102.東方昔話~仙女姉妹と鉄仮面
一週とんでしまった(汗)
次の章に入る前の閑話、今回は仙女姉妹の昔話です。
処女の話題で盛り上がるユリエルたちに、仙女姉妹が語った悲しい愛の物語。
仙女たちが犯した罪の原因と本質とは。
ロドリコたちとの戦いで登場した、鉄仮面の鎧武者さんの正体が明らかになります。
この陣営、モテ美女や都合がいい男に恨みを持った奴らが多い!美王勢力に悩む魔王が魃姫を頼りにするのも、納得の布陣である。
「新年、おめでとう~!!」
花で囲まれた広場に、陽気な声が響く。
ユリエルたちは、魃姫の配下三人の慰労も兼ねて新年会を催していた。
聖呪の期日までインボウズの様子に神経をとがらせていたため、年が変わって数日過ぎてしまったが、とりあえず一区切りだ。
この戦いに多大な力を貸してくれた三人には、たっぷりお礼を言わねばならない。
ユリエルたちはまず、三人の前にごちそうを並べて平伏した。
「会議でお会いして三か月、本当にありがとうございました!
あの時はできるだけ自分の力でとか浅はかに思っておりましたが、皆様のおかげでここまで生き延びることができました。
ダンジョンの全員で、お礼を申し上げます!」
すると、桃仙娘娘は柔らかな笑みで返した。
「そんなにかしこまらなくていいわ、顔を上げてちょうだい。
お互い様でいいわよ、こっちもユリエルちゃんにいろいろ楽しませてもらったもの。
魃姫様から、あなたにお礼を伝えるよう言付かってるわ。心ばかりの贈り物、楽しんでねって!」
桃仙娘娘がパチンと指を鳴らすと、広場の周りにテーブルのような木が生えた。
そしてその上に、顔にお札を張ったアンデッドの女官や兵士が次々と料理をサーブしていく。
どれも見慣れぬものだが、ユリエルたちの素朴な料理とは比べものにならない、豪勢な異国の料理だった。
「うわぁ……またいただいてしまって!
本当は、こちらから魃姫様にお礼を申し上げにいくのが筋でしょうが」
ユリエルが申し訳なさそうに言うと、桃仙娘娘は首を横に振った。
「いいわ、自分がいたらあまり楽しめないでしょうっておっしゃってたから。
それに、姫様は姫様で魔王様との用があるから」
「あ、そうなんですね……さすが四天王」
確かに魃姫本人がここに来たりそちらの城に行ったりしたら、皆緊張して宴どころではなくなるだろう。
それを想定して出張ってこない辺り、淑女の気遣いを感じる。
格の違いで言えば今ここにいる三人も十分上位者なのだが、特に仙女姉妹はとても人懐っこくて既にここの仲間と打ち解けている。
鉄仮面の鎧武者はまだ少し近づきがたいが、上司の仙女姉妹がこれでよしとしているものをブチ壊したりしない。
「それでは、ユリエルちゃんの健闘と悪徳坊主の悲鳴に乾杯―!」
こうして、桃仙娘娘が音頭を取り、楽しい宴が始まった。
宴の中でこれからのことを話すうちに、ユリエルがミエハリスにぽろっと言った。
「そう言や、帰さないとか言っといてアレだけどさ……ミエハリスには婚約者とかいるの?
処女だからまだそういう関係にはなってないんだろうけど、これで仲が冷めちゃったら悪いなって」
その言葉に、ミエハリスは盛大に噴き出した。
「親が決めた婚約者なら……って……ブボオオォ!!
な、何であなた、わたくしが処女だって知ってますのよ!?」
その問いに答えたのは、ミツメルだ。
「ああ、おまえの血を取引材料としてダラク様に差し出すときに、こいつは処女かどうかの鑑定を依頼していたぞ。
余程おまえをふしだらだと思っていたようだな!」
「何ですってええぇ!!」
怒りと恥で真っ赤になるミエハリスに、ユリエルは慌てて謝った。
「いや、誤解しててごめんって!
あんたっていつも男に声かけてるイメージあったし、カッツ先生のこともあったからさ……体で稼いだ金をカッツ先生に貢いでんのかなって思っちゃって。
先生だけじゃないってバラしたら、あのクソが動揺するかと思って」
ユリエルの吐露したあまりなイメージに、ミエハリスは仰天した。
「そ、そんな……あなた、貴族の人脈づくりを何だと思って……!
