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虫愛でる追放聖女はゲテモノダンジョンの妖精王となりて  作者: 青蓮
第1章 ダンジョンマスターへの道
12/121

12.目的外にも程がある

 釣ろうとしたものと別のものが釣れてしまうのは、よくあること。

 でもユリエルは頭から抜け落ちていた……自分たちの敵は、人間だけではないことが。

 翌日、ユリエルは再び湿地を訪れた。

 昨日と違い、ユリエルの周りには複数の虫の魔物がいた。昨日野生の魔物に襲われたので、護衛を増やしたのだ。

(危ないのは分かってる。

 でも、マムシだけは手に入れておきたい!)

 ユリエルは、この湿地で魔物以外で最も恐れられる生物を知っていた。

 猛毒ヘビの、マムシである。

 60センチ程度の短いヘビだが、その毒は強力な出血毒で、おまけに噛みつく時に毒牙が前に出る。

 昨日捕まえたヤマカガシとは、段違いの危険度だ。

 正直マムシがいれば、魔物化していなくても不慣れな冒険者なら容易く殺せる。この戦力が、ユリエルは喉から手が出るほど欲しかった。

(うちのダンジョンは、戦力が虫に偏りすぎてる。

 元から小さいのが多いから魔物化させても殺傷力が心もとないし、最近話題になってる殺虫剤をまかれたら一気にやられる。

 ただでさえ、次はどんな強さの何人が来るか分からないのに!)

 幸い、昨日もダンジョンに来訪者はなかった。

 しかしそれが嵐の前の静けさに思えて、さらにユリエルを急き立てる。

 実際、ダンジョンの異常がバレるのは秒読み段階に入ったと思っていい。最初のゲースから一週間ちょっとで、三組六人が消息不明になっているのだ。

 いくら腰の重いギルドでも、そろそろ本格的に怪しんで動くころだ。

 そして冒険者や兵士に攻められ続けて防戦一方になってしまえば、もうユリエルが外から新戦力を連れてくることができない。

 つまり、これがユリエルが外に出られる最後の機会かもしれない。

 だから、危険を冒してもまたここに来たのだ。

(少しでも知能のある魔物は、人間の痕跡を探して狩りをするって聞く。

 だったら昨日私が仕掛けた罠を見つけて、待ち伏せしているかも。

 ……でも、回収できる可能性があるならしておきたい!たとえ襲われても……ハードバイパーくらいなら……マムシの代わりに弱らせたハードバイパー持ち帰ってもいい)

 戦いも想定しての、護衛増員だ。岩ムカデをもう二匹と、アシナガバチが魔物化したアサルトビーが十匹。

 特に空中からの警戒は、敵の奇襲予防にある程度有効だろう。ただし、草の下や水中の敵は見つけづらいだろうが。

 アサルトビーたちの様子を気にしながら、ユリエルは用心深く湿地に踏み入った。


 周りの物音に聞き耳を立てながら、手早く罠を回収していく。

「……これも空だ。クッソ、二個しかかかってない!

 しかもマムシがいるかどうかは、帰らないと分かんない」

 運の悪い事に、罠の効果は思ったほどではない。このまま帰れば、マムシなしで強い冒険者を相手にすることになるかもしれない。

 最後の希望を託して最後の一個を探したが……無駄だった。

 最後の一個は、バラバラに割られていたのだ。

 その有様を見た瞬間、ユリエルは総毛立った。

「この、足跡……!!」

 バラバラになった壺の破片を泥に押し込むように、いくつもの足跡が重なって残っていた。しかもその足跡は、人間のものではない。

(大きい……固い爪がある、爬虫類!

 しかも、この足跡……多分、後ろ足だけだ。二足歩行……知能のある魔物か!!)

