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ぶりっこヒロインの天然さに思わず本性が出そうになった聖女は悪役令嬢と友情を育む

作者: ききた

サクッと読める短編小説です。

暇つぶしにぜひ!

「聖女様!お願いがあります!どうか一緒に来てください!」


やっと人から解放されて、1人でゆっくりお酒を飲もうと思っていたところ、話しかけられてビクッとしてしまった。


私はフィリオ:バロム。

ガルビア国に使える聖女だ。


今日は王宮で行われている第三王子の誕生日パーティーに出席している。

普段は祈りを理由にパーティーをばっくれているけれど、さすがに王子の誕生日パーティーに出席しないわけにはいかない。

ってことで、久しぶりに王宮のパーティー出席したんだけど、さっきまで代わる代わる話しかけられて大変だった。


まぁ…私聖女だし、話しかけられるのは仕方ないんだけどさ。

だからできるだけパーティーは欠席するようにしているんだよね。


たくさんの人と話してクタクタで、ようやく1人になれたのに…。

誰よ。私の休息タイムを邪魔するのは。


そう思って相手の方を振り向くと、黒髪ツインテールで淡いイエローのドレスを着た若い令嬢に、鬼気迫った表情でガシィッと両手を掴また。


「聖女様!こちらです!」


令嬢はそのまま私の手を引いて行こうとする。

ってだから誰!?私あなたのこと知らないんですけど!


「ちょっと待ってください!何かトラブルでも起こったのですか?」


私は令嬢を制止した。


「実は、聖女様に説得していただきたい方がいるのです。とにかくこちらへ!」


私の腕を引いて歩き出す令嬢。

可憐でかわいらしい雰囲気なのに、怪力じゃん…。

私はあれよあれよとバルコニーへ連れていかれてしまった。


――――――――――


広いバルコニーには一組のカップルがいた。

え?あれって…第二皇子のエディール:ガルビアだよね?

王族のトレンドマークのような金髪がさらさらと風になびき、濃紺の正装とのコントラストがきれい。

その隣にいるのは、エディール王子の婚約者候補で有名な侯爵令嬢ユリア:エディカルムだ。


「エディール様、お待たせいたしました!」


怪力令嬢の声にエディール王子が振り向く。


「ミオナ…!…と、え…聖女様…?」


ふむ…この怪力令嬢はミオナって名前なのか。

エディール王子は私を見てポカンとしている。


「エディール様、大丈夫ですか!?ユリア様にいじめられていませんか!?」


私の手を放し、エディールの胸に飛び込むミオナ。

ユリアは何も言わずに静かにたたずんでいる。


「ミオナ、なぜ聖女様を連れてきたんだ?」


ミオナを受け止めたエディールは優しく聞いた。


「もちろん、ユリア様を説得していただくためですわ!」


エディールを見上げて力強くミオナは発言する。


「はぁぁぁぁぁぁ…」


大きなため息をついたのはユリア。

で、私はどうしてここに連れて来られたの?


「そ、そんなことのために聖女様を…」


「だって!ユリア様がイジワルするから、私たちは結ばれないのでしょう!?」


おや?このシチュエーションは…もしかして…。


「いやそんなことは…」


「聖女様!」


エディールの発言をかき消すように、ミオナは私に訴えてきた。


「私とエディール様は愛し合っています!それなのに、ユリア様が婚約者になるからと引き離されそうなんです!

ユリア様がエディール様にイジワルをして、私との仲を引き裂こうとしているんです!

どうか、ユリア様がイジワルをやめてくれるように聖女様が説得してください!」


やっぱり!!!

これはかの有名な、悪役令嬢が婚約破棄されるやつーーーー!!!


私は思わずガッツポーズを取りそうになった。

だって、悪役令嬢系の小説は一通り読破するほど好きなんだもの♡

…って、エディール王子とユリアは正式に婚約していないはずだけど…。


「だから違うんだミオナ。僕はユリアにイジメられてなんかいないよ」


「だって、ユリア様に怒られたって言ったじゃないですか!」


「怒られたなんて…ただちょっと忠告されただけだよ…」


「もう!エディール様は優しすぎるんだからっ!」


2人の世界を展開するエディール王子とミオナ。

ユリアはこの状況を白々とした表情で見ている。


「聖女様聞いてください!」


ミオナが再びずずいっと私に迫ってきた。

圧が強いなぁ…。


「なんでしょう…?」


「私とエディール様は相思相愛なんです!

