04.孤独を紛らわす
いつの間にか、指先で指輪をいじることが癖になっていた。
付き合って始めて迎えたクリスマスの日に、彼女と何回目かのデートをした時のことだ。青を基調とした鮮やかなイルミネーションがきらきらと輝く公園を散歩していた時、不意に彼女が俺の手を引き走り出す。小さな座椅子に座った洒落た若い男性が、シートの上で沢山のアクセサリーを売っていた。
「ねぇ、可愛いのが沢山あるね」
こういった類の物が好きな彼女は、目敏くこの小さな店を見つけ、俺を連れてきたのだ。小さな宝石を散りばめたネックレスを手に取り、嬉しそうに微笑む。
「二人でお揃いにする?」
俺の言葉に赤面し、しかし、はしゃぐ子供のように破顔した彼女の表情を今でも鮮明に覚えている。
シンプルなシルバーのリングに、一つだけ赤い宝石が付いた指輪に名前を彫って貰い、結婚式を思わせる仕草で指輪を交換する。悪戯のつもりで指先に落としたキスに、彼女は笑った。冷たく、柔らかい感触。彼女の笑顔は太陽のように暖かく。
懐かしい記憶。色褪せない思い出達。
未だ外せないでいる名前入りのリングを指から外し、握りしめる。
手のひらで転がし、彫られた名前を指でなぞり、見つめて、握りしめる。宝石を指先で撫で、小指に引っ掛けて、回し、見つめて、指にはめる。
あぁ、彼女の指にも、今もまだこの指輪は変わらずにはまっているのだろうか。
講義の内容も、後から後から俺の横を通り過ぎていくだけだった。