115.妖精の慈悲
前回の続き、実はまだ終わってなかった……生き残りがいたんだよなぁ。
最後の希望、自らの手で絶たずに終わることはできるのか。
今回は生存者視点なので、ダンジョン側の名前があまり出てきません。
そして生存者から見ると、ユリエルはどう見えているのでしょうか。
8階層は、悲しい沈黙に包まれていた。
数十人の亡骸が地面に転がり、血が土を赤く染めている。無防備な下半身を潰された男が数十人と、無念の形相でこと切れた女が三人。
倒した側もまた、無念に打ちひしがれていた。
お互いに助かるのが一番だと思って助けたのに。
助けた相手から返ってきたのは、恩を仇で返す無情。しかも女たちは、それが人としてあるべきやり方だと信じ切って死んだ。
こちらが手を差し伸べても、その手に死をもいとわず噛みついてきた。
こんな虚しい事が、この世にあるだろうか。
「……分かりやすい敵に怒りと悲しみをぶつけるのは、そんなに楽でありんすか?」
オリヒメは、足下に転がるおばさんの亡骸に呟いた。
おばさんは、おまえさえ反逆しなければ夫は死ななかったとオリヒメに襲い掛かってきた。動きを封じられ勝ち目がなくなっても、最期まで歯をむいて武器を握りしめていた。
確かに、おばさんの言う事は正しい。
オリヒメがユリエルにすがらず、教会に従ってユリエルを殺していれば、おばさんの夫は死ななくて済んだだろう。
しかしそれは、無実のユリエルの破滅と、オリヒメが虐げられ続けることと引き換えにだ。
むしろオリヒメに言わせれば、元々死と隣り合わせの職の夫が死んでも怒るのに、一生懸命そういう人を助けてきたユリエルの冤罪死はいいのかというところだ。
仕事をしてもしても報われず慰みものにされた自分はどうなんだ、と。
そもそもこの戦いの原因はインボウズの不正なのに、それと戦おうとはこれっぽっちもしないのかと。
「愚かだねえ……こんな事しても、誰も幸せにならないのに。
こいつらを遺して逝った奴は、こんな結果を望んだのかね」
リーガンが、呆れたようにぼやいた。
この女たちは、破滅を避けようと思えば避けられたのに。自分たち以前に仲間のはずの男からひどい目に遭って、それでも学ばないとは。
この女たちと幸せにしていた夫や父だって、大切な人がこんなになるのは望まないだろうに。
なのに感情に任せて突っ込んで、せっかくの助かるチャンスまで自分の手で投げ捨てて。
これのどこが正しいのか。
逆に自分を粗末にして、元凶のために恩人にすら命懸けで襲い掛かるようでは、救いようがない。
結局人間などこんなものかと、皆が失望していた。
しかし、コーデリアだけは希望を失っていなかった。
「まだよ、本当に全てを救えるとは限らないわ。
あと一人……あの一人だけでも、逃げてくれれば……!」
コーデリアの視線の先には、たった一人の生存者がへたり込んで震えている。
女パーティーの中で唯一、大した戦闘力がない荷運びの少女。オリヒメたちを攻撃しなかったため、オリヒメたちも反撃で殺さなかった。
今や、このたった一人が文字通り最後の希望だった。
荷運びの少女は、恐怖と絶望に打ちのめされていた。
別に、必ず勝つとかそんな気持ちでダンジョンに来た訳ではない、ただ、これ以上自分のような悲しい思いをする人が出続けないよう、戦う人の助けになりたいと思っただけ。
彼女には、亡くなった父のような戦闘技術はなかった。持久力と気配を消す技術はあったが、どうにも武術が上達しなかった。
だが父は、どこか嬉しそうに彼女にこう言った。
「それでいいさ、おまえが命を張って戦う事なんてない。
おまえが昔の仲間みたいに死ぬなんて、父さんは耐えられないよ!」
その父がダンジョンで魔女討伐に失敗して死んで、その言葉の意味が分かった。当たり前にいた大切な人を失うのは、こんなに辛い。
なのに、彼女はダンジョンに来てしまった。
父を失い、一家の収入の大半が消え去った。彼女と母が街で仕事をしても、家はどんどん貧しくなっていく。
体を売るしかないとも思ったが、母に泣いて止められた。