 ユリエルの背中に、冷たい汗が流れた。

「全員撤収!!逃げ……」

 ユリエルが言い終わる前に、アサルトビーたちが一斉に警戒の羽音を鳴らし始めた。


 腰が引けながらも短弓を構えるユリエルの周りで、浅い水場の水面が何か所もザバーッと盛り上がる。

 そこからぬうっと立ち上がったのは、ユリエルよりはるかに大きい二足歩行のワニたちだ。

 しかも、体のところどころに動物の骨で作った防具をつけている。中には、人間から奪ったと思しき防具もある。

 つまりこのワニたちは、人間に対する捕食者。

 それに、ユリエルは心当たりがあった。

 ギルドで、冒険者たちに聞いた噂だ。

 大湿地の奥には、知能のある強い魔物が集落をつくっている。ワニのような見た目で人間のように振舞う、ワークロコダイル。

 浅い場所に出てくることはほぼないが、奇襲を受けたらほぼ生きて帰れない。水中からの一噛みで、全身を砕かれて終わり。

 対峙することができても、足場の悪い沼地で人間に勝機は薄い。

 この人まねワニどもは、格闘が恐ろしく得意だ。腕利きの冒険者が挑んでも、武器も持たないワニ共にひねり潰されてしまう。

 それが、この大湿地の頂点に立つ支配者なのだと。


(何てこと……こいつら、昨日から私に目をつけて!)

 ユリエルは、岩ムカデに囲まれてじりじりと下がりながら思った。

 だが、ワークロコダイルの一体が激しく水を踏み鳴らして吠えた。

「オ前、俺、騙シタ!許サン!!」

「……はい?」

 ユリエルは、あっけに取られて思わず足を止めかけた。騙したと言われても、自分は昨日こいつの姿を見てもいないのに。

 一体こいつは何を勘違いしているのか。

「私、あなたに何もしてませんけど?」

 幸いにしてそれなりの知能はあるようなので、誤解を解けば戦わずに済むかもしれない……なんてことはなかった。

 それを聞くと、ワークロコダイルはさらに怒り狂った。

「嘘ダ!酒ノ匂イノスル壺、酒ガ入ッテナカッタ!!

 オ前、嘘バッカリ!!食ッテヤル!!」

 その言葉で、ユリエルはようやく事情を理解した。

「ああ……昨日の、ヘビ捕獲罠か……」

 おそらくワークロコダイルは、酒の匂いだけ漂わせる壺を中身入りだと勘違いし、騙されたと思ったのだろう。

 なるほど確かに、ワークロコダイルにしてみればユリエルの仕掛けに肩透かしをくらった。

 しかもユリエルが初っ端でそれを否定したため、やっておいて白を切ったと思われてますます怒らせてしまった。

 これは、ある意味ユリエルの想像が足りず初手を誤ったと言える。

 自分にとって潔白だと思ってその通りに言っても、相手に被害がなかったとは限らないのだ。

 ただしその被害とは、勝手にした期待を裏切られたのみである。これで因縁をつけるのは、チンピラ以下の暴挙だ。

 つまりこいつらは結局、人間を襲って食べたいだけ。

「ごめんなさい……と言っても、やめないわよね。

 戦うなら、そちらも痛い目を覚悟してもらうけど」

 ユリエルの頭上で、アサルトビーたちが針をワークロコダイルに向けてブンブンと威嚇の羽音を響かせる。

 しかし、ワークロコダイルたちに退く様子はない。

「ソンナ針、俺ノ体ニ通ルモノカ!」

 ワークロコダイルたちは、威勢のいいポーズで固い鱗を見せつける。確かに、あれを貫くのはアサルトビーには厳しそうだ。

 だが、ユリエルには分かっていた。貫く必要などないと。

「そうね、あなたたちには、ね!」

 ユリエルがひらりと岩ムカデにまたがると、岩ムカデは全力で森の方に走り出した。

「馬鹿ガ、逃ガスカ!!」

 だが、ワークロコダイルたちの号令で逃げる方からも魔物が襲ってくる。

 しかし、それらはワークロコダイルではない。昨日も見たハードバイパーや大ガエルといった、素早い魔物たちだ。

「行け!!」

 これなら、虫の魔物たちで道を拓くことができる。

 岩ムカデがハードバイパーを弾くようにユリエルへの狙いを外し、舌を伸ばしてくる大ガエルにはアサルトビーが突撃する。

 アサルトビーの針でも、大ガエルなら貫ける。たまに舌に巻き取られて丸呑みにされるアサルトビーもいるが……それをやった大ガエルは体内を刺されてひっくり返る。

 ユリエルは岩ムカデの背に伏せて身を守りながら、別の岩ムカデに弾かれたハードバイパーに反撃の火球をお見舞いする。

 途中、しつこく追ってくるハードバイパーの牙が岩ムカデに突き立てられたが……。

「キュアポイズン!ヒール!まだやれるだろ!?」

 ユリエルの解毒と回復で、護衛の岩ムカデは何度でも立ち上がる。

 対して数で勝っていても回復できない敵は、消耗して一匹また一匹と脱落し、とうとう追ってこなくなった。

「ははっざまあみろ!!作戦がお粗末なのよ!

