101.森を見て木を見ず
章の終わりに、神様のパートです。
それから、救いのない状況で足掻く審問官さんも。
地上で、神の力を使う聖呪がこんなになっている状況で、それでも現場のことを考えないロッキードは何を考えているのでしょうか。
広い視点は大事、しかしそれだけでは世の中回って行かないものです。
「はい……はい、了解しました。こちらでの調整はお任せください」
審問官は、通信の魔道具でインボウズと話していた。
審問官はこのところ、総本山でインボウズのために忙しく働いている。そしてこれからは、さらに忙しくなりそうだ。
「いいえ、新居探しは焦らず進めれば大丈夫ですので。
では、すぐにでも虫けらのダンジョンに派遣する戦力について他の枢機卿の部下と調整いたします。
決まりましたら、すぐお知らせしますので。
その代わり……妻と娘の安全については、どうかお願いします」
通信の魔道具の向こうから、少し間があって返事があった。
今使っているのは音声のみの通信だが、向こうに面倒くさそうなインボウズの顔が浮かぶようだ。
この忙しい時にそんなことに手間をかけたくないが、大事な部下なので渋々といったところか。
通信を切ると、審問官はふーっとため息をついて体を伸ばした。
(そうだよ、俺は大事なんだから、せめて家族くらい守れよ。
こっちはこの世の終わりみたいなことの片棒担がされて、自分が終わる方向目指して仕事してるってのに!)
審問官がこれから忙しくなるのは、神敵と認定されたユリエル討伐の戦力調整のためだ。
ユリエルが神敵と認定されたため、これからは他派閥や教会中枢の戦力を討伐に使えるようになる。
総本山でそのための渡りをつけるのが、審問官の新たな仕事だ。
それにしてもこの世の終わりだ、と審問官は思う。
自分が家族を守るために偽りの審判で陥れた娘が、抵抗でせっかく手にした成果が元で、神敵認定されてしまうとは。
この世の真実と正義は、一体どこに行ってしまったのだろうか。
(……これ、今まで以上に人が動員されて死ぬやつだよな。
しかも信心深くて頑張る人ほど、いいように使われて死んでくパターンだ、本っ当に救いようがない!
……けど、俺の判定もその根拠にされてるんだよなぁ)
これからの戦いで人が死ぬ責任の一端が自分にもあると思うと、審問官は生きることすら虚しくなってくる。
だが、敬虔に教会と自分を信じる妻子のために、この仕事を投げ出すわけにはいかない。
(だが、まあ……この役目は俺で良かったのかもな。
これなら、せめて虫けらのダンジョンに突っ込ませる相手は俺が選べる。
クリストファー卿の力を借りて、削れる悪だけでも削ってやるさ!)
自分のしてしまったことは、取り返しがつかないことだ。しかし自分にはまだ、世の人々のためにできることがある。
審問官は重い心を無理矢理引きずって、仕事に向かった。
神聖院にある小さな打ち合わせスペースで、審問官は調整相手と会う。今日の相手は、ラ・シュッセ卿の部下でとある楽聖女のプロデューサーだ。
「あああ……よろしく頼む!
消すでも、文句が言えない功績をつけるでも、どっちでもいいんだ!どっちもないこのままだと、俺は死ぬううぅ!!」
相手は、かなり憔悴していた。
だが、こうでもなければクリストファー卿の下に駆け込んでは来ないだろう。
今日のこの打ち合わせは、お互いの目的のためにクリストファー卿が秘密で引き合わせてくれたものだ。
相手もまた、自分がプロデュースした利益装置が爆弾化して苦しんでいた。それを何とか処理するために、クリストファー卿との取引に応じたのだ。
「こ、こんな事になるなんて、思わなかったんだぁ!
爆発してつるし上げられる前に、できれば終わらせてくれぇ!
そしたらクリストファー卿が、ましな所に追放してくれるからぁ!!」
相手は、そう言って審問官に泣きついてきた。どうやらこいつは審問官と違い、自分以外に守るものがなく死ぬ覚悟も決められなかったらしい。
「分かった分かった、まあユリエルと魃姫を信じよう。
少なくとも、神よりは信じられるぞ」
審問官がかけた不信心な言葉に、相手はすがるようにうなずいた。
「ああ、間違いねえ!