そこに、女の幸せを魔女から守ろうと謳うフェミニアが現れた。フェミニアはまっすぐな目で、必ずこの悲劇を終わらせると言った。
そのうえ、それなりに裕福らしく、彼女が荷運びしかできなくても守ると約束し、報酬を前金で払ってくれた。
彼女は、そのまばゆい希望に飛びついてしまった。
生きているだけで何もできない終わりのない日々に、嫌気がさしていた。
自分一人で勝てるとは思わない。しかし、頼れる強い人について行くなら。虫けらのダンジョンに他にも多くの同志がいる、今ならば。
きっと安全に力を貸せると思って、フェミニアについて来たのに。
今のこの状況は、一体何なんだ。
自分たちを真っ先に窮地に追い込むのが魔物ではなく人間だなどと、誰が想像しただろうか。
しかも、自分たちで身勝手に欲望を満たして殺そうなどと。
その暴漢どもの隙をついてダンジョンの魔物が襲って来なければ、自分たちは汚し尽くされて消されていただろう。
だが、一難去っても今度は魔物に囲まれた。
大人しく帰るなら助けてやると言われて、うなずいたら本当に身体が動くようにしてもらえたのには、驚いた。
しかし、仲間たちは魔物と戦い始めてしまった。
これが本来の目的だと言われれば、そうだ。夫を奪った仇が目の前にいることが、我慢ならなかったのだろう。
結果、おばさんたちは皆殺された。
フェミニアも敵の一人と廃屋に入ったきり、出てこない。さっき悲鳴が聞こえたが、あれはどちらのだったのか。
今のところ魔物たちは攻撃してこないが、自分にはもうどうすることもできない。
最初から分かっていたこと、自分の力で勝てる訳がない。
もう希望はフェミニアだけだ。フェミニアが何か取引するかこいつらを撃退するかして、一緒に戻ることができれば……。
どれくらいそうして祈っていたか……ようやく、廃屋の扉が開いた。
出て来たのは、血で全身真っ赤に染まった敵の女。
「うわあああーん!!全っ然、聞いてくれなかったぁー!!
攻撃してくるばっかりで、結局死んじゃったぁー!!」
その言葉に、こらえていた涙がどっとあふれた。
もう、誰も自分を助けてくれない。自分はここでどうしようもない不運に潰され、死ぬしかない。
荷運びの少女は、泣いた。
残った命の全てを振り絞るように、全身全霊で泣いた。
もう二度と会えない母や幼い兄弟たちのことを、許される限りの時間思い出して幸せを祈りながら。
泣いて、泣いて、もう涙も声も出なくなってきた頃……荷運びの少女は、自分の泣き声に別の泣き声が重なっているのに気づいた。
ふと顔を上げると、魔物の女たちが一緒になって泣いているのに気づいた。
血まみれのピンクのドレスの女と、透き通るような白いドレスの女と、ビキニアーマーの美女グモと。
みんな、自分と同じように、たくさん涙を流してわんわん泣いている。
たった一人泣いていない意地悪そうな老婆も、手を出さずに気の毒そうな目でこちらを見ている。
荷運びの少女は、訳が分からなかった。
人を殺す魔物なんだから、ここは殺しにかかってくるところだろう。
なのに、こいつらは一体何をしているのか。
荷運びの少女は、つい気になって声をかけてしまった。
「……どうして、あなた方が泣いているのですか?」
すると、白いドレスの女がしゃくりあげながら答えた。
「あなたと通じ合えた……うっ……支え合った人たちが……ううっ……皆あなたを置いていってしまったのが、悲しいのです。
皆、残される悲しみは、知っているはずなのに……どうしてそれを、押し付けるのでしょう?」
その言葉に、荷運びの少女は面食らった。
「どうしてって……やったのは、あなたたちじゃない!!」
言い返すと、今度はピンクのドレスの女に恨みがましくにらまれた。
「ねえ、私たちが何て言ったか覚えてない?もうこんな目に遭いたくなかったら、さっさと帰って二度と来ないでって。
約束するってうなずいたから、動けるようにしたのに!
あなた以外はみんな約束を破って、私たちを殺そうとした!私だって、あの女騎士に刺されたのよ!