 大した頭は持ってないわね!」

 ユリエルは、勝利の笑みを浮かべて湿地から離脱した。

 ワークロコダイルが複数出たのには驚いたが、その爪が届く前に離れればどうということはない。ワークロコダイルは、体が重く陸上で長く速くは走れないのだ。

 おまけにワークロコダイルたちは、水のある方からしか襲ってこなかった。それもそのはず、ワークロコダイルが見つからずに静かに動けるのは水中だけで、陸にいたらその巨体ゆえ容易に発見されてしまう。

 地面が固いところには、潜むに潜めないのだ。

 結果、退路にいたのは隠れるのが得意だが倒しやすい魔物だけだった。

(……でも、普通のワークロコダイルに他の魔物を操るなんて芸当はできないはず。もっと上位の魔物か特殊職のヤツがいそうで怖いわね。

 もう、この湿地に近づくのはやめよう。

 教会と戦う前に死んだら意味ないし!)

 結局、今日はマムシかどうかも分からないヘビ二匹のために、大ガエルと相討ちになったアサルトビー四匹を失ってしまった。

 こんな事なら無茶しなければ良かったと思いながら、ユリエルはダンジョンに帰還した。


 そんなユリエルの後ろから、白い霧のようなものが地を這うようについて来ていた。

 それはユリエルがダンジョンに入ったのを見届けると、音もなく引き返して湿地へと戻っていった。



「……ということがあったのさ」

 ユリエルが早く帰って今日のことを話すと、アラクネはひっくり返りそうになった。

「ユリエル!!無茶しないでって言ったろ!?

 ワークロコダイルがどんなのか知らないけど、要はまともにやり合ったら勝てない相手に会っちゃったんだろ。

 教会や冒険者の前に、余計な敵を増やさないでおくれよ!」

「あははっごめんごめん。

 人間との戦いばっかり考えてて、周りが見えなくなってた!」

 アラクネは叱りながらも、無事帰って来たユリエルを労わってくれた。

 それが、聖女時代に戦いから帰ったユノとユリエルを迎えてくれたカリヨンとシノアを思わせて、ユリエルは胸が詰まりそうになった。

 ここに帰ってくれば、心許せる友が温かく迎えてくれる。

 今やここはユリエルにとって、自宅のように安心できる居場所になっていた。

(いろいろうまくいかないことは多いけど……ここにいるだけでちょっと幸せ。

 教会とかギルドとか、倒したい奴らは多いけど……もしそれができなくても、ここだけは守りたいな)

 アラクネの柔肌と人間より低い体温に包まれ、ユリエルはしみじみと思った。

 そして、そのための希望をかけてヘビ捕獲罠を開けてみたが……。

「うーん……マムシに似てるけど、アオダイショウの子供だわコレ。

 もう一個……はい、ヤマカガシ~!」

 残念ながら、マムシはいなかった。

「ああ~……こんな事なら、今日のハードバイパーの一匹でも連れて来れば良かった。ダンジョン内で叩きのめして支配すれば……」

 落胆するユリエルに、アラクネは落ち着かせるように言う。

「いやいや、あんまり目的からそれるのはやめよう。

 あたしたちは、どっちか失ったら詰むようなもんだからさ、安全にできると思った目的だけ果たすこと考えようよ。

 だってさ……目的外にがっついて死んだら、後悔しか残らないよ」

「ぐぬぬ……その通りだ」

 アラクネに釘を刺されたユリエルは、はぐらかすように新しい作戦を話し始めた。

「あ、そうだ!!今日、動きの遅い重量級見てて思ったんだけどね……一定以上の重さがないと落ちない落とし穴、どうかな?

 で、穴の底に荷車でもブッ壊せるぶっとい杭を……」

「なるほど、人より資源を狙うと!

