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虫愛でる追放聖女はゲテモノダンジョンの妖精王となりて  作者: 青蓮
第1章 ダンジョンマスターへの道
19/121

19.一件落着?

 前話のレジスダンのステータスを少し修正しました。

 戦ってレベルが上がっているのに体力魔力の最大値が上がってないのはおかしかった。


 ユリエルたちが一山超えた後、久しぶりに教会サイドのお話です。

 ユリエルが襲撃の連鎖を止めるために画策していた「教会を使おう!」とは、どういう意味だったのか。


 そして久しぶりに、少しざまぁが入ります。

 大損はもちろんのこと、真のざまぁは……。

 普段人が通らない草ぼうぼうの細道を、武装した一団が駆け抜けていた。

「急げ!!間に合わなかったらシャレにならんぞ!!」

 ガパガパと馬の足音が響き、草が踏み折られていく。こんなになるまで放置された道に、今日は何があるというのか。

 騎兵たちの後ろから、数十もの歩兵が息を切らしてついて行く。

 その急ぐあまり二つに分かれた兵団は、教会の旗を掲げていた。

 そう、それは教会の威信をかけた事態なのだ。下手なことになれば、この街を実質的に収めている高位聖職者に傷がつく……それほどの大事だ。

 駆ける兵士たちの視線の先には、洞窟のようなものがあった。

「まさか、ここが攻め込まれるとは……間に合ってくれ!!」

 虫けらのダンジョン、教会が屈服させた極上の白糸工場。

 兵士たちは、ここの救援に急行してきたのだ。


 その日、学園都市の教会軍本部に、魔道具による通信が入った。設置されてあまりにも長く使われなかったため、番兵も初めはそれが鳴っていると気づかなかったほどだ。

 あまりに鳴り続けるので番兵が出ると、相手は女の声だった。

「あの……今日って、まだ糸を採る日じゃないですよね?

 なのに、教会の旗を持った人間がいっぱい入って来たんだけど……」

 その相手が虫けらのダンジョンのボスアラクネだと理解するのに、番兵は少々時間がかかってしまった。

 分かっても、すぐ答えられる問題ではない。

 番兵はアラクネにとりあえず様子を見るよう伝え、上に報告した。

 それを受けた上の対応もまた、のんびりしたものだった。とりあえず今日そちらに出向している部隊がいないか、のたのたと時間をかけて調べていた。

 そうして数時間を無為に過ごすうちに……再び通信が入った。

「た、助けて!!お願い!!

 あいつら、ダンジョンをよこせって襲ってくる!教会の人じゃないんですか!?

 は、早く来て!あたしと虫たちだけで、もつか分かんないよ~!!」

 それを聞いた指揮官は、胆を潰した。

 虫けらのダンジョンは教会の威光に守られており、これまでこんな事はなかった。ゆえに守りは形骸化し、最近は底辺冒険者の捨扶持と化している。

 それが、賊に攻め込まれているというのだ。

 考えてみれば、虫けらのダンジョンはすぐ教会が守りに行ける位置にあるから、いつもは守りに手を割いていない。

 ほぼ守っていないのだから、ある程度の強さの敵が来たら一時的には落とされやすい。

 もっとも、それを取り戻すだけの戦力が学園都市にはあるのだが……ボスのアラクネが殺されてしまったら一大事だ。

 あのアラクネの糸は上質な聖衣の材料になり、教会総本山にも上納されている。

 もしその供給が絶たれたら、ダンジョンを取り戻しても、上からどんな風に責任を取らされるか分かったものではない。

 指揮官は顔面蒼白になり、とにかくすぐ集められた数十人を率いて救援に向かった。

 これまで起こらなかったことが今日に限って起こってしまった、己の運の悪さを呪いながら。


 ダンジョンの中は、ひどい有様だった。

 入口から虫の死体が、三階層の途中から人間の死体がゴロゴロ転がっている。壁も地面も血だらけ、双方のひどく損傷した死体だらけ。

 その中に、指揮官は見慣れぬものを見つけた。

 他のムカデよりひときわ大きい、岩のようにゴツゴツしたムカデだ。体を真っ二つにされながら、賊に噛みついたままこと切れている。

「何だこれは……こんなものが出せるなんて、聞いてないぞ!

