、未来のためにはならない不毛な罰。

 ユリエルはそれを前に、何を思うのか。

 学園都市リストリアは、国の中で王都に次ぐ第二の都市である。

 いや、むしろ人口と街の規模ではこちらの方が大きいかもしれない。教会と学園に引かれて、多大な資本が国外からも流れ込んでくるのだ。

 そんな都市だから、もちろん他の都市より群を抜いてきらびやかな、富裕層の居住区がある。

 高位の聖職者や教会とつながりの深い貴族や豪商などが、宗教色が濃いが豪奢な館を構えている。

 もちろんそこには、国でトップクラスの商店や飲食店がある。

 そこはどこを見回しても、美と富と美味にあふれていた。


 その一角にあるレストランに、アノンは連れ込まれていた。

 目の前には、広々としたテーブル狭しと料理が並べられている。どれもこれも、貧しいアノンには見たこともない食べ物ばかりだ。

「さあ食べて、日頃頑張ってくれてるお礼よ!」

 ティエンヌは、言葉も出ないアノンに料理をすすめた。

 アノンは、はっと我に返って思ったところを口にする。

「あ、ありがとうございます……。

 でも、こんなに頼んでしまっていいのでしょうか?お高いでしょうし……食べきれなかったら、命に失礼です」

 アノンから見て、この量は明らかに多い。どう見ても十人分くらいはありそうで、女四人で頼むべきものではない。

(汝、必要以上を貪るなかれ……)

 アノンの頭に、いつも読んでいる聖典の言葉が浮かぶ。

 だが、ミザリーがたしなめるように言った。

「なら、食べてしまえばいいのですわ。

 それに、働いた分だけ恵みを享受するのは人の権利です。食べることは幸せです。これは、ワタクチが満たされるのに必要なのです。

 あなたは、それを否定するのですか?」

 そう問われて、アノンは迷った。確かに、そんな事も聖典には書かれている。

 さらにワーサも、諭すように言った。

「よく見なさい、命はもう私たちに捧げられているのですよ~。それに、これは私たちがあなたに捧げたものです。

 それを拒む方が~?よほど、失礼ではあ~りませんか?」

 こういう言い方をされると、アノンの胸は痛む。

 他人の好意を、自分は無下にしようとしたのか。自分こそが、かけがえのない命を無駄にしようとしていたのか。

「……すみませんでした。命に感謝して、いただきます」

 アノンは己の至らなさに恥じ入り、素直に祈りを捧げて食べ始めた。


 ……が、結果は当然の如くアノンの予想通りだ。

 こんなにたくさん、食べられる訳がない。テーブルには、まだまだ食べ物の残った皿がたくさん並んでいる。

 しかも野菜や肉の脂身や冷めた固いパンなど……食べにくいところばかりが残っている。そんな皿が、アノンの周りに集められているのだ。

「む、無理です……もう、食べられ……うっぷ!」

 一生懸命食べようとしたけれど、アノンの胃袋はもう限界だ。詰め込もうとしても、むしろ食べ物を見るだけで戻しそうになる。

 そんなアノンを横目に、ティエンヌたちは優雅にデザートをつまんでいる。

 いや、ミザリーだけは優雅なんてものではない。元からぶっとい体をさらに玉のようにして、口の周りをクリームと砂糖だらけにしながら菓子を頬張っている。

 むしろこの食欲があれば、もっと料理を食べられそうなものだが……。

 アノンはたまらず、声をかけた。

「あ、あの、ミザリーさん?

 新しいものよりも、残っているものを食べた方がよろしいのでは。こんなに残しては、命に失礼です」

 すると、ミザリーは全く悪びれずに答える。

「ワタクチたちは、もうご飯は満たされました。でも満たされない別腹があるので、こうして満たされるものを食べているのです」

「そ、そんな……無駄にするのは、食べ物への冒涜では……!」

 しかしアノンの反論に、ティエンヌがぴしゃりと言い放つ。

「これは、あなたへのお礼と言ったはずよ!

 私たちはただ付き合っただけ、受け取る義理なんかないわぁ~!」

「え、え……!?でも、私はこんなに頼んでなんて言ってない……」

 動揺するアノンの前で、ミザリーがいきなり泣き出した。

「うえええん!!ひーどーい!!

 ワタクチたちはただ、いっぱいお礼しようと、思っただけなのにぃ~!食べることはぁ~万人のぉ~幸せだからぁ~!

