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腐敗する溺死体と遺留品

作者: 綴字

子供っていうのはどうしようも無いことを考えるものだ

ルノイ・サイルフェン___邪神の末裔の末裔の末裔の

志香羽 骸________鼓動する死体

九十九 甲華_______付喪神


今日も今日とて空を恨むにはしっかりとした根拠が作れる暑さ、その青い空を嫌うには十分な日だった

今この手にある氷菓子、ガリガリ君たこ焼き味がなければ今頃僕はゆでダコになっていただろう

さて、僕は今学校の校舎裏にいるのだが、端的に言えばサボりだ

煙草の吸殻やケース、発泡酒の死骸が転がる薄暗く涼しい空間、まぁ涼しい空間と言ってもかなりの暑さを誇るのだが

この場所は僕のお気に入りの場所だ、さながら蛸壺のように入り浸っている

余談だが僕はタバコは吸わない主義だし酒も飲まない主義だ、無論シンナーもだ

僕も涼しい教室に入りたいのだが今は授業中だ、教師に見つかったら捕まるだろう

まったく、今日も仕事熱心なものだ、面倒くさい

ここで手に持ったアイスが溶け始めたので大口を開けて飲み込む

口の中にじんわりとした冷たさが広がり心地よい、夏場に食べるアイスほど美味しいものはないだろう、できればこのまま動きたくないところだがアイスがなくなってしまった、動かざるをえないだろう