 一体何が起こっている!?」

 指揮官は驚いたが、アラクネがこれを使って抵抗できたと思うと希望が増した。

 どうか無事であってくれと祈りながら、救援隊はもはや静かになったコアルームに突入した。


 コアルームは、凄惨な戦いの跡地になっていた。

 視界を遮るように張り巡らされた、血染めの色糸。それに絡めとられたり吊り上げられたりして死んでいる、汚い身なりの男たち。

 破れて地面に投げ捨てられた、教会の旗。

 そして至る所に散らばる、人間と虫の死体。

 その修羅場の奥に、アラクネがたった一人立って息をしていた。

 美しい裸の上半身は血に塗れ、危うい色香を放っている。両手に剣と斧を携え、腹部は縮み、傷ついている。

「お、おい……無事か!?」

 兵士たちが声をかけると、アラクネはわっと泣き出して叫んだ。

「わあああん!!怖かったよぉー!!」


 しばらくアラクネをなだめながら、指揮官は話を聞いて事情を知った。

 一応守りの名目でここにいたゲースが食糧を尽かして出て行ったあと、しばらく誰も来なかったこと。

 それが今日になって突然、この教会の旗を持った賊に攻め込まれたこと。

 最初の通報で言われた通りに様子を見ていたら、あっという間に先手がコアルームに入って来てコアを渡すように脅された。

 そこでようやく相手が味方でないと気づき、糸で道を塞ぎつつ魔物を力の限り呼び出して、死に物狂いで戦った。

 賊を殺して得た力で新たに虫を呼び出し、その虫を犠牲にしてまた賊を殺し……の自転車操業。

 それでも、ダンジョンの力と己の魔力も使い果たして何とか勝った。

「……そうか。おまえが生きていて、何よりだ。

 すると、あの岩みたいなムカデは……」

「石ムカデをいっぱい呼び出して、あたしのレベルが上がったら、呼べるようになったんです。

 あの子かなり強くて、押し寄せてくる賊をだいぶ止めてくれました。この子なんて、バラバラにされても頭とちょっとで賊のボスに噛みついて……うう!」

 アラクネは涙ながらにそう言って、バラバラの岩ムカデを拾い上げた。つまりこいつらがいなければ、アラクネは負けていたということ。

 薄氷の勝利と、アラクネに予想外の力をつけさせてしまったことに、兵士たちは肝を冷やした。

 そのうえ、コアルームは糸だらけ。いつも定期的に採る上納品の糸を、アラクネは戦いで使い果たしてしまった。

 これでは、次の糸の採取は大幅に遅れるだろう。

 アラクネが無事でも、ある程度の叱責は免れまい。

 カンカンに怒ったインボウズを想像し、何かで挽回せねばと焦る指揮官に……さらに追い打ちをかけるものが届いた。


「隊長……賊の荷物の中に、これが」

 部下がためらいがちに差し出したものに目をやり、指揮官はぎょっとした。

「こ、これは聖女のローブ!

 しかも、破門された戦聖女型ではないか!」

 純白を大量の血痕に汚され、しかもズボンが派手に破れた聖女のローブ。上着の胸にある聖印章は、光を失って真っ黒。

 聖女のローブには何種類かあるが、聖女という立場になってまで前線での動きやすさ重視のこれを着る者は少ない。

 となると、もう個人の特定は簡単だ。

「そうか……破門聖女は……ユリエルは、死んだのか」

 指揮官は、肩を落として呟いた。

 もうインボウズの機嫌を直すにはユリエルを捕まえるしかないと思っていたが、その望みも絶たれてしまった。

 自分たちにとっては大手柄につながる重要人物だが、賊共にとっては他の冒険者と同じ獲物でしかなかったのだろう。

 指揮官はもう踏んだり蹴ったりで、思わず地面に転がる賊の死体を踏みつけた。

「くそっ!!こいつらさえいなければ……!」


 次の瞬間、指揮官の方をアラクネが掴んだ。

「ちょっと、放っとかないでくださいよ!