嘘つきはそっちじゃない!!」
見れば、ピンクのドレスの女は傷ついていた。その体を染める血は、フェミニアのものだけではなかったのだ。
それを突きつけられると、荷運びの少女はぐっと唇を噛んだ。
言い返せない荷運びの少女に、老婆が諭すように言う。
「助けてもらった相手にはどうするか、親から教わらなかったのかい?他人と約束したことは、反故にしていいのかい?
あんた以外の連中は、皆恩を仇で返した。
それに当然の報いが、降ってきただけさ!」
言われてみれば、そうだ。
この魔物たちは初め、自分たちを男どもの凌辱から救ってくれた。その後すぐに攻撃してこなかったところを見ると、本当に助ける気だったのだろう。
となると、一方的に悪い事をしたのはこちら。
たとえ因縁があったとしても、尊厳の危機を救われて帰れと言われたのに襲い掛かったのでは、それこそ話の通じない魔物と同じだ。
自分たちだってそんな事をされたら、失望して身を守るために相手を殺すだろう。
こいつらの言い分は、人の基準でも何も間違っていない。
思いっきり泣いて少しすっきりした頭で、荷運びの少女は納得した。仲間たちのこの惨劇は、自ら招いてしまったのだと。
これは不運などではない。必然の結果だ。
自分たちは感情と使命に囚われて相手の行動を何一つ考えず、選択を誤ったのだ。
たとえ憎い相手でも、自分たちの身に起こったことを考えて謙虚に行動すれば、皆で生きて帰れたのに。
今さら気づいて、馬鹿みたいだった。
ピンクのドレスの女が、すがるような目で見て問う。
「それで、あなたはどうするの?
あなたはまだ何もしてないから、このまま見逃すことはできるわ。さっき言った通り、さっさと帰って二度と来なければいい。
そうしたら、あなたは家族に同じ思いをさせずに済むんだけど」
その言葉が、今度は胸の奥に染みわたった。
自分が父を失った時の悲しみ、今さっき仲間を失った悲しみ……自分が選択を間違えなければ、それを街で待つ家族に押し付けずに済む。
荷運びの少女は、今度こそ素直にうなずいた。
「はい、帰ります……ただし、私一人で帰れたら、ですけど」
帰れると分かった時は、心に翼が生えたようだった。
しかし実際の帰り道を考えると、その翼はすぐにもがれた。
荷運びの少女は、たった一人になってしまった。来る時に守ってくれた仲間は、もう誰一人残っていない。
果たして、この状況で帰れるのか。
帰り道にも、さっき襲ってきたような欲情にぎらついた男どもが大量にうろついているのだ。そいつらが、か弱い荷運びの女一人を見つけてどうするか。
一応気配を消すことはできるが、見つかってしまったら一巻の終わりだ。そしてもちろん、下種共の中にはそれを看破できる斥候がいるだろう。
今生きて放たれたとて、それは肉食獣の群れをウサギに突破せよと言うようなものだ。
「はあ……無事帰れなくても、自己責任ってことですよね。
これが嫌だったら、他の仲間を頑張って説得しとけ、みたいな?
はいはい、やれるだけやってみますよーだ!」
つい、荷運びの少女の口から愚痴が漏れた。
この魔物どもは自分を逃がすと言うが、それは結局希望を持ったまま死ねということじゃないか。
現実的に脱出できる可能性を考えると、そうとすら思えてきた。
その言葉に、魔物女どもは顔を見合わせた。
「……それもそうか。よく考えたら無理ゲーよね」
「でも、そのためにわっちらが道を開くのも、割に合いませんえ」
ここで、白いドレスの女が膝をついて他に懇願した。
「難しいのは分かります。
ですが、どうか逃がして、無事帰らせてあげたいのです!