だから、私がエディール様と婚約するべきなんです!

だって、愛のない結婚なんて寂しすぎるじゃないですか…。

でも、エディール様は自分たちだけで婚約を決められないと言うんです。

エディール様はとてもお優しいから、きっと婚約者候補として名高いユリア様のことを気遣っての発言だと思います。

そこで!私とエディール様の婚約を許してもらえるよう、私からユリア様にお願いしました!

そのときユリア様は何も言わなかったのに、後からこっそりエディール様を怒って私との婚約を大反対したんですよ!

酷いと思いません!?」


一気にまくしたてるミオナ。

なるほど。これはやっぱり悪役令嬢が婚約破棄される流れ…!!!

ミオナがヒロインだな。


ってことは、実はエディール王子が浮気者の最低男で、ヒロインは猫被りの性悪。

悪役令嬢のユリアは真面目で努力家な常識人って設定かな?


「聖女様?どうして笑ってるんですか?」


おっといけない。

小説の展開がリアルに再現されて思わずニヤニヤしてたところをミオナに突っ込まれちゃった。


「あの…その前に、あなた誰ですか?

エディール王子のことは当然存じておりますし、そちらの方がルディカルム令嬢のユリア様というのも存じているのですが…」


とりあえず、登場人物の立場の確認から始めないと!


「ミオナ様…まさか自己紹介もせずに聖女様をお連れしたんですか…?」


疲れた声を出したのは、今までずっと黙っていたユリアだ。

だよねー。普通自己紹介するよね。


「私はミオナ:アルゾフです。

そんなことより!ユリア様を説得してください聖女様!」


アルゾフは確か男爵家…。

悪役令嬢物でヒロインの位がギリギリ貴族設定って王道よね!


「ミオナ様、無礼ですよ」


短く指摘するユリア。

確かに。

私一応聖女だよ?「そんなことより!」はないよなぁ。


「ほらぁ!こうやってユリア様がイジワルするんです!」


「いや正当な指摘でしょ」


思わずボソリと呟いてしまう私。

ミオナはユリアを悪役令嬢に仕立て上げるために、わざと「イジワル」を連発しているんだな。


「だ、だからって!愛し合う私とエディール様の仲を引き裂くのは酷すぎませんか!?」


ミオナはウルウルと瞳を潤ませた。

おっと、泣き落とし作戦か!?

ここでアホ王子がヒロインを庇いに入るのが王道よね!


「ああ…泣かないでミオナ…」


案の定、ミオナに寄り添うエディール王子。

こうやってエディール王子をたぶらかしているんだな。

予想を裏切らない展開!燃えるわっ!


「エディール様は私のこと好きですよね…?」


ついにシクシク泣き出したミオナ。


「もちろん、大好きだよ」


オロオロしながら愛の言葉を恥ずかしげもなく伝えるエディール王子。

こんなシーンを見せられたユリアは…。


無の表情をしているーーーーー!!!

怒りとか悲しみじゃなくて虚無!!!

ってか、心底呆れてる?