 死ぬかと思ったんですよ!?」

 アラクネは半狂乱になって、ものすごい剣幕でまくしたてる。

「ねえ、何ですぐ助けに来てくれなかったの!?何かあったら、助けてくれるって教会はいつも言ってたのに!!

 守ってくれるって、約束なのに!!

 これじゃ、あたしは何のために糸を捧げてるのよおぉ!?」

 指揮官の体をガクガク揺すって、アラクネは喚く。

 だがアラクネの言うことはもっともだ。誰のためかはともかく、アラクネは守られるべきだ。そうして人間が命の保証をしたから、アラクネは大人しく従っているのだ。

「す、すまん……このようなことは初めてで……」

 指揮官の言い訳に、アラクネはますます怒り狂う。

「初めてって……守ってなかったからでしょ!!

 ゲースみたいな底辺冒険者をたった一人で置いといて、守ってくれる訳ないよ!守る気なら、ちゃんとそうしてくださいよ!!」

 アラクネに怒鳴られて、指揮官は苦々しく思う。

(ここの防備、都市の防衛予算がついてるはずなんだが……俺らんとこまであんまり下りてこんのだよな。

 本格的に守ろうとすると、予算も人手も……俺が自腹切らにゃならんのか!?勘弁してくれよ~!)

 インボウズたちによる予算の中抜きは、確実に現場の力を削いでいる。

 それに実際、あるか分からない襲撃に備えてここに部隊を置くのは、現実的でない。他に人手が要るところは、山ほどあるのだ。

 難しい顔をする指揮官に、アラクネは裏切られたような顔をした。

「……もういいよ、ずっとここにいろとは言いません。

 でも、だったらせめて攻め込まれないように外を安全にしてよ!

 これだけの人間が動いたら、他の賊や周りの魔物が気づくんじゃない?それでまたここに攻めてきたら、どうすんの!?

 あんたとあたしが、どうなっても知らないから!!」

「分かった分かった!

 おまえは大事だ、お偉方に進言してみる!」

 指揮官は、自分の身も案じて答えた。

 今日のことだけでも心臓が潰れるかと思ったのに、こんなことが何度も起こってはたまらない。

 防ぐには、元を断つのが一番だ。

 神妙な顔でうなずく指揮官に、アラクネはなおも不信の目を向ける。

「……それと、こういう事情を冒険者に丸見えにするのはどうかと思いますよ。

 あなた方や強い人たちはしっかりやってるかもしれないけど、ゲースみたいな奴らはどうなんでしょう。

 相手が盗賊でも、酒と女を出されたら何でもしゃべっちゃいそうで。もしかして今回……そっから事情が漏れてません?」

 アラクネに言われて、指揮官は唸ってしまった。

「なるほど……そんな緩い奴らだったのか。

 それは確かに、いない方がましかもしれんな」

「ええ……揉むだけ揉んで全然助けてくれないとか、何なんですか?

 いても悪いことしかないんですけど」

 アラクネが人間に嫌な思いを強いられている、愚痴の部分もかなり多い。しかし事ここに至っては、無視する訳にもいくまい。

 自分とアラクネを守るために、冒険者はこれからここに近づけまいと決意する指揮官であった。



 この事態の報告は、その日の夜にはインボウズに届いた。

「ぬわにぃ~!!

 ダンジョンが攻められ、アラクネが傷ついた!

 おまけにユリエルは死んでいただと~!?」

 インボウズは、額にビキビキと血管を浮かせて叫んだ。

 これはインボウズにとっても、とんでもない事態だ。

 虫けらのダンジョン支配と糸の供給は、この学園都市のトップたる自分の威信の根っこも同然。

 そこが傷つけば、当然自分の経歴に傷がつく。ほとんどの者が無事にこなせる任をこなせなかったと、見られてしまう。

 いくらこれまでなかったことでも、他の貪欲な腐敗勢力が食いつかない訳がない。確実にインボウズを追及して引きずり下ろそうとするだろう。

 汚れ切った教会上層部は、そういう所である。

 そんな時に恩を売ってなだめるために使えるのが、陥れた聖女の処女を売ってやることだが……その商品が消えてしまった。

 いかにユリエルの評判が悪かろうと、きれいにして体と貞操がもらえるなら食いつく奴はそれなりにいる。

 むしろ遊び慣れた連中の不人気を利用し、多少安くても有望な若手を釣ろうとでも思っていたのだが……この世から消えては意味がない。

「ああああ何たることだ!!