ハァ……とりあえず、あなたが何も知らずに恋に恋する子供だってことは分かりましたわ。
それにしても、あのクソ教師のせいでそんな偏見まで……やっぱりもっと殴って潰しておくべきでしたわね」
ミエハリスは、どうにかユリエルを殴らずにこらえた。
ユリエルはただ、知らないことに指をくわえて嫉妬していただけ。
それに、処女であることがバレたところで悪いことにはならない。むしろ、こういう偏見の明確な否定材料になる。
なのに自分より明らかにかわいそうな状況のユリエルを叩いたら、度量の狭さが知れてしまう。
同じ処女でも男の経験値がこれだけ違うのだと、ミエハリスは密かに優越感を持った。
そんな貴族女の心中も知らず、ユリエルは提案してきた。
「じゃあさ、純潔な人にしかなつかない聖獣を護衛につけてあげよっか。
そうしたら、私もあんたも偏見を跳ね返せるし。インボウズの信用を、もっと落としてやれそうだし。
ここ、それなりに処女が多いから有効だと思うんだけどな」
そう言ってユリエルは、仲間の方にチラリと視線を向けた。
すると、オリヒメもうなずいた。
「そうでありんすねえ……わっちも未だ、下は汚れなき身ですえ。
上は底辺冒険者によく揉まれんしたけど、さすがに蜘蛛の下半身に突っ込む男はいませんでしたえ。
男を知っているのは、ミーハとワークロコダイルくらいでありんすかねえ」
オリヒメの答えには、これまでの苦労がにじみ出ていた。
上半身だけさんざん弄ばれて下半身はほったらかしとは、ある意味全身味わってもらうよりひどい話だ。
オリヒメも処女なのに冒険者からそういう目で見られているので、それを払しょくする何かが欲しかったのだろう。
「じゃあ、ユニコーンとか……奮発しちゃう?
レベルを高くしておけば、仙女さんたちとも一緒に戦えるかも……」
だがそこに、杏仙娘娘が水を差した。
「うーん、それは無理だね。
だって純潔な人しか受け付けないんじゃ、あたしたち蹴られちゃうし」
ユリエルたちは、固まった。
まさかの、さらっと非処女宣言である。仙人だから清らかだと思っていたのに、完全に不意を突かれた。
「そ、そうだったんですか……。
そうだ、旅人、たくさん助けてきましたもんね!そういう仲になる人も……」
「いないよ。あたしたち、果物と木陰以外はなーんにもあげてない」
「ええっ……あ、でも、女子力高いですもんね!
呪われる前はさぞかしお美しかったでしょうし……」
「うん、この程度だと仙女としては中の上かな」
フォローしようとして墓穴を掘りまくりのユリエルを見かねて、桃仙娘娘が助けに入った。
「こら、無知な生娘を困らせないの!
ごめんなさいね、こいつ優しさが足りないくせに、愛されたことがあるからって変に自信持っちゃって。
わたくしたちは、先にそればかり知ってしまって、人の心に無知でこんな身になったのに」
桃仙娘娘が悲しそうにぼやくと、杏仙娘娘はぷーっとふくれた。
「でも、お師匠様があたしたちを愛してくれたのは本当だもん!