「じゃあ、私と結婚してくれますよね?」


「いや…それは…」


「やっぱりユリア様が反対するからダメなんですか?どうしてイジワルなユリア様に従うの?」


エディール王子をじっと見つめるユリア。

ほうほう、こうして王子のハートを射止めたんだな。

やっぱり男性は女性に見つめられると恋に落ちるんだ…メモメモ。


「…ユリア…助けて…」


しかし、エディール王子はなぜかユリアに助けを求めた。

え?なんで?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


大きな大きなため息をつくユリア。


「もう…エディール様は本当に優柔不断なんだから」


という小さなつぶやきは、たぶん私にしか聞こえていない。


「ミオナ様、エディール王子が困っておられますわ」


「困らせてるのはユリア様でしょう?ユリア様が許可すれば、私たちは結婚できるんだからっ!」


「それは大きな勘違いです。

そもそも、第二王子であるエディール様の婚姻は、個人で決められる問題ではありません。

ガルビア国繁栄のために、慎重に選ばれるべき事柄で、国王様がお決めになることですわ」


そりゃそうだ。

うんうんと頷いてしまう私。


「そうやってまたイジワル言う…」


いや、イジワルじゃないだろ。


「ユリア様はエディール様のことが好きだから、理由をつけて私との仲を認めないのでしょう?」


「認めるもなにも…私にそのような権限はございませんわ」


話は平行線。

ユリアの説明がミオナに通じないんだもんなぁ。

エディール王子は何してるんだろ?

あ、まだオロオロしてる。


「聖女様!助けてください!」


うげげ。ミオナが私に縋ってきた。

この状況どうしろと?


「あの…ユリア様のおっしゃることはごもっともなのでは?

この場でエディール王子の婚約者を決められるはずないですし…」


一応ミオナの説得を試みてみる。


「ひどい!聖女様ってば、どっちの味方なんです!?」


誰の味方でもないですけど…。


「聖女様は愛の人でしょう?でしたら、私とエディール様の愛を応援してください!」


ああ…堂々巡り。

しつこくして相手が諦めるのを狙ってるのかな?


とりあえずこの場から逃げ出したい…。

と思ってユリアを見たら、きっと私と同じ気持ちなんだろうな…という表情をしていた。

なんとなく通じ合うものを感じちゃう。


「わかりました」


私はミオナに向かって大きく頷いて見せた。

まっとうに説明しても通じなさそうなんだもん。


「では、ユリア様とお話をしようと思うので、少し待っていただけますか?」


そう言って、私はユリアの手を取り、ミオナとエディール王子から離れようとした。


「どこに行かれるのですか!?」


慌てて追ってくるミオナ。

う~ん、めんどくさい。


「ミオナ様とエディール王子の目の前では、ユリア様も話しにくいでしょう。

少し2人で話をさせてください。

大丈夫。逃げたりしませんから。

声は聞こえないけど姿が見える位置でお話させていただきますね」


そう言うと、ミオナはしぶしぶ私から離れてくれた。

ユリアは何も言わず私に従ってくれるみたい。

よかった。


私はユリアを連れてバルコニーの端っこに移動。

ミオナとエディール王子から表情が見えないようにさり気なく背を向ける。


あ、今ならあっちの窓からパーティー会場へ逃げられるかも…。


と一瞬思ったけどやめておいた。

なんかミオナが地の果てまで追ってきそうな気がしたから。


「ごめんなさい。私の独断で勝手に話をするなんて言ってしまって」


まずはユリアに謝罪する。


「そんな…とんでもございません。聖女様は巻き込まれただけですから」


ユリアは慌てて否定してくれる。

やっぱり彼女は常識人だわ。


「あの…まずは状況確認していいですか?

ミオナ様の話によると、ミオナ様とエディール王子は相思相愛で結婚を望んでいるけど、ユリア様に反対されているということになりますよね。

その理由が、ユリア様がエディール王子に恋心があるからということみたいですが…」


「違います」


きっぱり否定するユリア。


「あ、やっぱり。

私もそうじゃないかなーなんて思ったんですよ。

ミオナ様が勘違いしてるってことですか?」


「そうみたいですね」


「ユリア様が婚約者候補だからミオナ様が嫉妬して、ユリア様を…悪者に仕立て上げようとしているってことですか?」


よくある悪役令嬢婚約破棄ネタみたいに!

というセリフは流石に飲み込んだ。

ああ、本当は言いたいっ!


「う~ん、ちょっと違いますね…」


「違う…?ミオナ様、可愛らしいけど実は策略家で、ユリア様の没落を狙っているのではないのですか?」


「それは完全に違いますね」


ええ!?違うの!!!!