 それを、悪いみたいにいぃ~!ぶえええ~~~ん!!」

 単純な声の大きさも相まって、アノンはびくりとした。

 ミザリーが食べることが好きなのは、日頃から見ていれば分かる。だから自分目線で最大限のもてなしをしたというのなら、悪気はないのかもしれない。

 優しいアノンはつい、そう思わされてしまった。

「……そうでしたか、ごめんなさい。

 でも、私はあなたみたいに食べられません。なのでこれは、本当に申し訳ないのですが、お腹に空きのある方が……」

 つい罪悪感を覚えて謝ってしまうアノンに、ミザリーはさらに追い打ち。

「わあああん!!恵んであげたのに、蹴られたぁ~!!

 アノンちゃんはぁ~貧しいからぁ~いっぱい食べれたら嬉しいと思っでぇ~!食べ物あげるのは、慈善の基本なのにぃ~!」

 その言葉は、さらにアノンの胸に突き刺さる。

 孤児院での経験として、食べ物の恵みは何よりありがたい。自分も幼い頃は、それが届くたびに大喜びで分かち合っていた。

 それを思い出すと、自分のしていることがとても罪深く思えてくる。

 そこで、ティエンヌの断罪がとぶ。

「まあ、善意を踏みにじるなんて、とんだ意地悪ね!人が善意でしたことは罪に問うなかれって、聖典に載ってるでしょ。

 あんたがそんな子だとは思わなかった!」

「へっ!?で、でもこんな量、一人で……」

 そこにワーサが、審問官のように問う。

「あなたは~?教会の教えに誠を尽くす者ですかぁ~?それとも、教えにも他者の善意にも逆らう、背教者ですかぁ~?

 私たちは、教えに誠実だと思う方に、目をかけて参りましたぁ~。

 なのにぃ~これでは、期待外れですねぇ~。あなたも、ユリエルさんと同じようにぃ~?上辺だけの信仰だったんですぅ~?」

「ユリエル……?」

 最近一番心を痛めた名を聞いて、アノンの心はさらに揺れる。

 ティエンヌは、アノンを見定めるような目で見て一言。

「ユリエルでも、もっと食べて誠意見せたわよ」


 そう、これはユリエルがやられたのとまったく同じいじめ。

 お礼のふりをして高級レストランに連れ込み、食べられない程の料理を押し付けて、食べきれないと善意を踏みにじったと断罪する。

 しかも、孤児院や貧民出の子たちが標準装備している食の恵みへのありがたみを逆手に取って、罪悪感を押し付ける。

 まさしく、食の恵みの意味を踏みにじる極悪行為だ。

 これは、特にアノンのような食が細めで信心深い、清貧を体現しているような子に特大ダメージを与える。

 自分が一番尊いと思っている命の糧の恵みを拒まされ、しかもその罪悪感の通りに断罪されるのだから。

 自分でも自分を責めてしまい、抵抗に必要な自信すら削がれてしまう。


 ちなみに、良くも悪くも現実的で大食らいの気があるユリエルには効果は薄かった。

 現場の活動でよく体を動かすうえ痩せの大食いなユリエルは、アノンよりずっと頑張ってかなりの皿をきれいにした。

 残す理由も、罪悪感を振り切って現実を並べ立てていた。

「私は戦うために、太りすぎたり体を壊したりしたらダメなの!

 善意を裏切る?なら裏切り者でけっこう!それで私が前線でより多くの人を助けられたら、その方が尊いわ!」

 こういう態度なので、ティエンヌたちはさらにムカついていた。

 しかしいくら抵抗しても最期には破門されるんだからと内心で嘲笑い、破門された途端に煽りに来たのだ。


 それを思い出しながらアノンを見ていると、ティエンヌは胸がすく思いだった。

(自分を強く信じる生意気を破門するのも楽しいけど、こういう素直な子の方がいちいち面白くて楽しめるわね~。

 いくら従っても何の意味もないのに、健気よね。

 これならユリエルと違って、破門してからも楽しめそう!)