あたしはどうなったって、お師匠様の愛を悪く言ったりしないんだから!」
「あのねえ、別にそれ自体を憎んでいる訳じゃ……」
二人とも、その相手のせいでこうなった面は認めているものの、その相手との愛は大事に守ろうとしている。
ユリエルたちがぽかんとしていると、桃仙娘娘はすまなさそうに告げた。
「ごめんなさいね……わたくしたちには、かつて深く愛し合ったお師匠様がいるの。
というか、わたくしたちは始めから、お師匠様がそうするために人の姿を与えられたの。でもその時間は、わたくしたちの一番幸せな時間だった……」
桃仙娘娘は切ない目をして、遠い昔の話を始めた。
桃仙娘娘と杏仙娘娘は、一番初めは魔力の濃い険しい霊山に生える桃と杏の木だった。長年その山の魔力を吸収してわずかに意思が宿り、二本の木はレーシーとなった。
その霊山の近くに、一人の仙人が住んでいた。
その仙人は強い神通力を持つ男で、よく二本に実る果実を食べに来ていた。
ある日、仙人は二本の側で休みながら愚痴をこぼした。
「ハァ……儂にも、このように甘酸っぱく愛らしい伴侶がおったらのう。
仙人となりいくら生きても、このような無味な暮らしでは、命短きあやつらの子孫に勝った気がせんのじゃ」
仙人は、二本の木を話相手のように身の上を語った。
仙人は元々、霊山のふもとの村に住んでいた人間だった。
そこで彼は、年頃になっても中年になっても全く女にモテず、悔しい思いをしていた。彼は努力家ではあったが、愛が重すぎたり努力の方向が間違っていたりして、いつも空回ってしまっていたのだ。
次々に結婚していく他の男たちにからかわれて、彼は決意した。
ならば純潔を逆手に取って、修行して仙人となり、笑った奴らを見返してやると。
元より努力家の彼は、厳しい修行の末に晴れて仙人となった。羽のように軽い体で空を飛び回り、不老の体を手に入れた。
しかし、心が晴れた訳ではなかった。
女を手に入れた男たちは、確かに皆老いて死んでいく。しかしそいつらの人生には、輝くような幸せがあった。
そいつらの子孫もまた、恋をして、愛し合って、命をつないでいく。
それを眺めていて、仙人はひどく虚しくなった。
たとえ数十年の命でも、こちらの方がずっと充実していて味があるではないかと。
「天の官位なぞいらん、抱けぬ女神に仕えても意味がない。
誰か、この寂しさを埋めてくれる者はおらんかのう」
その言葉を、二本の木は黙って聞いていた。そして、いつも遠くに種を持っていってくれるこの人に、恩返しがしたいと思った。
そこで二本の木は、初めてレーシーとしての力を使い、仙人がダダ漏れにしている女の理想を読み取って変身した。
といっても、まだ木の幹から女の胸から上が生えているような不格好なものだったが。
それでも、仙人は大歓喜した。
「おお、既に樹精となっておったか!
そうかそうか、愛い奴め!よし決めた、おまえたちを嫁にするぞ!」
こうして仙人は、二本の木に力を分け与えて人の姿とはっきりした意識を与え、自分の妻として一緒に暮らし始めた。
先に生えていた桃を姉、後に生えた杏の木を妹とし、仙人として修業をつけながら思うさま愛でて暮らした。
おかげで、姉妹はめきめきと力をつけた。
だが代わりに、姉妹に精を漏らしすぎた仙人は急速に力を失っていった。
「ああ、心配はいらん。この程度、ちょっと真面目に修行すればすぐ取り戻せる。
それに、力なぞ今のこの幸せには代えられんわい!」
姉妹が心配しても、仙人はそう言って姉妹を濃密に愛し続けた。
元は真面目な男だが、数百年心の底から願い続けた幸せには勝てない。目の前に姉妹がいると、つい手が出て止まらない。
さらに、たまにこの二人を見せびらかすように街に下りて、定命の者の美味を姉妹と共に楽しむようになった。
人間社会のことを何も知らない姉妹が何かやらかし、その尻拭いをする時ですら、仙人は幸せそのものだった。
「おうおう、何も心配せんでいいぞ。
おまえたちは儂の娘のようなものじゃ、育てるのもまた楽しみというもの」
仙人は、二人に娘としての愛も向けた。
山で見つけた玉や薬草を売って美しい着物や装身具を買い、二人を美しく飾り立ててますますのめり込んだ。
そうして暮らすうち、仙人は空も飛べなくなり、不老の力も失って老いさらばえてきた。
「お、お師匠様、養生なさってください!
このままでは、死んでしまいます!!」
姉妹が慌てて諫めても、仙人……いやもうただの老翁は、満たされて酔いしれた笑顔のままやめなかった。
「いや、もうこのまま死んでも良い!
むしろこのために、儂はこれまで生きてきたのだ。
いつかこれを失う恐怖に怯えるよりは、このままおまえたちの側で……」
主にそこまで言われては、姉妹もそれ以上何も言えなかった。それに内心、男がここまで命懸けで愛してくれるのが快感になった。
そうして目くるめく愛の日々の末に、老翁はこう言い残して逝った。
「大丈夫じゃ、おまえたちはもう儂なしでも生きていける。
何も心配することはない、おまえたちは最高に可愛いからのう。おまえたちを愛さぬ男などいるものか!