「なんでそんなに驚くんですか…」


「あ、ごめんなさい。期待した展開じゃないのかなーと…」


「何を期待なさっているのでしょうか?」


「ごほん!なんでもありません。

では、どういう状況なのでしょうか…」


危ない危ない。

怒涛の展開に本性が出そうになっちゃった。


「ミオナ様は本当にエディール様のためだけを考えているのだと思います。

王族や貴族は政略結婚はごく当たり前ですが、大切なエディール様が愛のない結婚をすることを本気で気の毒に思っているのでしょう」


ふぅ…とため息をつくユリア。

ん?どういうこと?


「エディール様の婚約者はまだ決まっていませんが、私が候補者の1人であることは事実。

しかも、私はエディール様と幼馴染のような仲です。

他にも候補者はいると思うのですが、私ほど目立った噂にはなっていません。

そのため、ミオナ様は私が妨害していると思い込んでいるようです。

何度も否定してるのですが、毎回今日みたいな堂々巡りになります…」


疲れた表情でユリアが説明してくれた。


「エディール王子がユリア様に忠告されたというのは…」


「ああ…エディール様からミオナ様のことを相談されたので、さすがに国王が認めない相手と結婚するのは問題があるのではとお伝えしただけですわ」


そりゃそうだわ。

ってか、エディール王子自らユリアに相談したってこと?


「エディール王子自らユリア様に相談されたのですか?

よほどユリア様を信頼してるんですね」


「ええ…エディール様は優しすぎるところがあるので…。

子どもの頃からいろいろと相談されてきましたの」


なんか…悪役令嬢婚約破棄パターンから遠のいていくような…。


「エディール王子とユリア様は仲良しなのですね。

それって恋愛感情ではく友情ってことですか?」


「ずいぶんストレートな質問ですね…」


だって大事なことじゃない?


「友情というか、家族みたいな感じですわ。

エディール様と私は同い年ですが、僭越ながら弟のように思っていますの」


そうなの!?


「親しかった王子が突然現れた格下令嬢にないことないこと吹き込まれて豹変し、冷たくされたり悪女だと罵られたりという展開は…」


「なんの話です?」


「な、なんでもありません!」


いかんいかん。

期待を裏切られたショックで本性が出てしまう。

気をつけなきゃ。


「じゃあ、ユリア様がエディール王子にイジワルしているというミオナ様の主張は誤解?」


「ええ。完全なる誤解。勘違いですね」


「ミオナ様が誤解しているふりをして、ユリア様を悪役令嬢にしようと…」


「ですから違いますって」


じゃあ…もしかして…。


「ユリア様のイジワル発言は天然…?大好きなエディール王子を守りたい一心での善意の発言ってことですか!?」


沈鬱な表情でうなずくユリア。


まーじーかーーーーー!!!

あれ、本気の善意と正義感と親切心と思いやりってやつーーーーー!?


思わずミオナの方を見てしまった。

ミオナはエディール王子と何やら話をしている。


「いや…それにしても…思い込み激しすぎません?」


「そうなんですの。だから困ってるんです。真実を伝えても信じてくれなくて…」


やだー!ユリアかわいそうーーー!

でもミオナは悪意ゼロ、100%善意なんでしょう?

逆に厄介なのでは…。


「それは苦労なさりましたね…」


めっちゃ同情する!


「いえ…。エディール王子の婚約者が誰になるか、私がどうこうできる問題ではないので、説明は諦めて適当にやり過ごそうと思っていましたの。

ですが、今日のように聖女様まで巻き込んでしまうなんて…。

やっぱりもっと前にきちんと対処するべきだったんですわ」


ユリア…責任感強い…偉すぎる…。


「そんな!ユリア様は何も悪くありませんよ!」


ガシィ!と思わずユリアの両手を取る。


「聖女様…?」


「私になにかできることは…。

そうだ!エディール王子はなにをしてるんです?

本来なら、エディール王子が対処すべきことですよね?