 アノンは、目が飛び出しそうになって必死に口を動かしながら、涙をにじませて嗚咽しながら必死に食べ物を押し込もうとしている。

 ユリエルと違って食べない切実な理由を見つけられないアノンは、信仰心の強さも相まって罪悪感に引きずられてしまう。

「ほら頑張って、誠実さを見せる時よ!」

 ミザリーとワーサに、煽られるままになってしまう。

 しかし、胃袋の容量にはどう頑張っても限界がある。

「うぶっ……も、もうダメ……お許し……オエエェーッ!!」

 アノンはついに、無理をして食べた分を吐き戻してしまった。アノンの純白のローブと高そうな店の絨毯に、見るに堪えない汚物が広がる。

「ああーっ汚い!!」

「てめえ、ウチの店汚すんじゃねえ!!」

 ティエンヌたちが騒ぎ、厨房から店長も鬼の形相でかけつけてくる。

 まだ気持ち悪いのに、囲まれてトイレにも行かせてもらえず必死に第二波をこらえるアノンを、店長が仁王立ちで叱りつける。

「ふざけんな!!せっかくの料理を残すどころか汚物にするたぁ、どういうつもりだ!?俺は、そんなことのために料理を作ったんじゃねえ!!

 謝れ……土下座しろ!!」

 苦しいお腹を無理やり曲げさせられて、店長に頭を踏まれて土下座させられるアノン。顔が汚物に突っ込まれ、その気持ち悪さでまた吐いてしまう。

 すると、店長はますます怒り狂う。

「あーあー、また同じことするとか、誠意が見えねーなー!

 もういい、態度にゃ期待しねー!その代わり、弁償して慰謝料払え」

 提示されたその金額に、アノンは目を丸くした。

「そんなに……するんですか!?私、そんなお金は……!」

「当たり前だ、ここをどこだと思ってやがる?おまえはなあ、本来なら一生来れねえような所でやっちまったんだよ!

 それとも、聖女様なのに正当な償いもできねーのかぁ!?」

 そう言われると、アノンには断る術がない。

 アノンは有り金全て没収され、そのうえ孤児院に仕送りするはずの金すら巻き上げられてしまった。

 呆然とするアノンに、ティエンヌは気の毒そうに服を差し出す。

「あーあ、ま、次から気を付けなさいな。

 あんまり気を抜いてると、ユリエルみたいに神にも許してもらえなくなっちゃうわよ。

 あたしたちもやりすぎたみたいだし、服くらいは恵んであげる。はい、聖女のローブ。今回は、大目に見てあげる」

 アノンはそれを受け取りながらも、どうしても納得できない疑問を口にする。

「……あなた方もデザートを残していた。

 なのに、なぜ許されるのですか?」

 ティエンヌたちは、あっけらかんとしてあるものを取り出した。

「え、そりゃ……免罪符持ってるし!」

 ティエンヌたちの手の中には、一般人ではとても手が出ない価格の重厚な造りの免罪符が握られていた。

 神が罪を赦す証を前に、アノンは押し黙るしかなかった。


 とぼとぼと去るアノンの後姿に、ティエンヌたちは笑いが止まらない。

「キャハハハッ!馬鹿みたい!

 どんなに誠実に尽くしたって、許される訳ないんだから!そもそも、あんたみたいなのがあたしたちを差し置いて聖女なのがまず許されんっつーの!」

 許す許さないはティエンヌたちにとって、結局自分の都合でしかない。他人を操り追い込むための、道具だ。

 そして、自分たちに都合の悪いことは全部他人の罪だ。

 そういう理論で気に食わない身分の低い聖女を虐め、インボウズたちも当然のように罪を作り出して追放する。

 しかも、悪魔のように狡猾に聖典を引用して。

 一般人を巻き込んだフリで、相手の清らかさゆえの罪悪感をとことん煽って。

 実は今日アノンが連れ込まれた店の店長も、ティエンヌたちとグルだ。聖女虐めに加担して金を巻き上げ、料理以外で私腹を肥やしている。

 だが、聖なる世界を信じるアノンは抗えず、金も心も削られるばかりだ。

 追放されたユリエルが、抵抗しても徐々にそうなっていったのを、早回しで見るように。



 一方、ユリエルもダンジョン内でいじめに遭遇していた。

 それは、移住してきたワークロコダイルの集落でのことだ。一人の戦士が、集落のメスたちに石を投げられ、仲間外れにされていた。

「まあ、何てことするの!?

 この人も、子供たちの仇と戦ってくれたのよ!」

 ユリエルが止めに入ると、メスたちはごうごうと非難の声を上げた。

「コイツ、酒ノタメニ、長ヲ死ナセタ!」

「コイツガオマエニ拘ラナケレバ、長ハ死ナナカッタ!」

 石を投げられていたのは、ユリエルのヘビ捕獲罠を騙されたと勘違いして、ユリエルを許せない敵認定させた戦士だった。

 それがタフクロコダイルガイの死の原因だとして、責められている。

 集落で待っていた者たちは、タフクロコダイルガイの強さを心の拠り所として悪くなる状況に耐えていた。

 それが死んで、しかも慣れ親しんだ土地から引き離されて、不安で一杯だ。

 どうしてこうなったのかと考えた時に、きっかけになったのはこの戦士が聖女のことを倒すべき敵として報告してきたことだった。

 だからそこに、怒りの矛先が向いた。

「ウオオオ……ソンナツモリジャナカッタ!