自信をもって生きてゆけ……」
最期に老翁は、桃仙娘娘の膝枕で、蚊の鳴くような声で呟いた。
「おっかさん……」
姉妹は、力を失い冷たくなっていく老翁の手を長い事握っていた。
姉妹にとって一番幸せな時間の、終わりだった。
それから主を失った二人は、別の仙人に発見され、聖王母の下に連れて行かれてそこで仕えることになった。
聖王母は二人が一人の主に仕え抜いたことを評価し、自分への信仰を高めるために旅人を助ける仕事を与えた。
これだけ人の愛を知っていれば、元が人でなくても大丈夫と思ったのだ。
だが結果から言えば、それが大きな過ちだった。
姉妹は確かに元人間の仙人に愛されて育ったが、それは人間を知ることからは程遠い暮らしだった。
仙人は姉妹に、妻、娘、母とあらゆる女への愛情を浴びせて甘やかした。
結果、二人は人間とはこういうものだと思い込んでしまった。
さらに、仙人は二人の面倒を見るのが楽しくて、二人の機嫌を損ねたくなくて、何でも尻拭いをしてしまっていた。
そのため二人は、何かやらかしてもきっとどうにかなると、世の中をなめていた。
どこでも可愛がられて何でも通じると、思い上がっていた。
聖王母の下で礼儀や立ち居振る舞いを頑張って学んだのも、自分たちがより美しく見られて可愛がられるため。
叱られても頑張るのは、最終的に必ずうまくいくと信じているから。
それは一見、真面目で高潔に見えた。
しかし姉妹は、学ぶ事の背後にある大事な事……相手を思いやって不快にさせないよう気遣うことなど、知ったこっちゃない。
元は人の心はおろか、動物の本能すらよく知らない植物なのだ。
だが人からチヤホヤされることの快感を知り尽くしてしまった二人は、そういうことを聞こうともせず、ただ信仰心を集めるために仕事を始めてしまった。
その結果どうなったかは、魃姫がユリエルに語った通りである。
それは結局、聖王母への信仰を揺るがし魃姫を助けることになった。
姉妹は魃姫討伐に敗れて逃げ帰ろうとする兵すら神秘的な演出で弄び、それに怒って攻撃してきた大将を倒してしまった。
「ぐっぬううぅ……なぜ、なぜ兵たちをすぐ助けぬ!?
某はただ、兵たちの消耗を少しでも抑えようと……ガハッ!」
「そんな、炎灼将軍―!!」
疲れた体に鞭打って全力で戦った末に、無念を噛みしめて息絶えた、鉄仮面に赤マントの大将……轟炎灼将軍。
本当に自分たちを思って倒れた将軍の周りで泣き崩れる兵士たちに、杏仙娘娘はふくれっ面で言い放った。
「あーあ、無駄に暴れなきゃ死なずに済んだのに!