神なんて、祈ったって働いたって救っちゃくれねえんだよぉ!!」
この相手も、聖職者でありながら、とうに信心など失っている。
腐った枢機卿に仕える者たちには、上の利益のためにありとあらゆるしわ寄せがいく。最初は教会のために清い心で働いていても、すぐに擦り切れてしまう。
上司の悪事の尻拭いや尻尾切りで自分たちがどうなっても、神は助けてくれない。
それを思い知った部下たちも信じられるのは自分だけになってしまい、自分のためだけに下から搾取するようになる。
そんな訳で、今教会には上から下まで汚職と腐敗がはびこっている。
しかしその中で生命を断たれそうな者が、こうしてクリストファー卿に泣きつき、悪を生贄に差し出してくる場合がある。
もはや、教会内部の膿はそういう場合に少しずつ出すしかない状態だ。
(なあ神様、見てるか?
あんたが力を渡してる奴ら、こんなひでえ事してるんだぞ。
……見てないんだろうな。こんなになっても、枢機卿に自制を促す神託の一つもないもんな。
俺らなんて、それこそ広い森の虫けら一匹でしかないんだろうな)
審問官は、教会の崇める神を思ってげんなりした。
こんなことを続けていけば社会や信用はどうなるか、子供でも分かるだろうに。神は、何も分かっていないのだ。
(確かに分かりやすい敵を作れば、一時的に信仰心は高まるかもしれない。
けど、人間だってそう何度も裏切られて信じ続けられるほど馬鹿じゃないぞ。
そろそろあんた自身のためにも、収入の表面だけじゃなくて根っこの方も見た方がいいと思うがな)
きっと神の視点は広すぎるのだと、審問官は思う。
領地を一望できる城に住み、広大な森をさっと見て大丈夫だと満足しているような。
しかし、その青々とした林冠の下で起こっている問題は見えない。自分から見に行こうとしないのだから。
だが、それが森全体に広がってパッと見て分かるようになる頃には、すでに手遅れなのだ。
できれば手遅れになる前に神が気づいて動いてくれたら、他人も教会もずっと救われるのだが……現状を見る限り望み薄だ。
それでもいつかは気づいてくれと祈りながら、審問官は少しでも人の力で病巣を取り除く努力を続けた。
美しく晴れ渡る天上の神殿で、ロッキードは不機嫌そうに眉間にしわを寄せていた。
「何だ、聖神祭で得られた信仰心がいつもより少ないぞ。
特にオトシイレールとファットバーラのところが、多い日と少ない日の差が激しくて不安定だな」
ロッキードは、信仰心の収入報告をにらんでぼやいた。
毎年この時期は、人間たちの信仰心が高まってウハウハのはずだ。それがなぜか、今年は明らかに落ちている。
といっても、インボウズに関しては思い当たる原因が複数あるのだが。
「ううむ、やはり転移者がやらかしたのが響いたか。
あれほど実戦に出るなと言っておいたのに、あのハッタリ屋が!
地球から格安で奴の魂を買った時は、いい買い物をしたと思ったが……やはりいわくつきはこうなるか」
まず考えられるのは、自分が異世界から転移させた趙括のことだ。
趙括の魂はとんでもない業を背負っていて同じ世界で転生するのが危険だということで、地球の神が格安で引き取り手を探していた。
それをロッキードが買い取り、教会のための説客としてこの世界に送り込んだ。
元の世界でのやらかしを見るに、実戦は禁物だ。
しかし逆にそこまで才能がないのに口先だけなら天才の評価ということは、ハッタリ屋としては超一流だ。
実戦が禁物なら、戦いの少ない地域に落としてひたすら口先で信仰心を稼がせればいい。
馬鹿と刃物は使いようだ。
そう考えてリストリアの近くに落とし、インボウズに拾わせて口先をフルに活かせる仕事につけたのに。
「私からの忠告すら、思い上がって破るとは!