 ダッテ、人間……モット何カサレルンジャナイカッテ……」

 責められた戦士は、縮こまって泣いている。

 この戦士がユリエルのことを悪い様に思ったのは、レジスダンたちに毒を流されたことで殊更に人間を警戒していたせいもあるらしい。

 小さな詐欺でも、実は悪い奴の先触れかもしれないから、シャーマンに報告してきっちり葬っておこうと考えた。

 そうしたらダンジョンと戦うことになって、長が死んでしまった。

 この戦士自身も、ユリエルが話の通じる人物だったと知って、もしかしたら長が死なない道もあったかもしれないとひどく後悔していた。

 それを聞いて、ユリエルは気の毒そうにため息をついた。

「そうね……良かれと思ってやっても、結果が伴うとは限らないものね。

 でも、結果だけ見ればそこまで悪くはないじゃない。

 だから反省しているなら、許してあげて」

 ユリエルは集落のメスたちに、優しく許しを求めた。しかしメスたちは、ますます怒りをたぎらせて吠える。

「反省シタラ、長ハ帰ッテクルノカ!?」

「ソウダ、長ノ強イ子、モット生ミタカッタ!」

 どうもこのメスたちの大部分は、タフクロコダイルガイが妻としていたらしい。なので、家族を奪われたと余計に恨んでいるようだ。

 それならばと、ユリエルは話の切り口を変えた。

「じゃあ彼が私のことを報告しなかったら、子供たちは助かったの!?

 ここに来て私が解毒してあげなかったら、もっと家族が死んでいたかもしれない。あなたたちの子供は、彼のおかげで助かったようなもんよ!」

「ソレハ……!!」

 案の定、メスたちは気まずそうに口を閉ざした。

 実際、タフクロコダイルガイと引き換えに、他の死にかけていた多くの命が助かった。元気になった子供たちを見て、メスたちもそれは分かっているのだ。

 そこを考えると、むしろこの戦士は子供たちの命の恩人ということになる。

「彼は軽率だったかもしれない。でも結果として道がつながってるなら、反省を促して次につなげるべきだわ。

 何かしようとして別の結果になるなんて、みんなやってることよ。

 あなたたちも、弱った子供たちが元気になるようにもっと弱った魚を与えたりしたんじゃない?」

 途端に、メスの何人かがびくりと身をすくめた。

 何とか子供の体力を戻したくて、身を切るような親心で、しかし子供を置いて遠出するには不安で、必死に近くで獲れた弱った魚を与え続けて……その結果、子供たちの一部は毒に耐え切れず死んでしまった。

 誰が直接殺したかと言われれば……。

 罪悪感に震えるメスたちに、ユリエルは諭すように言った。

「力を合わせて未来に向かいたいなら、許し合いなさい。

 お互いに責め合っても、肝心な時に手を取り合えなくて悪いことにしかならないの。まだ守りたいものがあるなら、そのために許して手を取り合いなさい。

 だいたい、いくら彼を責めても、タフクロコダイルガイは戻ってこないわ!

 これから、誰があなたたちを守るために戦うと思ってるの!?」

 その言葉に、メスたちははっと頭を下げた。

「ゴメン!言イスギタワ……許シテ!コレカラモ守ッテ!」

「ウン……俺モ、コレカラモット用心スル」

 どうやら、ワークロコダイルたちは分かってくれたようだ。責めて不毛な罰を与えるより、許した方がずっとお互いのためになるということを。

 ユリエルとしても、こんな事でワークロコダイルの中に火種ができてはたまったものではない。

 だから、たまには聖女らしく仲裁に入ってみた。

 しかしその心中には、自分も水に流してほしいという思いがあった。

(私だって、欲をかいてダンジョンに危険を呼び込んじゃったものね……そこをアラクネちゃんに責められたら言い訳できないわ。

 何とかうまくまとめたけど、責められない雰囲気は作っとかないと!)