この娘は、私たちを攻撃していません。それに、世のため人のためにできることをしようとする、清く美しい心の持ち主です。
お姉様方、どうかお慈悲を……!」
その様に、荷運びの少女は少なからず困惑した。
この白いドレスの魔物女は、自分のために命乞いしているのだ。ただ人間を殺したいだけの魔物が、こんなことをするだろうか。
こいつらは、本当に邪悪な魔物なのだろうか……そんな疑問が頭の隅をかすめた。
魔物女たちはしばらく考えていたが、やがてピンクのドレスの女が寄ってきて言った。
「分かったわ、約束しちゃったしね。
あなたを岩ムカデちゃんに縛り付けて、出口付近まで送ってあげる。あなた小柄だから、地下の虫さん用通路を通れるでしょうし。
ただし、道中の目隠しはさせてもらうわ。
それから、出たらすぐ泣いて衛兵にすがること。でないと、また襲われるわよ!」
「岩ムカデ……?」
方法はとてつもなく嫌だが、生きて帰れる方法は用意してもらえた。自分たちを苦しめた虫の奇襲用通路が、こんな風に自分の命を助けるとは。
だが荷運びの少女は、表情を緩めなかった。
ここから出られるめどはついた。だがそれでも、自分がこれから生きていくための根本的な問題は解決していない。
荷運びの少女は、今度こそ愛想をつかされるかもと思いつつ、もう一度愚痴を吐いた。
「ありがとうございます。これで、生きて帰ることは、できます。
帰ったら、お母さんに謝って娼館にでも行きましょうか。
だって、あなた方が父を殺したせいで、うちは暮らしていくお金がないもの!奪ってから小さな慈悲をかけるのは、楽しいですね!」
だってこれは、本当のことだ。
そもそもこいつらが父を殺さなければ、家族が困窮して自分がこんな所に来ることはなかった。
原因を作っておいてちょっと優しくするとか、ふざけている。
こいつらを攻撃して殺されたおばさんたちだって、幸せな暮らしを支えてくれる人を奪われたから明日が見えなくてそうしたんだ。
自分たち以外にも、街にはそんな女子供があふれている。
こんな偽善の茶番をやるくらいなら、もう原因を作るのをやめろと、ガツンと言ってやる。
たとえそれで怒りを買って殺されても、どうせ地上に戻れたって困窮してみじめに折れていくしかないのだから。
すると、老婆が手を叩いて笑いだした。
「フェッフェッフェ、そりゃいい考えだ!
それなら、ここみたいに好き勝手に襲われることはない。証拠を消すために殺されることもない。無体なことをされたら、娼館の警備や衛兵が取り締まってくれる。
ちゃんと、今よりいい道を考えられるようになったじゃないか!
あたしたちは外を攻撃しないんだから、これなら死なないねえ!」
「それ……は……!」
荷運びの少女は、心臓をぎゅっと握られたようだった。
言い返せない。老婆の言う通りだ。
自分は体を売るなんてと思ってここに来たが、ここの方が娼館より遥かに危険で救いがない場所ではないか。
さっき体験して思い知ったはずなのに、自分はまだ分からなかったなんて。
娼館で働けば、少なくとも毎日生きて家に帰れる。それなりに金を稼いで、家族を支えることができる。
それを選んだ人たちを哀れみつつもどこか見下して、あんなにはならないと思っていた自分が、愚かすぎて涙が出そうだ。
むしろ自分の体験が語られたら、自分こそそう思われる側だろうに。
打ちのめされた荷運びの少女に、白いドレスの女が慰めるように言った。
「大丈夫よ、すぐそんな事にはならないわ。
あなたは、私たちときちんと話をしてくれた。だから私たちも、ここにあるものをあなたにあげる。
しばらくは、それを売れば暮らせるはずよ」
そう言って、白いドレスの女は無造作に摘んだ花を差し出した。心を癒すいい香りの、カモミールの花だ。
「ええ……こんなの、どこででも作ってるじゃん。
こんなんが、大金になる訳……」
失望する荷運びの少女に、ピンクのドレスの女が半ば呆れて言った。
「……辛いのは分かるけどさ、どんだけ目が曇ってんのよ。
今、外、真冬よね?ありきたりなハーブだけど、今咲いて茂ってる?」
瞬間、荷運びの少女は頬をはたかれたように目が覚めた。
春や夏にはいくらでも手に入る生ハーブだが、今の季節は見る影もない。全くなくはないが、温室育ちかダンジョン産か遠くからの輸入品で、高い。
その今は得難い生ハーブが、こんなにあるのだ。
これが金にならない訳がない。
気づいた途端に、荷運びの少女はものすごい勢いでハーブを摘み始めていた。