僕は憂鬱になりながらも重い腰を上げて日陰から出る


「暑いなぁ.....今日も」


いつもと変わらない薄ら笑いを浮かべながら僕はコンビニ向かった


____________________________


「合計621円になりやーっす」


やる気のない定員に千円札を渡して会計を終える

店を出るとコンビニの涼しい空気から暑苦しい、もはや熱苦しいといったほうが正しいくらいの熱波が襲う

どうやら今日の太陽はゆでダコをご所望らしい、全くもって不愉快だ

僕は即座にアイスの袋を破り口の中に放り込む、先程まで冷やされてたからかじんわりとした冷たさではなく鋭い冷たさが来る


「さて、これからどうしたものかなぁ」


店先で独り言をつぶやく僕は間違いなく不審者だろう、そんなこと火を見るより明らかだ

そんな不審者に声をかけてくる誰かがいた


「あ、ルノイパイセンじゃん」


「おや骸じゃないか、どうしたんだいこんなところで」


女子学生の後輩、志香羽 骸だった

いつものように死んだような目をして、緑色の目でこちらを見る

というか僕が先輩なのに敬語を使われないとは、いささか思うところはある

彼女は僕のレジ袋からアイスを漁りながら話し始める


「いいことを教えてあげよう、私は相手の年齢が近いなら敬語を使わないって決めているんだぜ」


「あはは、それはひどい」


「そしてここにいる理由は単純にサボり、ルノイパイセンと一緒でね」


「おいおい僕がサボっているみたいな言い方はやめろよぉ?」


「サボっていないとでも?」


「....あはは」


何も言い返せなかった

先輩としての面目丸潰れ、汗顔の至りだ

こんな直射日光を浴びるところで、しかも人目のつくところで話していたら学校の誰かしらに見つかるだろう

近場の涼しいスポットに移動しようと歩を進める、分厚い編み上げブーツと学校指定の革靴の混ざる音がする

....いや、待て


「なにさり気なく付いてきてるんだ、お前は」


「別にいいじゃん、それにパイセンは涼しいところ知ってるしアイスも持っている

私にはメリットしかないね」


「僕にはデメリットしかないが?」


へりくだる様子を微塵も見せることなく、厚かましく彼女はアイスを食べる

まぁついてきたところで大きく困るといったことはないので別に良いのだが


「ま、私はただパイセンと誰かのBLを考えてるだけなんで、ただの物とでも考えてくれれば」


「平然と言うな、変態」


「同然の事だよ、先輩」


実に馬鹿な会話だった、馬鹿馬鹿しく、アホらしく、楽しい

骸は手にしたアイスをホイホイと口に詰め込む

そんなに早く食べてアイスクリーム頭痛を起こさないとは、なかなかどうして丈夫な頭をしているようだった


「あぁ、パイセンが女の子になってもご安心を、私はGLもBLもNLも食す雑食性

それ即ち、視界に映る何もかもは私の妄想の糧なのだよ」


「お前は何時もそんなことを考えているのか?」


「当然、レディとして当然の嗜みだ」


「いや、変態も同然の企みだ」


_________________________


「しかし、パイセンはどうして学校をサボったの?」


「は?」


涼しいところを探すために路地裏を歩いていると唐突に、アイスを食べながら骸は僕に問う

いきなりそんなことを言われたので適当にしか返せなかった

サボった理由を述べよ、と言われてもただ単に"面倒くさいから"としか言えないだろう

くだらない理由だとしても理由は理由だ

たとえば屁理屈だとしても理屈は理屈だ

まぁ今回の場合は嫌なことがあり気分がクソだっただけだ


「そっか、でも生きてりゃいいことあるかもね」


「死んだら悪いこともないからかい?」


「正しくその通り、正しさはないけれどね」


骸は皮肉的な笑みを浮かべた、彼女はそう話すと

ばきり、完全に食べきったアイスの棒を噛み砕いた

ばりばりと口の中で木材が暴れ回る

僕はその姿を変わらない笑顔で傍観した


「まぁ死のうが生きようが僕は僕が楽しければいいよ

僕の人生は余すことなく楽しみに満ちてて欲しいねぇ、つまらない人生なんて最悪の人生だ」


「つまるところ、ただのエゴイストでは?」


「いいんだよ、最近はエコだのなんだのが流行っているらしいから

濁っていたとしても誰も気が付かないさ」


唯々諾々と、僕は淡々と肯定した

最近の人は真面目な人が多すぎる、それで鬱病になっては元も子もないだろう

だからといって不真面目すぎるのも考えものだ、要は限度を知れってだけだ

バカは死んでも治らないしバカにつける薬は無い、だから考えたって仕方ないのだ

適度に楽しく、適度に真面目に、適度に生きよう


「なんだか哲学みたいになってきたな、よしパイセンすごいアホなことを言ってくれ」


「実はここら辺にエッチな本がたくさん拾えるスポットが」


「その話詳しく」


______________________


「夢を叶えるのって過酷だよね」


「私たちは現実にすら勝てないから当たり前さ、後輩」


とある廃工場で、僕たちは談笑していた

様々なパイプがねじ曲がり交差する迷路、そんな場所にいた

骸はボロボロな机に座りエッチな本を読み、僕は高所のパイプに立っていた

僕は骸の質問に返した返答に、続けるように話す


「夢なんて言うのは、結局のところただの欲望だ

あれが欲しい、これになりたいという黄身を夢という綺麗事の殻で包んでいるのさ」


「随分と詩的な表現で、パイセン」


はっきり言って僕は綺麗事が嫌いだ、綺麗事で体裁だけを取り繕って他人に文句を言う奴らはもっと大嫌いだ

そんなことを言われるくらいなら素直に悪口を言われたほうがマシだ

こんな考えはどうせ大多数の意見に淘汰されるのだろうけれど


「まったく、神様はどうしてるんだかねぇ?あはは」


「神はいないよ、働きすぎだって労基から言われて京都の八つ橋食べに行ってるって」


「うお、九十九じゃないか」


足元から聞こえた声は記憶に残っていた声だった

骸と同じ学校の男子学生の後輩、九十九 甲華だった

赤茶色の大きなアホ毛を揺らしながら僕に話しかけて来た


「なにせ神は七日間で世界を創造したからねー、そりゃあ有給休暇もあるでしょうよ、先輩

あ、7日目は休んだっけ」


「なら暇つぶしに僕の夢でも叶えてくれよ神様」


「どのような夢でして?先輩」


「100年の平穏より10日の地獄をください、ってね」


毎日毎日毎日毎日同じことをするのは嫌だ、繰り返すのは嫌だ

つまらないことをするのは嫌だ、面白くないことはもっと嫌だ

日常よりも非日常を、日常的に非日常な日常を望んでいる


「お星様にでも望めばいんじゃねぇの?」


「お空に望んで何がなるって言うんだ?後輩」


「為せば成る、為さなくてもなるようにはなる、ということさパイセン」


酷い名言だった


「しかしまぁ平和な世界がつまらないのは同意ですねぇ先輩

大人って毎日同じことをして発狂しないのかなぁ?」


「そこはほら、ジャネーの法則とかで平気なんじゃない?」


ジャネーの法則、端的に言えば老いれば老いるほど時間が流れる感覚が早くなるという話だ

そのため不老不死とかになると時間が流れる感覚がとんでもなく狂うと聞く

まぁ実際に不老不死は居ないから関係無いだろうけど


「それじゃ、これから面白いことでもしようか」


「?」


「ちょうど夜になりそうなんだ花火でも買いに行こうか」


「お、いいねぇパイセン、ドデカイの一発やろうか」


「よーっし!テルミット反応で面白いものを見せてやる!」


「だとしたら炎色反応やマグネシウムも使おうか、ほら買い出しに行くぞ」


どうしようもないことを考えてもどうにもならない

わからないことをわかろうとしても意味がない

どうせ生きるのなら、どうにでもなると、わかることだけで

どうしようも無いなら、どうしようも無く生きてみよう

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