 それは長期戦ほど効きそうだけど……まずダンジョンを長くしなきゃなー」

 ユリエルとアラクネが話すのは、対人戦のことばかりだ。だって、ここを攻める理由のある敵は今のところそれだけだし。

 今日のことは一件落着、と思っていた。


 その平穏が破られたのは、翌日の明け方のこと。

「ユリエル、起きて!!」

「ん……もう朝?」

「いえ、まだ夜明け前だ……けど、て、敵が来たんだよぉ!!」

 状況とアラクネの慌てぶりから、ユリエルは尋常な事態ではないと察した。普通こんな時間に冒険者は来ないし、少人数ならアラクネだけでも迎え撃てるのだから。

「何が来たの!?強さと数は!?」

 ユリエルの問いに、アラクネは涙目になって答えた。

「立って歩く大トカゲが、いっぱい~!!」


 ダンジョンの入口に、筋骨隆々のワークロコダイルたちがたむろしていた。皆が防具をつけた戦士で、それが十数体もだ。

 その中に、3メートルを超える巨体の、ひときわたくましい奴がいた。

 その傍らに、天然石レベルの宝石をつなげた頭飾りをかぶり骨飾りをあしらった蓑をまとった、小柄で老いた個体がいる。

「母上……本当にこのダンジョンは、今が攻める好機なのだな?」

 巨体の戦士が、老いたメスに尋ねる。

 老母は、深くうなずいた。

「ああ、間違いないよ。今このダンジョンは、教会の支配から外れている。

 一昨日と昨日現れたあの娘……教会の僕の格好だが、胸の印が黒かったろう。ああなった奴は、神に見放されてるのさ。

 ……十年かそこらに一度くらい、ああいうのが湿地に来る。そして、戦いの末に人間に討ち取られるのを見たことがある」

 老母は、破門聖女のことを知っていた。

 破門されて行き場がなくなった元聖女が、食糧を求めたりそこを越えて別の国に行こうとしたりして、湿地に現れることがあったからだ。

 そこでワークロコダイルに阻まれて足踏みし、教会の兵や冒険者に見つかって抵抗虚しく惨殺されることも。

 だから、それが人間社会から外れたことも分かっていた。

「いいかい、ここは昔っから教会が守ってる。だからうかつに手を出しちゃいけなかった。

 でも今、あの教会の敵のはずの娘が虫を従えて出入りしてる。……本来、ここにいちゃいけないのにねえ」

 その言い方で、巨体の戦士は悟る。

「教会の守りが破られた、そしてまだ気づかれていないという訳か」

 これは、ダンジョンを狙う他の勢力にとって好機だ。乗っ取った奴が弱いうちに攻めれば、手軽にダンジョンが手に入るのだから。

 巨体の戦士は、薄暗い一本道を見て目を細めた。

「ふむ、確かに……ダンジョンの改造もされていない。

 今なら、ここを我らで制圧できるか」

 巨体の戦士は、感慨深そうに呟いた。

「ダンジョンを手に入れれば、子らを安全に育ててやれる。子らを死なせた人間どもにも、報いられるかもしれん」

 ワークロコダイルの戦士たちにだって、背負うものはある。彼らは守りたいもののために、このダンジョンに攻め込むのだ。

 そこに、場違いに騒ぐ奴がいる。

「ウォーッ!俺、騙シテ逃ゲタ、アノ女殺ス!」

「ダンジョン、モウ逃ゲラレナイ。囲ンデブッ叩ク!」

 この親子よりだいぶ知能が低い、手下の戦士たちだ。昨日娘を取り逃がしたのが余程頭にきたらしく、仕返しできると鼻息を荒くしている。

 だが巨体の戦士は、そんな手下たちを叱りつけた。

「黙れ、戦いに集中しろ!!

 この戦いは、一族の安住の地が得られるかがかかっているのだ。失敗は許されん。昨日の貴様らのようにな!!」

 そう怒鳴られると、手下の戦士たちは大慌てで姿勢を正した。

 気を引き締める戦士たちに、老母も告げる。

「油断するな、何があるか分からないよ。

 このダンジョンに入ったのはあの娘と虫だけだが、外に出ていたってことは、あの娘はおそらく支配者ではない。

 他に、何者かいるはずだ。

 道も、この階層より下はどうなってるか分からないよ」

 巨体の戦士は、真剣な顔でうなずいた。

「ああ、心しておく。

 だがやすやすと退く訳にはいかん。我も一族を背負うゆえ……全力をもって、このダンジョンを手にするのみ!!」

「ウォーッ!!」「ガァーッ!!」

 巨体の戦士の誓いに、手下の戦士たちも鬨の声を上げる。

 戦いの火ぶたは、切って落とされた。敵にどんな事情があろうが関係ない。野生の理はただ一つ、弱肉強食のみ。

 マッチョなワークロコダイルの戦士たちの、進撃が始まった。


 その陣容を、ユリエルとアラクネは青ざめて見ていた。

「うああぁ全員レベル20超えてるぅ!こんなの、あたしとユリエルと一番強い岩ムカデくらいしか相手にならないよぉ!」

「落ち着いて、足を止めるだけなら何とかなる。

 でもこの……リーダーと支援役はまずいわね!」


 種族:タフクロコダイルガイ 職業:格闘チャンピオン

 レベル:50 体力:1190(/1250) 魔力:70


 種族:ワークロコダイル 職業:シャーマン

 レベル:33 体力:310(/330) 魔力:180(/350)