死体の転がる凄惨な現場から離れて、少女はひたすらハーブを摘む。
周りでは、ダンジョンの魔物女たちも一緒になってハーブを摘んでくれる。
辺り一帯を、ハーブのいい香りと小妖精たちの笑い声が包む。いつの間にか、荷運びの少女の周りでは小妖精たちが作業を手伝っていた。
ハーブを種類ごとに分けて、ひもで束ねてくれている。
さらに美女グモが尻から糸を出してハーブの切り口に巻きつけ、白いドレスの女がそれに水を含ませた。
これで、数日は枯れないはずだ。
「うわ……そこまで、してくれるんですか?」
驚く荷運びの少女に、美女グモはささやいた。
「おまえさんが、昔世話をしてやった男に似ているでありんすから」
そう言ってささやかれた名前に、荷運びの少女は目を丸くした。
「どうして、お父さんの名前を知っているの!?」
すると、美女グモはとんでもないことを告げた。
「その男が、浮気で家庭を壊さぬためなどと言って、時々わっちを揉みに来ていたでありんす。冒険者にしては、人間としてはできた男でありんすね。
わっちならタダだから家計を傷つけぬとか、人間でないし子作りする訳でもないからセーフだとか……。
そうしてわっちが体を張って守った娘を殺すのは、寝覚めが悪いですえ」
驚愕の事実に石化した荷運びの少女に、美女グモはぴしゃりと言い放った。
「おまえさんも母親も、冒険者に夢を見るのは大概にするでありんす!その日暮らしの男など、一皮むけばこんなものですえ。
他の女にも伝えんさい……おまえさんらの夫より遥かに下種の、レベルだけ上がったゲースが百人いるような所に、娘を突っ込ませなさんな!!」
「……はい、すみませんでしたあぁ!!」
荷運びの少女の赤っ恥にも構わず、荷づくりは進んでいく。
荷運びの少女のパーティーと襲ってきた男たちの分も合わせて、ありったけのマジックバッグに新鮮なハーブが詰められ、数日分の魔力が込められた。
これらは水と食糧の便利セットが入っていた量産品で、容量が少ないうえ魔力を与え続けないとそのうち壊れる粗悪品だが、数は力だ。
準備が整うと、最後にピンクのドレスの女が短剣を差し出した。
「これ、あなたたちのリーダーの遺品よ。
彼女はこれを使って私を調べようとしていたみたいだから、一族の人に渡せば何か分かるかも。
……ただ、あなたまで魔物の手下だって思われる可能性はあるわ。
だから、渡すかどうかはあなたに任せる」
荷運びの少女は、そこまでの気遣いに感謝した。
「ありがとうございました。
……どうか、優しい心のあなた方が、早く邪悪な魔女ユリエルから解放されますように!」
直後に、美女グモの糸が荷運びの少女を岩ムカデの背に縛り付け、視界を遮った。その言葉に歪んだユリエルの顔を見ることは、なかった。
岩ムカデが走り去ると、ユリエルはその場にへたり込んだ。
「私が、邪悪な私から解放されますように、かぁ……たははっ!」
無理して笑ってみたものの、涙が止まらない。
手下に見せかけた自分たちがこんなにしても、あの純粋な少女はユリエルが邪悪だと信じて疑わない。
自分がユリエルだと明かしたら、きっとフェミニアと同じことになっただろう。
たった一人救うことはできた。しかし同時に突きつけられたこの事実が、何より悲しく胸を抉った。
しかし、コーデリアは言った。
「いいんです、きっといつか、死ななければ分かってくれる日が来ます。
そしてあの娘の話が伝われば、きっと何十人かの女たちがその道を歩んでくれるでしょう」
正しい報いは、慈悲は、決して無駄ではない。
自分のために誰よりも強くその言葉を信じて、ユリエルは終わりの見えない防衛に戻っていった。
暮らしの基盤を失って危険な場所に来ている人は、一旦帰したとて一時しのぎにしかなりません。危険な行動の原因と視野の狭さを何とかしないと、繰り返したり別の悪い道に行くだけです。
今回はリーガンとコーデリアが、いい警官悪い警官のように諭してくれました。
そして、ダンジョンが資源の供給源となるテンプレ発動!
今のところ虫けらのダンジョンには森の植物系しか目立った資源がありませんが、これも外の季節によっては高値で売れるのだよ!
なお、この間7階層では終着点にボス部屋を復活させ(プライドンのお付きの騎士が閉じ込められたやつ)、レジスダンと二体の新タフクロコダイルガイが交代で誰も通さず守っていました。
まだ来ているのが実力の伴わないクズばっかだからできたことである。
 