 正直、ユリエルもヒヤヒヤしていたのだ。よく考えずに危険を呼び込んでしまったことは、あの酒好きな戦士と似たようなことだから。

 もしあの戦士が許されないと、ユリエルも許されなくなってしまう。

(被害が出たら誰かを恨んじゃうのは仕方ないけど……責めてばっかだと自分がろくなことにならないのよね。

 レジスダンのことでよく分かったわ。

 ……それに、ティエンヌたちと同じにはなりたくないし)


 許してもらえない恐怖を思い出したところで、ユリエルはティエンヌたちのことを思った。

 追放される前、ティエンヌは事あるごとにユリエルを責めてきていた。ちょっとした言いがかりや押し付けた無茶への不手際を、苛烈に責めて許されない罪として言いふらしていた。

 ユリエルは懸命に気を張って抵抗していたが、時に本当に自分が悪いかもと不安になり、ティエンヌの言葉を信じた周りに白い目で見られて辛かった。

 だから、ここではできる限りそんな事はしないと決めた。

 ティエンヌたちのように誰かを突き落とすんじゃなくて、許し合って皆で幸せになろう……と。

(ティエンヌ……今頃、また誰かいじめてるのかな?

 誰かっていうか、何となく想像はつくけど……アノン、大丈夫かな)

 自分の安全を確保したことで、ユリエルは学園の友のことを考えられるようになった。

 ティエンヌたちのいじめが、あれで終わるとは思えない。となると、次に誰がやられるか……ユリエルには確信のようなものがあった。

(アノン……素直だし信心深いから、断罪されたら真に受けちゃうかも。

 ティエンヌにとっては、いじめてくださいって言ってるようなものね。

 あの時は助けてくれなかったから、アノンも同じ目にあってみろとか思っちゃったけど……それじゃいじめっ子と同じなんだよなぁ)

 ユリエルは、追放された時声をかけてきたアノンに辛く当たってしまったことを、後悔していた。

 そしてできることなら、受け止めて守りたいと思った。

(アノンも自分が破門されたら、私のが冤罪だって気づくかしら?

 そうしたら、どうかここに逃げて来て!

 そうしてお互い許し合って、力を合わせられたら……)

 今すぐ助けるどころか様子を見にも行けないことが、もどかしい。

 そしてそんな気持ちになるたびに、カリヨンたちのことを思う。彼女らも全然助けてくれないと思って憎んでしまったが……。

(カリヨンたちも、こんな気持ちだったのかな。

 ……私も、アノンに生きてたのにって文句言われても仕方ない)

 同じ立場になってみると、助けに行けない都合も分かる。

 ユリエルだってアノンのことは心配だけれど、今教会にバレて攻められたらもっと多くを救えなくなってしまう。

 守りたいものがあるから、守りに行けない歯がゆさ。

(だからせめて、アノンがここに来たら保護して、精一杯謝ろう!

 カリヨンたちも……ううん、他の何も知らない人たちも、こっちからは攻めないようにしよう)

 自分の身が安全になって、ユリエルはかつての友を許せるようになった。

 ……もっとも、許してはいけない奴らもいるのだが。

(逆にティエンヌたちは、来たら地獄に落としてやらないと!

 自分の都合と楽しみのためだけにありもしない罪を作って責めるとか、それこそどれだけ謝っても足りんわ!

 ……でも、あいつら余程のことがないと前線に出てこないだろうな)

 いくら直接殺しに来る奴らを倒しても、動かない腐った根をどうにかしない限り理不尽な断罪は終わらない。

 自分が許されないほど罪を重ねる前にそこに刃が届く方法を、ユリエルは偽りの太陽の下で考え続けるのだった。

 抵抗を折るのが楽しいか、いちいち反応して思い通りになるのが楽しいか……サディストにも嗜好があると思うのです。

 でも、何でも思い通りにならないと気が済まないお子様ないじめっ子には確実に後者の方が虐めがいがあるでしょう。

 作者も小学生の時虐められましたが、いじめっ子の中で一番小さな男の子に殴り返したら虐められなくなりました。

 私が男の機嫌を取りたくないのは、マウントされたら怖い目に遭うと無意識に思っているからかもしれません。そして非モテになる。


 ダンジョンに仲間やかわいそうな女の子を匿うのは、ダンジョンマスターものでよくある話ですね。

 しかし、うまくいくかどうかは……。

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― 新着の感想 ―
………いじめっ子達への嫌悪感が天を衝く…! ストレスがマッハ…!! それに対してユリエルさん、良いっすねぇ。打算的な面も有りつつ、ちゃんと赦しの精神を保ってる。主人公とはこうでなきゃ。 彼女達の努力…
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