そういう性質も含めたうえで、あの価格だったか」
ロッキードは、忌々し気にぼやいた。
自分はあれだけ口を酸っぱくして実戦には出るなと言いつけ、もし破ったら加護を外すと脅しもかけておいたのに。
趙括はちょっとうまくいくと能力で私腹を肥やし始め、あげく思い上がって実戦に飛び出し、こちらが察知する間もなくやられてしまった。
ロッキードは趙括戦死の報を聞いた途端、脱力してそれ以上考えるのをやめてしまった。
……が、趙括のやらかしはこうしてロッキードの財布に響いてきたのだ。
「ハァ……やはり、安かろうは良くない。
これから、あまりにひどい前科がある魂を使うのはやめよう」
ロッキードは、身に染みて後悔した。
この件については、インボウズの手腕もあるが、あんなものを選んでしまった自分の不手際も大きい。
ロッキードとしては少しでも出費を抑えて大きな効果につなげたかったが、節約できた分以上の減収になってしまった。
もっとも、インボウズの減収の原因はこれだけではないのだが。
ともかく、この件はこちらも悪かったので不問にすることにした。
そんな事より、これで趙括が使っていた地上に送れる力の枠が空いたため、次こそいい手を考える方が生産的だ。
「うーむ、どうもいまくいかんな。
しかし、信仰心の不足はいかんともしがたい。安く信仰心を集められればいいと思ってしまったが、それが失敗だったか」
ロッキードはひとしきり自分の反省をして、それから地上の戦犯に愚痴をぶつけた。
「それにしても、こんな時にオトシイレールは何をしている!?
仕掛けてから二月経っているのだから、聖呪がうまくいっていないことは分かっているはずだぞ!
なのに、なぜ解こうとも直そうともしない!?
本格的に耄碌したとでもいうのか!!」
インボウズのことでもう一つ気がかりなのは、発射されず宙ぶらりんのまま周囲に影響を及ぼし始めた聖呪だ。
インボウズが信仰の収入を落とした一番の原因は、これだろう。
それでも、あちらが解除すれば少なくともこれ以上の周囲への影響は避けられる。
なのに、インボウズはそれをしようとしないのだ。
これはロッキードにとって非常に不可解で、そして腹立たしいものだ。収入を増やすべく動くはずの駒が、真逆のことをしているのだから。
だが、ロッキードはその事情を深く探ろうとしなかった。
「元は優秀な駒だが……そろそろ損切りの頃合いか。
一度だけ警告のために神託を下し、それでも改善せぬようなら若く有能な者に挿げ替えるか。
だが、これまでの成績や供物は歴代の中でも優れている。
もう少し様子を見て、だめなら一年と期限を切って警告するか」
ロッキードにとって、人間は枢機卿であっても家畜と同じだ。能力が落ちたなら、力を渡す相手を変えるだけ。
難解で面倒くさい人間の事情など、知る気もない。
だいたい、なぜ神の自分が人間の事情に付き合わねばならないのか。
信仰心の収集成績を見て適切な手を打っていれば、それでいい。これまでだって、ずっとそれでやってきたのだから。
自分はちゃんと、世界を管理しているのだ。
……という思考で泥沼にはまっていることに、ロッキードは気づいていない。
ロッキードのやり方はいわば、株価や為替の値動きだけを見て投資するのと同じ。
なぜその値動きになっているのか、背景をまるで考えない。その値動きの元となる社会や企業の動きなど、気にも留めない。
結果としての数字しか、見ていないのだ。
だから、インボウズが聖呪を解いたり直したりしたくてもできないということに、気づかない。
そもそも聖呪のどこがどんな風に間違っているかも、知らない。
それを知れば、インボウズがどれだけ信用によろしくないことをしているか、すぐ分かるのに。
ついでに、信仰心が下がっている大元の原因を見つけ出し、元凶を切ることで救世主として信仰V字回復も見込めるのに。
一連の流れが分かれば、アブラギッタの方まで正しい対処法が見つかるのに。
細部に目を向けようとしないロッキードに、全てはあずかり知らぬことだった。
それにロッキードには、そんな事より優先して考えることがある。
「オトシイレールの方は、原因は分かり切っている。
問題は、ファットバーラの方だ!