ってか、エディール王子はミオナ様との結婚を望んでるんですか?」


「ああ…、エディール様は押しに弱いんですの。

ミオナ様の猛プッシュにノックアウト状態ですわ…」


「やはりミオナ様からのアプローチだったんですね」


「そうみたいです。

エディール様はとてもお優しくて、人の好意を無下にできない方。

ミオナ様のストレートな求愛を断れるはずもなく、今に至る感じでしょうか。

でも、ただ押されているだけじゃなくて、きちんとミオナ様を好きみたいですよ。

肉食女子が好みなのでしょうね」


なるほど。そんな感じする。


「ただ…エディール様も第二王子ですから、王政のことも考える冷静さもお持ちです。

今後の国の繁栄を考えたとき、ミオナ様を伴侶にするのはリスクが大きすぎると思っているのでしょう。

だから私に相談してきたのです」


「ああ…わかります…。

ミオナ様の思い込みの激しさと押しの強さは、政治にも外交にも不向きですよね」


「でしょう?」


しみじみと頷くユリア。


「ですので、もう国王の判断に任せようと思っていたのです。

さすがのミオナ様も、国王が決めた婚約者なら何も言えないでしょう」


「そうでしょうか?」


私はユリアの発言を否定した。


「ミオナ様のぶっ飛びかげんは、今日この短い時間でも充分理解できました。

愛のためなら国王の判断にも物申しそうに見えますが」


絶句するユリア。


「ここはやはり、エディール様にミオナ様を説得してもらうのが一番ではないでしょうか?」


私の提案にユリアは首を振った。


「無理ですわ」


「無理とは?」


「エディール様はとても優しくて、そして優柔不断なんです。

とくに目の前で女性に泣かれるとうろたえて、言いなりになってしまうほど。

ミオナ様が泣けば、エディール様はもう何もできませんわ」


つ…使えない…!!!

使えないよ王子様!!!


「じゃぁもう逃げるしか…」


「私も逃げられるものなら逃げたいですわ。

でも、ミオナ様から度々詰め寄られ、エディール様からは泣きつかれ、逃げたくても逃げられない状況なんですの…」


ユリア疲れてる…。

そりゃそうだ。

こんなめんどくさいカップルと関わり続けたら、ストレスMAXになるよね。

かわいそう…。なんとかできないかな…。


「聖女様…もしかして私のために考えてくださってるのですか?」


「え?ええ…。だってあまりにもユリア様が気の毒すぎて…」


「ありがとうございます…!」


なんと、ユリアの目がうるうるしてる!


「お気持ちだけで嬉しいです。感動です」


ああ…苦労人なんだなぁ。

真面目で聡明そうだから、一生懸命なんとかしようと頑張っちゃうんだろうなぁ…。

なにか良い手は…。

そうだ!


「もうこうなったら、ミオナ様をエディール様の婚約者候補に鍛え上げるというのはいかがでしょう?」


「で、できるでしょうか…?」


「まぁ…問題はたくさんありそうですけど…。

エディール王子とミオナ様が相思相愛なのは間違いないんですよね」


「ええ…」


「ならば、ゴールインしてハッピーエンドが理想だと思いませんか?