 なぜか微妙に万全の状態ではないが、この二体は強い。特に戦士の長と思しきタフクロコダイルガイは、マスターのアラクネでも一対一では勝てないだろう。

 かといって、複数で立ち向かおうにも大駒の数はあちらのが多いのだ。

「あ、あんなの……無理だ!こんな奴ら相手に、死にたくないよぉ!!」

 アラクネはもう、恐怖で半狂乱になっている。

 いや、予想外の悔しさもあるか。自分を虐げた相手に手が届きもしないうちに、潰されてしまうのかと。

 それは、ユリエルも同じだった。

 だからこそ余計に、自分のうかつな行動が恨めしかった。

(私が湿地に行ったから……あんな事をしたから、目をつけられてしまった!そんなつもりじゃなくても、言い訳なんか通じない。

 アラクネちゃんもこのダンジョンも……なくすのは嫌!!)

 ダンジョンコアを通じて聞こえる彼らの会話によると、破門されたユリエルが虫を従えていることで、教会がここを守れていないと気づいたらしい。

 ということは、ユリエルが欲をかいて湿地に行かなければこうはならなかった。

(私のせいだ……!)

 ユリエルは、危機と責任をひしひしと感じていた。

 人と戦うのにもっと虫や動物をとっ捕まえにいって、自分が餌になって別の敵を呼び込んでしまうとは、本末転倒もいいところだ。

 自分とアラクネが力を合わせて拓きかけた道が、一瞬で崩れてしまう。

 せっかく得た居場所も友も、失ってしまう。

 ユリエルが視線を向けると、アラクネは半分諦めたように切なく微笑んだ。

「……いいよ、ユリエル。あなたを責めたりしない。

 あなたはきちんと先のことを考えて、一生懸命前に進んでた。その結果こうなっちゃったなら仕方ないよ。

 あの下種共からだけでも、救ってくれてありがとう!」

 その言葉に、ユリエルは胸が締め付けられるようだった。

 ほぼ一方的に巻き込んでしまって、それでもこんなに助けてくれたアラクネに、自分は何てことをしようとしているのか。

 自分は、こんな事をするためにダンジョンに来たんじゃない。

「……させない……落とさせない。死なせないよ!!」

 低く呟いて、ユリエルはダンジョンコアの映す侵攻をじっと見つめる。感傷に浸っている場合ではない。

 幸い、ワークロコダイルたちの動きは遅い。元から陸を走るのがそう得意でないのと、奇襲を警戒しているのだ。

「アラクネちゃん、二階層の迷路は?」

「ま、まだ無理だよ。掘り始めたばっかりで」

「DPと、使えそうな罠は?」

「DPはこれだけ……あ、あいつらのせいで少しずつ増えてる!

 罠は……ええっと、どうだっけな……」

 敵がたくさんダンジョン内にいるということは、DPが溜まるということでもある。それの使い方によっては、何とかなるかもしれない。

 ユリエルは味方を増やすのにDPをあまり使わなかったので、DPに余裕はある。

 ただし惜しむらくは……それを使う立場にあるアラクネが、罠の有効な使い方も新しい仲間の性質もよく知らないことだ。


 頑張ろうとしつつもうろたえるアラクネを前に、ユリエルはぎゅっと拳を握った。掌に、じっとりと汗が湧く。

(……腹を括るしかない)

 ここは、ダンジョンマスターの力を使って……指揮、布陣、地形の全てを生かして戦う場面だ。

 しかしアラクネは、それが得意ではない。

 ならばそれを引き受けるのは……。

「アラクネちゃん」

 ユリエルは、アラクネの肩にそっと手を置いた。

「マスター代わるよ。

 今まで、ご苦労様!」

アオダイショウ:子供の頃は模様がマムシに似ている。デカくはなるが、無毒のヘビ。作者が子供に見せてあげようと思って捕まえたら、噛まれた。もちろん、何ともなかった。


 どうにか間に合いました。

 次は三連休中にもう一回くらい投稿できるといいなと思っています。そこからは、仕事が始まってしまったので週1ペースになります。

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