奴の方で、こちらからの接続が切れたはずの聖騎士が別の神力を使った。あれは、どういうことだ!」
ロッキードにとって気になるのは、ファットバーラの方で観測された別の神の介入だ。
自分でも、愛しい美の女神でも、愛憎のダンジョンにいるクソアマでもない。
観測された力の傾向から、心当たりのある奴はいる。
(強烈な熱と渇き……あのはねっ返りの姉妹を思い出すな。
とはいえ、ザリチェは潰したところを見たので有り得ん。
となると、タルウィが生きているか……あるいは、奴を食ったと言っていた砂漠の化け物が神格を引き継いだか……)
ロッキードは、逆らう女神を潰した時のことを思い出した。
グラーニャの願いを叶えるべく、他の女神を全て制圧するか排除しようとしていた時のこと。
東方の砂漠の近くで畏れられていた、二人の女神がいた。
熱と毒の女神タルウィと、渇きと不毛の女神ザリチェ。この姉妹はロッキードに服従せず、激しく抵抗してきた。
だが、ロッキードは圧倒的な信仰をもって二人を打ち破った。
姉のザリチェは、殺して神の力を奪った。しかし、妹のタルウィは砂漠に逃げ込んだ。
それから少し経って天使に砂漠を捜索させたところ、見つかったのはタルウィではなく、ドブスな女の顔がついた中華スフィンクスだった。
そいつはタルウィを食ったと言い、神には劣るもののすさまじい威力の熱波を放ってきた。
少し出自を探らせたところ、そいつは砂漠の東側から来たらしい。
グラーニャの出した条件はあくまで砂漠の西側のみの他の女神の制圧であり、タルウィが死んだならもうこんな化け物と関わる義理はない。
そんな事情で、放っておいたのだが……。
(タルウィが生きているとなれば、倒すべきか……。
しかし現状本当にタルウィかも分からないし、あの砂漠の化け物は東方出身……下手に深入りして東方の神が出てくるとまずい。
ただでさえ、信仰心が不足しているこんな時に……!)
こんがらがった状況に、ロッキードは歯噛みした。
西側では、もはや自分とグラーニャに太刀打ちできる神はいない。それ以外は、封じるか天使にするか殺してしまったのだから。
だが東側には、まだ数多の神がひしめいている。
砂漠があるからあちらから攻めてはこないが、西側を完全に掌握していない状況で戦うことになったらまずい。
果たして、そこまでのリスクを冒して攻め込むべきか……。
「いや……そもそも、何のためにタルウィを攻めるのか考えてみよう。
視点を、広く持つのだ!」
ロッキードは深呼吸し、しばらく考えを巡らせた。
「そうだ……タルウィが東の者がいる地域まで逃げたなら、そこはもうグラーニャが指定した範囲ではない。
あくまで砂漠より西の地からいなくなったなら……倒さなくても、グラーニャと結ばれるのに支障はない。
たとえ、あのドブスが神格を継いでいたとしても……あの顔なら、逆にグラーニャはあいつを女と認めんだろう。問題なし!
使徒さえ押さえ込んでいれば、大勢に影響はないな!」
最大の課題であるグラーニャの出した条件に照らして、ロッキードはそう判断した。
そして、心から安堵したように肩の力を抜いた。
(良かった……そうだ、グラーニャとの幸せを邪魔しなければ今はいいんだ。
従いたくないなら、異境へ行って大人しくしていろ!)