ちゃんと助けてあげるつもりだったのに、そんなに信じてなかったの?そういうの、良くないよー。
可愛くて優しいあたしたちを傷つけようとするなんて、男として最っ低!」
この暴言に、桃仙娘娘も落ち着き払って子供のいたずらのように謝るばかり。
「ごめんなさいね、この子ったらちょっと言いすぎて。
でもこっちも危ない目に遭ったのだから、許してくださる?」
これに、敗残兵たちは絶望した。
自分たちは飲み水もない砂漠で、こんなに一生懸命逃げてきたのに。命の瀬戸際で助けを求める人の心が、分からないのか。
それを命懸けで守ろうとしてくれた、轟炎灼将軍の心が分からないのか。
しょうがないなあと桃と杏の木を生やした姉妹の前で、兵士たちは怒りと恨みのあまり自害し、まだ元気な者は逃げ出した。
その死者と轟炎灼将軍の魂は追って来た魃姫の手に落ち、頭が空っぽで傲慢な美女への恨みから望んで魃姫の配下となった。
この惨状に、世の人々は戦慄した。
聖王母の配下は、自分たちを素直に助けてくれない。むしろ、点数稼ぎのために平気で弄ぶ。
そんな奴の主など、信じられるか。
それに、優れた武勇と炎耐性に指揮能力まであった轟炎灼将軍が敵になったら、もう誰が魃姫とこいつらを止められるのか。
こんな事態に、誰がした。
結果、聖王母の信仰は大きく落ち、聖王母配下の天軍は総崩れとなった。
その代わり、人々の信仰は原初からいる大地の夫婦神に移り、異変を察知して出て来た夫婦神により魃姫は鎮圧されるに至る。
その後、姉妹と聖王母は人の心をないがしろにした罰を受けた。
聖王母は数百年間山の下敷きになって反省させられ、姉妹は魃姫に仕えて並の人間の心を思い知るよう呪いをかけられた。
仙女姉妹は悪夢に囚われ、これまで踏みにじった人々の記憶と感情を追体験させられた。
喉が渇いて体が動かないのに、思わせぶりな演出ばかりで満たされない。そういう体験をして生きて帰って来た夫が、後遺症でおかしくなってしまった。
物理的に障害がなくても、助けられた体験が強烈すぎて夫が仙女ばかり夢見るようになり、人として懸命に尽くしても比べられて以前のように愛されない。
人々のため化け物討伐に行った夫や息子の無事を毎日祈っていたのに、仙女の気まぐれで死んでしまった。
誠実に愛して支えてきたのに、どうしてこんな目に遭うのか。
人の心がない仙女が憎い。
その気持ちに囚われて、目の前に現れた軽い調子の仙女の体に刃を突き立て、瞼を切り取って口を裂いて。
……悪夢から覚めた時、姉妹の体には数知れぬ癒えぬ傷が刻まれていた。
悪夢の中で、自分たちが人間の心で自分たちを憎み傷つけたとおりに。
姉妹がそれに気づいてどんなに謝っても、魃姫は許してくれなかった。その代わり、その姿を見て留飲を下げた轟炎灼将軍とは許しを得て仲直りできたけれど。
「……わたくしたちは、気を引いた男にも別の大切な人がいるってことに気づけなかったのよ。
その人のために、生きたい助かりたいって、人が身を切るように願うことも。
そしてわたくしたちは、平気でそれを壊してしまった」
桃仙娘娘は深い後悔とともにそう言って、レジスダンやワークロコダイルに囲まれている轟炎灼の方を見た。
一応許しは得たが、彼が人として送りたかった人生はもはや取り戻せないのだ。
息が詰まりそうな空気の中、杏仙娘娘がミエハリスに声をかけた。
「あんたも、いろいろ若い男に声をかけて気を引いてたって。
でも、そいつらにも相手がいるかもしれない。もしそれで関係が壊れちゃったら……あんたが処女でも、許してもらえるかな?
あたしたちみたいにいっぱい刺される前に、考えた方がいいよ」
「こ、心しますわ……!」
ミエハリスは、真っ青になって震えていた。
結局、ミエハリスが己にふさわしくないと辞退し、ユニコーンの話は流れた。
地上から隔絶されたダンジョンの底で、ミエハリスは思う。自分は刺されたり陥れられたりする前にここに来られて、良かったのかもしれないと。
轟炎灼:モデルは水滸伝の呼延灼+轟天雷(凌振)、ジャイアントロボのコ・エンシャクもかなり入っている。
二丁鞭を得意とする炎耐性の高い武人で、現在の種族はイフリート。
魃姫は人の敵ではあるものの、彼女の来歴と、自分が思い上がった美女に遭った仕打ちから同情と仲間意識のようなものを抱いて仕えている。
仙女姉妹は、中国の有名な小説「白娘子」の失敗バージョンみたいなものです。
白娘子の主人公も元々大蛇だった仙女で、人間社会のことを知らなさ過ぎて善意でやらかして道士に退治されかけたりします。
元が植物の仙女で、非モテだった仙人の全ての女に向けたかった愛情をドバドバ注がれて全肯定されて育った、そんなんで助けるべき人間の心が分かる訳がなかった。
なお、仙人を理想とする道教に「房中術」というものがあり、男女の交接によって精気を養う方法だそうです。
なので、仙人が伴侶を求める話も残っています。
ただし、その場合男は精を漏らさないことが条件なので……我慢できなかったら出て行くばかりで逆効果なのだよ。
聖王母の罰せられ方は……孫悟空みたいなもんです。