今からでもミオナ様にはお勉強を頑張っていただいて、国王様に一目置かれる存在になれば、可能性はゼロじゃないと思います」


「そうでしょうか…。でも、ミオナ様はかなり非常識…いえ、勢いのあるお方で、失言ばかり…いや…つい正直なお気持ちが口に出てしまうところがありますわ…」


苦悩するユリア。

きっと今までミオナのとんでも言動を何度も見てきたんだろうな。


「そこは愛の力で頑張っていただくってことで。

ほら、ミオナ様は愛の人みたいなので、エディール様との愛を貫くためにとか言えばその気になってくれるのでは?」


「確かに…。でも教育係を誰に頼めば…」


「それは…ユリア様が教育係になるのはいかがでしょう?」


「私ですか!?」


あ、あからさまに嫌そうな顔。

だよねー。


「他の人に頼むより話は早そうですよ。

もちろんユリア様お一人だと大変でしょうから、他にもメンバーをそろえていただいて…。

その役割はエディール王子に頼めば大丈夫でしょう。

エディール様も最愛のミオナ様のためなら、最高の面子を揃えてくれそうですよね」


「ええ…。そういうことならエディール様もできると思います…。

だとしても、ミオナ様は男爵令嬢で、王家との交流はほとんどありません。

婚約者候補になれるでしょうか…」


不安そうなユリア。


「もし失敗したら、それこそミオナ様から一生恨まれそう。

私がわざと教育に手を抜いたとか一生言われるのは本当に勘弁して欲しいですわ…」


それは地獄だな。


「あとは…私が最後の一押ししますから。

一応私聖女なので、発言力はあると思うんです。

ミオナ様の深い愛情を褒めたたえて、エディール王子と結婚すれば愛の力で国に幸せをもたらすとか言っとけば、国王様も無視できないかと。

まぁ…幸い第二王子ですからなんとかなるのでは…」


「本当に大丈夫でしょうか…」


不安そうなユリア。

ミオナに一生祟られるのは怖いよね。


「大丈夫!聖女の私を信じてください!これからユリア様をお支えしますから!」


私は再びユリアの手を取った。

なんか、放っておけなくなっちゃったんだよね。

ってか、人としてユリアのこと好きになっちゃったんだな。


「ありがとうございます…!聖女様!」


うん。いい笑顔だよ!


――――――――――


私はユリアと共にミオナとエディールの元へ戻り、事の経緯を説明した。

なお、ミオナとエディール王子の愛が成就する手伝いをするように、私がユリアを説得したという設定にしている。

だって、そうしないとミオナがまたいろいろ誤解しそうじゃん。

聖女様にユリアが説得されて協力する気になったことにした方が、何かとスムーズだと思ったのだ。


ユリアは心改め二人の愛を応援するために、ミオナの教育役を買って出てくれたと伝えると、ミオナは「さすが聖女様です!」と感動していた。

う~ん、彼女かなり思い込み激しいけど、性格が悪いわけじゃないのよね。

ただ誤解が激しいだけで…。


エディール王子にもミオナの教育役を手配するようにお願いすると、快く引き受けてくれた。

大きな争いにならなくてほっとしているみたい。

弱い。弱いなー。


とは言え、結婚実現のためにいろいろと動き始めて、ミオナとエディール王子はとても嬉しそう。

やっぱり相思相愛なんだね。


「ミオナ様、エディール王子との結婚は、この国のために奉仕することを意味します。

外交では礼儀作法がとても大切です。

今回のように、自己紹介もせずに位の高い(私のことよ!)相手を突然どこかへ連れて行くなどあってはならないことですよ。

他にも、エディール王子と結婚するなら覚えなければならないことがたくさんあります。

お二人の愛を永遠にするために、どうか精一杯努力してくださいね。

愛情深いミオナ様ですから、きっとやり遂げることでしょう」


私は聖女っぽく神々しい声でミオナに助言した。


「わかりました。聖女様!

私、エディール様のために全力で頑張ります!」


ミオナはキラキラとした瞳で私を見つめ、誓いの言葉を述べた。


最後に私はユリアの元へ歩み寄る。


「ユリア様、教育係は大変だと思いますが、よろしくお願いしますね」


聖女っぽく激励の言葉を贈る私。


「はい」


やや緊張したユリアだけに聞こえるように私は言った。


「愚痴があればいつでも聞きますから」


「聖女様…」


「私、ユリア様と友達になりたいの」


小さな声で伝えると、ユリアは表情を輝かせてくれた。

喜んでくれて私も嬉しい!


「では皆さんごきげんよう」


私は聖女モードで恭しく挨拶をしてその場を後にした。


あー疲れた!

でも、丸く収まったみたいでよかった!

ミオナがエディール王子と結婚できるとは限らないけど、良い方向に進むといいな。

いざというときは、私が積極的に婚約者候補としてミオナを推してあげよう。

エディール王子への愛は本物みたいだから、一生懸命勉強してそれなりに成長してくれるはずだもんね。


そうそう。

今度ユリアをお茶会に誘うのもいいな。


おしまい

結局ユリアが苦労を背負ってしまいましたが、聖女フィリオが細かくフォローしてくれるはず!

ミオナとエディールのハッピーエンドが、ユリアとフィリアのハッピーエンドです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございましたm(__)m

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