ロッキードが世界を管理して信仰心を集めるのも、他の抵抗する女神を排除するのも、全てはグラーニャのため。
ロッキードの行動も判断も、グラーニャが全て。
その時点で視野が狭い事この上ないのだが、ロッキードにその自覚はない。
ただグラーニャの出した条件を満たし、グラーニャにふさわしい最高神になれるように、ロッキードはずれた努力を続けていた。
だが、そんな生活に疲れることもある。
ロッキードは世界を見下ろすバルコニーに背を向け、空も切り取られた窓の小さい部屋に入った。
そこには、素晴らしい細工の調度品が所狭しと置かれている。
ここは、彼が一番落ち着く場所……工房だ。
「さて……いつこれらに囲まれて、グラーニャと暮らせるかな?」
ここにある作品は全て、グラーニャと結ばれたら捧げるはずのものだ。
その時までに、グラーニャの喜ぶできに仕上げなくては。ロッキードは幸せな妄想に浸りながら、一心不乱に手を動かした。
そこに、一人の天使が入って来て声をかけた。
「親方~、そこのソファーの脚に、新しい装飾を作ってみたッス~」
最高神に対してあまりに不遜な言い方だが、ロッキードは快く応じた。
「おう、じゃあつけてみろ。ほほう、目を引くじゃないか!」
「あざッス~!」
天使はさっそく、自作のパーツをロッキード作のソファーに取り付けた。これが許されている時点で、相当なお気に入りだ。
だが取りつけて全体を見渡し、ロッキードは顔をしかめた。
「うーん……バランスが悪いぞ!
そこだけ見れば素晴らしい細工だが、ソファーの脚としてはそこだけ目立ちすぎてくどい。
これでは、全体としてまとまった美とは言えん!」
「そうッスか……」
しょげかえる天使に、ロッキードは励ますように言った。
「おまえの技術が優れていない訳じゃないぞ。
ただ、大きな視点が足りないんだ。どんな分野でも頂点を極めるには、局所だけでなく全体の調和が必要だ。
木を見て森を見ずでは、頂点には届かんのだよ」
その言葉には、同病相哀れむような陰があった。
ロッキードは、自分にも言い聞かせているのだ。グラーニャの隣に立つ支配者となるために、己もそうあらねばならないと。
もっともっと、隔絶した立場らしく。
視点を広く、細かいことにこだわりすぎるな。
だが、そんなロッキードの疲れをこの天使は見抜いていた。
「親方……分かってますけど、根の詰めすぎは良くないッス。
ただでさえ、こういう時間は少なくなっちまったんスから、たまには親方の得意な方向に突っ走ってもいいと思うんスけどね。
親方のこだわり抜いた作品、俺、大好きッスよ!」
「そうか、だがグラーニャに認められなければ意味がないんだ。
アザッスエルも、それを心に留めて仕事をするように」
ロッキードが誉め言葉を拒むと、天使アザッスエルは少し寂しそうな顔をした。
だがロッキードは、あえてその気持ちに応えなかった。
(細かい事にこだわるな……僕は、最高神なんだ!
大きな目で見て、最終目標に向かうんだ。それが最高位の統治者ってものだから、しっかりやらなくちゃ!)
たとえそれが、本来彼にとって苦手なことでも……愛しいグラーニャとの幸せのために、彼はひたむきにそうあろうと努力していた。
その努力も地上の小さな努力も、グラーニャは嘲笑いながら見ていた。
「ンフ~ホホホ!可愛いわね、道化としてはぁ一流ですわぁ。
でもぉ~所詮そぉんなもの、生まれなぁがらの美には敵わなぁいのよ!」
グラーニャの三日月のように上がった口元から、血のような赤ワインが垂れる。
しかしそんな粗相すらも、グラーニャがやると美しさと危うさが合わさってくらくらする色気に変わる。
その様は、地上で最も美しい吸血鬼の女王に瓜二つだった。
「やれやれ、人間にもぉ、健気な者がいるようだけどぉ……そんなんでぇ、醜い結束は解けないわぁ。
だって、魔族は侵攻をやめない!共通の脅威は、去らない!
結局、わたぁくしとあの子の、思うままにしかならなぁいのよぉ~♪」
地獄のような世の中でここだけが天国であることに、グラーニャは至極満足だった。
いくら教会がユリエルを神敵認定して本気の戦力を送り込もうとしても、現場レベルでそれを妨害することはできます。
審問官さんは、クリストファー卿と組んでその役目を担うことになりました。
悪徳枢機卿の身から出た錆が、彼ら自身の証拠隠滅を阻みます。
木を見て森を見ずとは、視野が狭いことのたとえです。
しかし、問題は原因を深く探らないと解決しないことも多いです。
一概に広い視野ばかりでいいとは、限らないんですね。
でもロッキードは、がむしゃらにそうあろうとして、無理をしています。これが、本当に最高神の姿なのでしょうか?