 死体だけでも、回収できんのか!?」

 怒鳴り散らすインボウズに、オニデスは額の汗を拭って説明する。

「移動の痕跡を見るに、賊共は湿地から来たようです。湿地に死体が捨てられていたら、探しきれるものではありません。

 それに……これだけ時間がたっては、もう蘇生は無理でしょう。

 見つかったとしても腐っているでしょうし……ワークロコダイルの腹の中かもしれません」

「ううむ、腹に入れてしまえば見つからぬからのう」

 珍しく神妙な顔で、しかしソーセージを頬張りながら、ゴウヨックも言う。

 ユリエルが姿を消したのは、もう十日以上も前のこと。一週間後から冒険者たちが探しているが、野営の跡すら見つけられなかった。

 つまり、その時点でもう死んでいた可能性が高い。

 さらに運の悪い事に、賊の来た方には人を拒む広大な夏の湿地。人食いワニもいるし、死体すら見つけられる望みは薄い。

 他の行方不明になった冒険者も、死体が見つかったのはダンジョン内で最近死んだと思われる一人のみ。他は賊の荷物から遺品が見つかっただけだ。

 どうにもならぬ状況に、インボウズはギリギリと歯ぎしりをする。

「いぎぎ……こんな事になるとは!

 ユリエルめ、だから逃げるとろくなことにならんと言ったのに!

 死んだらおまえの命も僕の儲けもないじゃないか。死んでまで他人に迷惑をかけるとは、何考えとんじゃ~!!」

 自分がしたことも忘れて、インボウズは憤慨する。

 自分のせいでユリエルが必死に逃げ出したんだとか、助けを求められなくなったんだとか、この男にはそんな発想そのものがない。

 だが、インボウズがいくら怒っても、もうユリエルは戻ってこない。

 インボウズは、ユリエルが近くにいるうちに捕らえなかったことを後悔したが、もはや後の祭りであった。


 被害がどうにもならないと分かると、インボウズは元凶に怒りの矛先を向けた。

「それにしても、どこのどいつだ!

 この僕が治める地で、神をも恐れぬことを!!」

 聞かれると、オニデスも迷惑そうに答えた。

「そこそこ名の知れた背教者です。

 以前、ブリブリアント家の大教会につながる街道で暴れ回り、聖騎士を出動させるまでいくつも衛兵隊を潰したとか。

 指名手配されている、不赦のレジスダンです」

 あれほど教会を憎み、そのうえ奪った教会の旗を使って獲物を油断させ数々の凶行を繰り返してきた逆賊である。

 その名は、教会への脅威として知られていた。

 それを聞くと、インボウズは悔しそうながらもどす黒い笑みで呟いた。

「フン、ならばこの件はブリブリアント家に賠償請求してやろう!

 あんな気の狂ったような賊を取り逃がしおって、おかげで大損害だ。自分の管轄で出た賊くらい片付けろと伝えておけ。

 ……まあいい、討伐したのは僕の部下だ。

 迷惑をかけられてその元凶を討ち取ったのだから、恰好はつくわい!」

 インボウズは、己の体面を保てそうなことに何より安堵した。

 被害はこうむったがきちんと賊を討ち取ることはできたのだ。それがアラクネの救援もない決死の戦いの結果でも、インボウズの配下の功はインボウズのものだ。

 政敵に責任を押し付けられそうなのも、実にありがたい。この討伐で自分の名が上がり、政敵が名を落とせば万々歳だ。

「……しかし、アラクネはよく倒せたな。

 レジスダンはかなりの猛者で、手下も一時は百を超えていたと聞くが」

「ああ、最盛期はそうだと聞いております。

 ですが、ダンジョンで見つかった死体は二十弱でした。

 ブリブリアント旗下の聖騎士が当時の半数以上討ったらしいですし、湿地に逃げ込んで毒蛇や熱病にやられた者もいるのでは」

 詳しい事はよく分からないが、一時は強大な勢力を誇っていた背教者が、どうやら弱体化してダンジョンで討たれてくれた。

 これは素晴らしい棚からぼた餅だ。

 アラクネは多少強くなったが、まだ教会の鎖をちぎれるほどではない。むしろ、自力で身を守れるならこちらの方が手が省ける。

 インボウズはすっかり機嫌を直して、上等なブランデーを口に含んだ。


 しかし、オニデスはまだ眉間にしわを寄せたままだ。

「もう少し、お話を。

 ダンジョンの守備体制について、軍から変えるよう要請が来ております」

 インボズウは、面倒くさそうな顔をした。うまく終わったのに何だと言わんばかりだ。

 だがオニデスは、巧みに耳を向き直らせる。

「変えないならば、我々は従います。しかし変えずにまた同じことが起こって次は守り切れなかったら、責任を取るのはあなたですぞ。

 軍は既に、あなたに報告したとの記録を残しております」

 そう言ってやると、インボウズの顔色が変わった。

 インボウズだってちょっと考えればわかる。今回守りきれたのは、ただ運が良かっただけ。あとちょっと敵が多かったら、おそらくアラクネは耐えられなかった。

 そんな事態を起こさぬために、変えるべきことがあるなら。

「軍が調べたところ、アラクネの監視を引き受けていた冒険者が賊に情報を流した疑いがあります。

 普段から、かなり素行の悪い者たちだったようで……」

 自分の責任を少しでも軽くするため、事件にあたった指揮官は冒険者にできるだけ責任を押し付けた報告書を上げていた。

 曰く、ゲース一味は酒と女のためなら何でもやりかねない。折しもゲースの仲間は失踪直前に街の酒場で女に乱暴を働き、衛兵が出動する事態になっている。そこを賊に付け込まれたら……と。

 実際、ゲース一味のうち一人だけ、ダンジョンで賊に混じって死体が出ている。これは、こいつが情報を流した証ではないか。

 今後こういう事態を防ぐために、冒険者に監視を任せるのはやめた方がいい、と。

 この醜態に、インボウズの額に再び血管が浮かんだ。

「学も金もないクズ共が……恩を仇で返しよって!

 ギルドマスターも、きちんと管理しとけよ!賠償モンだぞ!!」

 そんなクズしか仕事を受けないくらい給料を中抜きしたのは自分たちだが、そのせいだという自覚はこいつらにはない。

 だが、これから悪い事が起こりそうなら対策を講じねば。

「実に由々しき事態です。

 ゆえに、これからは冒険者をあのダンジョンに近づけぬ方がよろしいかと。

 監視の任務は取りやめ、代わりに衛兵や冒険者に周囲の賊や魔物を大規模に討伐させるのです。

 元を断ち、見せしめにして恐れを取り戻すのが肝要かと」

 オニデスの提案に、インボウズは一の二もなくうなずいた。

「それでいい、すぐにやれ!

 冒険者共には、責任を取らせてこき使ってやれ!!」

 この件で、インボウズとギルドマスターの間に亀裂が入った。

 インボウズにとっては、冒険者風情が原因で自分が損をするのは業腹だ。しかしギルドマスターにとっては、確たる証拠はないのに理不尽な決めつけだ。

 それでも立場の差は歴然であるため、冒険者たちは従うだろう。だが、確実に不満は溜まっていく。

 ……それはいつか、学園都市がもっと大きな災いに襲われた時、お互いに背を預けられない不信につながっていくだろう。


 インボウズもギルドマスターも、誰も気づかなかった。

 考えることすらしなかった。

 このシナリオを、誰が何のために書いたのか。そのシナリオに乗った先に、どんなしっぺ返しが待っているのかを。

 腐敗した勢力同士で足を引っ張り合って自滅の一助となるのは、ざまぁものではよくあることです。インボウズはこの都市の最高権力者ですが、総本山や他の都市には政敵がいます。

 もちろんその政敵もざまぁ予定ですが、どれくらい先になることか。


 そして、姿を消したユリエルと足りなかった死体、ワニたちはどこに行ってしまったのでしょう。

 見えているのは、氷山の一角に過ぎないのです。

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― 新着の感想 ―
アホウス(だったか?)、ようやく死ねたんやね…。お勤め、ご苦労…。(敬礼)
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